星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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伊地知星歌は箱根に行く

 

------------- 伊地知星歌視点 -------------

 

私は今、結束バンドのメンバーとSICK HACKのメンバーと一緒に、ロマンスカーで箱根湯本に向かっていた。

今は夏休みなので、みんなお休みだ。私もスタジオを3日ほど休んで、保護者として付き添っている。

 

「いやー、ロマンスカーの中で飲むビールは美味しいねぇ。」

 

「こいつ、すでに出来上がっていやがる。」

 

SICK HACK(シク ハック)のメンバーである岩下志麻は、新宿から乗ったロマンスカー内ですでに出来上がっているリーダーの廣井きくりを見て、すでに他人のフリをして、見捨てる気マンマンだ。 もう一人のメンバーである、ギター担当の清水イライザは、マイペースにスマフォでアニメを観ている。

 

「虹夏、箱根湯本で収録なのか? 本当にあんな所にミュージックスタジオがあるのか?」

 

きくりは全く当てにならないので、後ろの席で、四人席を向かい合わせにして座っている、結束バンドのリーダーである、妹の虹夏にも聞いてみる。

 

「うん。なんかスターズの保養所?で収録するらしいよ。『温泉に入って、リラックスしながらだらだらと収録するのですわ。おーほっほほほっ。』とか、キアラさんが相変わらずブレブレのキャラで言っていたし。お姉ちゃんの方はどうなの?」

 

「『結束バンドの保護者として是非いらしてください。PAさんも入れて社員旅行とかいいと思いますわ。』とか言われて、強引にPAさんの分までロマンスカーの乗車券を渡された。」

 

「私も収録を見れるなんて、すごくたのしみです。」

 

私の隣に座っている、音響担当のPAさんがダウナーボイスで話しかけて来る。

 

保養所で収録するとかどうなっているんだ?

 

「いや~っ。箱根湯本とか、乙な所で収録しますなぁ。 バンババンバンバン! アビバノンノン!」

 

「きくり、うるせえ!」

 

岩下志麻が酔っ払って踊りながら歌うきくりをぶん殴る。

 

「ジャック・ブルーストにスタン・クラークスの生ベースが聞けるとか最高。」

 

「エリオット・クラフトン、ジャック・ブルースト、ジーン・ベイカー、スタン・クラークス・・・。わっわたし、どうすれば・・・・。亀になりたい。私の前世は亀だったんだ。」(ガタガタガタガタ)

 

「こっちはこっちで、大変だな。」

 

そんな感じで、新宿から1時間半でロマンスカーは箱根湯本に到着した。そして、改札口を出ると、知的な眼鏡をかけて、パンツルックのレディーススーツをびっちりを着込んだ、明らかにできる女性が私達を待っていた。

 

「こんにちは。結束バンドとSICK HACKの皆様ですね。私は本日から帰るまで、皆様のマネージャをさせていただく、冬月理子です。よろしくお願いします。」

 

そう言って、冬月さんは深々と私達に頭を下げた。

 

「ええええっ、マネージャー!?」

 

「マネージャーって・・・。」

 

「野球部とか、バスケ部とかそういう部活のマネージャーとは意味が違うよね・・・。」

 

周囲の子達も驚く。

 

「ちょっと、マネージャーとかどう言う事だい。」

 

「はい。星アキラから、収録の間に皆様にご不自由な事が無いように、マネージャーをするように申し使っております。」(*社会人的な読み方だと星になりますが、星だと、アリサとアキラやキアラ等でまぎらわしいので、スターズ社員が対外的にアキラ君の名前を呼ぶ時には、星アキラの呼び捨てになります。)

 

「ええええっ。マネージャーってキアラちゃん、どんな手配をしてくれているの!?」

 

「改札前では人通りも多いですし、駅を出た川沿いの駐車場に、皆様の送迎用のお車を止めてありますので、ご質問等がございましたら、目的地に着く前にそちらでお答えします。」

 

そう言って、冬月さんに案内されて、駅の近くにあるマイクロバスに乗り込んだ。

 

「すごい! バスの中にテーブルがある!?」

 

「シートも皮張りだ!」

 

「これはいいねぇ。お酒も飲めそうだ。」

 

「きくり、おまえ、絶対に、シートにゲロを吐くなよ。絶対だぞ。こんな高給そうなシートを弁償する金なんて私達に無いのだからな。」

 

「これって、もしかして、ロケバスってやつですか!?」

 

「そうですね。スターズの方で購入して運用しているロケバスなので、テレビ局がチャーターするやつよりも高価な装備ですけど、タレントやスタッフの移動用途で、俗にいうロケバスって扱いになります。」

 

「皆さん、乗り込みましたね。それでは出発します。」

 

そう言って、冬月さんが運転席に乗り込んで、マイクロバスを運転し始めた。

 

「冬月さんが運転してくれるのですね。」

 

私は助手席に乗って、冬月さんに質問する。

 

「ええ。これでも、第二種免許を持っているのでご安心を。最も、営利目的ではないので、このマイクロバスの運転は、第一種中型免許で大丈夫なのですが、私は趣味で第二種免許まで持っています。スターズのマネージャーは、よほどの運転下手で無い限り、新人研修で第一種の中型免許、少しやる気のある方は大型免許まで取るのですよ。やっぱり、ロケ地などへの移動が多いので、マネージャーとしても運転できた方が良いですからね。会社が免許の費用や勉強時間、その他諸々を出してくれますし。有給で免許が取れるのですから、みんな頑張りますよね。」

 

「へー。そうなんですね。」

 

「しかし、箱根湯本とか、本当にこんな所で収録するのですか? まさか、本当に保養所の中に機材を持ち込んで曲を収録するとか・・・。」

 

「大丈夫ですよ。今から行く所は、保養所ですけど、ミュージックスタジオと編集スタジオや稽古場としての機能があります。特にミュージックスタジオの機能は、星アキラがパウル・グリューンヴァルト氏とクリス・ジャーキン氏を招聘して音響設計した専門的な施設で、日本有数となるスタジオと機材らしいですよ。」

 

「げっ、パウル・グリューンヴァルトって、ンニー・ミュージックスタジオも設計した音響界の重鎮だよね。クリス・ジャーキンもハリウッドで有名な音響設計者じゃないか! 日本の名門ミュージックスタジオよりもすごい気がするんだけど・・・。そもそも、そんな大それたミュージックスタジオを自分で作らないで、ンニー・ミュージックスタジオとかで収録する訳には行かなかったのかい?」

 

「ンニー・ミュージックスタジオは地下にあるのですが、地上部分は有名な大手芸能事務所の本社ビルなんです。それで、ライバルとかそう言う訳では無いのですが、星アキラの立場ですと、お互いに気を遣うので非常に使いにくいみたいです。それに、ミュージックスタジオは騒音問題の関係上、都会では地下に作られるのですが、星アキラは地下に閉じ込められて、根を詰めて演奏するのが嫌いらしく、大自然と調和した最高のミュージックスタジオを作ってやるって言って、この前作ったようですね。 都心から2時間かかりませんし、温泉に入ってリラックスしながら打ち込めるので本当に良い環境だと思いますよ。」

 

「すごいね。流石はスターズだ。」

 

「スターズがすごいと言いたい所なのですが、こちらの建設費用は、ユーモレスクの臨時収入の税金対策としての使い先として、ほぼ星アキラのポケットマネーで賄ったみたいですね。」

 

「星アキラは、お金持ちだねぇ。」

 

「私達、社員の立場では、ポケットマネーで作った施設を保養所としても解放してくれるので、とても嬉しいですよ。」

 

「ここを曲がったら、見えてくると思います。」

 

そう言って、冬月さんは角を曲がって森を抜けると、3階建てぐらいの非常にモダンな建物が見えて来た。周囲に建物は無い。

 

「でかっ。」

 

「あれが、スターズの箱根温泉保養所兼、スターズミュージックスタジオですね。3階建てに見えますけれども、吹き抜け構造の2階建てで、露天風呂もちゃんと仕切りがあって2階にありますから、外からも見えないようになっていますよ。」

 

「すごい。モダンな洋風なのに和風の御殿みたいになってる。それにまん丸っちくてかわいい!!」

 

「なんでこんなに丸っこいのですか?」

 

「元は有名な建築家の和洋折衷のデザインなのですが、建築としてのデザイン性よりもミュージックスタジオとしての音響性能を最優先したせいで、こういう丸っこいデザインになったようですね。星アキラ自身も有名建築家のお洒落なデザインや機能性よりも、音響設計者の意見を重視したようです。」

 

「スケールが違う。凄すぎる。」

 

「こんな所で演奏!? もうダメだぁ~。もうお終いだぁ~。ガクガクブルブル。」

 

「そう言えば、アキラさんはいつ来るのですか?」

 

「星アキラはもうすぐ来るはずです。あっ来ましたね。」

 

冬月さんがそう言うと、上空からババババというヘリコプターの音がしてきた。 駐車場の横に隣接するヘリポートに大型のヘリコプターが着陸する。すごい風圧だ。

 

ヘリコプターが着陸すると、中から星キアラや百城千世子、パルファンちゃんや世界的なロックスター、そして柊雪監督がカメラを構えて出てきた。

 

「キアラさん、皆様をお連れしました。」

 

「冬月さん、お迎えご苦労様です。引き続き皆様のマネージメントをお願いしますね。それから、定時後は、皆様の案内は小島さんに引き継いで、保養所でゆっくり休んでくださいね。」

 

「了解しました。」

 

「さあさあ、皆様、自己紹介の時間ですよ。」

 

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「私は誰? ここはどこ?」

 

「ぼっちちゃん、自己紹介だけで満身創痍だな。」

 

「ぼっち、あのメンバーの前でスライムになるのは失礼。」

 

「あら、面白かったですわよ。みんなに大うけですわ。それに、あんなに緊張して面白い動作をするのに、服装が普段通りのピンクのジャージなのも味があって良いですわ。皆様にも唯一無二のロックンローラーとして認識されましたわ。」

 

「そうね。スライムの演技は素晴らしかったわ。私も参考にさせてもらうわ。まさにロックなスライムだったわ。」

 

「あの~。百城さん、流石に一般と外れた行動を全部ロック認定は・・・。」

 

「千世子ちゃんでいいわよ。ロックンローラーなんだから、とりあえずロックって言っておけばいいと思っていたのだけど、違うの?」

 

「ロックは魂の叫びなんですから、叫んだ結果、スライムになっていればロックですわ。あれ? でも、ロックなのにスライムでぷよぷよなのはまずいかも・・・。」

 

「すごい。ロックの定義が崩壊している。」

 

「リョウ、驚くところはそこじゃないと思うわよ。」

 

「さあ、こちらですわ!」

 

「「「「「「「すっっげっええ。広い!」」」」」」」」

 

「5部屋のスタジオと、3部屋のレッスンルーム、4部屋のオーサリングルームと、5部屋の編集室を備えた日本最高の複合スタジオですわよ。ユーモレスクで予想外に儲けすぎて、どうしょうもなくなった末の税金対策・・・・、いや、みんなの福利厚生と、納期に追い詰められた柊雪監督を缶詰めにする目的で作りましたの。」

 

「ですので、この施設の名前は、ユーモレスクの監督である、柊雪監督へのリスペクトを兼ねて、この施設の事を、雪マークの柊缶詰工場と呼んでいますわ。この結果、ご近所の方々からは缶詰工場の保養所としか思われていませんの。」

 

「本当に何でその名前にしちゃったのよ!!」

 

柊監督が涙を流して抗議している。小動物みたいで、正直、見ていて不幸かわいい。

 

「このメンバーにおける柊監督の立ち位置が分かるような・・・。っていうか、入り口にあったあの缶詰工場の看板は間違いじゃないのか!!」

 

「箱根の駅からタクシーでこちらに来たい場合には、柊缶詰工場の保養所って言わないとタクシーの運転手も場所がわからないですわよ。」

 

「すげぇ偽装だ。そして、明らかにマスコットにされる柊監督・・・。」

 

「うっうううううっ。」

 

がくっと静かに涙を流す柊監督。かわいい。これは私の性癖も刺激されるわ~。

 

「こちらが、SICK HACK様御一行に使ってもらうスタジオEですわ。」

 

「天井たっか。だから1階しかないのに、3階ぐらいの高さがあるのか。なんか、文化会館とかでしか見た事が無いようなごつごつとかぐにゃぐにゃした彫刻が壁に貼ってある。」

 

「それは、音響反射板ですわね。これを設置する事で、反射音の時間の遅れを調整して、演奏者が自分の演奏を聴きやすくするのですよ。この反射板と天井の高さで稼いだ容積のおかげで、音の抜けが良くて、世界的にも最高レベルの録音スタジオに仕上がっていますのよ。もちろん、カラオケもやりたい放題ですわ。」

 

「この高そうなスタジオでカラオケするのは、リラックスできなさそう・・・。」

 

「本当にここを使ってもいいのですか?」

 

「志摩さん、もちろんですわ。 結束バンドの皆様は、となりのスタジオDを、全体録音はスタジオAで、スタジオBがぼっちちゃん達、ロック組、スタジオCが私達クラシック組ですわ。お風呂や食事、その他は冬月さんに案内してもらってくださいな。 あと、イライザさんには、巨大スクリーンの映画ルームがあるので、そちらでアニメ鑑賞会をするのが良いと思いますわ。」

 

「わーい。キアラ大好き~!アニメ、バンバン見るよ~。」

 

「しかし、すごいわ。Pro Toolsとか、Mercury Audioとか、ハイエンド機材がごろごろしている。」

 

「収録は温泉に入って、休みながらだらだらと1週間ぐらいやりますわ。暇になる事もあるでしょうから、PAさんも居る事ですし、ここの機材を使って、練習だけではなくて、曲の録音とかやるといいと思いますわね。豪華スター達とのセッションを録音してYoutubeに上げれば大人気間違い無しですわ。」

 

「それは別の意味でいろいろヤバそう。」

 

「でも、私達にここまでしてもらう理由は無いのですが・・・。」

 

「大丈夫よ。ぼっちちゃんを1週間も借り受けるのですもの。そのためなら安い物ですわ。」

 

「わっ、わわわっ私!? あわわわわっ。 わたしは、そんなに安い女じゃないですよっ。 あわわわっ。」

 

「だめだ、ぼっちは、テンパって自分が何を言っているかわかっていない。」

 

「ひとりちゃん、ひとりちゃん、落ち着いて!」

 

「さっき自分で口走った事に気が付いて、瀕死状態になってますわね。」

 

「この変顔はかなりの才能ね。ここまで見事なパントマイムをナチュラルにできるのは阿良也君ぐらいじゃないの? 演技の練習をしてなくてこれなら、間違いなくトップレベルのパントマイマーになれるんじゃないの?」

 

「ぼっちちゃんは、ナチュラルだからできるのですわ。観客の前でやれっていわれても出来ませんわ。だって、陰キャでぼっちですもの。」

 

「ぐはっ、ごほっごほっ。もうダメだ・・・。死ぬ・・・。ガクっ。」

 

ぼっちちゃんは、吐血をして倒れた。死んだようだ。夕食までには復活するだろう。

 

「本当に惜しい才能ですが、せっかくぼっちちゃんを缶詰めにしたのですから、今回はギターをがんばってもらいますわ。」

 

「缶詰って、まさかぼっちちゃんを・・・・。」

 

「ぼっち缶詰工場、ここに開店ですわね♪」

 

「ヒィィィィィィィィィ!!!」

 

ぼっちちゃんは、今度は、サイケデリックに乱れた絵画になって発光した。

 

「キアラちゃん、バンドの人選は任せてたけど、本当にこれで大丈夫なの?」

 

「たっ、たぶん、大丈夫ですわ。きっと・・・、メイビー、おそらく・・・だめかも。

 




やばい柊缶詰工場(キアラ命名)で缶詰めにされるぼっちちゃん。
ぼっちちゃんは生きてこの缶詰工場から出られるのでしょうか!?

次回、ぼっち缶詰出荷の巻! お楽しみに!(嘘です)
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