星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
------------- 柊雪視点 -------------
曲の収録を終えたアキラ君達は、プライベートジェットでヨーロッパを目指して飛んでいた。
「さて、いよいよ本番ね。」
「そうだね。曲はぼっちちゃんのがんばりで、考えていたよりも上手く行ったし、いよいよ千世子ちゃんと僕の本領発揮の時間だよ。」
「ぼっちちゃんが、エリオット・クラフトンに半ば拉致されてイギリスに行っちゃったけど・・・。」
「それはそうだろうね。最後の方はぼっちちゃんもエリオットじいちゃんって言って、メンダコ状態になってすごく懐いていていたし、エリオット・クラフトン的にも自分をおじいちゃんと慕ってくれるスゴ腕のギタリストの娘とか可愛くてしょうがないだろうから、ちょうどいいよ。」
「そうね。MVが発表されたらしばらく大騒ぎになるでしょうから、エリオット・クラフトンの家でホームステイしているのは良い選択ね。今が夏休みでちょうど良かったわ。」
「今頃、エリオット・クラフトン家の物置小屋に籠ってギターでも演奏していそうだね。」
「あの子は絶対に狭い所を好みそうよね。」
「ぼっちちゃんは大丈夫なのだろうか・・・。そして、アキラ君、私達はどこに行くの?」
「まずは地中海だね。中々面白い旅になると思うよ?」
「本当に楽しみね。」
カモシカ型の着ぐるみを着ているパルファンちゃんが言った。もはや着ぐるみに誰もツッコミを入れない。
「パルファンちゃんも来るんだ。」
「もちろんよ。チヨコの撮影にバカンスがてらに着いて行って、その後にフランスに帰るの。あと、アキラの曲に出演した時の約束通りに、アキラに私の曲を書いてもらわないと。」
「えっ、パルファンちゃんもアキラ君に曲を書いてもらうの?」
「そうよ。アキラに私専用の曲を書いてもらう約束をしているの。」
「パルファンの出演交渉で僕に作曲して欲しいって言うから、撮影の待ち時間に、ついでに作るよ。」
「・・・適当な曲ができる匂いが・・・。パルファンちゃん、そんなのでいいの?」
「大丈夫よ。何時間もかけて作った手の込んだ料理よりも、適当に作った酒の肴がウケる事も多いし、アキラの作ったアリシアは世界的大ヒット間違い無しなんだから、話題の時にどさくさに紛れてアキラ作曲のオリジナル曲を演奏したら、Youtubeの再生数が爆上げ間違いなしなの。」
「こういう所は、パルファンもしたたかになったよね。誰に似たんだか。 んっ?雪姉ちゃんと千世子ちゃん、なんで僕を見ているの?」
「別に何でもないわ。」
「特に意味はないけど、アキラ君を見てしまったわ。ところで、どこへ行くの?」
「まずはギリシャのミロス島かな。」
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ミロス島に着いた時には、ハリウッドの凄腕スタッフ達が待機していた。
「ちょっと、アキラ君、何よこのメンバーは!? このMVにどれだけお金をかけるのよ! 撮影スタッフが凄腕の超一流すぎてドン引きなんですけど!」
「向こうも、アカデミー賞で七冠を獲得した女性監督が同行してドキュメンタリーを撮っていてドン引きしているよ。 それに、お金で才能を超えられるなら安い物じゃん。 みんな超売れっ子のスタッフ達だけど、5分ぐらいのMV撮影だから、拘束時間も短いし、報酬も高いので普通に受けてもらえたよ。」
「お金でリカバリーしている時点で、安い物の定義が崩壊している・・・。そしてこのスタッフを集められるアキラ君って・・・。」
「石油王がお金を出してもこのメンバーは集められないでしょうね。きっと面白い事をやるのがわかるから集まってくれたのだと思うわ。」
「それで、いつ撮影するの?」
「明日の朝よ。朝の暗いうちから撮影するから、今日は羽目を外さないでね。」
「大丈夫よ。流石に仕事ならちゃんとやるから・・・。」
そして、翌日、お金と才能と人員と機材をふんだんに使った、恐ろしくえげつない撮影を私は見ることになる。
夜明け前に千世子ちゃんがスタッフ達にカメラ配置や反射板の指示などをして、ライトを付けて、撮影のリハーサルを行う。
「アリ・アレクサと70mmフィルムの同時撮影・・・。」
「基本は、70mmフィルムよ。色彩設計も、ロケ地の自然色を最大限に活かして、編集はトーンだけを弄る予定よ。アリ・アレクサの方はバランス確認のモニタ用途ね。」
「豪華すぎる。」
そんな事をしているうちに、撮影の時間が迫って来た。千世子ちゃんはシンプルだけど、白く輝く美しいドレスに着替えて本番を迎えようとしている。
ここでの撮影は”楽園で祈る天使”のパートで、マジックアワーと言われる、空が魔法のように美しい色彩を出す瞬間を狙って撮影される。
マジックアワーの時の太陽の角度は-4度~-6度のブルーアワーから、0度から6度のゴールデンアワーの時間と光の変化を計算に入れて、一発撮りで撮影する。
今回の総監督は千世子ちゃんで、現場監督はアキラ君だ。空の色、光量、太陽からの入射角、カメラの画角、フィルムの露光時間、マジックアワーからの光の変化量など、すべて最初から緻密に計算をして撮影が行われる。
そうして、緊張の撮影が始まった。撮りなおしが効かない一発撮りで、私はすごく緊張したけど、アキラ君と千世子ちゃんはいつもの通り全く緊張なんてしていないみたいだった。修羅場をくぐった経験値が違いすぎる。
千世子ちゃんが計算しつくしたカメラの動きもすごく独特だ。カメラは千世子ちゃんを観察しているのではなく、千世子ちゃんに寄り沿う視点として、カメラ自身がもう一人の人物としての目線で撮影されていた。
そう。カメラは第三者ではなくて、同伴者なのだ。
そして、明るくなり始めると、アキラ君が阿吽の呼吸で撮影を開始して、千世子ちゃんはその瞬間に最も美しく見える光の入射角と、連続した構図を取りながら、彼女にしか許されない、極致の美しさをフィルムに焼き付けた。
ブルーアワーからゴールデンアワーまでの七色の光の変化を捉え切り、本物の天使として疑いの無い、神から与えられた美だけを凝縮した天の使いが祈る神聖なシーンだ。
当然、彼女はNG無くこのシーンを撮り終えた。
そして、その後にアリ・アレクサで撮影されたシーンを見せてもらったら、背筋が震えた。
『カメラに演技をさせている。』
カメラに息づかいや視線、手元の動きなど自然な視線の動きをさせて、カメラを第三者の視点ではなく、同伴者としての視点を映して、映像自身に演技をさせている。
刻々と変化する光を捉え切って、事前に計算してこの画をカメラマンに撮らせるとか、化け物か?
撮影したカメラマン自身も撮れた画に驚いて戸惑っている。ハリウッドの超一流のカメラマンがそうなのだから、この映像が世間に出た時の衝撃はどれだけ凄いのか。そして、これはあくまでバランス確認用のアリ・アレクサの方の映像だ。現像した70mmフィルムではどうなってしまうのか・・・。
カメラで撮れる画をシミュレーションできる千世子ちゃんの才能と、それが視聴者に与えるインパクトを客観的に判断できる才能が合わさって、さらにそれを受けて現場で、千世子ちゃんの撮りたい画を把握してスタッフをまとめるアキラ君が居なければ絶対に取れない映像だ。
二人の客観視する俳優としての能力と経験値が、無機物のカメラの映像自身を俳優として演技をさせると言う離れ業をやってのけている。墨字さんはなんて人達を本気にさせてしまったんだ!
もうこの時点で今後のオチが見えてしまった私は、天を仰いだ。
次の”人々の願いを集める日々”の撮影は、モロッコの青の街・シャウエンでの撮影だ。美しい人間の営みと美しい感謝の瞬間がカメラに刻み込まれて行く。
その後の”自己を見つける内省の夜”の撮影は、フランスのモンサンミッシェルを貸し切りにして、星空のもとで月の光を浴びながら楽譜を読み、自分の願いと向き合うシーンを撮影。調和の取れた蠟燭の光が千世子ちゃんの天使の演技と重なって、幻想的な演技に繋がって行く。
そして、ぼっちちゃんがソロギターを弾いたクライマックスのシーンである、”羽ばたきの瞬間”は、断崖絶壁のアイスランドの溶岩大地での撮影だ。千世子ちゃんは羽のようなオートクチュールドレスを着て、ゴールデンアワーの際に逆光で羽が燃えるように見える演出を一発撮りで取ってのけた。
最後の”静謐の祈りと微笑のシーン”は、ヨーロッパから一転して屋久島の森での撮影で、森の奥で小さな祠の前に立ち、微笑みながら“誰でもない自分”としてピアノの鍵盤をそっと叩くシーンでMVの撮影を終了した。
映画はお金が全てじゃない。これはみんながそう思う事だ。予算が少ない間は良い映画を撮っていた監督が、認められた後に潤沢に予算をかけた映画で大失敗するのも良く聞く話だ。でも、才能のある人間がお金をかけて5分間にその才能を濃縮したらどうなるのか?
その答えがこのMVとなるだろう。これはお金を無駄に使ったMVじゃない。作品で妥協の無い、最高のクオリティを出すためにお金を惜しまずに投入したMVだ。前者と後者では意味がまるで違う。
新宿ガールはコスパの面で最高の評価だろう。しかし、予算を度外視して、クオリティのみにこだわったMVに対して勝てるだろうか?
これから出来上がる千世子ちゃんとアキラ君のMVを見て、墨字さんがどう言う反応をするのか、今から楽しみだったりする。
その後、全てのMVの撮影が終わるのと同時に、ドキュメンタリーの編集で柊缶詰工場に舞い戻って私は缶詰めにされるのであった。。°(°´ᯅ`°)°。
雪姉ちゃんを缶詰めにする事で、アキラ君が作った保養所が本来の役割を果たしていますね。
次回あたり、雪マークの柊缶詰が出荷されるかもしれませんw