星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
------------- 山野上花子視点 -------------
「さっ、サイド丙ですか!? 物凄い方達がおられるようなのですが、どのようなチームなのですか?」
しどろもどろになった司会者がどうにか場面を展開させようと、星アリサにインタビューをし始めた。
「見ての通りのチームね。百城千世子と夜凪景のどちらが凄いのかを人気投票する訳だけど、この二人が競って人気投票をした所で、全盛期の星アリサは凄かった。 星アリサに勝ってこそ、最高の女優と名乗れるみたいな声が出るのは当然の事ね。だから、私も参戦して白黒をつけようと言うのよ。」
「あらあら、出る杭を本気で叩きに行くとか、昔のアリサちゃんが戻って来たのね。楽しみだわ。」
「やっ、薬師寺真美さん。星アリサさんと共に本当に、こちらの舞台で三蔵法師役で出演されるのでしょうか?」
司会者が驚くのも無理はない。薬師寺真美と星アリサ、いや、星アキラ以外のスターズとの共演NGは有名な話だ。星アリサ主演の舞台に薬師寺真美が出るなんてありえない。というか、この二人の不仲ネタはワイドショーではお馴染ネタだ。
芸能界でアンタッチャブルな大御所である薬師寺真美と、女優を引退しつつも、芸能界で一大勢力となった芸能事務所、スターズの社長である星アリサ。
薬師寺真美とスターズの俳優は共演NGで、薬師寺真美もよくスターズの俳優や星アリサに対して苦言を呈して来たから、それはもう、ワイドショーの恰好のネタだった。
もっとも、薬師寺真美については大御所だけれども、別段、スターズよりも芸能界に影響力があるかと言われると疑問だったが、スターズに正面から苦言を言える相手として、芸能関係の報道各社は、非常に重宝していた。
「もちろんよ。だって、とびっきりの狂人なのに、自分と同じ悲劇を繰り返さないように、後輩を育てるなんて、意味不明な理由で役者を止めたアリサちゃんが、私の所に来て、なんとしても勝ちたいから、出演してくださいって、頭を下げて来たのよ。私は、アリサちゃんが舞台で狂って、後輩育成とか言う妙な理想論に取り憑かれて、役者から逃げたから不仲になったのであって、こうやって、筋を通してくるのであれば、かわいい妹のためなんだから、私も一肌脱ごうって年甲斐もなくがんばっちゃうわ。」
「流石、真美お姉ちゃん。ありがとう!」
「アリサちゃん、いいのよ。さぁ、そこに居る、勘違いした女優二人をコテンパンにしないとね。」
「もちろんよ!」
なんだこの、大御所すぎて誰一人ツッコめない謎の芝居は。ヤバすぎるだろう。 何かとんでもない物を私達は見せられていないか?
・・・何より、日本で三蔵法師と言えば、この人だ。原作者の私であっても、この人の演技に物言いする事などできない。
「ババァ、まさか俺らと対決する気か?」
ようやく王賀美陸が口を開く。遅い。しばらく空気だっただろう? お前は唯我独尊キャラじゃなかったのか? もっと早くツッコミを入れろ。
「王賀美君、当然よ。だって、王賀美君も私と勝負したいのじゃ無いの? ほら、あなたが日本の芸能界を去る事になった原因が目の前で勝負を仕掛けて来たのよ?昔の恨みを晴らすチャンスじゃ無いの?しかも、目の前でアカデミー賞をかっさらっていったアキラのオマケ付よ。ここで逃げるほど腑抜けてはいないわよね?」
「当たり前だ!ババァ!ここであったが100年目だ。目に物を見せてくれるわ! あと、アキラにもな。」
「王賀美兄さん、僕は、この変な舞台に巻き込まれただけの害の無い珍獣だよ。僕は悪い珍獣じゃないよ。プルプル。」
「黙れ、このクソガキが!」
王賀美陸は、目の前の事態に飲み込まれていて、思いっきりフラグを立てている。周りが見えていないし、自分の確執を優先させている。むしろ噛ませ犬はこっちかもしれない。嫌な予感がビンビンする。
そして、星アキラ。 目の前を見ても、話に聞いたり、映画で観たりするような存在感が無い。地味でも無いし、派手でも無い。 自然だ。そう。不気味なぐらいに自然だ。力不足でもないし、役不足でも無い。目の前にスポッと収まるような印象。
普通の男の子が自然体で立っていて、誰も文句を言わせないような絶妙の存在感。誰に似ているかと言えば、役に入っていない時の明神阿良也に似ているかもしれない。
「アキラと俺も、舞台の上ので白黒つけられるという事か!」
対照的に、明神阿良也は目が輝いて、子供のようにはしゃいでいる。本当に純粋な子供のようだ。
「もちろん白黒つけるよ! もっとも、僕は白黒じゃなくて、珍獣イエローだけどね。」
何だよ。珍獣イエローって。ジュウレンジャーのイエローか何かか? どちらかと言うと、こいつは、レンジャー側じゃなくて、明らかに魔女バンドーラ一味の方だと思うのだが。
「そして、巌さん! 巌さんの演出と正面から対決できるんだ!」
「もちろんだ。お前の力を全て出して俺を負かしてみろ!」
明神阿良也に巌裕次郎が力強く答える。
「最高だよ! 最高だよ! 巌さん! アキラ! アリサさん! やっぱりアリサさんに誘われて、この舞台を受けて良かった。 全員、殺してやる!!」
おい、誰か、この演劇ジャンキーを止めろ! さっきまで大人しくしていたのに、急に殺し合いを始める雰囲気になりやがったぞ。もう味方まで惨殺する気満々じゃないか!
「ふっ、僕こそがみんなに勝って、珍獣界の110匹の頂点に立つ王であることを見せてやるよ! 阿良也!」
星アキラ、こいつ、百獣の王を110の王と本気で勘違いしていやがる。ドヤ顔までして、これは恥ずかしい。
「てめえら、二人だけじゃねぇ。この俺も居る事を忘れるな!」
「王賀美兄さん? あっ、忘れてた。」
「居たの?」
「テメェら、絶対にぶっ殺す!」
だめだ。王賀美陸のキャラがこの場に致命的に合わない。全員曲者の中にアウトローのヒーロータイプを入れても、遊ばれるだけだ。ただでさえ、星アリサの登場で舞い上がっている所に、これでは・・・。
「王賀美兄さんがキレているよ! どしたん話聞こうか?」
「更年期障害だな。」
「誰が更年期障害だ!誰が!そもそも、本当に更年期障害で苦しんでいる人に失礼だろうが!お前のそのネタにした一言でどれだけの人間が傷つくと思っているんだ! だからお前、しょっちゅう炎上するんだろうが!」
「あっ、阿良也、じょっ、常識人が居るよ。ここにアウトローの常識人が居る!」
なんだよ。アウトローの常識人って。法律から外れた常識人とか、常識人の定義が崩れるわ。
「常識を守るためなら、殺人をも厭わない。常識の守護者。アウトロー常識人! ここに居たのか!」
「常識で捌けない、非常識な人を惨殺する正義の常識人! まずいよ。 僕を除いて、ここには常識人が居ないよ。 僕以外、みんな王賀美兄さんに殺されちゃうよ!」
星アキラの中では、私も非常識人にカウントされているのだろうか? 誠に遺憾である。
「アキラ、非常識代表のお前が馬鹿を言うな。俺が常識人で、俺以外はみんな非常識人だろ! アウトロー常識人に一番最初に殺られるのはお前だ!」
「阿良也! 親友を捨てて逃げるつもりか! 僕は阿良也を盾にしてでも生き延びる。 僕の常識が一番正しいんだ!」
「はっ、この非常識の塊が。この中で一番、常識的なのは俺だ。俺の常識こそが宇宙の真理! つまり、アウトロー常識人に狩られるのはお前だ。」
「そんなっ、阿良也!僕を見捨てて自分だけ逃げるつもりかよ! 王賀美兄さん、非常識人はこいつです!」
「ばかっ、離せっ、俺は常識人なんだ。お前が非常識人になって死ね!」
「離さないね。死ぬなら阿良也も道連れだよ!」
「お前ら、楽しそうだな?」
「「ぎゃっ―――――っ。」」
会場が爆笑に包まれる。 何だ?このコント・・・・。 こいつら3人、意外に仲がいいな。とりあえず、孫悟空のキャストは三人ともヤバイやつというのは良く分かった。 あと、こいつらは揃いも揃って非常識人だ。常識人の私が言うのだから間違いはない。
「さて、続いては三蔵法師の皆様のインタビューになります。まずは、白石さん、サイド甲での三蔵法師はどのような演技になりますでしょうか。」
「いやいや、持ち味を出したいのだけどね。このメンバーの中で持ち味を出すだけでも、相当大変だよ。渡戸君だけでもきつかったのに、薬師寺さんまで出て来るとか、3つのチームでそれぞれ、どんな三蔵法師が演じられるのか、私も楽しみですね。」
白石宗は、この状況でもベテランらしい落ち着いた振舞で安定感のあるコメントだ。トリッキーなサイド甲でも、良いバランサーとして機能しそうだ。
「渡戸さん、白石さんはあのように仰られておりますが、渡戸さんはいかがでしょうか。」
「白石さんとの対決を楽しみにしていたのだけど、突然の薬師寺さんの登場で全く読めなくなりましたね。とは言っても、この伝説となる舞台の一員としてここに立てる事は、非常に光栄に思います。それに、やっぱり、薬師寺さんの三蔵法師は私も見たいですね。それに巌さんが出て来るとは思わなかった。巌さんの舞台と比べられるのはプレッシャーですね。」
サイド乙側の渡戸剣は、国際的に活躍するベテラン俳優だ。こちらも安定感がありつつも、キレた演技もしてくれる。間違いなく三蔵法師役は適任だろう。・・・ここに薬師寺真美が乱入して来なければの話であったが。
「薬師寺さん、日本の三蔵法師役と言えば、あなたを指すと思いますが、1970年代の西遊記のドラマは、日本のみならず、世界でも親しまれて、未だにカルト的な人気があります。ドラマからの長い空白を経て、舞台での三蔵法師役の復帰にどのような思いがありますか?」
この状況になれば、司会者も薬師寺真美へのインタビューには力が入る。
「最初、アリサちゃんからこの話を受けた時に、本当は断ろうかと思ったの。三蔵法師はあの時のドラマのままの姿で皆さんの記憶に残りたいと考えていたと思うから。でも、アリサちゃんは本気で私を口説いて来て、羅刹女という、また違った西遊記の舞台での三蔵法師なら、きっと新しい三蔵法師を見せられると思ったのよ。何よりも、私を三蔵法師として愛してくれて、薬師寺真美をここまで育ててくれた日本の皆様に恩返しをする必要があるだろうって、アリサちゃんが言ったの。私はその言葉に口説き落とされちゃったって訳。でも、出るからには、本当に皆さんに恩返しができるように、本気で頑張らせてもらうわ。」
薬師寺真美は、1970年代に日本に多大な影響を与えた西遊記のドラマで三蔵法師を演じた伝説の女優でもある。 女性が三蔵法師という、当時としても途轍もなく攻めた配役であったが、その配役は見事に当たり、ある年齢以上の世代には、三蔵法師と言えば彼女以外に考えられない。
その意味で言えば、こと日本においては、三蔵法師の役を男性がやる事の方が違和感がある人間すら居る。三蔵法師を女性と勘違いしている人すら居るぐらいだ。
大御所の女優になった彼女が長い空白期間を経て、再び舞台の上で、出世作の三蔵法師の役に挑戦すると言うのだ。正直な話、このキャストで無くても、彼女が三蔵法師をやるというだけでお客さんが押し寄せるはずだ。
「私が三蔵法師をやるって、昔の西遊記のメンバーに言ったら、是非観に来て応援してくれるって言ったの。みんなの前で再び三蔵法師を演じるのはすごく楽しみだわ。」
やられた。昔の西遊記のメンバーと言ったら、あの人達の事だろう。そんな人達が観に来たら、テレビ局がこぞってコメントを求めて、それがワイドショーで大きく取り上げられるはずだ。こんな所まで綿密に策を練って来るなんて、星アリサは本気で私達に勝つ気だ。
汚いなさすが忍者きたない。
これまで、老女の演技をしてきた薬師寺真美が、明るめの着物を着て、はつらつと喋っている。若返ったみたいだ。 ここ最近の薬師寺真美の雰囲気とは明らかに違って、ワクワクしているのを感じる。彼女も本気なのだろう。
私は、この時、自分の描いた羅刹女以外にも、日本に根付いた西遊記というカルチャーとも戦わなければいけない事をはっきりと意識した。
「非常識な人はいねが~。」
「私は常識人よ。殺すなら、景ちゃんがいいと思うわ。」
「そんなっ、私は普通の高校に通う、平凡な高校2年生の女の子の常識人ですっ。常識なまはげさんっ、千世子ちゃんこそ、サイコパスで毒舌な非常識人ですっ。」
「酷いっ。ずっ友とか言っていながら、常識なまはげに私を売るなんて!景ちゃんも役に入ると、ただの非常識人じゃない!」
「千世子ちゃんこそ!」
なんだよ。常識なまはげって。アウトロー常識人はどこに行ったんだ?
「いいぞ!女同士の友情が崩れて、誰も救いの無い泥沼の展開とか美味しすぎるよ!ごはんが進むよ。争え、もっと争え!」
「やっぱり、伝統芸能のなまはげとのコラボはいいな。常識なまはげは最高だな。そこに居る、爆破好きのサイコパスで、非常識な芸能事務所の社長も包丁で刺していいぞ。」
「アキラ、阿良也君、相変わらず楽しそうね。また私の胃が痛くなってきたんだけど・・・。あと、私は常識人よ。常識人じゃないと社長なんてできないわ。アキラも阿良也君も王賀美君も、みんなこんなに好き勝手にするなんて、スターズの権力がでかすぎるわ。」
こいつら、まだやっていたのか。そして、王賀美陸、お前、どういう経緯で、アウトロー常識人から、常識なまはげになったんだよ。しかもノリノリじゃないか! こいつ、星アキラと明神阿良也の手の平で転がされすぎだろ。
ここで取り上げた、1970年代の西遊記のドラマなのですが、日本のある年齢以上の人は、このドラマの影響を多大に受けており、西遊記の話題で、このドラマ関係の感想いただく事が沢山あります。 ある年齢以上になると知らない人が居ないほどの途轍もない影響力があるドラマです。
現実の方で、三蔵法師役を演じたのは、夏目雅子さんという女優の方で、19歳で三蔵法師を演じた後に、白血病によって27歳という若さで亡くなってしまったのですが、未だに西遊記で三蔵法師と言えば、脳内で彼女のイメージを思い浮かべる方も多いでしょう。
このドラマの夏目雅子さん以外のキャストは、堺正章さん、西田敏行さん、 岸部シローさんというそうそうたる面々で、彼らの出世作とされている所を見ても、このドラマの影響力が分かると思います。
現実の世界では、残念ながら、夏目雅子さんは若くして亡くなっており、岸部シローさん、西田敏行さんと相次いで鬼籍に入られてしまいましたが、こちらの世界線では、若い頃の薬師寺真美が演じて、そのまま、他の方と同じように、すごい女優としてのキャリアを積み上げた形とさせていただきました。
そんな女優が長い時を経て、舞台の上で三蔵法師役を演じる事になります。 お楽しみに!