星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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山野上花子は制作発表会に出席する5

 

------------- 山野上花子視点 -------------

 

一時の混乱の後に、続いて沙悟浄のキャストへのインタビューに移って行く。

 

「とんでもない事になりましたが、この中で沙悟浄と言う難しい役を演じる皆様の意気込みはどうでしょうか。」

 

「人気投票もあんまり関係無い立場なので、はじめ強くあたり、あとは流れでなんとかします。」

 

「お二人に比べて若輩の身ですが、アクション俳優を目指してきて、アクションや演技には自信があります。お二人とはまた違ったアクティブな沙悟浄で皆様を楽しませたいです。」

 

「巌さんの本気の演出をする舞台で、沙悟浄という役に抜擢された事を光栄に思います。ここには星アリサに育てられた俳優は沢山居ますが、同時に阿良也や亀太郎は巌さんに育てられた俳優です。巌裕次郎の演出と底力を皆さんに見せつけたいです。」

 

沙悟浄は見事に3人とも女優が集まっている。

 

一人目は、朝野市子。20歳以上を代表するトップ女優で、環蓮の後継者とも噂されている。そして環蓮と同じく、かなりの曲者とも言われている。あの星アキラと特別仲が良い女優と言う時点で相当だ。

 

印象としては、落ち着いていて、この事態にも全く動じていない。全く緊張していないようだし、自分の実力に自信があるのだろうか。

 

しかし、私達のチームなのだが、何か不正をやっているかのような怪しいコメントは止めて欲しい。一見常識人のように見えるが、芸能界を生き抜いて来たオーラがすごい。

 

二人目は和歌月千。あのスターズのオーディションで選考された女優だ。数万人という女優の卵からたった一人選ばれただけでも、並々ならぬ才能がある事だろう。 特に運動神経がよく、美しいアクションをこなすと言われている。

 

手足が長く見えるスタイルの良さと、運動神経の良さから、舞台の上で映えるアクションをこなしそうだ。その意味では、ビジュアル面を重視するサイド乙にはちょうど良い人材だろう。

 

対して、3人目の三坂七生は、巌裕次郎が結成した劇団である天球の看板女優だ。普段の地味な容姿とは対照的に、舞台の上ではまるで脱皮したかのような華麗な演技を見せる。最近では、ドラマや映画に骨太の脇役としても引っ張りだこだ。

 

舞台経験という意味では他の二人よりも抜きん出ており、何よりも巌裕次郎の舞台に立ち続けて来た点を考慮しても、猪八戒役の青田亀太郎と合わせて、今回の舞台演出である巌裕次郎の意図を汲んだ芝居を、最も上手にこなせる俳優と言っていい。

 

その意味で言えば、チーム丙は全く隙が無い。唯一の隙と言えば、星アキラが予想を裏切る芝居をする事だろうが、あの俳優は良い方向に予想を裏切る訳で、母子の共演も合わせて、これは隙では無い。むしろ罠だ。

 

「三坂さんは、あの巌裕次郎さんに育てられた俳優ですが、この舞台に対して、並み並みならぬ意気込みがあるように見えます。やはりこの豪華キャストとの共演は楽しみですか?」

 

「当然です。あと何回あるか分からない、巌さんが本気で演出する舞台に参加できる機会です。共演者も伝説的なメンバーを集めた、まさにドリームチームの中で、私が培ってきた舞台俳優としての経験をぶつけて、最高の舞台にしてみせます。」

 

三坂七生にとって、巌裕次郎というのは、それほどまでに重要な意味を持つ演出家なのだろう。彼女の意気込みは、他の二人よりも強いように見える。眼鏡の下の鋭利な視線と合わせて、研ぎ澄まされた気合と緊張感が見て取れる。 少なくとも、彼女は手を抜いたり手加減する気は全く無いようだ。

 

「巌裕次郎と言えば、巌裕次郎の秘蔵っ子と言われて、今や演劇界の怪物とまで言われるようになった、明神阿良也さんですが、師匠とも言える巌裕次郎を別のチームに加えての師弟対決。 どのようなご感想をお持ちですか?」

 

「これは山の裏側まで登れってことなんだと思います。山の表を登っただけの達成感だけではなく、山の裏側まで満喫する事で、本当の山の全体像が見える。つまり正面に見える山の姿だけではなくて、観客に見えない山の裏側まで登ることで、音だけで気配を感じるような、見えない登山者とどこで出会えるのか、そんな所が重要な舞台になっていくと思います。」

 

「・・・・・・・・・・・。星アキラさん、こちらの明神阿良也さんの感想についての感想をお願いできないでしょうか?」

 

司会者! 自分で振っておきながら、コメントに困るんじゃない。

 

「もちろんだよ! 演劇界の怪物のライバルとして名高い、演劇界の珍獣が阿良也の象形文字を現代語訳してしんぜよう。」

 

なぜか、星アキラが伊達メガネをかけながら、説明をし始めた。キラーンと照明で眼鏡のレンズを光らせるのも忘れない。 この珍獣、やたらとノリノリだな。

 

「つまり、阿良也文化の考古学的には、山は舞台を指していて、舞台を見るのに表の他にも、舞台を支える裏側にも目を向ける必要がある事。この辺は、阿良也文化の初心者である皆様も理解がしやすいと思います。しかし、”見えない登山者”で戸惑うのではないでしょうか?」

 

何だ?この講義。阿良也文化の考古学って何だよ。

 

「阿良也、”見えない登山者”の例としては、”目に見えないルートで山を越えてくる人間”や、”正面から怒りを突き刺してくる人間”や、”氷で道を封じる人間”と言った所でいいのかな?」

 

「さすがアキラだな。さらに”隕石で道を破壊する人間”も加えてくれ。」

 

「つまり、”登山者”は”役者の役”の比喩で、役者本人だけでは物理的に見えない、物語上の登場人物や演出家などの裏方を指します。」

 

「総合すると、”舞台の表裏で化かし合う役者や演出家同士の本質を見極めるのが重要な舞台”だと言いたいのだと理解できます。」

 

「流石、アキラだ。死ぬまでは俺のズッ友だな。」

 

「もちろん阿良也は、死ぬまで僕のズッ友だよ。阿良也は僕が手をかけなくても、早死にしそうだから安心していいよ。」

 

こいつら、ヤベェ。そして何よりも一番ヤバイのは、最初から明神阿良也が、「舞台の表裏で化かし合う役者や演出家同士の本質を見極めるのが重要な舞台」と回答していればこんな茶番は不要だと言う事だ。

 

「なっ、なるほど。流石は明神阿良也さんと星アキラさんですね。そう言えば、星アキラさんも星アリサさんに育てられたと思います。星アリサさんへの舞台の意気込みなどがありましたら、教えていただけないでしょうか。」

 

その質問の瞬間、会場から息をのむ声が聞こえて、会場の温度が急低下した。その雰囲気で、なんとかアドリブで回していた司会者は、自分がとんでもない失言をした事に気が付いたようだ。

 

星アキラが母である星アリサに育児放棄された上に、才能を認められ無かった事は有名な話であり、かなりデリケートな話のため、公の場ではこれに触れるのはタブーとされていた。やらかした司会者が青ざめていると、あっけらかんと星アキラが回答する。

 

「もちろんだよ。僕が今ここに立っているのは、アリサママの狂育があっての事だよ。 もちろん、みんなが気にするようにアリサママとの狂離感は大切だけど、それ以上にアリサママとの狂演を楽しみにしているんだ。みんなも見てみたいでしょ? 僕とアリサママの狂演。」

 

あっけらかんと、星アキラが答える。この辺の確執のような物は全く気にしていないのだろうか。司会者も胸を撫でおろしたようだ。

 

「百城千世子さんも星アリサさんから教えを受けてきた女優ですよね。今回、星アリサさんと直接対決する事になりましたが、対決についての意気込みはどうでしょうか。」

 

「今の私があるのは、子供の頃から受けたアリサさんの、カリスマに満ちた狂育があっての事です。アリサさんからの教わった役者との狂存のあり方を生かして、アリサさんに成長を見せられたらと思います。」

 

「ありがとうございます。夜凪景さんも、星アリサさんの教え子の一人ですよね。アリサさんと教え子同士が戦う今回の舞台をどう思いますか?」

 

「私もアリサさんによって見いだされた女優です。アリサさん達と戦える今回の舞台を本当に楽しみにしています。アリサさんに教わった狂感の心で、見事に羅刹女を演じ切ってみせますっ!」

 

「みんなありがとう。あなた達も素晴らしい俳優になったわ。」

 

感激する星アリサ。

 

「みんな、狂育者のアリサさんを慕っています。アリサさんこそ、(かなりアレな)俳優を生み出す最高の狂育者です。」

 

「本当にそう思います。ここに(こんなにヤバイ)皆様が居るのも全てアリサさんの狂育のたまものですっ。」

 

「さすがはアリサママだね。まさに日本最高の女優と共に、日本最高の(頭のおかしい)狂育者はアリサママだよ。」

 

「ここまでみんなを育てて本当に良かった・・・。」

 

星アリサが感動しながら涙を流している。しかし、星アリサの教え子達が揃いも揃って、何かの狂気に侵されている気がするのは気のせいだろうか? あと、それぞれの発言が何か引っかかる気がする。

 

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「もちろんだ。星アリサにアキラ、薬師寺真美に七生と亀太郎まで揃うのだから、全く手を抜く気もねぇ。後輩に道を譲るとか世代交代とか関係ねぇ。俺は俺の作りたい舞台を作る。」

 

制作発表会も終盤になり、ついに演出家同士のインタビューに入る。そしてついに、私にまでインタビューが回ってきてしまった。

 

「山野上花子さんは、羅刹女の原作者でもありますよね。やはりご自身で舞台も作りたいと、サイド甲の演出に名乗りを上げたのでしょうか?」

 

「・・・・違います。騙されたのです・・・。」

 

私を下にうつむいて、メガネを曇らせながら言った。もう限界だ。

 

「は?」

 

司会者があっけに取られる。

 

「考えてみれば、良く分からないうちに星アリサさんに言いくるめられて、気が付いたら話を受けちゃったのですが、こんな事態になるなんて・・・。まるで詐欺です。」

 

「あっ(察し)、でもっ、この大注目の舞台を原作者自らが自分の手で演出できるのですから、とても楽しみですよね? ねっ?」

 

「サイド乙だけでもヤバイのに、なんですか!?このサイド丙(ひのえ)とか言う、明らかに大人げないチームは? こんなのに、原作者ってだけで、舞台が素人の小説家を連れて来て、真っ当に勝負になる訳が無いじゃないですか!」

 

もう耐えられなくなって、私の精神が爆発した。

 

「まぁまぁ、落ち着いてよ。山田花子さん。やはりそういうフレッシュな大型新人をみんな求めているんだと思うんだ。」

 

星アキラが私を優しくなだめようとするが、苗字が間違っている。

 

「山野上!、山野上花子よ。フレッシュな大型新人とか、明らかに3チームの中で、私だけ演出家が見劣りしている事への対処に、全く関係ないじゃない。」

 

「山田花子さん、そういった冷静に現状を分析できる能力を買われて、きっと、サイド甲の演出家に抜擢されたんですよ。原作者が作る、すばらしい脚本が楽しみです。」

 

「だから、やまのうえって言っているでしょ!、山田じゃないの! 人を筆記例の名前みたいに言わないで! あと、あなたがサイド乙の演出者だから、無責任なコメントを言っているでしょ?」

 

「鋭いですっ。流石は、原作者の山田花子さんですっ。千世子ちゃんが他人事で適当に流したのをちゃんと感じ取っていますっ。これはニュータイプの演出家ですねっ!」

 

「山野上! やっまっのっうっえっ! 夜凪景、お前、一緒のチームだろうが! お前ら全員で、一緒に発音してみて? はい。やっまっのっうっえ!。」

 

「「「やっまっのっうっえ!」」」

 

みんな息を合わせて、私の苗字を発音する。

 

「全く、人の名前を間違えるのは失礼だって習わなかったのかしら? しかも夜凪景? あなたが所属するチームの演出家が素人でヤバイのだぞ? お前、この大舞台で私が原因で負けるかもしれないのだぞ? そんなに楽しそうにしていていいの?」

 

「すごいな。ある意味、他のチームの演出家よりも濃いな。流石、山田花子。」

 

「山田花子・・・。見直したぜ。やはりサイド甲を任せられるのは山田花子しか居ない。」

 

「だから山野上だって言っているのに~! うわー――ん!」

 

「すごいですっ! なんて才能なんでしょうか!? 山田花子さんは叩けば叩くほど光るおもちゃですっ!」

 

「景ちゃん、本音がダダ洩れちゃってる! 景ちゃんの悪魔な部分が出ちゃってるよ!」

 

「チーム甲の山田花子はダークホースね。原作者だと思って、侮っていたわ。こんなすごい隠し玉(おもちゃ)だったなんて・・・。ある意味、才能はピカイチね。」

 

結局、みんな私の苗字を山田と勘違いして、波乱の制作発表会は終了するのであった。

 

 





みんなにおもちゃだと認識されてしまう、山野上花子先生。 彼女は無事に演出家としての仕事を全うできるのでしょうか!?
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