星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
------------- 伊地知虹夏視点 -------------
エリオットさんの家に入った後に、ぼっちちゃんは自分の部屋である2階の物置部屋に籠っていた。
「ぼっちちゃーん!ロンドン塔行くよ~!お昼はフィッシュ&チップスだよ~!」
すると、部屋の中から聞こえるのは、
ジャカジャカジャカジャカ(=イヤです!)
「リフで拒否してる~~っ!!」
「ぼっちのやつ、完全に拗らせてやがるな。」
「日本に居る間は、ここまでじゃなかったのに。イギリスで一体何が・・・。」
「ひとりちゃーん! イギリスで美味しい物食べようよ! ブラックプディングとか、ジュリールイールとかマーマイトとかハギスとか、スターゲージーパイとか美味しいのが一杯あるんだよ! 一緒にインスタ映えする写真撮ろうよ!」
「全部ゲテモノじゃん・・・。」
「郁代が自分のインスタ映えのために、友達を犠牲にしようとしていて草w」
「リョウ!私達もそれに巻き込まれちゃうよ!」
「あらあら、やっぱり閉じこもっちゃったのね。」
「エルザさん。ぼっちちゃんは、この家でどういう生活を送っていたのですか?」
「そうね~。とりあえず下に行ってみんなでお茶しない?」
「ええっ!?」
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私達が下に降りると、すでにお茶の準備が出来ていた。
エリオットさんもすでに席に座っている。テーブルの上には紅茶とティーフードが用意されていた。本場で本物のティータイムだ。
優雅な、アールグレイの紅茶に、ちょっと変化球なチャイ・スパイス風のミルクティー。
さらにティーフードとして、ピック型のスコーンに、フィンガーサンドウィッチの4種盛りと豪華な食べ物。
カップの絵柄は全員分違い、音楽モチーフのデザインで、ティーセットのティーポットは、弦を弾くと音が鳴るギミック付きという、音楽家の家庭らしいおしゃれな雰囲気だった。
私達は、ロックの神様であるエリオットさんと、本場のアフタヌーンティーに気圧されつつ、緊張しながらなんとか会話を進める事ができた。
「ぼっちちゃんは、普段、どういう生活をしているのですか?」
「普通の生活よねぇ?」
「そうだな。」
普通ではこの状況に説明が付かないため、ぼっちちゃんの1日をエルザさんに詳しく教えてもらう事にした。
------- ぼっちちゃんの引きこもり生活の1日 -------
■午前 8:00 起床
目覚ましは鳴らない。自堕落に自分が目覚めた時に、エフェクターの電源をONにして、エフェクターの“プチッ”っとした電源ノイズで起床。
ベッドサイドには、エルザさん特製のモーニングティーセットが置かれている。
今日のメニューは、アッサム紅茶(ミルク入り)にピック型にくりぬかれているトースト、そして小さなスクランブルエッグとベーコン。
ポロポロン(=神、ここにあり)
朝食を弾きながら食べるという贅沢な「サウンドモーニング」が日課。
■午前 9:00 おもむろに活動開始
昨日弾き散らかしたピックを部屋中から回収。
10枚集まったら「今日もいい日になる(=F→G→Cの進行)」を鳴らして朝礼完了。
その後、エリオットがぼっちちゃんを覗きに来る。
無言で両者弾き合いスタート。
今日のテーマは「ジャムとリズムと情熱」。
「She speaks in tone better than I do in English・・・」(ひとりは俺の英語よりも感情的な音のトーンが上手いんだよなぁ・・・。)
■午後12:00 昼食
エルザさんお手製のブリティッシュランチ:
フィッシュ&チップス(ソースの容器がピック型)
グリーンピースとサラダ
リンゴのデザートクランブル
会話は一切なし。ぼっちちゃんはギターで返事。
「Is the fish delicious?」(魚おいしい?)
チャララ(=最強)
「Would you like some lemon with your fish and chips, dear?」(フィッシュアンドチップスにレモンをかける?)
ポロン(=ください)
「You look a bit full, dear. Are you going to leave your chips?」(チップスを食べきれないようだけど残す?)
ジャーン(=断固拒否)
■午後2:00 引きこもりベッド練習
布団に包まりながら、窓の外の小鳥のさえずりに合わせてリフを構築。
「これはGで鳥語だな・・・。」と一人で納得。
ベッドでゴロゴロしながら、体の上にギターを置いて弾き、至高の音研究。(ぐーたらニート)
■午後4:00 エルザさんと一緒に紅茶の研究タイム
エルザさんと一緒に紅茶の茶葉を見ながら、アフタヌーンティーの紅茶を研究。
アールグレイ:明るいメジャー7th
アッサム:クラシカルなコード進行(Am→Dm→G)
ダージリン:速弾きジャズ風リフ
「Many people describe tea leaves with words or poetry, but expressing them through sound - that’s something only you, Hitori, have done. You’re the first in the world.」(茶葉を言葉や詩で表現する人は多いけど、音で表現するのはひとりが世界初よ。)
■午後6:30 夕食
夕食は家族スタイルのダイニングで、この日はエリオットの好物のビーフシチューと、グラタンに温野菜。
そして、食後にフルーツとミルクティーのセットという豪華な夕食。
ぼっちちゃんとみんな和気あいあいと幸せな食事を食べる。
「Hitori's part of the family now.」(今やひとりはうちの家の子だな。)
チャーン・・ジャーン!(その通りですですっ!)
■午後9:00 夜のリフ日記
Youtube用の収録の後に、寝る前に夜のリフ日記を更新。
朝:C→F→G(=平和)
昼:E→G#dim→A(=感謝と揚げ物の油っこさ)
夜:D→Bm→G(=家族・・・)
ポロロン・・(=今日もありがとう。)
ジャカジャーン! ジャーン! ジャーン、ジャン! ジャン!(=引きこもりサイコ――!。)
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「こんな感じで、ひとりは普通の大人しい女子として平凡な一日を過ごしているわ。」
「「「イヤイヤ、全然普通じゃないから!!!」」」
「でも、ひとりは家で満足してくれているし、何よりも私達の子供はみんな男の子だったから、女の子が住んでくれてすごく嬉しいのよ。」
「引きこもった理由が分かったわ。エルザさん、とんでもないヒキニート製造機だわ。」
「ただでさえ、ヒキニートの能力があった、ぼっちのニート才能をエルザさんが遺憾なく引き出している・・・。羨ましい・・・。」
「確かに、これなら、ひとりちゃんも家の外に出たくなくなるかも・・・。」
「ヒトリちゃんは引きこもりじゃないのよ。彼女は、“音で世界とつながってる”のよ。むしろ、家から。」
「エルザさんはいい感じにまとめているけど、今のぼっちちゃんは、ただの高収入な引きこもりニートですからね!」
「これ、もうぼっちを家の外に出すの無理じゃない?」
「リョウ、そんな事言わないで! バンドで一緒に演奏できないのは悲しいよ。」
「大丈夫です。ひとりちゃんは、引きこもっていても人一倍さびしがりやで、承認欲求モンスターなのですから。」
「喜多ちゃん、何か策がありそうだね。」
「もちろんです。」
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ぼっちちゃんの部屋がある2階の部屋の隣の部屋は空き部屋になっていて、ドラムをお借りして、リョウのベース、喜多ちゃんのマイクとギターをセットアップ。
「出てこないなら、音で呼びかけるしかない作戦!行きますよ~!」
喜多ちゃんがノリノリで話す。
ハイテンション・アイドル風C→F→G進行で「ひとりちゃ〜ん♡」とマイクでぼっちちゃんに話しかけるように、リフと歌でぼっちちゃんに話しかける。
リョウがBdimで「観光だぞコラ!」とぼっちちゃんを挑発。
私は、ドラムで一定のリズムを刻んでお散歩へ行こうとアピール。
部屋の中から聞こえる拒絶のリフ。
それを聞いた喜多ちゃんが歌を歌い始める。
私とリョウは喜多ちゃんの歌とギターに合わせて、リズムを刻む。
ビッグベンの鐘が鳴る~♬
無言でギター構える少女
その手にはピンクのZO-3
キラッと光ってフォトジェニック!
みんなは羨望のまなざし~♪
イギリスの空気は重いけど
投稿すればバズる未来~♩
ZO-3片手にピンクガール
フォロワー伸びて1000倍だ!
これはバズるわ!
タグ付け不可避のギターガール
ひとりのくせに視線集めて
世界中が今日の君に「いいね」を連打!
映えスポットは武器になる
みんなあなたの姿を見たい~♬
コラボもバズって、アリシアバズって次は何?
ZO-3片手に、美貌の美少女、いいねとリツイートの雨に
震える自我、燃える承認、満たされる欲求~♪
みんなに愛されてハッピーな人生イェーイ!
部屋に籠ってコードをコピーするだけの根暗陰キャ
そのままじゃもったいないよ!
ギターでしゃべる美少女って
サブカル界、みんなざわつくやつじゃん!
ほらそこに、観光客がレンズ越しにキミ見てる
映ったらもう、逃げられない
君のフォロワー、一瞬で大爆発!
喜多ちゃんがぼっちちゃんを歌で煽る煽る。とても楽しそうだ。それに、私が気が付かないうちに、喜多ちゃんが一皮むけたようだ。
喜多ちゃん、前からこんな感じに歌ったっけ? ギターも歌のテクニックもそんなに変わった感じがしないけど、存在感と輝きが段違いだ。キアラさんや千世子ちゃんには全く及ばないけど、それをイメージさせるような輝きがある。
まるでイギリスの、鬱蒼とした雲の隙間から指す青空と陽の光みたいだ。
ちょっと前までギターも弾けなくて、歌も上手いけど、カラオケで高得点を挙げるだけで人を惹きつける歌唱力がある子って感じじゃ無かったのに、いつのまにか印象がガラッと変わっている。
この輝き、まるでカリスマアイドルみたい。
どうしちゃったんだろう? 女の子はちょっと目を離した隙に、こんな成長があるから怖い。
そんな事を考えていると、ドンッとドアが開いてボッチちゃんが出て来た。愛用のZO-3を構えている。
そして、ぼっちゃんも曲にギターを合わせる。久々の結束バンド全員が揃った演奏だ。
「ほら、もっと外を見て!」
ポロロン・・・(=でもこわい)
「フォロワーも世界も、みんなひとりちゃんのリフを待ってるよ!」
間奏の後に2番に入る。
そうだよ、ひとりちゃん~♬
一緒に観光地を回るだけでバズりまくりで
承認欲求、満たされまくりッ!!
ギター持ったら絵になりすぎ~♪
いいねの音が鳴ってるよ
通知の雨が降ってるよ~♩
ひとりちゃんが歩くだけで世界が
「この子誰!?」って騒ぎ出す!
トレンド入りが待ってるから !
お願い!観光しよっ!?ねっ!!
誰かの好きが飛んでくる
ほら、君は光の中!
ピンクのリフが空を裂いて
スマホが勝手にシャッター切る~♪
黙っててもバズる才能、それを使わず寝てるだけ?
もったいないよ、ひとりちゃん! さぁ、スマホとギター、持って出よ!
最後にぼっちちゃんが流れでYesのリフを弾く。
喜多ちゃんの罠はここに完結した。
結束バンドの久々の演奏を終えて、充実した表情を見せるメンバーに私は言った。
「確保~!!!」
「えっ? えっ?」
事態を飲み込めないぼっちちゃんをリョウと喜多ちゃんが左右から抑え込んで拘束する。
「さぁ、観光に行こうね~。ぼっちちゃん。」
私は迫力のある悪巧みした顔で言う。
「ちょっ、ちょっ、どういう事!?」
ぼっちちゃんを拉致した私達を、エルザさんがハンカチをひらひらして、見送ってくれる。
私達は、事態を飲み込めないぼっちちゃんを拉致して、無事にイギリス観光に繰り出す事に成功した。
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ちなみに、この空き部屋での演奏とその後の拉致の一部始終はエリオットさんが録画してくれていて、エリオットさんが面白がってSNSにアップした結果、恐ろしい勢いで世界的に超バズって、皮肉な事にこれが結束バンドの最初の世界的大ヒット曲になるのであった・・・。
結束バンドの曲を聞きながらノリノリで書いていた喜多ちゃんの歌詞が、読み返してみると酷すぎワロタw
あと、感想の方のからスターゲージーパイも思い出させていただけたので、喜多ちゃんの食べたい物にスターゲージーパイも追加させていただきました。ありがとうございました。