星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
------------- 伊地知虹夏視点 -------------
「それで、どこに行くの?」
リョウが観光の場所を聞いてくる。
「ロンドンに来たら、やっぱりココでしょ!」
ハイテンションな喜多ちゃんの言葉につられて周囲を見渡す。
ジャラジャ(=どこ?)
「簡素な住宅街にしか見えないけど・・・。」
「ロンドン・EMIレコーディング・スタジオ前の横断歩道。ここは、あのビートルズの12枚目のアルバムであるアビイ・ロードが撮影された交差点なのです!」
「「「ほぇ~。」」」
私達は何の変哲もない交差点をぼ~と見た。やっぱりただの交差点だ。
ただ、写真を撮っているひとも結構居て確かに人気の観光地みたいだ。
観光客がひっきりなしに訪れて、誰もが真似をして誰もがマネをしては写真を撮っている。
「それじゃ、私達もビートルズのジャケットを真似して写真を撮りましょう。右から私がジョン・レノン、次がリンゴ・スターで伊地知先輩、その次がポール・マッカートニーでリョウ先輩、最後がジョージ・ハリスンでひとりちゃんね。」
私達は喜多ちゃんが持ってきた三脚にスマホをセットして、リョウがタイマーをセットする。
「はい。撮るぞ~。」
「タイミング揃えて!せーのっ~・・・・。」
「プ――!!!」
渡り始めた瞬間に来た車が思いっきりクラクションを鳴らす。
「ぎぇぇぇっぇぇぇっ。」
奇声を上げながら前衛芸術のように乱れた画像になってビビるぼっちちゃん。
結果出来上がった写真はこんな感じになってしまった。
・ジョン(喜多)←堂々
・リンゴ(虹夏)←余裕
・ポール(リョウ)←ポーズ完璧
・ジョージ(ひとり)← サボテンダーのようなポーズで、前衛芸術調に雑な線の絵になって全力疾走でブレまくり
「ちょっとひとりちゃんがひとりだけ逃走中になってる!!」
「雑な線のピンクぼっちサボテンダーが居るな。」
「これはこれで、ものすごいパロディーの絵柄でありなの? それで・・・何? この地球外未確認生物?」
ジャ・・・、ポロン・・・チャララッ!(=だって!車が!殺意を!!)
「ロンドン市民は運転荒いからなぁ・・・やっぱりロックの国だからか?」
「たぶんロック関係ないと思うよ・・・。」
それでも写真はSNSに投稿され、ひとりだけブレてるひとりちゃんが「前衛芸術的」と喜多ちゃんの歌と合わせてバズるのであった。
「よし、次はハードロックカフェ行こう!」
SNSの写真に命を懸ける女、喜多郁代が率先して観光地を巡る。
「・・・観光客っぽすぎない?」
リョウが眉をひそめたけど、私は賛成した。
「いいじゃん。ほら、あそこってさ、エリオットさんのギターとか、ツェッペリンの衣装とか飾ってあるらしいよ!」
「ひとりちゃ~ん、先輩のギターに挨拶しなきゃね~?」
観光地で映える写真を撮りまくれて、ハイテンションの喜多ちゃんは、陽キャパワーでぼっちちゃんに容赦なく絡む。
キターンといったSEがどこからか聞こえてくる。
ギャ~~~ン!!(=ぎゃぁぁっぁぁぁっぁぁ!?)
引きこもり続けていて、今まで以上に闇特性が磨かれていたぼっちちゃんは、喜多ちゃんの陽キャオーラに当てられて、塩をかけられたナメクジのようにどろどろのピンクの液体へと溶けてしまった。
私達はそのピンクの液体を瓶に詰めて、一路ハードロックカフェへと向かった。
ハードロックカフェは、ロンドン中心部、メイフェアにあるアメリカンレストランと、音楽文化、そしてミュージックメモラビリア(音楽史ゆかりの展示品)を融合させた、テーマ型のレストランだ。
外から見えるシックな佇まいとは対照的に、店内にはロックを想像させるイルミネーションに、沢山のモニタでミュージックビデオが放送されて、壁一面にガラスケースに入ったロックスターのギターや衣装、小物類、2階は物販コーナーにテラス席だ。これはロックファンなら垂涎の的だ。
店に入って、未成年の4人組とか何か言われるかと思ったのだけど、すんなりと店内に案内されると、そこに老夫婦が先に座っていた。
そこで、ぼっちちゃんが液体から復活した。
ギュ~ン、チャラララキュンキュンキュ~ン! (=あっ、エリオットさんとエルザさん、どうしてここに!?)
「どうしてって、この店がこんな風にギターや衣装を飾るようになったのは、俺がお気に入りの席に自分のギターを展示してもらったら、他の常連のロッカー達が自分のグッズも展示し始めたからな。だからこの席が俺がお気に入りの席だよ。」
「そうなのよ。喜多ちゃんからハードロックカフェに行くって連絡があって、私達も来ることにしたの。」
「さっすが、喜多ちゃんはコミュ強ガール。」
またも、キターンといったSEがどこからか聞こえてくる。
ギャ~~~ン!!(=ぎゃぁぁっぁぁぁっぁぁ!?)
せっかく復活したのに、またピンクの液体に戻るぼっちちゃん。いろいろと忙しいな。
「あらあら、ひとりちゃん、液体になってないでこっちに座りなさい。ハンバーガー美味しいわよ。」
ぼっちちゃんはスライム状になってエルザさんの横に行くと、メンダコになってエルザさんに甘えている。あまり疑問に思っていなかったけど、ぼっちちゃんって本当に人類なのかな?
「何でも好きなものを注文してくれ。」
そう言って、私達にメニューを渡されると、ハンバーガーセットが6000円・・・。高っか。
余りの値段の前にエリオットさんが奢ってくれるというので、素直にお言葉に甘える事として
リョウは容赦なく高いハンバーガーセットを注文する。
私達は遠慮して一番安いセットにした。
エリオットさんの座っている壁にギターが飾られている。
「これが、エリオットさんのギターですか?」
「そうだよ。常連の俺がお気に入りの席にギターを展示したら、ピートも飾って欲しいってなって、それからギターや衣装がこの店に飾られるようになったんだ。」
「まさしくレジェンド。ロックの歴史がこの店に詰まっているんですね。」
チャラ~ラ♪(=すごいです。)
そうして、この店やその頃のエピソードをエリオットさんから楽しく伺う事ができた。
ちなみに、レジェンドの来店の前に、周囲のテーブルからの注目度や視線がすごい。
なにより、ぼっちちゃんだ。エリオットさんの横でZO-3で会話するピンクの女の子。アリシアが世界的な盛り上がりを見せている中で、彼女の正体に気が付かないロックファンは居ない。
カフェが徐々に騒がしくなっていく。
「そうだ。せっかくハードロックカフェに来たのだから、記念にそこのライブスペースでライブをして行ったらどうだ?」
エリオットさんが爆弾をぶち込んできた。
「・・・そんな。アマチュアバンドの私達が演奏してもいい所でも無いですし・・・。突然ライブをお願いしてもお店も困りますよね?」
ポロロン・・・ポン。(=私も怖いです。)
「もし君たちが、ハードロックカフェでライブをしたって言ったら、SNSで話題になるんじゃないのか?」
「映える!? ハードロックカフェでライブをする結束バンド。すごいっ!」
喜多ちゃんが目を輝かせる。
「でも、私達は機材も無いですし・・・。」
「問題無いぞ、店の裏では俺達のようなロッカーが即興セッション用に楽器が取り揃えてある。俺が頼めば貸してくれるぞ? 機材を見るだけでもどうだ?」
そう言って、エリオットさんは店の支配人に話を付けてくれて、店の裏手で機材を見せてもらうと、ミュージックメモラビリアみたいな逸品ではないけど、良い品が置いてある。
そこで、リョウが一台のSadowsky MetroLineに釘付けとなる。
「・・・・借り物でサドウスキーとか、テンション上がるに決まってるだろ。」
そう言って、リョウはベースを手に取ると、アンプにつながずにベースを弾き始めた。かなり気に入ったみたいだ。
喜多ちゃんは、Fender Player Duo Sonicを選んで弾き始める。海外の女子インディーズギタリストがよく使うやつだ。
「わぁ!オレンジ色かわいい~! 私、この子にしよっ!」
私のドラムを見ると、ラディックがセッティングされていて、車輪が付いていてそのままステージに引っ張り出せるようになっている。
ビートルズのリンゴ・スターが使っていたブランドで、まさにロンドンのロック聖地を象徴しているようだ。
私もこのドラムセットに魅了された。
結局、私達は各々の楽器に魅了されて、それをロックの聖地で演奏できるという夢にあがなう事はできなかった。
未だに渋るぼっちちゃんも、お世話になっているエリザさんに演奏を聴かせてあげないのか?という言葉をエリオットさんに投げかけられて折れた。
そうして、ぼっちちゃんもギターを選ぼうとしたけど、
「HitoriはZO-3でいいだろう。」と声をかけて来て、エリオットさんが自分のギターを選んでいた。
まさかと思ったけど、そうみたい。
裏でちょっと音合わせをして、気が付いた時には結束バンド with エリオットさんでハードロックカフェの壁側にあるライブスペースに立っていた。
カフェのお客さんや従業員たち全員が私達に注目する。
お客さん達はみんな注目しながら、日本から来た私達に思い思いにスマホを向けている。
ステージに立ったものの、ロックでの聖地で演奏するという実感が湧いて来て緊張する私達。喜多ちゃんもとっさのことで自己紹介の英語が出てこない。
私達はどうしたらよいのか、しばし固まったその時、ぼっちちゃんがいきなり『あのバンド』のフレーズをエレキギターで攻撃的に弾き始める。
台風の時の初ライブと同じだ。
違うのは、あの時よりも沢山の経験を経た結束バンドの”結束”は大きく深まり、それぞれの個性的な音を出しながら、一つにまとまれる力がある事。
あの時と同じように、ぼっちちゃんの堂々としたイントロに合わせて、リョウと私がうなづき合って曲を始める。
そして、私達の演奏に合わせて、喜多ちゃんが堂々と”私達の歌”を歌い始める
あのバンドの歌がわたしには
甲高く響く笑い声に聞こえる
あのバンドの歌がわたしには
つんざく踏切の音みたい
全てのバンドメンバーの音を、喜多ちゃんの堂々としたヴォーカルがまとめていく。
あの台風の初ライブのバラバラなバンドとは思えない。
背中を押すなよ
もうそこに列車が来る
自分もドラムはこんなに上手かったっけ?
私もアリシアでのぼっちちゃんの演奏にはショックをうけた。
だからこのままじゃ駄目だって、あの後、裏ではドラムを猛練習した。
ぼっちちゃんに置いて行かれないように・・・。
目を閉じる 暗闇に差す後光
耳塞ぐ 確かに刻む鼓動
胸の奥 身を揺らす心臓
ほかに何も聴きたくない
わたしが放つ音以外
リョウも同じだったのかもしれない。
ベースは力強く、なによりもベース音の一つ一つの存在感が増していながら、曲の調和が取れている。
ぼっちちゃんがイギリスに行っている間にリョウも裏で猛練習をしていたのを私は知っている。
不協和音に居場所を探したり
悲しい歌に救われていたんだけど
あのバンドの歌が誰かにはギプスで
わたしだけが 間違いばかりみたい
最も変わったのは喜多ちゃんだ。
初ライブの時には、カラオケで高得点を取れるぐらいで、歌に大きな特徴のない子って雰囲気だったのに、今はその時とはまるで別人の輝きがある。
彼女の歌はこのカフェに居る全ての人を惹きつけている。
目を閉じる 暗闇に差す後光
耳塞ぐ 確かに刻む鼓動
胸の奥 身を揺らす心臓
ほかに何も聴きたくない
わたしが放つ音以外
いらない
ギターソロが始まった。
ぼっちちゃんのギターが獰猛なヘビのように暴れて、龍のように波動を生み出す。
こんな陰キャなぼっちなのに、間違いなく私達の結束バンドの中で、一番の力を秘めたモンスターだ。
ZO-3の小柄なギターから生み出される圧倒的なパワーに私達は押されながらも、全力でその力をいなして曲の形へと変えていく。
背中を押すなよ
容易く心触るな
出発のベルが鳴る
乗客は私一人だけ
アリシアの時、ぼっちちゃんが独り抜け出して私達結束バンドとは違う自分の道を歩みだすのではないかと内心ビクビクしていた。
でも、今なら言える。私達はぼっちちゃんのギターを受け止める事ができる!
私達は”結束バンド”なんだ!
手を叩く わたしだけの音
足鳴らす 足跡残すまで
目を開ける 孤独の称号
受け止める 孤高の衝動
今 胸の奥 確かめる心音
ほかに何も聴きたくない
わたしが放つ音以外
曲が終わった時に、お客さんから大きな拍手と歓声、口笛で私達は迎えてくれた。
このロックの聖地で私達はバンドとして認められていた。
その後、エリオットさんもセカンドギターに混じって、店のライブはとんでもなく盛り上がった。
そして、その様子は賞賛の声と共にSNSで拡散されて、結束バンドの音が世界に広がっていく。
結束バンドの世界が下北沢から、全世界のロックファンへと広がった瞬間だった。
結束バンドのロンドン観光の様子でした。
結束バンドとして再び一つにまとまり歩き出しました。この後、その歩みに全世界が巻き込まれて行きます。
この結束バンドのイギリス珍道中はもう少し考えているのですが、結束バンド編もかなり長くなっていますので、次回から一旦アキラ君達のお話に戻らせていただく予定です。
お楽しみに!