星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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コラボカフェの危機1

 

------------ VTuberの中の人 下北沢STARRY PAさん視点 ------------

 

コラボカフェのお誘いを受けた私は、自分の演じるキャラクターのコラボカフェに来ていた。

 

「随分と盛り上がっていますねぇ。」

 

今回のコラボカフェは沢山のVTuberが一堂に揃うコラボカフェだ。

 

ただ、登録者5万人程度の個人勢の私のキャラクターが出させてもらっているのが分かる通り、大手のV事務所が大々的に開催するようなコラボカフェじゃなくて、沢山の個人勢が集めて、ファンを広く薄く集めて開催しているコラボカフェだ。

 

それでも、Vは大ブームだけあってカフェを訪れる人は沢山いる。満員御礼で大行列って訳じゃないけど、入るまでにちょっと待たないとだめな感じだ。私は、入り口で順番が来るまで少し待つ事にした。

 

そんな中、カフェから出て来た人の会話が聞こえて来た。

 

「コースター誰だった?」

 

「音戯アルトだって。」

 

「ああ、あのダリ姉と良くコラボしている人ね。」

 

「クラシック全振りのダリ姉とロック全振りの音戯アルトで話が嚙み合っているみたいで噛み合っていなくて面白いよね。」

 

「音楽趣味系Vか。」

 

「まぁ、いんじゃね。音楽趣味系Vなら、できればダリ姉が欲しかったけど、俺は推しの影忍しずくのコースターが手に入ったから満足だよ。」

 

「いいね。」

 

そうなのだ。今回のコラボカフェも知り合いのVの人に誘っていただいての参加なのだけど、そのVの人は秋色ダリアさんなのだ。

 

秋色ダリアさんは、匿名VTuberの始祖みたいな人で、F4のような有名人がガワとして使用する顔出しVTuberに対して、演者を徹底的に隠して中の人を秘密にする匿名VTuberと、趣味のジャンルに特化した趣味系VTuberの始祖に当たる人だ。

 

配信スタイルは自由奔放でクラシック趣味全開の不定期配信で、登録人数とか影響力とか全く無視のマイペース配信。何かの仕事を別にやっているらしくて、兼業でVをやっている感じ。かなり緩い感じの配信者だ。

 

性別は女性だけど、年齢不明、配信場所不明、極めつけはガワを描いているママすらも不明なVTuberだ。

 

ただ、スターズなどの情報やエンタメ情報にもすごく詳しいし、Vとしての活動も最初期と言って良いので、アキラ君のアバターを作る前にプロトタイプで作成したアバターで、中の人はテストを担当したスターズのマネージャさんという説が有力だ。

 

でも、彼女のお陰で、私のように昼間に起きられない社会不適合者がVTuberとして活動できるのも事実。私もダリ姉を見て自分でもできるかもって、配信を始めたので、彼女の影響でどれだけのVが生み出されたかわからない。

 

当然、そんな個人勢の星のような秋色ダリアは、コラボカフェの看板メンバーの一人としてデカデカとした等身大ポップが作られていて、その他Vに埋もれている私との扱いに差がでるのは当然の事だ。

 

やっぱり、音戯アルトの知名度じゃ場違いだったかも・・・・。

 

「あれ? PAさんじゃん。」

 

「!? ひっ、廣井さん!? なんでここに?」

 

私がPA(Public Address:音響機器担当の技術者)として働いているSTARRYに入り浸る、サイケデリックバンド「SICK HACK」のリーダーである廣井きくりさんが居た。

 

「お友達デスカ?」

 

「STARRYのPAさんだよ。こんな所で会うなんてびっくりしたよ~。あ、この子はうちのギター。」

 

「清水イライザデス! ヨロシク!」

 

「ど、どうも~。」

 

ヤダ―――。まさかここで知り合いに出くわすなんて・・・。

 

「あ、きくりんとイライザとPAさんじゃん。珍しい組み合わせだね。」

 

「「「誰!?」」」

 

何の特徴も無い男の子から声をかけられた。 というか、この子わたしよりも影が薄くて誰かわからない。誰だろう?

 

「酷いですわっ。私が誰だかわからないなんて・・・。」

 

「「「星キアラ!!!!????」」」

 

この名前を言った瞬間、周囲からの視線を一気に集めた。

 

「星キアラの物まね上手いでしょ。だいぶ練習したんだよ。」

 

すぐにものまねだとわかった周囲の注目が瞬時に霧散する。

 

ネタバラシをされた後でも、この人が星アキラとは思えない。どうなっているの!?

 

「・・・ちょっと、なんでアキラ君がここに居るのよ・・・。」

 

廣井さんが小声で質問する。

 

「なにって、今日はママとデートだからね。」

 

「アキラ君、デートだなんて。」

 

アキラ君と一緒に居た女性が口を開く。この人もどこかで見たような・・・。

 

「安原絵麻です。よろしくお願いします。」

 

「「「・・・・・・・・・!?????。」」」

 

私達は、声を上げそうになるのを必死にこらえた。

 

VTuberのママの始祖である、ママ神様がここにいる。

 

安原絵麻、F4のVTuberのアバターを手掛けているママであり、走れケイティを始めとした多くのアニメのキャラクターデザインと漫画を手掛けて、しまいにはアキラ君達の悪ノリに巻き込まれてVTuberにまでなった天才イラストレーターだ。

 

VTuberとしても登録数500万人超えという、大手のV事務所のトップ級の登録者数を誇っている。 また、彼女が作ったアバターは一番少ない坂木しずかさんですら登録者数450万人だ。

 

彼女は個人勢だけど、知名度がありすぎて今回のコラボカフェのメンバーには入っていない。というか、単独でコラボカフェを開催できるだろう。

 

「なぜ、安原さんがこのコラボカフェに・・・。」

 

思わず私は聞いてしまった。

 

「ああ、それはこの子がママになっているVが参加しているので、自分の子供のコースターが欲しいからって、がんばって街にでてきたんですよ。」

 

安原絵麻さんの後ろに小動物のような子が付いていた。目を合わせると、安原さんの後ろに隠れる。明らかに私なんかよりもはるかにコミュ障だ。

 

「久乃木愛って言うのですよ。よろしくお願いします。」

 

安原さんが久乃木さんに変わって自己紹介を行う。

 

「・・・・・!?」

 

イライザさんが息をのむのが聞こえる。

 

これまたV業界でのビッグネームが出て来た。

 

久乃木愛さんは、Vの黎明期からアバターやイラストを担当している人で、その完成度は職人の域。大手V事務所で人気がある人は久乃木さんのアバターを使用している人が多い。

 

繊細の線で構成される煌びやかなアバターが、ダイナミックで表情豊かに動くのが特徴だ。特に黎明期はその格差が顕著で、同期コラボをすると久乃木さんが作ったアバターはまるで表情豊かなアニメキャラが自分で動いて語りかけて来るようなアバターに対して、別の方が担当した他のキャラはぎこちないマネキンみたな動きをして、『深刻なアバター格差』という言葉を生み出した元凶だ。

 

結果、大手V事務所の初期勢から今までに多くのVTuberを担当して、沢山のVTuberにママと慕われている。

 

Vの技術がさらに発展した今、発展した技術で追いついたと思いきや、発展した技術を使ってさらに自然で魅力的にアバターが動くので、結局追い付いていないというオチが付いている。

 

でも、この久乃木愛さんのアバターよりも、さらにアキラ達のアバターのほうが”ヤバイ”のだから、安原絵麻さんはどうなっているのだろうか・・・。

 

え~と、今回のコラボカフェで久乃木さんが担当しているアバターは・・・・。

 

私周辺のアバターを見るけど、居ない。 そのまま横のポップを見て、ダリ姉が居て・・・・居た。 ジン・ストライカーだ。

 

高校に入りたての天才ゲーマーの少年配信者で、しかも美人の彼女持ちのリア充で、彼女さんがマネージャーをやっていて、たまに彼女さんのアバターも配信にでてくるという珍しいVTuberだ。

 

リア充VTuberとして、あのアキラ君が激しく嫉妬して、ゲーム対決を挑んではコテンパンに負けて捨て台詞を吐いて逃げるのが天丼だ。

 

・・・アキラ君、年下に何を嫉妬しているのだろうか・・・。

 

VTuber歴は短いものの、チャンネル登録者数は250万人を超えていて、このコラボカフェでも一番人気だ。

 

まるでフリスビーのように投げ捨てられる音戯アルトのコースターよりもかなり入手難易度は高そうだ。

 

そもそも、久乃木さんの絵なのだから、私と同じように試作品のコースターをいっぱい持っていると思うのだけど、ちゃんとコラボカフェでもらうのがママ魂という所だろうか。

 

気が付いたら、私達は6人のグループになっていて、6人席に案内された・・・。

 

えっ、このメンバーで相席なの!? やばい。 コラボカフェなんて参加するんじゃなかった。 私が音戯アルトだってバレないよね。

 

注文したコーヒーが来たので、気分を落ち着けるようにコーヒーを口に含む。

 

「そういえば、イライザは推しているVTuberは居るの?」

 

アキラ君がイライザさんに質問している。

 

「ハイっ! 音戯アルトちゃんが大好きデス!」

 

「ブ―――――ッ。」

 

私は盛大にコーヒーを拭き出して対面に居るアキラ君をコーヒーまみれにした。

 

「ごっ、ごめんなさいっ。 ヒィィィィ。」

 

コーヒーをかけたアキラ君を見たら、怒るどころか、何か面白いおもちゃを見つけた目をしてニヤリと微笑んだ。

 

私は意図せず、いろいろと大ピンチに陥った事に気が付いた。

 




ちなみに、絵麻ママと久乃木ママのアバターが圧倒的な評価を得ている理由は、アキラ君経由でその道のトップレベルの専門家の技術指導を受けられる事と、二人ともアニメーター出身で、絵を破綻させずに動かせる技術を持っているからです。

そのため、静止画専門のイラストレーターさんや、モデリング専門のCGデザイナーさんよりも、動きながら魅せる絵を描くことができるために、他のママと比較しても高品質なアバターを生み出し続けています。

久乃木ママよりも、絵麻ママの方が評価が高い理由は、限られた人のアバターしか手掛けていないという希少性と、絵麻ママの方が配信やアキラ君関係の用事で外に出て、色々な仕事をして、色々な芸能人や芸術家、専門家などと会ううちに、感性や経験が磨かれているためですね。

この辺の経験は、普通にアニメーターをしていても得られる経験ではないので、上手なアニメーターさんと比較しても、今の絵麻ママの絵には力があり、ポップカルチャーの担い手として、芸術面でも評価が高くなっています。

久乃木ママは、そんな絵麻ママの絵のアシスタントもしているので、その技術を間接的に学んでいる関係となっています。
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