星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

375 / 387
百城千世子は台本の行方に危機感を覚える

 

------------ 百城千世子視点 ------------

 

羅刹女の主要メンバーである羅刹女役と孫悟空役の俳優達が舞台説明のためにプロデューサーの天知心一の元に集められていた。私と阿良也君、景ちゃんと王賀美さん、そしてアキラちゃんが居る。アリサさんは今日は来ていない。

 

「さて、改めて説明させていただきます。舞台『羅刹女』は2つのグループからなるダブルキャストの公演です。」

 

天知プロデューサーが舞台の説明を始める。

 

「サイド『甲』羅刹女役に夜凪景さん、孫悟空役に王賀美陸さん、サイド『乙』の羅刹女役に百城千世子さん、孫悟空役に明神阿良也さん。」

 

「さながら『新進気鋭の天才女優とスターズを捨てたスター』VS『スターズの天使と劇団天球の落とし子』です。どうですか、売れそうでしょう。そう・・・すごく売れる予定だったのですが・・・。」

 

「酷いよ! サイド『丙(ひのえ)』の事を忘れるなんて! さながら『新進気鋭の天才女優とスターズを捨てたスター』VS『スターズの天使と劇団天球の落とし子』VS『ダークライ』だよ! もう売れる予感がビンビンだよ!」

 

「「「「「・・・・・・・・・。」」」」」

 

みんな意図的に触れる事を避けて来たサイド丙の話題を、サイド丙の孫悟空役のアキラちゃんが出す。

 

そう。あの舞台発表会の時まで、私達は『ディアルガVSパルキア』と同じように『新進気鋭の天才女優とスターズを捨てたスター』VS『スターズの天使と劇団天球の落とし子』という対立構図で話が進むと思っていた。 しかし、今やそんな対立など刺身の”つま”程度の扱いである。

 

サイド丙の発表後、私と景ちゃんの対決が見どころだったはずの舞台が一気に見どころが三次元化して、対立構図が一気に複雑化した

 

・星アリサ VS 百城千世子と夜凪景のスターズ師弟対決

 

・星アリサ VS 星アキラの親子天才俳優対決

 

・星アキラ VS 明神阿良也 VS 王賀美陸の孫悟空対決

 

・巌裕次郎&柊雪 VS 明神阿良也&黒山墨字 VS 山野上花子の演出家対決

 

・薬師寺真美 VS 渡戸剣 VS 白石宗の超ベテラン三蔵法師対決

 

・三坂七生 VS 朝野市子 VS 和歌月千の助演女優対決

 

・巌裕次郎&三坂七生&青田亀太郎 VS 明神阿良也の劇団天球対決

 

この中に百城千世子 VS 夜凪景の主演対決なんて物を加えても今更感がある。本当に刺身の”つま”だ。この対決よりも、世間では私達と星アリサとの対決に注目が行っている。

 

全ての対立軸で、サイド丙が中心に行くメンバーで揃えられている所が非常に嫌らしい。

 

少なくともサイド丙のメンバーに全くの妥協が無い。サイド丙については、この人を迎えられたらいいなと思っていても、常識的に考えて無理だろうと思っていた人達を容赦なく放り込んできている。

 

巌裕次郎もそうだけど、まさかアリサさんが自分を毛嫌いしていた薬師寺真美を落としてくるとは思わなかった。

 

私も三蔵法師役で薬師寺真美は思い浮かんだけど、受けてもらえるはずが無いと思ってすぐに除外した。プロデューサーの天知心一ですらそうだろう。

 

アキラちゃんもそうだ。 今回の百城千世子と夜凪景の主演対決という軸で見れば、アキラちゃんを孫悟空役に当てるのが最適解だ。ただ、その場合には百城千世子と夜凪景の力で勝ったのでは無くて、アキラちゃんのブーストがかかって勝っただけになってしまう。

 

その結果、自分の思い通りに動かない明神阿良也と、同じく唯我独尊の王賀美陸というラインアップで助演のバランスを取る事で、フェアに戦うような紳士協定が私と景ちゃんの間に結ばれていた。

 

そう、私達はお互いに主演対決で勝つ事しか見えていなかった。余計な雑音を避けて、お互いの演技力だけで優劣を付ける事にこだわっていた。その隙を見事にアリサさんに突かれた。

 

私はアリサさんにケンカを売ったことを少し後悔している。今は、サイド丙の勢いは覆しようが無い。・・・あくまでも今は。

 

でもそれ以上に大きく感謝もしている。まだ勝負は始まってすらいない。

 

今回は舞台は私が主役だ。星アリサの時代が終わった事を大きく印象付けてみせる。

 

過去の主役(星アリサ)が出て来た所で、どこぞの洋画の続き物みたいに、過去の主役の扱いに困って、雑に扱って、雑に死んでもらって主役の交代を印象付ける。私は舞台全体にそんな演出をして見せる事を心に誓った。

 

-----------------------------------

 

「「「それで台本は?(ま~だ~?)」」」

 

孫悟空役の3人が合わせて台本を要求する。それはそうだ。今日、私達は台本を受け取るためにわざわざここに集まったのだ。台本をもらわない事には話が始まらない。

 

「その台本なのですが・・・・、こちらです・・・・。」

 

なぜか歯切れが悪そうに天知プロデューサーが台本を渡してくる。 舞台の時間に対して、やたらと薄い台本に私達は嫌な予感を覚えた。

 

「何だこの薄い台本?」

 

「なぜこんなに薄いんだ?」

 

「同人誌かな?」

 

それぞれの感想を言いながら台本を見る。

 

「アキラさんっ、この台本、冒頭部分しかない気がするのですがっ。」

 

「気のせいじゃなくて、本当に冒頭部分しかないね。」

 

「何よ?これ?」

 

私も読んでみたが、明らかに台本には冒頭部分しかない。

 

「天地プロデューサー、これはどう言う事だ?」

 

王賀美さんが天地プロデューサーに詰め寄る。

 

「実は、脚本家が冒頭部分を書いただけで逃げ出しまして・・・・。」

 

「そんなっ、その辺は敏腕プロデューサー(笑)の力でなんとかならないの?」

 

「ならないのです。そもそも、脚本家が逃げたのも、アキラさん、あなたのせいなのですよ。」

 

「敏腕プロデューサー(笑)なのにそれは酷いよ。そもそも、僕を責めるような他責思考は良くないよ。僕のように穏やかな珍獣を見る目でどっしりと構えるべきだよ。」

 

「そもそも、僕は何一つ悪くないよ! 悪いとしたら、敏腕プロデューサー(笑)と阿良也と王賀美兄さんと、千世子ちゃんと景ちゃんとアリサママだよ!これだけ悪い人が揃っているのだから、相対的に僕が悪くないのは確定的に明らかでQEDだよ!」

 

アキラちゃんは、他責思考は良くないとか他人を責めておきながら、自分は思いっきり見苦しい他責思考で責任逃れをした。ここまで見苦しいといっそ清々しい。あと、ここにいる全員+アリサさんまで一瞬で敵に回しているのは流石としか言いようがない。

 

「アキラさん、考えてみてください。これだけの注目度で、これだけのメンバーがそれぞれのチーム(サイド)に分かれて舞台をするのです。 元の百城さんと夜凪さんの対決だけでも脚本家にプレッシャーがかかっていたのに、さらにアキラさんとアリサさんの乱入です。この舞台は日本を超えて世界的な注目を集めています。この超豪華メンバーを集めた舞台が駄作と言われたら、批判は誰に行きますか? そうです。 脚本家に行く訳です。 しかも、チームが対決形式で3チーム公演します。演出家もバラバラです。それで3チームとも面白く無かったら、脚本家に全責任が行きます。」

 

「それはそうだよ! だって、その場合には明らかに脚本がダメじゃん。」

 

「だからですよ。あなたとアリサさんが加わった時点で、脚本家はキャパシティーオーバーしました。百城千世子と夜凪景までならまだしも、星アリサと星アキラまで引き立てる脚本は書けないと辞退(逃亡)してしまいました。」

 

「大問題じゃん! あと、やっぱり僕は悪くないよ。 脚本家が僕とアリサママをダシにしてテンパっただけじゃん!」

 

「そうね。もうすぐ稽古を始めなきゃいけないのに、脚本家さんの手綱を握れなかった敏腕プロデューサー(笑)さんに問題がありそうだわ。」

 

「これは、アキラさんは悪く無くて、勝手にプレッシャーとストレスで潰れてしまった脚本家さんが良くないですっ。たとえアキラさんがダメなニート珍獣だったとしても、そんなニートのプレッシャーに負けるチキンなシャア大佐ぐらいのメンタルだった脚本家さんをフォローできなかったのは、敏腕プロデューサーさん(笑)のせいですっ!」

 

「ぐはっ・・・・。」

 

「正論パンチはまずいよ景ちゃん! 敏腕プロデューサーさん(笑)があしたのジョーの最終回みたいに真っ白に燃え尽きているよ! あと、景ちゃんに言われると僕にもダメージ全開だよ!」

 

「あっ・・・。手遅れですねっ。」

 

「結局、どうするんだよ。敏腕プロデューサーさん(笑)よ。」

 

「ううっ。そうですね。もうこうなってしまったら、仕方が無いです。この序盤までの台本をお渡ししますので、後は自分達のチームで考えてください。 各チームで別の脚本家を雇って続きを書いてもいいです。 良い感じで脚本もばらけて、脚本由来で舞台が不評という事も無いでしょう。」

 

「ひどいわ。」

 

「いや、どうするんだよ!」

 

「そんな事をしちゃったら、ただでさえ私達のチームの山田花子さんが初めての演出でショックを受けて大変な事になっちゃっているのに、もっとテンパって面白く・・・・、いや、精神的に厳しくなっちゃうじゃないですかっ!」

 

「景ちゃん、つい本音がポロッと漏れているよ。」

 

「新宿ガールは意外に凄いな。」

 

「景、こいつも優しい顔をして悪魔だよな。・・・元々見習い悪魔のケイティなんだが、最近はケイティよりも本体の方が悪魔というか・・・。」

 

「この状況でこの期間で台本フリーとかどうするんだ?」

 

「なんかすごい事になりそう・・・。」

 

「きっと、コマンド―とかビーストウォーズとか初代ビートルジュースみたいな吹き替えカオス作品のような舞台になるよ!これはすごいよ!」

 

「そんな凄さはいらないわ。」

 

こんな一癖も二癖どころか、癖しかない人達に台本フリーのおもちゃを与えたらどうなってしまうのか・・・。他のチームに押されないように、こっちのチームも色々と対策を練らないと。

 

「3チームのカオス公演を見た後に、原作者の山田花子さんが悶絶してピクピクしそうですっ。これは今から楽しみですっ! アリサさんにお願いして、良く効く胃薬を用意しておきますねっ!」

 

この状況になると、アキラちゃんも怖いけど、この子が一番怖いのよね。アキラちゃんは自分の役に不満が無ければ、周りの人が演じて欲しい役柄をちゃんと演じるけど、景ちゃんはその場の主観で衝動的に動くから全く読めないのよね。

 

ただでさえ、サイド丙の乱入でカオスになっているのに、こっちの相方はアキラちゃんじゃなくて、同じく動きの読めない阿良也君で、舞台の経験もあちらが上な状況で私の存在感の発揮も難しい・・・。 こんなのって・・・・・・・・私が全員をまるごと喰う最高の舞台じゃないの!

 

私は、台本フリーに困って、これが大きなビハインドになって、劣勢と苦境に立たされた事を、周りに悟られないように、苦々しく思いながらも明るく振舞うような演技をしながら、内心ではニコニコと微笑んでいた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。