星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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山野上花子は困惑する

 

------------- 山野上花子視点 -------------

 

京都駅に着いて困惑しっぱなしの私は、夜凪景に質問した。

 

「なぜ京都に?」

 

「あの前髪三本男のせいですっ。昨日の稽古の時でした。あの前髪三本男が、セリフも覚えずに魅力だけでゴリ押して来たのですっ。」

 

「王賀美陸はそこまですごいの?」

 

「周りの人の意見では、オーラって言うか、芝居が上手いというよりも、芝居が良いというような、ただそこに居るだけで人心を掴む、生まれついてのキリストのような存在だと大絶賛でした。たしかに、1回目の稽古では私もロクに台本すら見ていない王賀美陸に圧倒されっぱなしでした。」

 

「しかも、自分を極上の肉に例えて、私が肉を引き立てる最高の皿とか言い放ちやがりましたっ。」

 

「流石は王賀美陸。すごい自信と評価ね。それで、あなたから見て王賀美陸ってどうなの?」

 

「自然ですっ。人と言うよりも、荘厳な景色を前にしたような存在感でした。でもそれだけです。」

 

「はっ?」

 

「王賀美陸はどこまで行っても王賀美陸なのですっ。」

 

「どう言う事?」

 

「生まれつきのカリスマに胡坐をかき続けた男、それが王賀美陸です。おそらく、この圧倒的な存在感も今がピークで、本番でアキラさんや阿良也さんと比較された時に、確実にボロが出ます。アキラさんや阿良也さんを敵に回して、セリフすら覚えて来ないなんて噴飯物ですっ。それで私は困りました。」

 

「何に困ったの?」

 

「その場で前髪三本男を喰って、凹ませて本気にさせるか、圧倒されたフリをして対策を考えるかですっ。」

 

「えっと、あの王賀美陸を圧倒できるの?」

 

「あの前髪三本男は、圧倒的な長所がある代わりに、主役しかできない圧倒的な短所を抱えていますっ。何をどうやっても王賀美陸なので、変則的な演技などで切り崩しても、王賀美陸のカリスマオーラにやられるのは目に見えていますが、別に王賀美陸であって、孫悟空では無いので、そこを突いてあげれば、崩すのは簡単なのですが、崩した所で拗ねてアメリカに帰るのが目に見えているので、私は困りましたっ。」

 

「しれっと言っているけど、あなたも大概にヤバイ人よね。」

 

「そんなとき、救世主が現れました。それが山岡士郎ですっ。」

 

「山岡士郎!? あの美味しんぼの?」

 

「そうですっ。稽古場に関係者を装って、アキラさんが扮する山岡士郎がしれっと紛れ込んでいました。実写で山岡士郎を演じた役者さんは一杯居ますが、アキラさんが演じた山岡士郎も、まるで漫画から出てきたような見事な役作りでしたっ。」

 

「星アキラかいっ! それで、その山岡士郎がどうしたの?」

 

「突然、稽古に横から何の脈略も無く口を出してきて、『やれやれ、王賀美さんは本当の羅刹女を見た事が無いようだ。3日待ってください。本当の羅刹女を見せてあげますよ。』って言い放ったんですっ。あまりにも山岡士郎すぎて、私はシビれましたっ!」

 

「本当に山岡士郎っぽいわね・・・。それはわかったけど、そこからなぜ京都に?」

 

「それはそのうちわかりますっ。」

 

「コイツ・・・。」

 

そんなことをしていると、夜凪景はどこかに電話を掛けた。しばらくすると、携帯電話で話している女性がこちらに向かってきた。ショートカットでクールな風貌だ。年齢は夜凪景と一緒ぐらいだろうか? 

 

「景ちゃ~ん!」

 

「あっ、向日葵ちゃんっ。」

 

「待たせた? 迷ったかと思ったわ〜。うち、京都駅の構造いまだによう分からんねん。」

 

「今北産業ですっ!」

 

「えっと、むしろ私が今の状況を三行にまとめてほしいのだけど・・・。」

 

「1.うち、小日向向日葵✋ 大阪の廣耳神社で15代目の巫女やっとる。

 2.景ちゃんが京都でキャンプ行くらしいて聞いてな、

 3.しゃあないから道具一式まとめて持ってきたったわ。」

 

「そんな訳で、向日葵ちゃんからキャンプ道具を受け取って行きますよっ! それじゃ、向日葵ちゃんっ、キャンプ道具ありがとうございました。後でお返しに行きますので、よろしくお願いします。」

 

「おおきに。気ぃ付けていくんやで。」

 

「だから、どこに行くのよ!京都だから、その辺のお寺じゃないの?」

 

「はっ。これだから北海道の田舎者は・・・。」

 

「その顔、ムカつくから止めろ!」

 

そう言って、私達はキャンプ道具を持ったままタクシーに乗ると、登山道の前で降ろされた。

 

「鞍馬山登山道?」

 

「そうですっ。鬼子母神や十羅刹女を奉る妙蓮寺のおひざ元で、山岳修行の霊地である鞍馬山で修行をすれば、きっと羅刹女の役が掴めますっ。」

 

「そんな、少年漫画じゃないんだから、しかも、期限は3日でしょう? 精神と時の部屋じゃないんだから、山に行ったからって、限られた期間で役を掴むのは無理よ。それに、何よその恰好。未だに制服姿じゃないの。山を舐めているわ。」

 

私は、キャンプ道具がありつつも、制服のまま山を登っている夜凪景に抗議した。それに、こっちは、脚本を書いている最中なのだ。夜凪景の修行にまで付き合っていたら、ただでさえ終わらない脚本制作が、絶対に終わらなくなる。

 

「大丈夫ですっ。どうせこのままのペースでやっていても終わらないのでしょう? なら、私の修行に付き合って、イメージを固めた方が絶対に早く終わります。急がば回れですっ。」

 

こいつ、山を舐めていやがる。さっきからすれ違う登山客も、制服姿の夜凪景を見てぎょっとしている。

 

誰かに写真を取られて、SNSにアップされて、ネットの登山警察に見つかって炎上してしまえ! 私は心の底から、夜凪景が炎上する事を願った。

 

「結局、今までの話から、どういう流れで京都に来ようと思ったの? 鬼子母神を祭る妙蓮寺の大本山があるから? でも、鞍馬山は鞍馬寺の管轄で、思想的には近いだろうけど、行儀上で羅刹女は関係ないわよね。」

 

その時、夜凪景はピタッと止まった。そして考える仕草をする。まさか、鞍馬山が羅刹女に関係が無い事を知らなかったのか!?

 

「さっきまでの話で誰が一番怖いと思いますか?」

 

「唐突に何? それは、夜凪景、あなたでしょう。王賀美陸を手玉に取れるなんて、他の役者では考えられない。」

 

「違いますね。一番怖いのはアキラさんですよ。ただでさえ手強いのに、他のチームの稽古にまで入り込んで情報収集を怠らない。あの前髪三本男に爪の垢を煎じて飲ませたいぐらいです。」

 

「その話と山を登る話とどう繋がるんだ?」

 

「山での修行はアキラさんが勧めて来てくれたのです。ついでに、鞍馬山は山岳信仰の修験道で女人禁制でも無く、修行して験力(超自然的な力)を得るには最適だって。おまけに妙蓮寺も近くて、羅刹女の役作りには最適だよって。」

 

「それは星アキラに騙されていないか? そもそも、星アキラは別のチームだろう。敵チームに塩を贈ろうとしているのも意味が分からないし、夜凪景を嵌めて稽古の時間を削ろうとしているのではないの?」

 

「それは無いですね。アキラさんにとって、面白いか面白くないかが大切です。そんな事で舞台を仕上げて来なかったら、アキラさんはガッカリすると思います。山での修行は何か大切な物があるはずです。」

 

「少なくとも、あの星アキラがそこまで考えているとは思えないのだけど・・・。明らかにその場のノリで動いているよね? それにライバルチームの失脚は星アキラにとって利益になると思うわ。」

 

「・・・今のアキラさんの立場は、互角の戦いがしたいからと、アムロ・レイにサイコフレームを贈ったシャア・アズナブルのような立場です。少なくとも、私はアムロ・レイ以上の活躍が必要でしょう。」

 

「本当に、そう上手く行くの?」

 

「さあ? アキラさんは適当な人なので、適当にやっていると上手く行きます。ノリで動いていればなんとかなるはずです。」

 

「おまっ!」

 

「どんなに慎重に、どんなに保険をかけても、直感の赴くままに自分のノリに合わせて動いた方が上手く行く事もありますよ。 ほら、山頂が見えてきましたっ。」

 

下部で霧がでているせいか、山頂ではまるで本物の火山に居るような光景が広がっていた。そこで夜凪景が大声をあげる。

 

「見たか!前髪三本男! あなたがお肉なら、私はごはんなのよっ!!!」

 

ごはんよっ・・・。ごはんよっ・・・・。ごはんよっ・・・。と、山頂から山彦が響いて行く。

 

そういえば、腹が減った・・・・。

 

孤独のグルメのあの効果音と共に周囲を見渡すけど、当たり前だけど飯屋なんて全く無い。井之頭五郎なら発狂物だろう。

 

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「こちらが、修験者さんの修行用の洞窟ですね。」

 

なにやらスマホを見ていた夜凪景が、ポチポチとスマホの案内に頼りながら、どこぞの洞窟に案内してくれた。

 

そこには、なぜか薪や寝袋や、キャンプで食べる用の食事などが用意されており、飯盒には五穀米が浸水した状態でセットされていた。

 

「アキラさんですねっ。向日葵ちゃんが用意してくれたキャンプ道具や食糧はありますが、すでに周りが暗くなっているので、薪を集めたり、夕食を作ったりするのは大変なので、これは助かりますっ。」

 

そう言って、私達は手分けして火を焚いて、用意された食材を調理し始める。

 

五穀米の他に、主菜には胡麻豆腐、高野豆腐と干しシイタケの含め煮、山菜の精進味噌鍋など、完全な精進料理だ。

 

焚火で火を起こすと、洞窟の奥には赤子を手に抱いた女性の仏像が安置されている事に気が付いた。

 

私達は、黙々と食事の準備を行った。幸い、暖めるだけのものが大半で、食事の準備は1時間程度で終わった。

 

そして、焚火の横で夕ご飯を食べ始める。

 

食事の準備の時は、山を登った疲労感から二人とも無言だったけど、焚火に当たりながら、暖かいご飯を食べれば、体も温まって気分が上昇してくる。

 

「これ、星アキラが用意してくれていたの?」

 

「そうですね。アキラさんから連絡が来た経路とGPSの位置にあったので、アキラさんが誰かにお願いして、事前に用意してくれていたみたいですね。」

 

「星アキラは気が利くのね。もっと無責任な人間かと思っていた。」

 

「良く誤解されますが、アキラさんは真面目な人ですよ。真面目に人生を楽しもうとしている人です。真面目すぎて、頭のネジが外れて、おバカで無責任になるだけですっ。」

 

「それって真面目なの?」

 

「人間は誰しも真面目で真摯に取り組む物があるものですよ。それは自分だけのこだわりかもしれない。でも、花子さんが言う、コロポックルのフキちゃんのように、譲れない物は何かしらあるものでしょう?」

 

私は山に登るときに、夜凪景に質問されて、つい、子供の頃にコロポックルと友達だった話をしてしまった。北海道の寒い大地で、誰も居ない子供時代の唯一の友達。

 

大人になって見えなくなった、あの山奥でずっと待っている友達に今でも会いたい。私は大人になって擦り切れた心を元に戻すために、創作を続けていた。 大人になっても、心を現実から解き放つ事ができれば、またコロポックルのフキちゃんに出会える事を夢見て。

 

キャンプの夜更けに、そんな事を話しながら食事を終えると、夜凪景は楽しくなったのか、焚火の火に合わせて舞を踊り始めた。

 

演じるというよりも、風の柔らかさを、炎の暖かさを、土の冷たさを体全体で感じて舞っている。

 

すごい! 彼女の舞に合わせて炎が揺れ始めた。 彼女の動きに合わせて風が吹き、炎がそれに答える。 まるで彼女が風を操っているみたいだ。

 

いや、違う。これは錯覚。実際には夜凪景が風の流れに身をゆだねて体を揺らせているだけ。

 

炎に合わせて舞を踊る事で、見ている人は、さも風を操っているように見せているだけ。本当にすごい。これが、夜凪景の超一流の女優としての能力か・・・。本当に幻想的だ。こんなのは見た事が無い。

 

・・・・・ねぇ? 本当に錯覚なんだよね? これ?・・・。

 

明らかに夜凪景の舞に合わせて、炎が異常な動きをするのだけど・・・。

 

舞に合わせて竜巻みたいなのが起きているのだけど、たまたま風が入って、炎がすごい勢いで燃えているだけだよね? こんな、夜凪景の舞に合わせて、物理法則に反するような炎の動きとかありえないよね?

 

・・・わかった! これはドッキリだ! ハリウッドの特殊撮影技術で私をドッキリさせているんだ! ・・・・いや、冷静になれ・・・。こんな所で? しかも私を?

 

でも、夜凪景によって操られる炎はドッキリとしか言いようが無い動きだ。

 

そのうち、炎が徐々に伸び始めて夜凪景を囲い始めた。舞を舞っている夜凪景は炎に飲み込まれる。

 

「夜凪さんっ!!」

 

私はびっくりして悲鳴のような声を上げる。

 

次の瞬間に炎の中から、傷一つ無い夜凪景が出て来た。私は安堵するものの、夜凪景の雰囲気が大きく変わっている事に気が付いた。

 

「本当に我を憑依させるとは・・・。龍神の奴が自慢するだけの事はある。地上なんて何百年ぶりだ?」

 

「えっ? ・・・あなた夜凪景よね? 何を言っているの?」

 

「そうだな。私は夜凪景の名でここに在るが、私の内には子を喰らい、子を失い、子を守る事だけを覚えた者が憑依しておる。人はそれを鬼と呼び、仏はそれを母と呼んだ。私の名は鬼子母神。羅刹女のモデルになった神様だけど、なんか質問ある?。」

 

「脳が追いつかない。訳が分かんないよ。人類には早すぎるだろ!」

 

前半の重い自己紹介の後の、後半の2.5chのような軽いノリを前に、私の脳みそは溶けそうになっていた。

 

の~みそコネコネ コンパ〇ル。

 

あまりの事態に脳の処理が追い付かなくなった私は、友達が居なかった小学生の頃に熱中したゲームを思い出していた。

 

現状逃避を極めた私の脳から、コロポックルのフキちゃんと一緒に、手足の生えたスケトウダラを探しに行った思い出が蘇って来るのであった。

 

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