星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
----------- 小金井小糸視点 -----------
私の名前は小金井小糸。月島の高耳神社で高耳毘売命(たかみみひめのみこと)こと、エルフのエルダリエ・イルマ・ファノメネルの神薙(神様の付き人)をしている。
「あああっ、人が、人がいっぱいおる~(泣)」
私の後ろで人に驚いて縮こまっているのが、高耳神社のご神体であるエルフのエルダ。極度の人見知りで引きこもりのダメな奴です。
今日は近所にできる龍神神社の落成式という事で、記念式典に招かれています。
「こんなに人が居るのが嫌なら、来なければいいのに、いつもは面倒くさがりなエルダが珍しく式典に行くとかいうから、連れてきてみたらこの有様。どうして、式典に行きたいって言ったのよ。」
「小糸、それは仕方が無いんだよ。ここの神様はハイラと縁がある神様で、とっても力が強い神様なんだよ。だから、落成式に私が来なくてへそを曲げられたりしたら、大変な事になるから、来ないといけないんだよ。」
「ハイラって、あの金沢の廣耳神社のエルフよね? あの人がこの神様に何かしたの? そもそも、エルダって、自分もご神体だし、ほかの神様を信じるようなタイプじゃないよね?」
「この神様は、金沢の神社に奉られている龍神様で、利家君が加賀を拝領して統治しようとしたときに、利家君がその神社を一向一揆の門徒と勘違いして、その神社や氏子であった人たちを弾圧しようとしんだよ。それに怒った龍神様が酒の勢いで巫女に乗り移って、金沢城を穴だらけにして、さらに城を水没させようとしたんだ。」
「なにそれ? 一向一揆って本願寺門徒のお寺さんよね? 神社は関係ないと思うんだけど。」
「そうなんだけど、利家君はまだ加賀を拝領したばかりで、土地との繋がりも薄くて、さらに戦に明け暮れた人生だったから、土地で力のある神社仏閣をあまり考えずに手を出しちゃったみたいなんだ。その神社は小さくてさ、一向宗の隠れ蓑に使われていると勘違いしちゃったみたいなんだけど、奉られていたのが本物の神様でさ、そのバチをもろに受けて、利家君はガクブル。その時に家康君と秀吉君がエルフを召喚した事を思い出して、ハイラを召喚したんだ。」
「ハイラさんってそんな理由で召喚されたんだ。それで、ハイラさんがその騒動を収めて、廣耳神社ができたって訳ね。」
「いや、違うんだよ。ハイラじゃ、その神様を抑えられなかったんだ。それで、金沢城の天守閣で利家君と一緒にお尻をペンペンされて、ハイラはギャン泣き。結局利家君は、その家と神社にわび状と、これから加賀を真面目に統治するという反省文を書いて提出して、その神様に許してもらったってわけだよ。」
「まさか、その神様が居る神社っていうのが・・・。」
「そう。それが今回分社される、龍神神社なんだ。」
「エルダ・・・。それってヤバいんじゃないの?どうして豊洲にその神社が分社を作る事にしたのよ?」
「そんなの私が知るわけないじゃん。私もまたお尻ペンペンなんてされたくない。」
「いや、お尻ペンペンってさぁ・・・。」
そう言って、私は周囲を見渡す。
今は、東京に新しい観光スポットができてホクホク顔の文部科学大臣と東京都知事が落成式の開会の挨拶をしている所だ。
「すごい報道陣の数ね。 それにあれは星アリサね。星アリサが居るなら、F4とかも来ているのかな? 本当に居たらすごいわよね。生のF4とか絶対に見てみたい。」
「ねえねえ、F4が居るなら、星アキラもいるのかな?」
「どうだろう?そもそも、F4が居るかもわからないし。でも、F4もこの神社に氏子として名を連ねているらしいよ。それにこの神社は星アキラのポケットマネーで作ったって言うし、もしかしたら、星アリサが居るなら、星アキラも居るかも。」
「星アキラ、見てみたい。でもこの神社、ピカピカしていて落ち着かない。まるでゲームの中の神社みたい。」
「エルダって、星アキラが好きよね。イケメン陽キャなんて、エルダが一番嫌いそうなキャラなのに。」
「いいえ、小糸、星アキラは絶対に引きこもりニートです。私のゴーストが囁くのです。星アキラはニートだと。私はそこにシンパシーを感じるのです。」
「星アキラは分からないけど、この神社もすごく綺麗で面白いじゃない。この後、舞殿で音楽の演奏と神楽舞が奉納されるんですって。」
「小糸、そんな事より、私は宝物殿に興味があります。名だたる原型師やフィギュアメーカーが奉納した神様のフィギュアが荘厳に展示されているらしいです。各社が展示スペースに最高のフィギュアを展示して、それで参拝者が人気投票をして、毎月に集計をして、順位を発表するそうです。私も機動武士ゴンゲムに投票するという重大な使命を帯びているのですよ。このために、私はこの地に召喚されたと言っても過言ではないのです!」
「そりゃ、過言だわ。はぁ~。」
そんな事をエルダと話していると、舞殿にピアノが運び込まれた。
にわかに盛り上がる観客たち。
そして、静かに二人の男女が舞殿に上がってきて、観客と神様に礼をする。タキシードを着た星アキラと、ドレスを着たパルファン・クールパレだ。
「すごい!エルダ、ほら見て!星アキラとパルファン・クールパレよ! この二人の生演奏が聞けるなんて信じられない!」
星アキラのすごいピアノにパルファンのヴァイオリン、素晴らしいヴァイオリンの主旋律とそれを絡めとるピアノの伴奏。これから何かすごい事が始まる予感がした。
後で知ったのだけど、二人が演奏したのは、モンティと言う方のチャルダッシュという曲らしい。SNSの指揮者の反応を見ると、ハンガリーのジプシー風民族舞曲らしく、日本の神社で演奏するべく、西洋の宗教色の低い曲を選曲してきたようだ。
神社に箔をつける荘厳な演奏というよりは、これから何か楽しい事が始まるワクワク感が勝った。
そして、演奏を終えると、ピアノと一緒に二人は舞殿の奥に戻っていく。落成式も盛り上がって、みんな口々に感想を言う。
「ねえ、ねえ、ねえ、小糸、すごい演奏だったなぁ。星アキラとパルファンの生演奏を聴けるなんて、私の神社でもやってくれないかな?」
「そんなの無理に決まってるじゃん。」
「でも、高耳神社で演奏してくれたら、小糸も星アキラに会えるんだよ。」
「・・・確かにそれは夢がある。エルダがお願いすればワンチャン?」
そうして歓談をしていると、突然神楽の中から人が出てきた。
「明神阿良也?」
「なんか、すごい存在感だね。小糸。」
「う、うん。」
明神阿良也は、灰色の背広と着物の中間のような直線的な衣装を身に着けていて、無言で舞殿に立っているだけなのに、目を全く離せない。
最初はざわめいたけど、次第に明神阿良也の存在感に押されて、徐々に静かになっていく。そして静寂が訪れて少し経った瞬間、自然な立ち姿の明神阿良也が理性的な目で観客を見始めた。
舞台に居る明神阿良也に私たちが観察されているのが良くわかった。私たちが舞台を見ているのに、舞台から逆に私たちが観察されている。立場が逆転している気がして、背中に汗が伝う。 ただ舞台に立っているだけなのに、本当に異様な違和感を感じる。
私たちは、お互いに視線を交わしていると、ふと明神阿良也が何かに気が付いたらしく、私たちに声をかけようとする。しかし、口は動くけど声が出ない。
必死に声を出そうとして、手が空を掴む。そのうちに視線が定まらなくなっていく。
何かのトラブルかと思って、観客は騒然となる。様子を見ていると本当に怖い。
「何?救急車呼ぶ!?」
騒然と騒ぎになる瞬間、明神阿良也の口の動きが止まって、呼吸が深くなって何かを悟ったような感情になったのがわかる。体が静かに整って行って、黒い現代人から、徐々に無色の存在に変わっていく。
明神阿良也は言葉一つ発せず、なんでそんな事を思ったのかは自分自身ではわからないけど、みんな明神阿良也が何かを悟ったことを感じた。
再び観客の周りを静寂が満たしていく。 そして最後に舞殿の奥を見ると、私たちにではなく、神様に向けて一礼して奥に去って行った。本当に舞殿の奥に神様が居て、言葉を失って人間を降りて別物になった明神阿良也がそれに敬意を払ったように見えた。
明神阿良也の動きから、何か恐れ多い超常的な存在が舞殿の奥にいる感じがする。
これを見た私たちは、拍手なんて全くできずに、何なんだという不思議な感情で一杯になった。周りの人もどうして良いのかわからない感じで戸惑っている。
あれが、何かの演技や見世物だったのかすらもよく分からず、ただ、胸のざわつきともやもやが残った。しかし、この後、状況が大きく変化する。
リーン、リーン。
束の間の静寂の後に、神社の敷地内に大きく澄んだ鈴の音が響く。
音が神社の境内を反射して、まるで耳元で鈴が鳴っているような錯覚を覚えた。
そして、藍色と黒い墨の色が混じった美しい舞衣装の百城千世子が舞台の中央に立ち、白や橙色の混じった淡い舞衣装をつけた夜凪景が百城千世子の周りを美しく舞いながら、ゆっくりと回り始める。
二人の舞衣装の対照的なコントラストを描いて、神秘的で美しい舞を踊っていく。
あまりの美しさに、私は神に捧げられた、神様だけに観ることが許された神聖な舞を人間の身で盗み見れているような罪悪感に襲われた。
この時、明神阿阿良也の舞台演技の意図を理解した。言葉や感情表現をすべて捨てて、この神楽を観るために、人の表現を降りて神に許しを請うための演技だったんだ。
あの演技は、次の神楽を見て初めて意味が理解できるものと同時に、私の背筋に冷たいものが伝う。
明神阿良也は人である事を捨てて悟りを開き、神に敬意を払って初めて、この神舞を見る事ができた。
・・・では私は?
無防備に人が見ても良いとは思えない、神秘的な神への捧げものが目の前で演舞される。
私は、神にしか観ることが許されない神舞を見てはいけないと思いつつ、目は釘付けで視線を動かす事はできなかった。それほどまでに美しい。この世の踊りとは思えない。
踊りを見ていると、美しい藍を持つ百城千世子が地を流れる水であり、夜凪景がそこから巻きあがって天へと上る龍を演じているみたいだ。
二人は仲良しだけど、ライバル関係は有名だ。でも、この舞台の上では二人は向き合わず、全く競い合っていない。常に二人とも同じ流れの中にいる。
水音とおぼしき鈴の音が耳を超えて直接脳内に聞こえてくる。何かが始まる。
二人の動線が交わった。お互いの袖や裾がかすかに触れる。この瞬間、夜凪景の動きが大きくなって、同時に鈴の音がどんどん大きくなっていく。
百城千世子は、龍神が降りるための水面で、夜凪景は水面を回る龍神だ。
そして夜凪景が鈴を持つ手を天に振り上げた瞬間、晴天なのにドーンと大きな雷が落ちる音がした。私はびっくりして目を逸らす。
そうして、舞台を再び舞台を観た次の瞬間、夜凪景が私達を見てニヤリと微笑んだ。私は、この微笑んだ人物が夜凪景ではなく、神である事を確信した。
同時に周囲の空気の温度がどんどん落ちて、神聖な気に満たされていく。
周囲の空気が隅田川下流のねっとりと絡みつくような水の匂いと、東京湾奥の海水が淀む重い空気から、急速に山の中の神社にいるような清廉な空気に変わっていく。この周囲に淀んでいた何かが流されて、急速に神域として整うのを感じる。
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「小糸、小糸、大丈夫?」
気が付いたらエルダが私をゆさゆさと揺さぶっていた。
「だっ・・・大丈夫。」
エルダに揺さぶられて、はっと私は我に返った。
「すごい舞だったね。」
「そう。すごかった。まるで神様が実際に降りてきて、この神社を神域にしたみたいな錯覚を覚えたよ。こんな錯覚を観客に起こさせるなんて、本当に女優ってすごいんだね。」
「あっ・・・。ああ。すごいと言うとすごいのだけど、小糸・・・。本当に夜凪景に降りているよ。神様が。あれ。すごいね。」
「ちょ・・・。エルダ!どういう事!?」
「夜凪景に龍神様が降りているんだ。自分の身を依り代にして神様を実際に降ろせる人は久しぶりに見たよ。こんなシーンを実際に観られるなんて、すごく貴重だよ。」
「えっ、本当に夜凪景に降りているの!? 夜凪景は大丈夫なの!?」
「悪い神様じゃなさそうだし、そもそもあんなに神力が溢れていると、邪霊なんて寄る前に蒸発しそう・・・。この周辺も浄化されて、淀んでいた気や魔力も綺麗に循環し始めたし、こんな力のある神様がなんで・・・。」
「うむ。流石はエルフのエルダじゃのう。」
そういうと、いつの間にか私たちの後ろに夜凪景が立っていた。騒然となる周囲の人たち。
「よっ、夜凪景、・・・本物!?」
「りゅっ龍神・・・ひぃぃぃぃ!」
「えっエルダ!どうしたの!?」
「ふっ、復讐に来たのですか!?」
「はて? お礼参りだ!とか言って、わしの神社にエルフが四人揃ってやってきて、返り討ちにあって、お尻をペンペンされて、ゲロを吐いて逃げ帰ったのは誰だったかのう?」
「エルダ、いったい何をやっているのよ・・・。そして、エルフ四人を退けるとかすごいわね。金沢の龍神神社。」
「ひぃぃぃぃぃ! 小糸、助けて! 龍神にいじめられちゃう・・・。うわーーーん。また神社を移転しないと。」
「あの、神様がこんな人の前に出てきて良いのでしょうか?」
「何を言っとるんじゃ、わしは龍神が憑依した演技をする夜凪景じゃぞ。これでもアカデミー賞の助演女優賞をもらえるほどの演技派女優なのでな。龍神の演技なんてお茶の子さいさいよ。」
納得する周囲。 いや、絶対に嘘だ。こんな神々しい姿、演技だからって人間が出来るわけが無い。そして、本当に夜凪景なら、エルフの四人がお礼参り(意味深)に行った事を知るわけが無い。
「というわけで、わが龍神神社もフランチャイズ1号店が東京に進出じゃ。東京で放置されていた巨大な龍脈を取り込んで、信者も集めて、神力もがっぽがっぽじゃ!」
「エルダ・・・この龍神様って、邪神なんじゃ・・・。」
「日本の神様はわりと俗っぽい神が多いのです。気にしてはいけません。」
「エルダが言うと説得力があるよね・・・。」
こうして、うちの高耳神社の近所に龍神神社ができて、たまに街中を歩く龍神様を見かけるようになった。
そして、豊洲の龍神神社は豊洲市場とのセットで楽しむ観光コースになり、そのコースに高耳神社も組み込まれて、神社の収益があがり、間接的に通販の配達員がエルダの元に来る機会が増えて、エルダは密かに龍神様を拝んでいるを見る事になるのであった。
・・・ご神体が別のご神体を拝んでどうするのよ!!
----------- 夜凪ママ視点 -----------
こうして、龍神神社を建てて、龍神様と街に繰り出すようになった娘(景)。
いつしか景は、龍神様と様々な神社仏閣などをめぐって他の神様とお話をする『神様コレクション』や『神モンGOウォーク』などの、各地の神様と交信して、用事を聞いて、神様のお使い(御使い)をする、RPG的な楽しみ方をする趣味を開発してしまった。
そして、それを聞いたアキラ君が、景からの情報を元に神様をマッピングして歩く、『神様GO』アプリを開発して大ヒット。そのアプリで人々に推しの神様が出来て、信仰心も爆上がりで天界でもホクホクらしい。
そして、今朝、娘は鬼子母神様をゲットするために、京都に行ってしまった。
阿良也君も同じく、神様と交信できるようになって、猿神様を神モンGO(リアル)しているらしい。
・・・景はすでに手遅れだけど、双子のルイとレイの教育は少し考えた方が良いかもしれない。アリサさんに相談してみなきゃ。
(相談する相手を間違えていることに気が付いていない夜凪ママ。)
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします!
今年もこちらの小説を読んでいただき、ありがとうございます。
今年の正月ネタは、景ちゃんが龍神神社のフランチャイズ1号店を東京にオープンさせて、無事に龍神様を降ろして、東京に平和?をもたらす、お正月にふさわしい回でした。
ちなみに、この後、夜凪ママはすでに姉からの魔の手によって、ルイ君とレイちゃんも神モンGO(リアル)をしている事に気が付いて、絶望するも、夜凪ママもやってみたら面白くて、家族みんなで神様めぐりをするようになるのは、また別のお話となります。
この龍神神社はネタに走っているくせに、やたらご利益がある神社だと後々の評判になります。
そして、しれっと娘(景)の教育が手遅れではないかと悟り始めた夜凪ママと、ちゃっかりとアプリ開発でウハウハのアキラ君。
こんなノリで羅刹女バトルも本格化して行きますので、本年もよろしくお願いいたします!