星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
-------------日尾和葉視点-------------
「正しいことをするのに、理由はいりません。間違っているなら、止める。それだけです。」
「救われる価値があるかどうか、それを決めるのは被害者だ。」
「やはり、・・・・またあなたが、勝手なことをしたのですね。」
「私はヒーローじゃない。だから、汚れ仕事ができる。」
「正義は、人を救うためにあるんです。正しい法の裁きを受けさせてこそ、全てが救われるのです。」
「違う。正義は、悪を終わらせるためにある。私はただ、暗がりに残された仕事をしてるだけ。」
「あなたは間違っている。」
「私は、自分が正しいなんて一度も感じた事は無いわ。」
二人の間に緊迫した空気が流れる。
「・・・・・はい。カッーーート! これで今日の収録はお終いです。お疲れ様でした。」
「お疲れ様でした~っ。」
「・・・・お疲れ様です。」
「は~っ。終わった終わった。それじゃ、和葉、ショッピングに行こうか!」
「・・・百合、あんた、こんなシリアスなシーンの後に、よくもこんなにコロッっと感情が切り替わるわよね。私なんて、このまま夜の街に繰り出して、悪人を2~3人暗殺したい気分なのに。」
「和葉怖っ、演技はあくまで演技でしょう?演じた役が現実を侵食するようになったらお終いよ。少しは、アキラさんと千世子さんを見習った・・・、いや、あの二人は頭がおかしくなるから、見習わない方がいいわ。見習うなら、同じメソッド演技系の景ちゃんがいいんじゃないの?」
「あっちの方がドン引きよ。この前、ドラマで肉が嫌いで潔癖症の菜食主義者を演じていて、些細な動作や、無意識の動きまで完璧すぎて、ものすごい役作りに戦慄していたら、撮影が終わった瞬間に、差し入れのケンタッキーフライドチキンを手づかみして喜んでかぶりついているのよ。みんなドン引きしていたわ。どうなっているのよ! あのメンタル! メソッド演技者って、演技とか性格をコロっと切り替えられないんじゃないの!?」
「・・・はははっ。阿良也さんもあれだし、やっぱりF4は異常すぎて見習わない方がいいかも・・・。実は私も景ちゃんを見習いたいとは思わないの。あれは天才だわ。あんなの真似られないわよ。」
今、私は九条百合とのドラマ『光と影の裁き』の2ndシーズンの撮影中だ。
このドラマは、あの騒動で私を気に入った星アリサが、オフィスベリーの社長に話して企画されたドラマで、正統派ヒーローの九条百合と対を成すダークヒーローの私がお互いにライバル関係をもちつつも、相互に関係を補い合うバディものだ。
新名夏と木梨かんなの主演で大ヒットした『不思議の扉』の1Stシーズン終了後の後番組という事もあり、期待値も高くて心配だったけど、こちらもヒットして、『不思議の扉』の2ndシーズン後に、『光と影の裁き』の2ndシーズンである今回の撮影も無事にクランクインしている。
ただ、『不思議の扉』の世界観を継承しているために、たまに『名状しがたき異形のパンダ着ぐるみ』がこっちにまで出張して蠢いているのは勘弁して欲しい。本当に心臓に悪い。
しかも、『名状しがたき異形のパンダ着ぐるみ』の人気に嫉妬した星アキラが対抗して、『名づけざられし邪神ハムスター着ぐるみ』で出て来るのは本当に反則だと思う。
あの二体の同時出演はこの世の地獄としか思えなかった。あまりにあれすぎて、劇場版でしか二体を登場させられなかったけど、劇場でも気絶者多数で、最後の結末を見逃した人がほとんどなのは、本当に勘弁して欲しかった。・・・その結果、もう一度結末を確認するためにリピーターが沢山出たのは嬉しい誤算だったけど。
街中のUFOキャッチャーで、あの2体がうにょーんとしているのを見ると、今でも鳥肌が立つ。
この2体の人気に気を良くしたプロデューサーは、『不思議の扉』の3rdシーズンにもこの2体を出演させるつもりらしいけど、新名夏と木梨かんなは無事で居られるのだろうか? いや、たぶん駄目だろう。可愛そうに。
しかも噂では、そんな二人の人気に嫉妬した夜凪景が『かなたより饗宴に列するタコ着ぐるみ』で脳を吸い取りたいと言っているらしい。さらに、その噂を聞き付けたパルファン・クールパレが着ぐるみ王として『心の触媒毒エメラルド・ウマ娘着ぐるみ』で生きながらミイラにしたいと言い出したと聞く。この地獄の連鎖によってどんな怪獣大戦争になるのだろうか? この無限連鎖のSUN値吸い取り地獄は閻魔様の地獄でも生易しいかもしれない。このままでは、私達が無関係な所で死人が出て放送禁止になりそうだ。
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この件は置いておいて、こんな経緯であの騒動以降の九条百合と私の関係は非常に良好で親友とも言える間柄になっていた。今日も撮影が終わったら一緒に化粧品を買いに行こうと約束している。
そうして二人で街を歩いていると、九条百合が足を止めてスマホを見始めた。
「御使いイベントが入ったみたいです。ちょっと立ち寄って御使いをしていいですか?」
百合のスマホを見ると、狐耳のSDキャラが何やら話している。
「神様GO?」
「そう。神様GOです。前も誘ったけど、和葉もやらない?」
「妹はやっているけど、私は忙しくて・・・。」
「せっかくだし、和葉も御使いイベントに付き合ってよ。」
「すぐに終わるなら・・・。」
そう言って、私は百合に着いて行く事になった。
神様GO!は、今、日本で老若男女問わず大ブームとなっているゲームアプリだ。特徴は、歩きながら日本中の神様と対話すると言う特異なゲームで、御使いイベントと呼ばれるイベントをこなして、神様ポイントを貯めていくゲームになる。
「この画面に居る、百合と話している神様は何なの?」
「これは、宇迦之御魂神(ウカノミタマ)様で、稲荷三神の主神様ですね。世間的にはお稲荷様と言われていて、眷属が狐さんです。九条家は元々商いで大きくなった家で、九条の本家には今でも稲荷様の祠があるのですが、神様GO!を本家の子供達が始めた所、祠を綺麗にして毎日拝むようになって、それに気を良くしたおじい様が、最近はお正月と盆に親族だけのささやかなお祭りを開くようになったんですよ。私もその繋がりで推し神様がお稲荷様になっています。」
「へー。神様GOで地域の催しに参加したり、昔のお祭りや行事が復活したりって話を最近は良く聞くけど、百合の家もそうなんだ。」
「そうですね。御使いイベントをやると、自然と御使い先の由来や、そこに神仏を奉った理由に詳しくなるので、なぜ地域でそんな行事があるのかが良く分かって、新興住宅地の人達も自然に地域の行事に参加するようになって、対立があった地域でも地元の人達との仲が急速に改善しているみたいな例はいっぱいありますね。私の推し神様の宇迦之御魂神も、推す人がいっぱいできて、去年から東伏見稲荷神社の初午祭はすごい参拝客数だったのですよ。」
そう言って、百合は神様GO!のアプリ画面を見せてくれた。そこにはスマホのカメラ上に映る道の情報が表示されている。
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街道情報:旧東海道(日本橋〜品川宿)
由来
江戸時代、江戸・日本橋を起点に各地へ伸びた「五街道」の筆頭が東海道。旅人・物資・参勤交代が行き交う“国の大動脈”だった。起点は日本橋に定められた。
この付近の歴史(品川宿)
品川は東海道最初の宿場「品川宿」として発展し、旅籠や茶屋が並ぶ賑わいの地で、旧道の一部は現在も街並みに残り、北品川周辺では旧東海道の面影(道幅・石畳や街路灯整備など)を活かした宿場町らしいまちづくりが行われている。
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GPSと組み合わせているのだと思うけど、ARで今歩いている道の由来を知れるのは素直に面白い。
百合のスマホの中で話す神様も、本物っぽい動きと話をするし、AIにしても本当に良くできている。神様に身の上話をして相談する人が続出するのも納得ね。
そう言ってる間に、百合は商店街の花屋でお花を買って、総菜屋さんでお稲荷さんを買った。
私と百合はそこからちょっと歩いて、神様GOの指示通りに、再開発が進んだモダンなエリアを歩いて、ガラス張りのオフィスビルと雑居ビルの隙間になる幅1mぐらいの細い通路を歩いて行った。とても神社があるとは思えない。
「本当にこんな所に神社があるの?」
「東京だと、なんでこんな所にあるの?みたいなのがいっぱいあるわよ。」
80mぐらい奥に行くと、ビルの隙間にビルのコンクリートに囲まれて、真上だけぽっかりと空が見える場所に1mぐらいの小さな祠があった。百合はスマホを構えて、その祠の情報を見せてくれた。
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玄米稲荷祠
主神:宇迦之御魂神
由来
江戸時代に小さな米問屋が並ぶ下町であったこの地域であったが、天保の大飢饉の際に売る米すらなく、米問屋自らが食べるのに困るという事態を経験した住民たちが商売繁盛では無く、今日の飯が途切れないようにという祈りから住民共同で立てた祠。このため、白米ではなく、栄養価が高い玄米が名前の由来となり、玄米をお供えする伝統が続いている。
この祠の歴史
明治に入ってから米問屋の廃業が相次ぎ、関東大震災で入口にあった2体の白狐の像が破損して撤去され、木製の鳥居は朽ちて崩落の危険があったため、昭和60年に撤去された。
現在はビルの隙間に祠が残るだけだが、神様GO!でこの祠の由来を知った地元商店街や、ビルの不動産オーナーなどがお金を出し合って、来年には白狐の像と鳥居を復元して奉納する事が決まっている。
また、今年から地元の青年会や子供会、学校などの主宰で玄米を食べて食物に感謝する玄米祭も始まった。
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「・・・すごいわね。神様GO。完全に街の歴史まで変え始めているわね。」
「神様GOのお蔭で、途絶えていた各地のお祭りとか、催し物が次々と復活しているわね。」
ビルの隙間の祠の前には玄米がお供えされている。神様GOの御使いイベントのせいか、掃除も行きわたっているように見える。
百合は枯れていたお花を変えて、稲荷寿司を取り出してカメラで写す。すると突然、狐耳の神様キャラが反応した。
「そっ、それは稲荷寿司!!も、もしかして我にお供えしてくれるのか!?」
「はい。もちろんです。」
「そ、その稲荷寿司を早く祠にお供えするのじゃ!!」
「はい。はい。こちらに置きますね。」
「びゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ゛。」
おい! さっきまでの神様っぽい態度はどこ行ったんだ? 完全に稲荷寿司ジャンキーのヤバイやつじゃないか。
「うちの神様は、稲荷寿司に目が無いので、お供えするといつもこうなるのですよ。」
百合のスマホでは、一心不乱に稲荷寿司を幸せそうに食べる狐耳神様が映っている。
本当に好物みたいだ。ここで、「残念。それは私のおいなりさんだ!」みたいな必殺技をやると、この神様から本当に天罰をもらいそうだ。
そうして、百合は手を合わせてお祈りをすると、稲荷寿司を回収した。
「稲荷寿司、回収していいの?」
「もう、神様が召し上がったので大丈夫よ。このまま置いておくと、すぐに腐って迷惑になるから、神様が召し上がられた後は持って帰って自分で食べるのが神様GOの礼儀なんです。あと、この神様が召し上がった後の捧げものなのですが、なんか食べると、すごく健康に良いんですよね。言葉にしにくいのだけど、体から活力が湧いて来てお肌がツルツルになるというか・・・。」
「へーっ。神様GO!で運気が上昇するのって本当だったんだ。プラセボ効果かと思ってた。」
「プラセボ効果もあると思うんだけど、それにしては、神様GO!で人生が良い方向に変わる人が本当に多いので、何かあるんでしょうね。」
「神様GO!のプロデューサーはあの星アキラでしょ? 星アキラなら何か知っているんじゃないの?」
「アキラさんに前に聞いた時には、百合の信じる心が神様と縁を結んで人生が好転しているんだよ。って言っていたわ。」
「何それ?なにもわからないのと一緒じゃない。」
「アキラさん自身もその場のノリでそれらしい事を言って、実は本人も分からなそうな顔をしていたけど、何か秘密を知っていても、私ではあの人の嘘を見破れないから、結局分からないのと一緒ね。でも神様GO!をやっていると、人生が好転し始めるのはみんな感じる事よ。」
そう言って、百合は枯れた花をしまって、アプリから花を変えた後の写真を撮って祠を後にする。
「これでいいの?境内を掃除するとか、祠を立て直すとか、御使いイベントってもっと大変かと思ってた。」
「普段の御使いイベントは大体こんなものよ。沢山の神様GO!のユーザーがちょっとずつ片手間に神様からの御使いをするの。そうすると一人一人は少ない作業でも全体では大きな仕事になって、この祠のように、いつでも神様をお迎えできるように綺麗に保たれるわ。」
「なるほど、これが神様GO!が老若男女問わず楽しまれる理由ね。」
「このぐらいでできるなら、私もやって見ようかしら?」
「和葉もついに神様GO!に興味が出たのね。嬉しいわ。それじゃ、ちょっとセットアップしてみましょう。」
そう言って、私と百合は近所の公園で一休みをしながら、私のスマホに神様GO!をセットアップした。
「私は両親とも絶縁しているし、うちに由来がある神様なんて分らないんだけど・・・。」
「家の由来に関係する神様が出る事もあるし、単純に個人と相性が良い神様が出る事もあるわ。とりあえずやってみればいいのよ。」
私は神様GO!のアプリを始めると、いくつか性格診断みたいな質問があって、それにポチポチと回答を選ぶと、神様からの声かけイベントが始まった。
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【通知】あなたを必要とする神がいます。
【神名:伊邪那美命】
【条件:御使い適性—高 黄泉の縁】
【承諾しますか? はい / いいえ】
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私の指が止まった。イザナミ。黄泉の国の女王。死。終わり。別れ。戻れない場所。
私は判断に困った。困惑しながら百合に聞く。
「ねえ、百合、イザナミ様からお声がかかったんだけど、そう言う人は多いの?」
「超大物じゃない。私も初めて見た。七福神とか、土地神様とか、自分に由来のある仏様がほとんどで、イザナミ様の御使いは聞いた事が無いけど、新しく実装されたのかしら? これって間違いなく、日本神話で日本の国土を産み落として、黄泉の主宰神となったイザナミ様よね。和葉はどう感じるの? 私が宇迦之御魂神からお声がかかった時もそうだけど、何か運命を感じない?」
「感じる。何なのこれ?突然、明らかに人生で一番重大な決断に迫られるような気分。こんな事ってあるの?意味が分からない。」
「神様GOでそう感じる人は多いらしいわね。和葉も私も霊感?みたいなのが強いのかしら?」
私は指が震えながらゆっくりと『はい』を選択した。すくなくとも『いいえ』を選択する気は微塵も起きなかった。 『はい』のボタンを押した瞬間に、私はイザナミ様と何かの縁で結ばれた事を感じた。
画面にイザナミ様が表示されて、私と会話を始める。神々しい美女だ。・・・神話みたいに腐乱死体じゃなくて良かった・・・。
「なによ。画面が真っ暗じゃない。やっぱり実装中のバグなのかしら・・・・。」
「えっ、百合、見えないの!?」
「何を言っているの? 和葉のスマホの画面は真っ暗じゃない。やっぱり、バグかなんかでアプリが固まっちゃたのね。」
「・・・・。そうね。ちょっと調子が悪いみたい。今夜あたりもう一度アプリをインストールし直すわ。」
何か話してはいけない事が起きている気がして、私にはイザナミ様が見える事を百合に話さない事にした。
その後、百合とショッピングをして家に帰った後に、妹にも画面を見せたけど真っ黒だって言われた。やっぱり、百合が私をからかっていた訳では無さそうだ。
私には、スマホには神様GO!の画面とイザナミ様が見えている。神様GO!ってなんなんだろう?
この日から私は、イザナミ様の御使いとして不思議な体験をする事になるのと同時に、悪の女王として輝き始める。
これが、私とイザナミ様との出会いだった。
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その頃の珍獣君達。
762. CHINJUU@神域接続中
やっぱり、もちづきさんの3段ハイカロリーおせちは恐怖ンゴ。
あの最恐おせちの前にワイはガクブル。
763. INARI@神域接続中
わしは普通に、三段とも稲荷寿司で全然問題無いぞ!
764. RYUJIN@神域接続中
ワイの信者ニキがカレー味チーズ味シチュー味のおせち奉納してきたらキレ散らかす自信あるおwww
何でも混ぜりゃいいってもんじゃねーぞwww
765. ENMA@神域接続中
あれには驚愕した。黄泉の入り口が見えるのも当然と言う物よ。わしの部下の死神にも、もちづきさんの健康には気を付けるように言っておかないと・・・。
766. SUSANOO@神域接続中
あれこそ、フードファイターの鏡だ。もっと戦え!
767. BENTEN@神域接続中
SUSANOOともちづきさんはいったい何と戦っているのでしょうか?
768. IZANAMI@神域接続中
珍獣神。あなたのお陰で久しぶりに御使いができました。大儀です。
769. CHINJUU@神域接続中
ファッ!?
770. RYUJIN@神域接続中
ファッ!?
771. SUSANOO@神域接続中
ファッ!?
772. ENMA@神域接続中
上司キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
773. AMATERASU@神域接続中
ファッ!?
774. キリスト@神域接続中
ファッ!?
775. ゼウス@神域接続中
ファッ!?
776. オーディン@神域接続中
ファッ!?
777. 這いよる混沌ニャルラトホテプ@神域接続中
ファッ!?
778. RYUJIN@神域接続中
明らかに混ぜるな危険なヤツ混じってる件www
これはアウトだろ常考www
玄米稲荷祠のモデルは、秋葉原にある花房稲荷神社です。雰囲気とかを知りたい方はそちらを見ていただけると良いと思います。
ちょっとシリアスっぽい和葉嬢のお話の横で、いつもの平常運転な珍獣君。
そして、這いよる混沌までスレ民だと言う事が判明した神様スレの明日はどっちでしょうか!?