星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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百城千世子は牛丼を食べる

 

---------百城千世子視点---------

 

舞台稽古の後、私は阿良也君に食事に誘われたので、着いていったらなんと牛丼屋だった。私は仕方がなく牛丼の並盛を頼むと、阿良也君と食べ始めた。

 

「もったいないな。その食い方。」

 

「うん?」

 

「かきこんで食うのがうまいんだよ。牛丼は。」

 

こいつ、私をご飯に誘って行った店が牛丼屋だっただけじゃなくて、さらに私の牛丼の食べ方にまで文句を付けてきている。 顔がよくて、有名人で、演技ができるからチヤホヤされているけど、女の子を食事に誘っておいて、行ったところが牛丼屋でこの言いぐさなはちょっとね・・・。

 

かきこんで食べるのが美味しい食べ方とは思えないけど、私はとりあえずお椀に直接口をつけて牛丼をかきこんで食べてみた。

 

「千世子は変わったな。」

 

牛丼をかきこんだぐらいで

 

「何が?」

 

「昔の千世子なら絶対にここで牛丼をかきこむなんて事はしなかったはずだ。」

 

「それはそうよ。だって、牛丼をかきこんだ所で美味しくなるとは思えないもの。」

 

「ならどうして牛丼をかきこんだんだ?」

 

「とりあえず無駄だと思えることでも、やってみることで新しい視点や見解を得られることがあるわ。どんな事でチャレンジしてみる事に意味があるわ。じゃないと、景ちゃんやアキラちゃんに勝てないから。 だからやってみたの。」

 

「なるほど。それで、今回、牛丼をかきこんで何か新しい視点は得られたか?」

 

「得られたわ。」

 

「どんな事が得られたんだ?」

 

「まず、牛丼をかきこんで食べる際のメリットね。」

 

「メリット?」

 

「そうメリット。」

 

「どんなメリット?」

 

「まず、牛丼は注文するとすぐに来るファーストフードだわ。そして、早く食べれば食べるほど温かくて美味しい。 だから、かきこんで早く食べれば、温かくて、出来立てで香りが立って、つゆを吸ってご飯の触感が崩れる前に、牛丼を食べ終わることができるわ。」

 

「なるほど。よく分かっているじゃん。」

 

「稽古で塩分とエネルギーが体から抜けている状態では、体が糖と塩を早く欲しがっているから、その欲求を満たして、精神を回復させるのには有効ね。」

 

「やっぱり牛丼をかきこんで食べるのは正義なんだな。」

 

「半面、デメリットも大きいわ。」

 

「デメリット?」

 

「牛丼を早く食べると、むせるし、誤嚥しやすいわ。 これは食べ方で慣れればいいけど、消化に負担がかかるし、なによりも血糖値が爆上がりする上に、満腹ホルモンの反応が追いつく前に食べ終わるから、物足りなくなってさらに牛丼を追加するか、別のデザートとかに手を出すわ。結果として、過剰摂取と肥満につながって、健康上のメリットは全くないわ。 なによりも牛丼を美味しく味わえないことが最悪よ。」

 

「うわ。若いのに健康とか気にするの?」

 

「気にするわよ。むしろ全人類が老いても若くても、食事とエネルギー消費のバランスで健康を維持しているのに、得られる栄養素に無頓着とか信じられないわ。」

 

「千世子、役者を辞めたら環境運動家とかになりそう。」

 

「思想ではなくて、科学的なエビデンスに基づいた話をしてほしいのだけど。」

 

「お前も、ずいぶんとアキラに毒されたよな。」

 

「毒されていないわよ。アキラちゃんの良いと思うところだけを取り入れているだけで、ダメだと思う部分はちゃんと除外しているもの。 あんな珍獣が2匹に増えてうれしい?」

 

「・・・うれしくない。」

 

「その上で、阿良也君が牛丼をかきこむとうまいと思うように至った理由ね。」

 

「理由? うまい食い方に理由なんてないだろ。」

 

「あるわ。牛丼の高カロリーの食事を一気に食べるほどドーパミンが出やすいの。そして、口→喉→胃へのスピード感そのものが快感になるのと同時に、素早く食べることで普通の速度で食べる人に対しての優位に立ったような錯覚も覚えるわ。」

 

「おおう。」

 

「その結果、阿良也君はこの健康リスクが多大な食べ方を、脳の報酬系が快感を満たせる最高の食べ方として学習してしまったのね。だから、他の人にも臆面もなく、かきこむのが牛丼の最高の食べ方なんて言っちゃうのね。」

 

「俺、フルボッコじゃん。 ・・・なんか食欲がなくなってきたぞ。」

 

「どうせ天球の劇団員とかを食事に誘った時にも牛丼屋にきて、かっこむのが美味しいとか言っちゃっているのでしょ? 少し悔い改めた方がいいわ。」

 

「いや、違うかもしれねーじゃん。」

 

「私を食事に誘って、牛丼屋に連れてきてしまう時点で察せられるわ。」

 

「でも、アキラだって、千世子を牛丼屋に連れて行く事もあるじゃねーか。」

 

「アキラちゃんはいいのよ。ちゃんと人間観察とか、役作りとか、私を楽しませるためのエンターテインメントとしての理由があるから。そもそもアキラちゃんは親子ドラマで父親がやっている生活を体験させるために、オフィス街の牛丼屋に連れて行ってくれて、その後は、フリーアドレスのオフィスエリアに席を借りてくれて、働く人たちをちゃんと観察したのよ。阿良也君の場合には、おなかが減ったので、牛丼を食べたくなって、ついでに私を誘っただけじゃない。」

 

「それのどこがいけないんだよ。」

 

「それを察せられないと、いい女と巡り合えないわよ。」

 

「いい女が千世子のような女の事を指すなら、無理に巡り合わなくてもいいと思うが。」

 

「そういう所よ。」

 

そんな話をしながら、私は牛丼をもぐもぐと食べながら周りの人間を観察した。周りの人はチラチラとこっちを見ながら、複数で来ている人はひそひそ話をしている。明日の職場では、明神阿良也と百城千世子が牛丼を食べていたという面白い光景に、さぞ盛り上がる事だろう。

 

これはこれで面白い光景だけど、今の役作りには全く役に立ちそうもない。

 

そんな中、私はふと思いついて、牛丼をかきこんでいる阿良也君をスマホで撮影してSNSにアップする。

 

『食事に連れて行ってもらったら牛丼屋だった。

 かきこんで食べるのがうまいらしい。解せぬ。 #稽古後 #明神飯』

 

一瞬でSNSは百城千世子を牛丼屋に連れて行くとかけしからん!とか、芸能界の若手トップが牛丼なのは親近感ある、などの雑多なコメントで埋め尽くされて行く。

 

ちょっとしたら、案の定、アキラちゃんがリプライをくれた。

 

『あの千世子ちゃんを臆面もなく牛丼屋に連れて行くとは、阿良也は勇者だね。 でも僕も負けていないよ。 みんなで台湾の小吃店(大衆食堂)で食事中だよ! #稽古後 #アキラ飯』

 

投稿された写真には、沙悟浄役の七生さんと猪八戒役の亀太郎さんの二人と一緒に、台湾の大衆食堂で大量の料理を食べているアキラちゃんが写っていた。 相席の大テーブルで、料理がぐちゃぐちゃになるぐらい大量に置かれている。

 

台湾の下町みたいで、突如現れたハリウッドスターに大量の人が押し掛けているみたいで、アキラちゃんはそんなのに驚く様子もなく、おそらく押し掛けた人達みんなに、アキラちゃんは大量に奢っているのだろう。 アキラちゃんを取り囲んだ台湾の人達が、大量の笑顔で、ものすごく楽しそうに話をしている様子が写っている。

 

『稽古が終わって疲れたからご飯に行かない? とか誘われて着いて行ったら台湾だった。 星アキラは絶対にアホだろ! #稽古後 #アキラ飯』

 

亀太郎さんのリプライが付く。

 

『アキラが私の魚丸湯(ウィーワンタン)を狙って来やがる! これは私の飯だ! ぜってーゆずれねぇ! #稽古後 #アキラ飯』

 

さらに七生さんのリプライが付いて、SNSが大盛り上がりになる。七生さんもすごく楽しそうだ。

 

言葉が通じない異国の地で、なじみの無い大量の美味しい料理を3人で喧嘩しながら食べる。 これぞまさにみんな思い浮かぶ西遊記の旅の場面では無いだろうか。

 

完全に西遊記から抜け出たような光景に、SNSの話題も阿良也君の牛丼からアキラちゃんの台湾珍旅行に完全に奪われてしまった。

 

「あいつら、食事のために台湾まで行って役作りをしているのか!」

 

「そうよ。これが阿良也君とアキラちゃんの違い。 阿良也君はこのアキラちゃんに勝たないといけないのだから、猛省して?」

 

「おおう。」

 

阿良也君はなんとも言えない表情になった。

 




千世子ちゃんを牛丼屋に連れて行く阿良也君のお話でした。

原作で千世子ちゃんと阿良也が牛丼を食べるシーンを見た時、いろいろな意味で明神阿良也ヤベェと思いましたw

3月末の引っ越し準備で今はすごく忙しいので、投稿頻度が落ちてしまいますが、4月からは回復すると思いますので、よろしくお願いいたします。
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