星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
「全然食べていないね。やっぱり牛丼の方が良かったか?」
「いいえ、気にしないで。」
「もしかしてビビッてんの?」
「そうね。ビビッているわ。」
「千世子は景とアリサさんが怖いのかよ!」
「ビビッている部分はそこじゃないわ。」
「なんだと? じゃあアキラにビビッているのか?」
「そうじゃなくて・・・。」
「まさか俺にビビッているのか?」
「半分正解ね。」
「大丈夫だ千世子。俺は千世子を喰う気満々だし、舞台では俺をこそ主役と考えているが、別に千世子を喰っても舞台を破綻させるつもりは無いから、千世子は脇役として安心して演じていいぞ。」
「それのどこが安心できるの? そうじゃなくて、阿良也君が突然、焼肉にソフトクリームをかけ始めた所にビビッているのだけど。」
「これのことか?」
「そうよ。何をしているのよ。」
「俺の作った『永久氷葬カルビ・白雪ソフト黙示録』のすごさにやはり千世子は驚くか。当然だな。これから、俺たちの舞台の行方を決める大一番の勝負だ。まだウォームアップ段階とは言え、俺の料理のにじみ出る迫力に千世子もビビり散らかすのは当然だな。」
「何?その恥ずかしいネーミングは? そもそもここは何? 私たちはお昼を食べにきたはずでしょう?」
「ここは『スタミナが付く次郎』だが、焼肉食べ放題でお昼を食べる事がそんなにおかしいか?」
「お昼ごはんなのに、なに食べ物で遊んでいるのよ。」
「食べ物で遊ぶのは当然じゃないか。スタミナがつく次郎は日本で唯一食べ物で遊べる場所だぞ!」
*注)阿良也個人の感想です。良い子はマネしないでね。
「なんでそんな所に私を連れてきたのよ。こんな怪しげな焼肉屋さんじゃなくて、お昼を食べるのにも、もっと私をエスコートするのにふさわしい場所があるでしょ?」
私と阿良也君はいま、激安焼肉食べ放題チェーン店である『スタミナが付く次郎』に来ていた。別にスタミナが付く次郎が悪いという訳ではない。 友達なんかと来るとすごく楽しいと思う。
ただ、ここにお昼を誘ってきた人間が、突然、焼き立てのカルビにソフトクリームをぶちまけて、意味不明な名前の料理名を言い始める状況を考えてほしい。 私じゃなくても阿良也君に着いてきた事を後悔するだろう。
「ふっ。ここに来た理由は直に分かる。」
そんな事をしていると、入口の自動ドアが開いて、アキラちゃんと七生さん、亀太郎さんが入ってきた。
アキラちゃんは阿良也君と目を合わせてバチバチとにらみ合うと、そのまま七生さん、亀太郎さんと席に着いた。
・・・・何なのかしらこの雰囲気。羅刹女のライバル関係としてお互いを意識するのはいいのだけど、何かひっかかる。羅刹女の公演はまだ先なのに、今にも勝負が始まりそうな・・・。
あと、まさかのスターそろい踏みにスタミナが付く次郎の店内のざわつきはすごい。
そんなことをしていると、阿良也君がまた食材を取りに行った。
「げっ。」
私は阿良也君の持ってきた料理に思わず声が漏れてしまった。
「何よ?それ?」
「ふふふっ。よくぞ聞いてくれた。」
「オクラをベースに、納豆を組み合わせて、二人の間を取り持つわらび餅、そして粘りのあるポテトサラダとホイップクリームが純白の清純さを添えて、そこに人間の欲望を具現化した黒蜜でリアリティを出し、刻み海苔が全てを調和する! これぞ!『深緑粘獄オクラ・納豆モンブラン海苔封印陣 』だ!」
「ねぇ? 刻み海苔の役割が重すぎない? 刻み海苔だけでこれをまともな料理にするには明らかにオーバーワークだと思うわ。もう少し、刻み海苔を労わってあげたら?」
「ふふふっ。俺のくりだす人間の二面性を表現した至高の一品にアキラもビビっているようだ。まずは前菜対決は俺が一歩リードと言った所か。 この深緑粘獄オクラ・納豆モンブラン海苔封印陣にアキラは手も足も出ないだろう・・・。なっ!!」
そう言って、アキラちゃんのテーブルを見て驚く阿良也君。アキラちゃんのテーブルには青色をしたおドロドロしい怪しげな料理が載っている。
「サーモン寿司にブルーハワイゼリーを纏わせて怒涛の青さ! それにコーン、マヨネーズをトッピングだと!? あれこそ地球の海そのもの! サーモン寿司という生臭い食材を母なる海であるブルーハワイのゼリーが受け止めて、コーン、マヨネーズというお子様からマヨラーまで安心のラインナップ! あれはまさか『深海極光・サーモンブルーハワイ・ジュレ軍艦 』だと! 信じられない! やつはたった四種の食材だけで母なる海を雄大に渡るハワイ風アルマダ(無敵艦隊)を表現して見せたというのか!?」
「阿良也君のを見た後だと、あっちの方がまともな料理に見えるのはただのバグね。」
「だがシンプルすぎる! 材料をもっと入れて、もっと完成度を高めても良いはずだ! アキラ、奴は一体何を考えている・・・。」
「はっ!! これは前菜対決。 いわば舞台の前座! 本番が始まる前に舞台を暖めるように、食欲をそそる役割を持つ料理。前菜自体の完成度よりも、次にくりだす料理への期待を優先したと言うのかアキラ!」
「食欲と次の料理への期待という意味では、どちらの料理も最悪だと思うわよ。そもそも、これは料理なの?」
「いや、これは前菜対決。いわばオードブルだ。少しリードしたぐらいでいい気になるなよアキラ。次のスープ対決を制するのは俺だ!」
「前菜とオードブルはほとんど同じ意味よ。」
阿良也君は燃えていた。お願いだから羅刹女の舞台にも、この1%でも気合を注入して欲しい。そして、阿良也君はまた食材コーナーに消えていく。
「で、次を持ってきたのね。何よそれ?」
「韓国の豆腐鍋であるスンドゥブ の豆腐を杏仁豆腐でさらに爆裂増量! そしてスンドゥブの発酵食品をさらに底上げするチーズとキムチでブースト! ネギトロとストロベリーソースで紅海を再現し、この個性的な食材をネギとプリンがまとめ上げる! これぞまさに悪魔の爆裂ブーストパワー!『紅海魔神ネギトロ・杏仁プリンスンドゥブ爆裂鍋 』だ!」
「辛い豆腐鍋の中にデザートコーナーを移設しないでもらえる?」
「さあ、アキラはこの完成度の高い俺の料理にどう立ち向かってくるのか・・・。 なに!?」
「あっちもあっちですごいわね。」
「カルビスープに豚汁! 黒コショウに黒蜜! ネギとライチ! 七味とわさび! 永遠に分かり合えない二つの食材の争いを裁く正義のプリン裁判長! 相対する二つの食材をプリン審判で大岡裁き! あれぞまさに! 『聖帝カルビスープ・漆黒豚汁ライチゼリー冥府のプリン裁判!!』食材同士のケンカを社会問題として世相と料理に反映してみせたかアキラ! やるな! これこそ我がライバルを名乗るのに相応しい! 」
「プリン裁判長はこんなのを大岡裁きできるの? それに食材同士のケンカは世相には全く反映されていないわ。」
「スープ対決は互角と行ったところか。だが、次はいよいよメインディッシュ対決! 」
勝敗の基準がイマイチ良く分からないまま、阿良也君がまた料理を持ってくる。
「さすがはアキラと言ったところだ。これまで小賢しい細工で多少のリードを奪おうとも、王道を往く俺の料理には太刀打ちできない。」
「そうなの?」
「誰もが好きなハンバーグ! そして、そこに子供が大好きなチーズを入れる!!」
「チーズハンバーグね。それならあんな怪しげな料理よりもみんなが喜ぶ王道ね。」
「ノンノンノンノン! 早とちりはいけないぜ!子猫ちゃん。」
「阿良也君、一体何のキャラを演じているのかしら? キャラクターがブレブレよ?」
「この俺がチーズハンバーグなんて言う、お子様料理で喜ぶわけが無いだろう? 見るがいい! ハンバーグとチーズの中に隠された、納豆とわらび餅、そしてレバー! それを黒コショウと黒蜜、黒酢餡とカラメルの漆黒の衣で包んだ最強の圧縮料理!! これこそ、『漆黒の超重力ハンバーグ・わらび餅カラメルチーズ圧縮レバー』だ!!」
「圧縮すれば味が一つになると思ったの?」
「ふっ、俺の超重力ハンバーグの前にアキラのメインディッシュなど、木の葉のごとくの軽量級だ。今ごろ作った料理の軽さに慌てふためいている事だろう。・・・なっ!」
アキラちゃんのテーブルでは、怪しげな赤い焼肉?らしき物体が焼かれている。
「あっ、あれは! 厚切りの骨付きカルビを低く幅広な車体に見立てて、鮮烈な紅いボディをいちごソースとキムチ、チリソースの深い紅で再現! そしてポテト、ベーコン、焼肉を平行に配置してスリットのデザイン性を見せ、黒いリアグリルはコーヒーゼリーで完成度を上げている。 そして12本のバナナが立つあの迫力こそ、大排気量の12気筒エンジン! 軽量さを逆手に取った機能美に溢れるデザイン! あれこそ、イタリアの赤き跳ね馬! 『フュラーリ!テスタ・オッサン・ドナイシテマンネン』だとっ!」
「テスタロッサちゃんなら、トライアングル・ハートでリリカルなお友達とか、アーム・スレイブで戦う潜水艦の館長さんとか、転生してスライムになった人とかで大人気だろうに、なんでよりにもよって、オッサンにしちゃったの?」
アキラちゃんのテーブルの七生さんも亀太郎さんも<●> <●>みたいな表情になっている。あっちはあっちで大変そうだ。あっちもアキラちゃんと一緒にお昼に行った事を後悔している表情が良く見える。
「やられたっ。メインディッシュに俺が重量級の料理を持ってくるのを想定して、それをデザインで美しく躱す策で俺を罠に嵌めたと言うのか!?」
「罠とかあるの? この対決?」
「メインディッシュ対決でこんなビハインドを背負うなんて! 絶対に負けられない戦いなのに、このままでは負けてしまう!」
「はい。はい。次はデザート対決なの?」
「はっ。これだから素人は・・・。」
「その顔ムカつくから止めなさい。」
「次こそはクライマックスを迎える最終統合料理対決だ。これぞ勝負を決める最後の戦い。これまでの戦いで全て負けていても、この戦いに勝てさえすれば一発逆転大勝利だ!」
「それって、これまでの戦いが全部無駄じゃない。出来の悪いバラエティ番組みたいな構成は止めてくれない?」
「千世子、次の料理でアキラに勝って、アキラをギャフンと言わせてやるから待っていろよ。」
「私、もう帰りたいのだけど・・・。」
「それは俺の最高の料理を見てから考えるのだな。見ろ! ネギトロ巻にブルーハワイゼリーを組み合わせた蒼龍が守るのはカレーの財宝。そして財宝を守るから揚げとアンニン豆腐の装甲と、攻撃の圧力を受け止めるチーズとキムチ、そんな要塞をカモフラージュするホイップと黒酢あん! これぞ人類の希望を詰め込んだ最強要塞、『極彩蒼龍寿司・カレーゼリー杏仁終焉要塞 』だ!」
「わざわざ要塞まで築いて、守る中身がカレーなの?」
「ふふふっ。我が無敵要塞の前にアキラも動揺しているに違いない・・・。あっ、あれは!?」
「あっちもヤバイわね。」
「チャーハンに焼きそばとカレーの炭水化物に、カルビとマグロ寿司、そしてキムチにたくあんのサイドメニューを絡めて、さらにはプリン、ソフトクリーム、チョコソースのデザートも入れる。全てにおいて全く隙の無い布陣。まさに世界の終わりを告げる皇帝の横綱相撲! あれが『終焉皇帝焼肉寿司・麺飯甘味七界合一丼 』だと言うのか!」
「一皿に色々盛られているだけで、実は今までで一番まともね。これ、アキラちゃんの勝ちじゃないの?」
「ふふふふふっ。最後の最後でアキラの知略の泉も枯れたと見える。どんなに隙の無い布陣でも、所詮は1個1個の料理の寄せ集めにすぎない。単体で美味しい料理が襲いかかって来た所で、我が無敵要塞は各個撃破して勝利する。千世子!勝ったぞ! 我が無敵要塞の勝利だ!勝どきを上げろ!」
「ワー。スゴイナー。ヨウサイ、スゴイナー。」
私は空気を読んで、なんか盛り上がる阿良也君に合わせて、適当な会話をして流す事にした。
「そうだろう。そうだろう。各個撃破をすれば、銀河帝国軍が全部来ても大丈夫。ってヤン・ウェンリーも言っていたからな。なろう小説でもとりあえず各個撃破しておけば天才軍師だ。」
「阿良也君、銀英伝のファンに殴られるわよ。」
アキラちゃんは負けたはずなのにニコニコしている。あの嫌らしい笑みは何かを企んでいる時の顔だ。
「どちらにしても、これで俺の勝利・・・・何!? アキラやつ、突然料理にマヨネーズをかけ始めた。苦し紛れか? いや、違う。あれはカロリー1/2マヨネーズ!まさか、マヨネーズをかけてカロリーを1/2×1/2×1/2・・・で限りなくゼロに近づけるつもりか! 公道最速カロリー1/2理論を実践する気か!」
「全部マヨネーズ味になりそう。」
「はっ、まさかアキラの作った料理は、『終焉皇帝焼肉寿司・麺飯甘味七界合一丼アブソリュート・ゼロ』!すべてをゼロにして終わらせるつもりか! まずい。こうなってしまったら、俺の終焉要塞の防御力では足りない。なんとかしないと・・・・。これだっ。サウザンド・アイランド・ドレッシングを大量投入!これをかけて、俺の要塞を『サウザンド極彩蒼龍寿司・カレーゼリー杏仁終焉要塞諸島 』にパワーアップだ!」
「駄目よ阿良也君!」
「これで俺の要塞にもさらに防御力が・・・・・・・・・。ゲロにしか見えない・・・。そして、お酢が入ったドレッシングの匂いがゲロとしか思えない・・・。」
「ええ、色と言い、浮かんでいる内容物と言い、ケロケロにしか見えないわ。流石に阿良也君の謎の創作料理でも、これはまずいと思うわ。というか、そのゴミのような料理を早く食べてくれない? 食べ物は粗末に扱わないでね。 その間、私はアキラちゃんのテーブルに行っている事にするわ。」
「俺の無敵要塞が、今やゲロの海に沈んでいる・・・。
くそっ、これが敗北の味か・・・酸っぱくて、臭くて、目にしみるぜ・・・。
負けた。完全に負けた。心も皿も、びちゃびちゃだ・・・。
絶対に負けられない戦いだったのに・・・俺はアキラに負けた。
さらば、俺の誇り。さらば、きれいだった頃の要塞・・・。」
「ポエミーで大変そうね阿良也君。演出の他に脚本もできるんじゃないの?」
「今日の戦いに勝つために、昨日から考えていたのに。今日の戦いで負けると、俺達のサイド乙が公開稽古をしなきゃいけないのに・・・。絶対に負けられない戦いだったのに・・・・。」
「んっ? 阿良也君、今、変な事を言わなかった?」
「今日の戦いに勝つために、昨日から考えていたんだよ。」
「そこじゃなくて、次のフレーズの部分。」
「俺達のサイド乙が公開稽古をしなきゃいけないって所か?」
「そう。そこ、どういう事なの!?」
「そのままの意味だが? アキラのサイド丙(ひのえ)か、うちのサイド乙のどちらかが、舞台前の宣伝で公開稽古をすることになって、どっちも公開稽古なんてして手を晒したくないから、スタミナが付く次郎でアキラと勝負したんだ。結果はご覧の通りさ。俺の背中が煤けているぜ ・・・。」
「自分で煤けないでよ! そんな事、私は聞いていないわ! 何てことをしてくれたのよ!」
「・・・勝てると思っていたんだ。宝塚記念に二連覇したゴールドシップぐらい簡単で絶対に勝てる勝負だと思っていたんだ・・・。」
「借金を作って競馬につぎ込むようなバカな父親の真似をしないでよ! 何をやっているのよ!」
「本当に申し訳ない。」
「どこのメタルマンよ! ・・・そうよ! 景ちゃんのサイド甲はどうなの? いまからでもサイド甲にすれば・・・。」
「サイド甲は山田花子が、『そんなの無理!絶対に無理!なぜか主人公がダースベイダーになっている稽古シーンなんて絶対に見せられないです~泣)』って、ちいかわみたいになって、それはそれは おもしろ ・・・不憫で、サイド丙かサイド乙が公開稽古をする事になったんだ。」
「・・・そんな話、私は聞いていないのだけど?」
私は阿良也君を睨みつけた。
「それは、千世子を舞台に集中させたい俺の気遣いに決まっているだろ。俺は天然キャラとか言われても、イケメンを演じようと思えば、演じられるんだ。なんて言っても、カメレオン俳優だからな。」
この最中に見事な演技でクールに決めた明神阿良也に、私はブチッと切れた。
「この大馬鹿野郎!結果的に大迷惑よ!」
私はこの瞬間、バカな牛魔王の夫を持つ羅刹女の怒りを本当の意味で理解した。
この後、キレた私は二人を持ち歩いていた芭蕉扇でバシバシ叩きながら、この怪しげな料理の数々をアキラちゃんと阿良也君に最後まで食べさせた。
涙を流しながら食べる二人は、可愛そうな奇声を上げながら、もちもちほっぺ大作戦のスピキみたいになっていて、ほんのちょっとだけ溜飲が下がったのであった。
予想外の驚愕の理由で公開(後悔?)稽古をする事になってしまったサイド乙。
そして、新たなる怒りの表現を手に入れた千世子ちゃんの成長は?
続きをおたのしみに!