星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
----------------------- 町田リカ視点 —----------------------
私の名前は町田リカ。 スターズの中で、最近リポーターの仕事を多く振られる人気女優である。
そう。女優。女優なのである。
バラエティや旅レポーター、終いにはお天気お姉さんやただのタレントと勘違いされているけど、私の本業は女優なの。 アキラさんにもお笑いもいけるんじゃない? とか言われて、直々にツッコミのレッスンまで受けたことがあるけど、あくまで私は女優なのである。
最近で一番ショックだったことは、この前ドラマに出たら両親に「リカはドラマに出る事もあるんだねぇ。」とか言われた事だ。
「・・・・・・・・・・。」
こんな取り留めのない事を考えてしまうぐらいに、今日の私は緊張していた。
「時間で~す。リカちゃん準備OK?」
「OKです。」
「それじゃ中継スタート。」
「はい。私はいま日本、いや世界中で話題沸騰の舞台! 羅刹女の稽古場にお邪魔しています! ここではなんと! 主演の百城千世子ちゃんを始めとした、サイド乙出演者の方々が熱血稽古中なのです! 皆さん! 中の様子が気になりますよね? 私もすごく気になります!」
始まったな。
TVとYoutubeの同時生放送は熱い。
リポーターはリカちゃんだな。
彼女ならこの難しい生放送も問題無く回せるだろうね。
町田リカ、すっかりリポーター業が板についてしまって・・・。
彼女も三年前のスターズオーディションで選ばれたシンデレラガールだったはずがどうしてこうなった・・・。
ある意味、若い才能を育てるというスターズの理念をバラエティとリポーターの方向でいかんなく発揮している傑物。
星アキラの元、どんどんあれな方向に手が付けられないスターズにおいて、貴重な常識人枠だぞ。
いや、彼女の年齢でこれだけ現場を回せるタレントは、他の事務所からは喉から手が出るほど欲しい人材だぞ。スターズの周りがバグっているだけで。
たまにドラマに出ると、バラエティ芸人やお笑い芸人がドラマに出ている扱いで笑うw
自称女優はかわいそすぎるwww
今日は千世子先輩が主演を務めるサイド乙の公開稽古の中継日で私がキャスターを務める日なのだ。
先輩のためにも、羅刹女のためにも絶対に失敗できない生放送である。
私は扉の前に立って、視聴者の興味を惹きつける間を作った。
サイド乙側の意向で、リハーサル無しのぶっつけ本番だったので、私も中でどんな稽古がされているか分らない。
「見てみたいですよね。それじゃ開けますよ! せーのっ! きゃあぁあああああっ!!」
扉を開けた瞬間に、私は心臓を直接掴み上げられるような恐怖に陥った。
暗くなった稽古場の中には、百城千世子の貌をした鬼が私を見つめて、怒りを露にしており、今にも私を呪って心臓を食い破ろうとしていた。
ガチビビリした私は、腰が抜けてドア付近の床にへたり込み、呆然と千世子先輩の顔を見る。
「千世子せんぱい?」
私は暗い部屋の中で、千世子先輩の顔をした鬼に無意識に震えた声で呼びかけた。
「ああ、この怒り、どうしてくれようぞ。」
そう言って、この世の全てに怒りをぶつける修羅の鬼は私に興味を失ったように、目を逸らして奥に歩いて行く。
「はあっ、はあっ、はあっ、何これ? あの化け物は本当に千世子先輩なの? あんなの人間じゃない。 千世子先輩は演技の天才とか言っても限度があるでしょう? 俳優は演じる以前に人間なのよ。 いくら演じても物理的に人間の枠なんて超えられないのに、なんなのよ、あの化け物は・・・・。」
この時、私が腰を抜かしてへたり込む様子や、脂汗を流して素に戻って、自分の心を守るために必死に独り言を言う様子を、扉からの光を頼りに、薄暗い中でカメラは私の顔をアップにして、天才と凡人である私の差を残酷に捉え続けていた。
そして、この瞬間こそ、ドラマでもたまにしか呼ばれない自称女優である私と、本物の天才女優である百城千世子の才能の差を、魂のレベルで分らされた瞬間だった。
あの存在が本当に人間だとしたら、百城千世子はテレビで作り出された虚像の天才なんかじゃない。私なんて何をしても全く届く事の無い、頂上にいる天才だ。
でも同じ人間では思えない。あれは人間じゃない。人間の形をした鬼だ。怒りに囚われた修羅だ。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
私は呆然としたまま、脂汗をかいて肩で息をしていた。
「リカちゃん。リポート、リポート。」
「はっ?」
ある程度の時間、一緒に呆然としていたものの、先に我に返ったディレクターさんが声をかけてきて、私は今、とんでもない失態を犯している事に気が付いた。
私は起き上がって、カメラの前で仕事を再開した。頭の中で様々な思考が回るけど、それとは別に私の中で培ってきたリポーターのスキルは、思考がまとまる前に自然と言葉を吐き出して仕事を再開した。
「ごめんなさい。千世子先輩があまりにもいつもと違う姿だったので、完全に意識を飛ばしていました。 羅刹女の魅力と凄さをお伝えしなければいけないのに、申し訳ございません。それほどまでに、一目みただけで、千世子先輩の羅刹女は私にとって衝撃でした。」
これは仕方が無い。
カメラに映った百城千世子を見た瞬間に俺も同じ気持ちになった。
リカちゃん、俺達すぎる。
分かりみしか無い。
あんなの、千世子ちゃんじゃないよ! 絶対に鬼か修羅が憑依しているよ!
バカ、千世子ちゃんじゃないだろ。千世子さんだよ。
千世子さんでも生ぬるい。絶対に神が乗り移っている。千世子様と呼べ。
千世子神w
本当に羅刹女が憑依してそう。一瞬映ったあの美しい美貌と神の怒りのシーンが目から離れない。
なまじ美人すぎるから怖すぎる。
普段の可愛い千世子ちゃんでも現実味が無いのに、それが怒りに囚われた羅刹女とのギャップが衝撃的過ぎる。
俺、失禁したわ。
俺もちびった。 まじで凄すぎる。
私はリポートを続けながら、この失態で芸能キャリアが終わったと心の中で脂汗をかいた。
その後は何を話したかはよく覚えていないけど、スターズで演技と技術と立ち回りをとことん仕込まれていた私の体は、私の意思とは裏腹に失態後も仕事を正確に続けていた。
レポートが終わった後に、私の芸能人生活は終わったと思って、稽古場の裏で泣きはらしていると、ディレクターさんが声をかけて来てくれた。
「リカちゃん、今日のリポート本当に良かったよ。」
「ディレクターさん、あんなリポートが良い訳がないじゃないですか。私はあんなに驚いて、あんな失態をして、リポーター失格です。」
「そうかな? とても良いリポートだと思ったけど。」
「千世子先輩と私の才能の差は知っていましたけど、それを目の前で見せられて、呆然となってレポートを止めてしまうなんて。そんなのプロ失格です。」
「そこが良いのじゃないか。」
「あんなのの、どこが良いのですか!」
私は思わずディレクターさんに声を張り上げてしまった。
ディレクターさんは驚いたように目を丸くすると、優しく言った。
「リポーターの役割は、現場にいる人間として、視聴者の代わりに見て、聞いて、確かめ、それを分かりやすく伝えることだよ。あの時のリカちゃんは、誰よりもそれができていた。 誰もがリカちゃんを通して、あの瞬間の疑似体験をみんな共有したんだ。それこそが、今日のリカちゃんが最高だった所だよ。だからトイッターの反応も最高じゃないか。」
「えええっ。」
私は炎上していると思っていたトイッターを開いて、今回の反応を見た。
結果は、思っていたのと違う反応で、私の驚きや腰を抜かした部分が視聴者の共感を引き出したらしくて、とても好意的に捉えられていて、嬉しくってなんどもトイートを見た。
もっとも、『町田リカ俺達』や、『町田リカ失禁』のハッシュタグについては閉口したけど・・・。
「いいリポートだったよ。また次も頼むよ。」
そう言って、ディレクターさんは撤収準備を進めるスタッフの元に戻って行った。
それ以降、私のリポーターやバラエティ出演の機会は前にも増して増えて行く事となり、最終的にはアナウンサーでも無いのに、自分の名前を冠するニュースやバラエティ番組を受け持つぐらいに出世する切っ掛けとなる出来事だった。
今思い出しても、あの瞬間に千世子先輩のようになれないと分らされたのは、私だけではなくて、視聴者のほぼ全員が感じた事で、女優になり切れない私は、因果な事に視聴者の心情を誰よりも明確にあの場で体現した存在だったのだ。
結局、私には女優として大成する才能は無かったけど、ちゃんと別の才能はあって、この瞬間に芽吹いたらしい。
そして、今日もニュース原稿を用意しながら、私の名前を冠するニュース番組で晴れやかに笑顔を見せるのであった。
「こんばんは。町田リカのニュース・ステージです。それでは、本日の主なニュースはこちらです。」