星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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三坂七生は殺陣を練習する

--------------- 三坂七生視点 ---------------

 

舞台羅刹女は活劇であり、殺陣(たて)を要する。

 

私達は殺陣師の指導の元、立ち稽古を始めている。

 

ちなみに、活劇とは戦い・追跡・冒険など、激しい動きを中心に見せる物語や芝居のことで、もともとは「活動写真(映画)」や演劇で使われた言葉で、特に立ち回り、剣戟、格闘、逃走、救出、冒険など、人物が活発に動く場面を見せ場にした劇の事を指すので、活劇。

 

冒険とこの活劇が組み合わされれば、キャッチコピーなんかでよく見る『冒険活劇』になるわね。

 

つまり考古学者の大学教授であるインディ・ジョーンズが古代遺跡で冒険を繰り広げると、ジャンルは冒険活劇になる訳ね。あの大学教授のフィールドワークはアクティブすぎなのよね。

 

羅刹女は何になるのかしらね? 西遊記のエッセンスをいれると冒険活劇だけど、『怒りを中心にした幻想剣戟活劇 』あたりかしら? どこのスマホゲーの紹介コピーよ。

 

そんな訳で、私達、羅刹女の出演者は剣戟が必須項目で殺陣の練習をしていた。

 

殺陣(たて)なんだけど、映画・ドラマ・舞台なんかでやる振り付けられた戦闘シーンの演技ね。大切なのは、殺陣は本当に相手を倒すための戦いじゃなくて、安全を確保しながら、観客には本気の戦闘に見えるよう構成された動きをしなければいけない点。これが本当にきつい。

 

なぜなら、映画やドラマの場合には映像のカットと編集で不要な所は写さないし、表情なんかもカメラのズームで観客に良く伝わる。でも、舞台の上で全身を使って本気の戦闘を伝えるのは大変な演技だ。

「武器を振るな。武器に振られている。」

「速すぎる。客には何をしたのか見えない。舞台の殺陣は、相手を倒す技術じゃない。客に倒したと信じさせる技術だ。」

「良くなってきたな。もっと円に動かして動きを華麗に見せるんだ。」

「ありがとうございます。」

 

当然、50代前後の中国武術出身の殺陣師の先生が居て、私の演技を指導してくれる。正直、この先生に演技を指導していただけるだけでも、出演する価値のある舞台だ。

 

この殺人師の先生は、もとは香港映画のアクション指導でジャッキー・チェンやサモ・ハン・キンポー の演技指導までしていて、その後ハリウッドやブロードウェイでアクションを教えた後に、香港に戻った所をアキラに巨額のオファーで来てもらったらしい。

 

流石はアキラ。人脈がすごすぎる。

 

そんなアキラだけど、一生懸命、如意棒の練習をしているかと思いきや、先生の基本の動きを記録したDVDを見て、如意棒を持たずにひたすら基本の動きを繰り替えしている。もう3日はずっとこんな感じだ。

 

「先生、アキラは棒すら持っていないのですが、あれでいいのですか?」

 

「あんな生徒はなかなか居ないが、やっている事は間違っていない。すべての発展の演技は基本の上に成り立っているから、基本を徹底的に身に着けるのは理にかなっている。」

 

「でも、それなら棒を持った方が良いのでは?」

 

「あながちそうとも言えない。最初から棒を振り回せば、棒を動かす事に意識が向きすぎて体に変な癖が沁みついてしまう。変な癖を付けるぐらいなら、イメージトレーニングを優先して、イメージの通りに体を動かすのは間違っていない。・・・間違っていないのだが・・・。」

 

先生は歯切れの悪そうな表情をする。確かに棒術の練習なのに、棒を持たないやつなんて前代未聞だろう。そもそも、アキラはポーズを決めてどや顔をしまくっているけど、本人の頭の中では超かっこいい動きなのかもしれないけど、傍から見ていると非常に滑稽である。

 

そうしてアキラはそのままさらに、4日間イメージトレーニングに費やして、8日目にしてようやく如意棒を取った。

 

クルクルクル。シュバッ。

 

あいつは大道芸人のようにリズミカルに如意棒を回転させて、ばっちりと決めポーズをとる。

 

「アキラ、前から棒の練習をしていたの?」

 

「そんなわけないじゃん。如意棒なんて初めて持ったよ。」

 

「まじか!?」

 

「イメトレだよイメトレ。イメージトレーニングがすべてを解決するんだ。イメージの通りに体が動けば、そのとおりになるじゃん。 僕は常に、異世界転生して、チートで大活躍して、モテモテハーレム生活をイメージしているぐらい、イメージには自信があるんだ。序盤、中盤、終盤と隙のない僕は、そこら辺の中学2年生には絶対に負けないよ!」

 

「こいつ、病気だろ・・・・。」

 

明らかに中二病のヤバいやつだが、実力の伴った中二病ほどヤバいものはない。

 

数日後には肩や首で如意棒を回転させるようになっていた。

 

「大道芸じゃない!! アキラは一体どこに行くつもりなんだ!」

 

「異世界?」

 

「違うだろ!」

 

アキラとの会話には着いていけなかったが、そこからさらにアキラは進歩していき、ついには誰もが見ほれる動きをビシッと決められるほどになっていた。むしろアキラと比較すると、私の動きのほうがへっぴり腰で、一緒に並んで演武をすると劣って見える。とんでもない上達速度だ。

 

私と亀太郎はアキラに負けじと練習するけど、追いついたと思った次の瞬間、アキラはさらなる高みに上達する。というか、コイツ、私達が技量を上げるのを計算して、次のステージの難しい技をしてきやがる。

 

私達は躍起になって、アキラに追いつこうとした。朝は誰よりも早くレッスンルームに入って、夜は深夜まで練習して、そのまま風呂に入って、死ぬように眠った。

 

アリサさんは私達とセリフ合わせはしたけど、殺陣の練習は一緒にしなかった。お互いに、どういう風に動くのかという取り決めが書いてある台本があるだけだ。

 

本人達曰く、「羅刹女と孫悟空の一味は羅刹女と初めて戦うのに、稽古で一緒に慣れ合っていたら、観客にその甘さや予定調和の動きが伝わっちゃうじゃない。そこで初めて戦うからこそ、舞台の上で絶対に失敗できない緊張感が戦闘の緊張感に繋がるのよ。特に1日目の舞台が投票の対象なのだから、1日目が最高の舞台にするべきよ。」

 

とのことだった。そして、巌さんもそれに異議を唱えなかった。薬師寺真美さんに至っては戦う気すら無いらしい。

 

怖すぎる。もちろん台本はあるけど、舞台が開幕するまで出演する役者自身もどういう舞台になるのか全くわからない舞台とか意味が分からない。今回の舞台は恐怖でしかない。

 

そんな事を考えながら、私は沙悟浄の武器である半月状の刃が付いた降妖宝杖を振り回す。

 

稽古場の鏡の前で、無意識に降妖宝杖を振り回す自分を見る。

 

「あれ、私ってこんなに綺麗に降妖宝杖を振り回せてたっけ?」

 

クルクル、シュバッ、チャキッ、バシッ、ビュッ、バン。

 

アキラに追いつくための特訓の結果、私の降妖宝杖はとても舞台の小道具とは思えない音がするようなっていた。そして、ぼんやりといろんなことを考えながらでも降妖宝杖は体の一部のように動くようになった。

 

女で小柄な自分が降妖宝杖を振り回しても、体幹が全くブレない。

 

ようやくアキラに追いついた・・・。そうおもった矢先。

 

ギャァァァァ、シュバッ、クルクルクル、スポッ。

 

「はっ?」

 

アキラは、如意棒をアクロバティックに振り回すとそのまま上にぶん投げて、そのまま背中の鞘に華麗に格納される。

 

これまでのアキラの如意棒の速度よりもさらに早く、華麗すぎる動きの前に目が点になる。私は速く動かしすぎて観客に見えないという事を良く注意されていたけど、アキラはそんなレベルではく、如意棒を見えない動きで動かす事をさらに演出として加えて来た。

 

ここに至っても、アキラがさらにギアを上げて来る。この動きでアキラが如意棒を振り回せば、確実に沙悟浄と猪八戒の私達は浮く。

 

私は呆然とアキラを見た。

 

こいつ、実力で私達にさらなる努力を促しやがった。

 

アキラは、阿良也みたいな役で絶対に妥協しないタイプの俳優では無い。 むしろその場のノリと雰囲気で良い感じに持っていく天才だと思われている。

 

アキラは、阿良也と違って他の俳優を立てるし、もし、サシで共演するならどっちが良いかみたいな話題になると、天球の劇団員ですらアキラを選ぶ事が多い。

 

そりゃ、天才肌でも役に入り込んで妥協を全くしない阿良也よりは、大分付き合いやすい相手だし、ムードメーカーで一緒に演技をしていてもとても楽しい。

 

実際にアキラは妥協しない人間でも無いし、完璧主義者でも無かった。

 

だが、良く考えてみると、妥協もするムードメーカが阿良也と同レベルの評価を得ている事はすごく異様な事だ。

 

私は阿良也と一緒に舞台をやるからこそわかる。阿良也は天才で、私は阿良也に届く事は無いだろう。

 

ではアキラは? 私はアキラに届くのか?

 

パキン、グルグルグル、ビュッ、ピシ。

 

嫌になるぐらいにアキラのポーズは決まっている。すごい動きと技のキレだ。殺陣師の先生も感嘆の声を上げる。

 

こいつ、実は阿良也以上の天才か何かなのか? いや、天才という言葉でも生ぬるい。こいつはまさに・・・。

 

「どうしたの七生姉さん? もしかして僕に見惚れちゃった? こんなにカッコイイ僕を見ちゃったら、当然、ドキドキがムネムネだよね。」

 

「・・・・・・・・・・珍獣(ボソっ)。」

 

「ん?」

 

猛烈なアキラをアゲる思考の後、私がたどり着いた結論は、天才という言葉でも生ぬるい珍生物。つまり珍獣という結論だった。

 

「絶望した絶望した!こんだけアキラの凄さを考えたのに、一周回って、ただの珍獣だった事に絶望した。」

 

「どうしたの七生姉さん、突然、絶望先生みたいになって。」

 

「お前のせいだろ!」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ痛い~!」

 

私は理不尽な怒りのアイアンクローをアキラにキメまくったのだった。

 

 




ちなみに、アキラ君のこの辺のイメトレを優先する能力は、前世でピアノやヴァイオリンでやった基礎練習の積み重ねからアキラ君が覚えた技術ですね。
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