星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
------------ 湯島茜視点 ------------
私と源真咲(みなもとまさき)は喫茶店で、烏山武光を待っていた。
「わりい。待ったか?」
「待ったで。何してたん、道草食ってたん?」
コーヒーを飲み終わった所で、ようやく武光が入って来た。
私と真咲ちゃんと武光君は、景ちゃんと一緒にデスアイランドのオーディションを受けて、全員デスアイランドに出演。そして、その後もイカ娘に出演したり、仲間として一緒につるむ仲だった。
「それで、これなんだけど・・・。」
そう言って、武光君はチケットを私と真咲ちゃんに差し出して来た。景ちゃん達、サイド甲の4回目の公演チケットだ。
流石に武光君でも、超スーパープレミアムである初回チケットを用意するのは難しいのだろう。
ましてや、さらに人気のあるサイド丙なんて無理ゲーすぎる。
「・・・・わざわざありがと・・・。」
「・・・サンキュ。」
私達は、たいして心が籠っていない感謝の言葉を言った。
「そりゃ、舞台は招待させてもらうさ。仲間だからな。それより、どうしたその顔は?」
「別に、なぁ、真咲ちゃん。」
「ああ、普通だよ、普通。」
私達は、ぶっすー。と頬を膨らませて、武光を睨みつけた。
「ああ、夜凪なら、連絡はしたけど、たぶん稽古で来ないぞ。もうすぐ稽古なので、俺も行くけど。」
「ちゃうって、なんで武光君が景ちゃんと共演してん!? ずるいやんか!!」
「ずるい事は無いだろう。そう言う事もある。」
「武光、お前は、今、流れが来てるみたいだけどなぁ、俺はすぐに追い抜くんだぞ。調子に乗んなよ。」
真咲ちゃんがブチギレながら言った。正直に言って、私達はこの全日本、いや世界レベルで注目されるこの舞台に出演できる武光君に嫉妬していた。
「その心配はないな 安心しろ。真咲。」
「あ?」
「調子に乗るには俺は色んなものを犠牲にし過ぎたからな。」
「犠牲って・・・・?」
「さぁ?そういえば、こいつも沖縄からの上京組だっけ。」
「もしかして、勘当されてた親父でも観に来るのかよ?」
「よく分かったなそうなんだよ」
「「ええっ!」」
マジで、真咲ちゃんの予想が大当たりやと!?
「お、そろそろ 時間だ 行くよ」
「おおう。」
「ありがとうございました!」
そう言って、武光君は喫茶店を出て行った。
「何ズケズケ突っ込んどんねん! 性格悪いで、真咲ちゃん!!」
「いや 冗談のつもりで言ったんだって! ガチだなんて思わないじゃん!」
私達は微妙な空気の中で、お互いに責任を擦り付け合った。
「おまたせしましたっ! あれ? 武光さんは?」
「「は?」」
突然、景ちゃんが喫茶店に入って来た。
「武光君なら、さっき、稽古だって言って、チケットだけ渡してすぐに出て行ったで。」
「そうなんですか。せっかく会えるのに、もっとお話しすればいいのに。」
「景ちゃんは、稽古の時間大丈夫なの?」
「大丈夫ですよっ。だって、山田花子さんが過労と心労で倒れる寸前でピクピクしていますから、最近は、みんながダラダラと集まって、稽古を開始しているのでわりと稽古時間は自由ですっ。」
「「えええっ~。」」
「昨日なんて、羅刹女をVガンダムの圧倒的ヒロインである、カテジナ・ルースさんで演じたら、卒倒してしまいましたっ。清楚なヒロインで、怒りの役にピッタリだったのにあれは酷かったですっ。おかげで今日は、山田花子さんは入院中で、わりと自由に稽古する感じですっ。」
「景ちゃん、怒り抱えた女と狂人はちゃうと思うで。それに山野上花子さん不憫すぎん?」
「カテジナさんだって、第一話と第二話ぐらいは清楚だったんですよ。徐々に怪しくなって行きますが・・・。」
「ほんま最初のうちしか清楚ちゃうやん。」
「最近、悪役令嬢ものが流行りなので、時代の流行でカテジナさんは絶対にウケると思うんですっ。」
「悪役令嬢のレッテル貼られたいい人と、ガチの狂人はやっぱちゃうと思うで。」
「カテジナさんが居ないVガンダムを考えてみてください。カテジナさんが居ないと、次々と死神シャクティの魔の手によって、淡々と登場人物が死んでいくだけの物語になってしまうのですよっ!」
「それはそれで嫌やけど、そもそも、羅刹女とカテジナさんは関係あらへん。」
「こんな感じの話を山田花子さんとして、それで孫悟空が牛魔王に変装するシーンで、王賀美さん扮する孫悟空を『甘いわね坊や』と言いながらナイフを突き立てたら、山田花子さんが白目を剥いて倒れてしまいましたっ! 怒りに囚われた女は、どんな手段も選ばないはずなのに、山田花子さんは甘すぎますっ! もっとカテジナさんを見習うべきですっ!」
「もう話変わっとるやん。」
「ちなみに、私とカテジナさんは同じ17歳なので、シンパシーを感じますっ。」
「嫌なシンパシーやな。しかも、カテジナはあれで17歳やで。貫禄ありすぎやろ。」
「その通りですっ。17歳で出せるあの貫禄こそが、羅刹女に繋がる貫禄なのですっ!」
「なるほどな。さっぱりわからん。とりあえず、山野上花子さんはご愁傷様やで。」
「話が逸れてしまいましたが、そんなわけで、お二人にはこのチケットをお渡ししたいのですっ!」
そう言って、私達にそれぞれ3枚のチケットを景ちゃんが渡してくる。
チケットを見ると、なんと、羅刹女のサイド甲、サイド乙、サイド丙の初回公演チケット。しかもS席という、スーパーウルトラ超プレミアムチケットやった。
「なっ、なんやと!? とんでもないお宝チケットやん! ほんまにこんなん、うちらにくれるんか!」
「マジかよ!? これ、いくらするんだ!?」
転売ですら手に入らない恐ろしいチケットに背筋が寒くなる。下手すると、この3枚で車が買えるか、下手すると家すら建つんとちゃうか。
特にサイド丙のチケットは、どんな末端の席でも絶対に手に入らない、とんでもないお宝チケットや。仮に入場できなくても、チケットだけ残しておけば、そのうち、なんでも鑑定団とかでものすごいプレミア価格が付くかもしれん。
「アキラさんにお願いして、取ってもらったのです! でも、もしかして、武光さんと被ってしまいましたか?」
「だっ、大丈夫や。武光君がくれたチケットは別の日やからかぶってへん。両方の日に応援に行くから楽しみにしていてや。」
私は、公演四回目の一番端の方の席だが、それでも武光君が私達の事を想って、一生懸命取ってくれたチケットを思い浮かべながら言った。
「良かったですっ。もちろん、私達、サイド甲の応援をお願いしますね。今回、現地投票とネット投票で明確に勝負が決まるので、サイド乙には絶対に負けられないのですっ!」
「サイド丙には負けていいの?」
「あっちはエンジョイ枠だからどうでもいいですっ。そもそもアキラさんを取られた時点で負けは決まっていますから、サイド乙との戦いに焦点を絞ればいいのですっ! とりあえず千世子ちゃんには絶対に勝ちます!」
「負けず嫌いなんかクレバーなんか、よう分からんやん。そんな星アキラ一人入っただけで変わるもんなん?」
「ハッキリと言うと、私と千世子ちゃんはおそらくほぼ互角です。ここにチョイ役ならともかく、番付2枚目の役者にアキラさんを付けるというのは、ブーストが効きすぎて、私と千世子ちゃんの演技差なんて関係ないぐらい点数差が付いて本末転倒です。だから、羅刹女の役の選定時に私と千世子ちゃんはアキラさんを役に加えない紳士協定を結んだのですっ! でも、それを見越したアリサさんの乱入は完全に想定外でしたっ! 完全にアリサさんの手のひらで私と千世子ちゃんは転がされていますっ。」
「明神阿良也もすごいやろ。」
「阿良也さんはすごいですよ? 完全に芸術家肌で、演技の完成度はアキラさんを遥かに凌駕します。でも、阿良也さんは芸術家なので、単体で役が成立してしまうのです。王賀美さんも同じです。アキラさんは逆に単体で成立しないのですよ。何気ない仕草からメンバーをジグソーパズルのようにがっちりとはめて、舞台全体を成立させちゃうのです。 あれはチートすぎます。」
「でも、王賀美陸と星アキラという二人のハリウッドスター同士の対決は見ものだろ。」
「おそらく勝負は見えていますが、そのチケットで初回から舞台をそれぞれ見てもらって、3日目にアキラさんが出て来た時点で真咲さんにも分かると思いますよ。」
「じゃあ、明神阿良也と王賀美陸は?」
「それは状況と場面次第です。でも、その二人なら力量差はあまり関係ありません。だって、私が主演なんだから、どちらの役者が孫悟空でも私が喰えばいいのですよ。ねえ、すごくシンプルで分かりやすいですよね?」
私はびっくりして景ちゃんの顔を見た。 景ちゃんの深くて黒い瞳が、私を捕らえる底なし沼のように見えて、寒気がよぎった。
私も女優に片足を突っ込んでいるから分かる。いつの間にか、景ちゃんから、自分には触れられない高みに居る、頂点とも言える女優のオーラが漂っていた。