星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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批判記事を書いた週刊誌記者の話2

状況が変わったのは、夜に編集長から呼び出しの電話を受けてからだ。

 

「すぐに出社しろ!」と俺は編集長に呼び出されて、編集部に行ってみると、会議室で編集長と会社の執行役員、顧問弁護士を名乗る男が待っていた。

 

嫌な予感がして、どうしたのかと聞くと、星アキラが自殺し、星アリサがこの出版社に対して警察に被害届を提出したらしい。

 

「あなたと出版社は星アキラの名誉棄損と侮辱罪の被告として刑事事件で捜査されますが、焦点は事実の摘示になります。記事で実際に証言した人物と記事内容が真実であるかが重要です。」

 

「記事にあった、証言者の一覧とメモや録音した証言を今すぐ提出しろ! これは大変な事になるぞ」

 

「ねぇよ・・・」

 

「どうした? 記者なら取材記録ぐらい取っているだろ?」

 

「だからそんな物は無いって言っているんだよ! 証言を捏造するなんてこと週刊誌の記者ならみんなやっているだろ!」

 

「なっ、何バカな事言っているんだ!お前は妄想で書いた記事で星アキラを自殺に追い込んだのか!」

 

「そんなの勝手に自殺する方が悪いんじゃねぇか! そんな豆腐メンタルで芸能活動なんてやっている方が悪いだろ!」

 

「お前っ!」

 

俺に殴りかかろうとする編集長を周囲の人間が止めてもみ合っている間に扉がノックされた。

 

「警察の者です。星アキラさんの自殺未遂について、お話を聞きたいので署まで任意同行をしていただけないでしょうか」

 

警察に連れられて、出版社の正面を出た所で、一斉にフラッシュが炊かれる。

見ると同業者たちが、星アキラ自殺というセンセーショナルなニュースに飛びついて、俺を取材しようとしていた。

 

「あなたの記事で星アキラさんが自殺されたのですが、これについてコメントをください!」

「あんな記事を書いて良心の呵責が無かったのでしょうか?」

 

痛ましい表情をしながら、星アキラの自殺という特ダネに殺到する記者たち。

心の中では、この大ニュースに狂喜しているのが丸わかりだった。

俺はこの瞬間、取材する側から取材される側に転落したことを実感した。

 

社会に情報を提供し、公益性が必要とされる週刊誌が未成年を自殺に追い込むという注目度の高いニュースのため警察の動きは迅速だった。

 

そして、捏造された関係者など実際に居る訳もなく、あっという間に捜査は終了して1か月後には自殺教唆と名誉棄損、侮辱罪で書類送検された。

 

裁判の中で、俺の記事が完全な捏造だと公に証明された。

自殺教唆については自殺までは予期できなかったとして適用されなかったが、名誉棄損と侮辱罪として懲役1年5か月、執行猶予無しの実刑判決が下された。

 

安易に売れる記事を書きたいという身勝手な動機から、未成年の名誉を謂れなき記事で傷つけ、自殺に追い込んだことが重要視された結果であった。

 

自殺教唆が適用されなかった事から、上告せずに、記事を書いてからわずか2か月で刑が確定して俺は犯罪者となった。

 

その後、民事でも莫大な賠償金を背負った俺は、両親に勘当され嫁とも離婚して、刑期を終えた後は、賠償金を払うため、今日も日雇いの仕事でなんとか食いつないでいる。

 

あの時、あんな捏造だらけの記事を書かなければ、こんなことにならなかったのに。

 

金を借りに行った時に、いつも穏やかな両親があんなに激昂するのを初めて見た。

 

「自分たちが貧乏な時に、星アリサの映画やドラマに励まされて今まで頑張って来れた。それをこんな形で仇で返すなんて!」

 

星アリサの大ファンである両親は、星アキラが子役として出る作品も、まるで自分たちの孫が出演した作品のように喜んで見ていたのを思い出した。

 

両親やそれ以上の世代にとって、星アリサは女優という以上の存在であり、バブルが弾けた後の暗い時代を、彼女の存在によって生きる希望を与えられたり、助けられた人が沢山居た。

だから彼女は伝説のスター女優なのだ。そんな彼らにとって星アキラと言うのは、自分達の息子や孫も同然であった。

 

いまさらながら、星アキラというのはただの子役ではなく、多くの人から将来を嘱望され、愛されていた役者だということが判った。

 

あんな記事で自殺してしまうぐらい、本人にかかるプレッシャーも相当なものだったのだろう。

 

悪意を持って記事を書けば、悪意は自分に戻ってくる。自分は記者としてそんな基本的な事すら忘れていた。

 

今さら、いくら後悔しても遅かった。




以上、週刊誌記者さんの顛末でした。
次回は星アキラ君が前世を思い出します。お楽しみに!
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