星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
星アキラのYoutube放送に宣伝をお願いしてみたらどうか?
私がそう提案したのは、定期営業会議での話だった。
ジュピター製菓は東北地方で戦後まもなくできた企業で、地方に根付いた企業であり、現状では黒字経営であったが、少子高齢化の波がこの企業にも来ていて、せんべいやおかきなどを中心に、比較的年齢が高いお菓子を扱っているこの会社でも、昨今は売り上げの減少が始まっていた。
もちろん、根強いファンはいるものの、そう言ったファンをいかに広げていくのかが営業部の課題であった。
正直な話、せんべいやおかきなんかは、差別化が難しいし、地元素材にこだわるうちの会社は、質には絶対の自信があるものの、価格競争力が優れている訳ではない。
なによりもラインナップが若者向けじゃない。もちろん、若者向けのお菓子も開発はしているけれども、煌びやかなパッケージと最新技術を投入して作られた大手製菓会社と比較すると、どうしても商品力は落ちる。
質の高いうちのせんべいを食べてもらえれば、きっとファンになってもらえる。
とは思うものの、せんべいを食べる習慣の無い若者にうちのせんべいを食べてもらえる機会も限られていた。
ミーハーな私は、星アキラのYoutube放送を良く見ていて、私も良くチャットを書き込んでいた。
一緒に放送を見ているリスナーさん達に、うちのせんべいを食べてもらう機会が出来れば嬉しい。アキラ君やなんとなく同志になっているリスナーさん達にうちのおせんべいを食べてもらって、喜んでほしかった。
とは言っても、自分でもこの提案が受け入れられるとは思っていなかった。なぜならうちは、地方のお堅い企業。広報も地域密着型の物が多いし、広報費も近所の花火大会やローカルテレビ局へのコマーシャルなど、かなり保守的な物が多かった。
また、こちらから提案してもアキラ君側が受け入れてくれない可能性もある。地元コネ入社3年目の私は、とりあえず提案してみただけだった。
営業部の石城部長は、私の提案を聞いた後に、星アキラ側に連絡を取って実際に案件を受けてもらえるか確認するように指示を出して来た。
私はアキラ君にDM(ダイレクトメール)を送ると、スターズのマネージャさんを紹介されて、そこで価格や広告内容の交渉を行った。
この辺の交渉はスターズの方で一括でやってもらえたので、事務手続きも問題なく、安心して交渉出来た。
スターズ側が提案してきた料金は、安すぎる訳でもなく、高すぎる訳でもない絶妙な料金設定だった。
すんごく安いわけではないけれども、東京キー局のTVコマーシャル代や番組制作費用を考えるとはるかに安い。そんな価格設定。
うちみたいな会社でも、広告効果がちゃんとあるならいいかな?って検討できるぐらいの金額。
しかし、問題はその広告効果であって、契約内容には放送内での提供商品への批判も自由に許す契約となっていた。
最悪の場合、わが社の製品が批判されて、売れなくなる可能性もある訳だ。
他のYoutuberさんへ案件を出している企業もあるみたいだけれども、どれもニッチな商品が多く、売り上げのアップにつながっているかと言えば、良く判らない物が多かった。
つまりうちみたいな企業の案件放送、しかも生放送なんて他にはなく、広告効果は未知数。本当に博打。
お堅いうちの上層部ではこれは却下かな?と思っていたら、意外にもOKが出た。
理由は意外な物で、社長が星アリサのファンだったので、鶴の一声でOKとのこと。放送されたら星アリサのサインを取ってきてほしいとのことだった。
あのお堅いと思っていたうちの社長がかなりの星アリサマニアである事を知って、私は脱力していた。
そうこうしているうちに、世間では星キアラが大爆誕。アキラ君に案件はどっちで受けて欲しいと聞かれたので、迷うことなく星キアラと答えた。
東北のミーハーな女ば舐めるんでね。(突然の方言)
そうして、受けてもらった、案件当日。私と石城部長は宣伝してもらうお菓子を持ってスターズの事務所を訪れていた。
初めて生で見た、キアラちゃんは、本当に絶世の美少女で何かオーラが違った。中身は男の子だって判っていても、すんごく良い香りがしそうな美少女にしか見えなかった。
景ちゃんと野次馬に来ていた千世子ちゃんも居た。
純白の天使の千世子ちゃん、天然美少女の景ちゃん、そして黙っていれば、清純お嬢様のキアラちゃん。タイプが違うウルトラ美少女がそろい踏みで、クラクラした。
これが芸能人。一般人とはまるで違う・・・。カメラで見るよりも、みんなこの世の物とは思えないほど可愛いとか、まじでやばすぎる。
私達は、ちょっと商品の説明をするだけかと思っていたら、がっつりと出演することになって、びっくりした。
そして、私はキアラちゃんにぐわんぐわんに振り回されて、テンパりまくりで気が付いたら放送が終わっていた。
終わった時に、アキラ君がアリサさんを呼んできてくれて、アリサさん、アキラ君、キアラちゃん、景ちゃん、千世子ちゃんの直筆サインが入った色紙を3人分もらい、みんなで記念撮影をして、気が付いたら、東北新幹線に乗っていた。
帰りの新幹線で我に返った時に、私は放送でテンパりすぎた自分の所業を思い出して頭を抱えていた。
私の企画した広告企画は完全に失敗してしまったかもしれない。ヤバイ。
近くに座っていた石城部長に「広告失敗しちゃいましたよね?」と恐る恐る聞いたところ、「大成功だよ。工場には増産を指示しておいた。明日から忙しくなると思うから、覚悟しておけよ。」とニコニコしながら言われた。
私の頭にはハテナマークが一杯だった。
私は放送の影響を知りたくて、トイッターでジュピター製菓のページを開いたら、昨日までは数百人のフォロワーがなぜか1万人近くまで増えていた。
そして、トイッターのトレンドには「ジュピター製菓」の名前と、「うちのキアラがほんとごめんなさい」というワードがランキングに入っていた。
翌日からは、お菓子やおせんべいの売り上げが大増加。
特に関東地方や都市部への出荷が異常に増えた。
そして関西や九州からも取引の連絡があり、工場は増産を続けた。
正直な話、関東のキー局にテレビCMを流す以上の広告効果で、うちのお菓子が売れた。
これを機に沢山の若者がうちのおせんべいを手に取ってくれて、多くの人がリピーターとなってくれた。
えっ? TV広告を出したり情報番組に取り上げてもらうよりも、すごく宣伝効果が高いじゃん。
社長にはサインを渡して喜ばれたけど、みんなで撮った写真をすごく羨ましがられた。
これ以後、新商品が出たり、アキラ君の放送で良い事があればお祝いにお菓子を送り続けた。
たまにアキラ君の放送に出演させてもらったりもして、アキラ君はジュピター製菓の売り上げに貢献し続けてくれた。
後年、あの時に何気なくもらったサインと写真は、とんでもない超プレミアムお宝となり、我が家の家宝に認定されることとなったのであった。