星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
ロミオとジュリエットの配信をしてから少し経ったある日、演技の練習をしようと千世子ちゃんと一緒に、スターズのレッスンルームに行った僕は驚愕の光景を見ていた。
「景ちゃん、いいわよ。声も通っていて、すごくいいわ。でもアピールが足りないわ。」
「確かに今のあなたは美女と野獣のベルだわ。でもそれはあなたにしか判らない。もっと内に秘めたベルを外に解き放って、観客に自分がベルであることを伝えるの。」
「観客にあなたがベルであることを伝えるにはどうしたらいい? そうよ。もっと心の内側からにじみ出るベルの心を増幅して身振り手振り、話し方であなたがベルであることを観客に見せつけるのよ。」
景「私はどこかですごく大きな冒険をしたい、私はそれを誰よりも望んでいるわ。...そしてそれを誰かに理解してもらうのは素晴らしいことかもしれないわ。でも私は誰かが計画した冒険よりもずっとずっと壮大で素敵な冒険をしてみたい!!」
「いいわね。ベルの心が外に出て来て動作に現れているわ。現実のベルはこんなにオーバーな表現はしないでしょう。でも沢山の観客たちに、あなたがベルであることを知ってもらうためには、ベルが取る行動や言葉を大きく見える形にして伝える必要があるわ。」
アリサママが景ちゃんに熱心に演技の指導をしていた。
「アっ、アリサママ、こっこのシチュエーションはやばいよ。ヤバすぎるよ。大人の事情で漫画の名前を出すことはできないけれども、アリサママが景ちゃんを指導しちゃうと、どっかの少女漫画みたいになっちゃうじゃないか!!」
「ガラスの仮面の事? そういえば、景ちゃんが北島マヤで私が月影千草と考えれば、似たようなシチュエーションとも言えるわね。」
「ぐわっ。僕が様々な面を配慮してボカして言った事を容赦なくダイレクトに答えないでよ!!」
「でも、私は月影千草みたいな演劇キチガイじゃないわよ?」
「それは確かに、演劇キチガイじゃないとは思うけれども、サイコパス度はいい勝負だと思うけど・・・。」
「まさかとは思うけど、アリサママは幻の舞台の上映権とか持っていないよね?」
「ガラスの仮面の紅天女の事? その理屈だと、貴方の父親はお・・・・もごもご・・・。」
「ネタバレは流石にまずいっ、まずいんだよ。アリサママ! あの伝説的な金字塔漫画をネタバレしたり、パクるのは様々な人を敵に回して、すごくまずいんだよっ!!」
「突然、口を塞がないでくれる? 相変わらず意味が判らない子ね。そんな訳の分からない上映権なんてある訳がないじゃないの。そもそも月影千草みたいに上映権を寝かせちゃったら、みんなが紅天女の事なんて忘れちゃって、紅天女の価値自体が落ちちゃうじゃないの」
「うわぁ、大手芸能事務所の敏腕社長らしいひどく冷静なマジレス。そんな夢の無い話は聞きたくなかったよ。」
「でも、そっか。ガラスの仮面か。ふふっ。」
アリサママは、僕や景ちゃん、千世子ちゃんを見まわして笑った。
「アリサママが突然笑うとか怖いんだけど・・・。そもそもアリサママはガラスの仮面を読んだことがあるの?」
「もちろんよ。何を隠そう、私はガラスの仮面の北島マヤに憧れて役者になったのよ。」
「えーーー?あの冷酷無比なアリサママが、ガラスの仮面に憧れて? そんな訳ないよね。北斗の拳とか、男塾の間違いじゃないの? 民明書房に地獄徐雄(じごく女優)とか言う男を殺しつくす最強の職業が書かれていて、それを極めようとして役者になったんじゃないの? ぐはっ」
僕はアリサママの正拳突きを直に食らった。これぞまさしく撲針愚(ボクシング)の技。アリサママは古代ローマ帝国の奥義すらも極めていたのか・・・。
「あなたが、私をどういう目で見ているのかがよ~くわかったわ。」
「アリサママ、ごめん。続けて。」
「私は、北島マヤに憧れて役者の門を叩いたの。それで演技も北島マヤの方法を真似てその人になり切る事にしたの。当時はメソッド演技法なんて全然知らなくて、他のみんなもそんなの漫画だから無理だって言ったけれども、私は当たり前に北島マヤの演技法ができたわ。そしてそのうち、この演技法がメソッド演技法だって知ったの。」
「げっ、あれだけいろんな演技法にうるさいアリサママの演技法が実は漫画ベースの自己流だったの?」
「もちろん、役者になっていろいろ勉強したわよ。でも私の演技法のベースは北島マヤで、それを見習っていたらそれがメソッド演技法に分類された感じね。」
「アリサママ、天才すぎるよ。それって巨人の星を見習って、大リーグボールを練習してたら、そのまま大リーガーになって活躍しちゃうみたいな話じゃないか。」
「それ以上に、アリサママは女優の頂点を極めて、今は芸能事務所を立ち上げて社長だよ? 漫画の北島マヤよりもよっぽど成功しているじゃないか!」
「そうやって調子に乗っていたら、ああなっちゃったわけよ。だから私は景ちゃんをちゃんとしたメソッド演技法をマスターした女優として育てたいの。」
「話が繋がらないんだけど。 景ちゃんがメソッド演技法に手を出すと、ああなっちゃう危険性が高いよね? だから僕はアリサママに相談したんだけど?」
僕はアリサママをにらんだ。
「アキラ、よく考えてみなさい。 おそらく景ちゃんは私以上の天才だわ。 放っておいても遅かれ早かれ自分のメソッド演技法を確立して、自己流のメソッド演技を始めるわ。 メソッド演技の危険性を誰よりも知る私が直接指導するのと、自己流でメソッド演技を身に着けるのと、どちらの方が危険だと思う?」
「うっ、それは自己流の方だと思う。」
「そうよ。 だからメソッド演技の経験と知識がある私が景ちゃんを壊さないように育てるの。 私以上の適任者は他に居る? メソッド演技の知識しか無い人間に任せた所で、本当の意味で景ちゃんを理解できないで、最終的に景ちゃんの心を壊すに決まっているわ。」
「アリサさん、変わりましたよね。 前はメソッド演技をあれだけ毛嫌いしていたのに。」
今まで黙って僕たちの話を聞いていた千世子ちゃんが口を開いた。