星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
ずっと夢を見ていた。
それは前世の追体験だった。
前世の自分は、音楽家一家のお嬢様で、両親の影響で子供の頃はひたすらピアノとヴァイオリンに打ち込んでコンクールで賞を取りまくり、音楽学校を出てフランスへ留学したが、そこでいじめに遭い、逃げるようにアメリカへ。(日本に逃げ帰るのは恰好が悪くてできなかった。)
アメリカでストリートミュージックに出会い、留学そっちのけでひたすら路上演奏に熱中。
正確にはこのまま音楽家としてやっていける自信を無くして現実逃避していただけだけど・・・。
ストリート演奏でお金を稼いで収入が安定してきたころ、両親の事故の連絡を受け日本へ帰国した私を待っていたのは両親の亡骸だった。
両親の後を継いで音楽家になることを勧めてくれる知り合いも居たけれども、留学で挫折した私では両親の顔に泥を塗るような気がして、結局しばらくニート生活を送った。
やることもなく、抜け殻のように過ごす日々。
転機が訪れたのは、公園のブランコで寂しく揺られている時にばったりと、昔コンクールでライバルだった子と再会した時だった。
身の上話をしてみると、彼女は今、音楽の伝手を活かしてVTuberのマネージャみたいな業務をしているらしい。
「やる事が無ければ、VTuberでもやってみない?」 とVTuber事務所の社長を紹介され、その事務所の3期生としてデビュー。
とは言え、コミュ障な自分がそんなにうまく生放送できるわけもなく、3期生としては断トツの最下位スタートであった。
そんな私にも推しだと言ってくれるリスナーが付いて嬉しかったが、ブレイクする同期とのチャンネル登録者数の差が10倍近く付いた現状では、クビへのカウントダウンも迫っていた。
こんな状況でもまだ、私を好きと言ってくれるリスナーとの絆を放り出したくなかった。
もうこの頃には、配信とリスナーが私の生き甲斐となっていた。
もはや、どうにもならなくなった私は、どうすれば登録者数が伸びるのか、コミュ障な自分を曝け出して、話が面白くない自分の悩みを豪快に提示して、号泣しながらリスナーに解決策を聞くという前代未聞のやぶれかぶれな生放送を実施。
どうせこのままやっていてもクビになるだけなんだし、両親や親しい友人が居ない自分には、もう怖いものなんてなかった。
いや、いま一番怖かったのは、こんな私でも見捨てない、優しいリスナー達を失う事だったんだ。
なぜかその放送がバズり、急激に登録者数が上昇。
おまけに、この放送を見て、同期のVTuber達も積極的にコラボに誘ってくれるようになった。
同期の子たち曰く、「孤高の人だと思っていたから、すごく声をかけにくかった。」とのこと。
すいません。外面は孤高でも中身はポンコツなんです。
当時はVTuberもまだ黎明期で箱売りという概念が薄く、それぞれが生放送して仲の良い人だけがコラボするという状態だった。
同期とコラボで共演し始めると、会話や発想がすごく面白いと話題になり
「単独で話すといまいちなのに、コラボすると急に面白くなる女。貴重な常識人ツッコミ役」
と言う、非常に微妙な高評価を得て、どんどんリスナーが増えた。
そしてそれは3期生全体のブーストにもなった。
事務所内の先輩達にも声をかけてもらえるようになり、事務所外からもコラボしてもらえるようになった。
さらなる躍進は、自分の歌を自分で作曲するようになってからだった。
実際、これまで歌配信などもしていたんだけれども、リスナーからは
「声は綺麗でクリア。音程にも忠実。でも正確すぎてヴォカロみたいで、いまいち印象に残らない歌」という評価をもらっていた。
マネージャからは素体は良いので、歌のレッスンを受けることを勧められたよ。
そこで、昔の音楽学校で声楽の先生だった人が今は歌の教室をやっていることを知り、そこを訪ねる。
両親と私は昔は有名人だったから、私がレッスンを受けに来たのを見て驚いていた。
先生は私の現在の状況を聞いて、両親の死を悼み、私がまだ音楽に関わっていることを知って喜んでくれた。
先生の元、私はいろんな歌のテクニックや表現方法を知り、その体験を夜にリスナーに話して共有していった。
機械音声が天使の歌声に変わるのにそんなに時間はかからなかった。
歌が評価されると同時に作詞作曲にもチャレンジしてみることにした。
クラシックから派生したピュアな曲調やエフェクトを加えない生歌と、スピード感とギャップあふれる歌詞は、今の時代には、逆に新鮮に映ったようで、複数の歌が1億回再生を超えた。
そして何とVTuberとしては初めて、年末の歌合戦に呼ばれて歌を披露するという偉業を成し遂げる。
リスナー達も盛り上がり、まさしく幸せの絶頂だった。
終わりは唐突に来た。
VTuberの同期の子の結婚式に呼ばれて、結婚式の曲をピアノで披露して席に戻る時であった。
刃物を持った男が突然乱入して、新郎新婦に襲い掛かろうとしていた。
私はとっさに身を投げ出し、男ともみ合いになったが、そこで刺された。
男は新婦のやっかいリスナーらしく、結婚することが許せなかったのだろう。結婚する同期の子を見て激高していた。
この後、男はすぐに取り押さえられ、私は床の血溜まりの中に倒れこんだ。
新婦と同期の子たちが泣きながら駆け寄ってくる。
私は大丈夫と言ったが、出血が止まらず、だんだんと意識が朦朧としてくる。
私は、ここで人生が終わることをぼんやりと理解した。
新婦の子よ、トラウマを植え付ける血の結婚式にしてすまん。でもトラウマ座談会で私のゲジゲジに対するトラウマを知って、配信中にゲジゲジの昆虫食を出して来たのは今でも恨んでいるからな。
ふふっ。笑顔が浮かんでくる。人よりも短いかもしれないけど、良い人生だった。
最後は親友となった同期の子に見守られ、自分を支えてくれた愛する沢山のリスナーたちには悲しまれるのであろうけど、孤独だった私の死を悲しんでくれる人がこんなに居るとは、なんてすばらしい人生だったのだろう。
私のリスナー達よ。今なら推し変を許してやる。私はみんなに逢えて幸せだった。みんなも幸せになって欲しいと伝えるように、同期の子たちに頼んだ。
それが私の最後の言葉だった。
私は幸せだった。私を支えてくれた沢山の人たちに幸福あれ!!