星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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星アキラは目を覚ます

夢で前世の追体験をした後、僕はゆっくりと目が覚めた。

 

目が覚めて目に入ってきたのは、四角い電灯と白い天井。

 

窓は開いており、カーテンは揺れ、新緑の季節の涼しい風が室内に流れ込んでいた。

 

朦朧として、身を起こすと体中にチューブが巻き付いており、状況が理解できずに、どうしたんだろう?とか思っていると、ドアが開いて花瓶を持った千世子ちゃんが僕を見るなり、ビックリとした顔をして、がっしゃーんと花瓶を落として、180度回頭するとどこかに駆け出して行った。

 

演技以外で、千世子ちゃんのビックリとした顔を見ることはほとんどないので、珍しいなとぼんやり考えていると、突然医師や看護師たちがどたどたと入ってきて一気に慌ただしくなった。

 

医師たちは僕を見るなり、気分は?とか、名前とか、この指は何本に見えるのか?とか、検査を始めた。

 

なんでこんな事になっているのか、判らなくて混乱していると、3か月間も昏睡状態であったこと、そして自殺したことを遠巻きに伝えられた。

 

そういえば、僕は自殺したんだっけ?

 

濃厚な前世を追体験した後では、自殺なんて遠い日の出来事に感じた。なんてちっぽけな理由で自殺したんだろうと、急に恥ずかしくなった。

 

あの時は真剣だったけど、今振り返るとまさしくスーパーウルトラ黒歴史である。

 

幸いなことに、検査で異常はなく、3か月の寝たきり生活で体が衰弱していた僕は、リハビリでしばらく入院することになった。

 

そしてビックリすることに、今は前世で死んだ2025年ではなく、2012年だった。

 

しばらく後に、この世界で前世の"私"が居るのか確認してみたけれども、コンクールの受賞者や住所などを見ても両親や私は確認できなかった。

 

そういえば、前の世界にスターズや星アリサなんて居なかった。僕はどうやらパラレルワールドに転生していたようだ。

 

 

 

---- 千世子サイド ----

 

ちっちゃい頃、アリサさんからスターズにスカウトを受けた私は、一緒にレッスンを受ける仲の良い男の子が出来た。

 

星アキラちゃんと言って、アリサさんの息子さんらしい。

 

アキラちゃんは1才年上ということもあり、面倒見が良くて甘えさせてくれるので、すぐに懐いた。レッスン後の宿題はいつも2人でこなして、一緒の仕事も多くて、控室で待っている間はいつも一緒に居た。

 

レッスンは、大抵の項目はアキラちゃんはすぐにこなすんだけど、何かを表現するお題を出されるといつも苦戦していたわ。

 

しばらくすると、私は1発でクリアできてもアキラちゃんは何回かダメ出しをされることが多くなったの。

 

そんな状態でもアキラちゃんは挫けずに、練習でなんどもやり直して、ものすごい努力をしていたわ。

 

多分努力では、私は絶対にアキラちゃんには敵わないと思う。それぐらい努力していたわ。

 

ある日、そんなレッスンにアキラちゃんが来なかった。次の日も来なくて心配になっていると、自殺したというニュースを見て真っ青になったの。

 

アキラちゃんが居なくなるの? 私は目の前が真っ暗になった。

 

そしてしばらく経って、アリサさんに無理を言って病院に連れて行ってもらって、寝たまま全く動かないアキラちゃんと対面したの。

 

顔が真っ青で生きている感じがしない。もう目覚めずに死んじゃうかもしれないって聞いて本当に怖かった。

 

血の気の引いた私は「どうしてこんなことになったの?」とアリサさんに聞くと、アリサさんは少し逡巡した後に、「あなたも知っておいた方が良いかもしれないわね。」と言って、ため息をつきながら週刊誌を渡してくれた。

 

週刊誌の内容は信じられなかった。嘘ばっかりでアキラちゃんへの悪意しかなかった。アキラちゃんの事を何も知らないくせに。私の胸の奥に沸々とした怒りが湧いてきた。

 

「役者をやっていれば、こういう記事も書かれる事があるのよ。でもアキラにはちょっと早すぎたわね。」

 

私の様子を見たアリサさんは、この週刊誌の記事を書いた記者の裁判に私を連れて行ってくれた。

 

被告人席に座るあの男がアキラちゃんの人生を奪った男。

裁判ですべての記事がでっち上げである事を認める証言をしたとき、私は怒りのあまり目の前が真っ赤になって、掴みかかろうとしたところをアリサさんに止められた。

 

「その感情をよく覚えておきなさい。その感情があなたを役者として大きく成長させてくれるわ。」

 

怒りに震える私とは対照的にアリサさんは、自分の子供を殺した男を冷ややかに見ていた。

 

母親ってこういうものなの? 自分が持っている母親像とはまったく違う対応にかなり違和感を覚えた。

 

「アリサさんは悔しくないんですか?」

 

「当然悔しいわ。あんなに下らない理由でアキラが死ぬかもしれないんだもの。でもここで怒っても何にもならない。むしろスターズ社長の醜態を世間に見せるだけよ。役者なら感情を魅せるのと同時に、感情をコントロールして自分の手元に置きなさい。それがあなたの心を壊さない方法でもあるわ。」

 

その言葉を聞いて、私は魂が抜けたように力なく椅子に座った。

 

自分の息子が死ぬかもしれないという状況でも文字通り、役に立つための経験とする。星アリサの凄みを知ると同時に、この時初めて役者の救えなさを体感したの。

 

それからアキラちゃんが昏睡状態に陥って3か月。アリサさんは忙しいので、私は暇を見てはアキラちゃんのお見舞いに来て、身の回りの世話をしていた。

 

外傷は治っているらしいんだけど、アキラちゃんは全く目を覚まさなかった。

 

病室は関係者以外面会謝絶だけれども、全国からいっぱい見舞いの品が届いているのを見て、アキラちゃんはこんなにみんなに愛されているんだって思った。

 

ベットの横の花の水を変えて病室に戻った時に、アキラちゃんが起き上がっていたのを見た私は、花瓶を落としたのを気にせずに、先生を呼びに走るのであった。

 




ようやくアキラ君が目覚めました。
アキラ君の物語はここから始まります。
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