星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
8月のある日、いよいよ若草物語の舞台が始まる。
みんな今日のために練習を積んできたし、一緒に暮らして家族としてがんばってきた。
僕や千世子ちゃん、景ちゃんには初舞台だけれども、みんな良い意味での緊張だけで、緊張で演技が鈍ると言う事も無さそうだ。
客席の照明が落ち、舞台の幕が上がる。
ジョー「贈り物が無いクリスマスなんて、クリスマスって言えやしないよ。」
観客にどよめきが起きる。今までイメージされた、千世子ちゃんとは全く違う血の通った人間としてのジョーの演技。
綺麗どころのジョーをイメージしていた観客も、千世子ちゃんを一目見て、違いに気が付いてどよめきが起きる。
ベス「本当に貧乏っていやよね~。なんとかならないのかしら?」
ため息を付きながら、僕こと星キアラがステージに上がる。
観客からざわめきと歓声が上がる。
エイミー「綺麗な物をいっぱい持っている娘もいるのに、なにももらえない娘もいるってのはすごく不公平な世の中だよ。」
景ちゃんの登場と共に好意的な歓声があがる。今日は夜凪ママも観客席から応援に来ている。景ちゃんも人一倍気合が入っていた。
メグ「みんな、不平ばかり言うものじゃありません! 私達にはお父様とお母様がいるわ。それに姉妹だってみんな居るじゃない!」
一番どよめきと歓声が上がったのは阿良也だった。阿良也は男である事を生かして、女性ではできない倒錯した色気を持ったメグを演じていた。
単純に女性と見分けが付かないのでは無い。女性では絶対にできないユニセックスで、理想的かつ魅力的な女性像のメグであった。
メグ「このクリスマスに贈り物を辞めようってお母様がおっしゃったのは、兵隊さん達が戦争で苦しい思いをしている時に私達だけ自分の楽しみでお金を使うのは良くないと考えているからよ。」
ジョー「そんな事を言っても、私達のわずかなお小遣いなんて何の役にも立たないと思うわ。」
四姉妹の小鳥がさえずるような、女の子同士の会話が続いて行く。
全員に血が繋がっていないとは思えないほど、違和感は全く無く、まさに正しく姉妹だった。
「さあさあ、みんな今日はどうだったの? ベス、メグ、風邪はひいていない?、ジョーはすごく疲れているみたいね。エイミーは元気そうで良かったわ。」
マーチ婦人を演じるアリサママが登場した。アリサママの演じるマーチ婦人のすばらしさに観客のため息が漏れる。
まさに良妻賢母。普段のアリサママから考えると笑いすら起きるが、アリサママの性格とは正反対の人間を演じ切り、本番でさらに磨きがかかるアリサママの切れ味に僕達は恐ろしさを感じた。
かしましい四人の会話劇と共に、僕には特別に舞台装置としての役割も与えられていた。
それはベスが得意なピアノの演奏。
僕が出演していない時の舞台の間隙や姉妹の心情を表すバックミュージックとしてベスの恰好でピアノを弾いた。
この辺の心理描写の表現や、話の間にも観客を飽きさせないための工夫や演出が、黒山墨字の凄さのいったんを垣間見せていた。
最初はかしましいだけの四姉妹も、徐々にそれぞれの性格が舞台で強く表れ出し、それぞれがぶつかり合っていく。
姉妹だからこそ、誰よりも大切で、姉妹だからこそ誰よりも遠慮が無い。
観客を前に四姉妹を演じているみんなのテンションが上がって行く。
四姉妹どうしが、それぞれの一番を競い合うように、己の演技力や技術をぶつけ合って舞台の上で連続的に化学反応が起きる。
実は、この劇のセリフなどは最低限の指定があるだけで、かなりの部分がアドリブで成り立っていた。墨字さんは、わざと細かいセリフの指定はせずに、僕達役者に状況に合わせた会話を丸投げした。
だから僕達はその場に合わせて、それぞれが演じている役の心情や声をそのまま届ける。
この劇は14回の公演になるけど、おそらく毎回セリフが変わるはずだ。
複数回見ている人は、セリフや、場合によっては展開が変わる事に驚く事となるはずだ。
そして、みんな姉妹でありながらもバチバチに演じている中で、ひときわ印象的なのが千世子ちゃんが演じるジョーと景ちゃんが演じるエイミーであった。
それぞれが姉妹として大切でありながら、二人とも癇癪持ちであり、エイミーはジョーをじらし、ジョーはエイミーを怒らせる。
千世子ちゃんのジョーは、今まで彼女が演じていた天使のような役とは違い、感情をむき出しにしてすごく人間臭いけれども、目を離せない魅力で溢れていた。
これは、彼女自身が自分を美しく魅せる以外の方法でも、目を引く存在として役を表現できる力を得て、レベルアップした事を示してた。
対して、景ちゃんはしぐさ、表情、気配、全てがエイミーだった。
おそらく、本物のエイミーであっても彼女ほど輝く存在では無いのかもしれない。しかし彼女はエイミーであると同時に、年相応の女の子として、そして新進気鋭の役者としての輝きに満ち溢れていた。
この二人が舞台の上で次世代の最強の女優を決めるがごとく、フルスロットルでバチバチにやり合う。
観客は息を吞んで、二人の芝居に魅了され続ける事しかできない。
僕は二人の演技を見て、観客が芝居に飲み込まれるという事がどういうことなのか、身をもって知る事が出来た。
そんな二人に張り合うように、阿良也が一番年上の女性として、四姉妹の長女でありながら倒錯した美を持って、残りの三姉妹を挑発する。
僕は阿良也の挑発を受け流しながら、優等生でありながら屈折した思いと弱い体と精神、自由への渇望に溢れたベスと言う役を演じ切る。
そして四姉妹がそれぞれ演技で競っている中に放り込まれるマーチ夫人という名の、アリサママが演じる魔王。
四姉妹が独占していた観客からの視線と感情を登場しただけで全てかっさらう。
僕達はマーチ夫人が現れた時には、主役が誰であるかわからせるために、姉妹のように四人全員で協力してマーチ夫人に立ち向かった。
結果として、みんなが手加減無しでバチバチに演技の火花を散らせて、それぞれが持てる力を出し切ってひとつの家族を演じたこの若草物語は大成功に終わり、世間の声に押されて夏だけではなく、冬にもアンコール公演されるぐらいの社会現象となるのであった。