星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
若草物語のミュージカルも大成功に終わり、星アリサは慰労のため黒山墨字、巌裕次郎、専務、アキラのマネージャ、千世子のマネージャ、イベント担当の部長などを料亭に呼んでもてなしていた。
「墨字君、裕次郎さん、今回の舞台を成功させてくれてありがとう。そして舞台のマネージメントや運営お疲れ様です。」
「今日は日ごろのストレスを忘れて大いに飲みましょう。乾杯!」
「「「「「「「乾杯」」」」」」」
「墨字君、ありがとう。あなたの脚本や演出で若草物語は成功したわ。特にインターネット配信のカメラ配置などは見事だったわね。」
「あんたに素直に褒められると、こそばゆいな。何か別の事を企んでいそうだ。」
「特に今回の舞台の成功であなたにも沢山の報酬を払う事が出来そうだわ。」
「はっ。今回の稼ぎのほとんどが星アキラの采配じゃねぇか。あのクソガキは一体どういう教育しているんだ?」
「別に楽しそうだから好きにさせているだけよ。あの子は自分の欲望を叶えるためにとんでもないウルトラCを連発しているだけで、いたずら好きの普通のかわいい子供よ?」
「あれのどこが普通の子供なんだ! あんたの子供を見る目は節穴すぎるだろ!!」
「子役をやっている子はちょっと大人びて見えるだけで、あんなものじゃないの?」
「そうだね。アキラ君は前まですごく頭が良かったけど、ものすごい影を抱えていて生きているのが辛そうで心配してたけど、今は年相応にはっちゃけてすごく楽しそうで僕も嬉しいよ。」
専務さんが言った。
「いや、おかしいだろ? スターズの子役ってあれが標準なのか?」
「あんなものじゃないの? アキラの場合は、ちょっとおいたがすぎて私の胃や頭が痛いけど、反抗期の子育ては大変って本で読んだこともあるから、こんなものじゃないかと思っているけど。」
「うん。王賀美君の時は反抗でスケジュールに穴を空けたり、週刊誌で報じられたり大変だったけど、アキラ君とかは別にスケジュールに穴を空けないし、仕事もちゃんとやるから全然問題ないね。」
「そうね。勘違いして仕事に穴を空けまくる我儘し放題の子供よりも、大分かわいいものよ。 キアラも驚いたけど可愛いいし。 キアラの恰好の時に頭を撫でると、猫みたいにゴロゴロ言うのよ?」
「いや、アリサさん、専務さん、アキラ君はかなりおかしいと思います。あの年齢にして精神年齢が高すぎると思います。」
「そうです。うちの千世子もアキラ君の影響を多分に受けてどんどんおかしくなっているので、ちょっと気にした方がいいと思います。」
星アキラと百城千世子のマネージャが言った。
「何か困る事あるの?」
「いや、無いですけれども・・・。自分の欲望に素直なのはわかるのですが、普通はその欲望は現実の前に挫折していくはずなのですが、アキラ君の場合には毎回とんでも無い方法でその欲望を実現しているので・・・。しかも大人でもできないぐらいの文句を言いにくい形で・・・。おかげで怒る訳にも行かず、ストレスが溜まって胃が・・・。」
「千世子も似たような感じです。アキラ君が自殺未遂を起こす前はここまでじゃなかったんですが、最近のアキラ君に影響されて、精神年齢がすごく高くなっています。」
「千世子はアキラと組んで普段エチュードをしたり、一緒に居る事が多いからアキラの影響を受けてそういう考え方になるのは判るわね。」
「そうだな。役者というのは複数の役を演じる時にいろんな人間の考え方も一緒に学習するから、子役でも精神年齢が高い人間が多いぞ?」
「もちろん、それは分かっていますけれども、それを考慮した上でも精神年齢が高すぎるって言っているんです。」
「そもそも、入院中に暇すぎてピアノとヴァイオリンをマスターして英語をしゃべるようになるとか明らかにおかしいだろ?」
「別に? 私もおかしいとは思って先生に相談してけれども、性格がちょっと変わっただけで精神的に落ち着いているし、社会性もあるから問題ないって言ってたわよ?」
「ピアノもヴァイオリンも子供の頃の情操教育として習わせていたし、英語もしゃべれなかったけれども、レッスンはしてたし、あの子が自殺未遂する寸前に部屋に籠っていた時には、スタニスラフスキー・システムの英語の本とか普通に読んでいたわよ?」
「アキラ君は元々、ものすごく頭の良い子供だったからね。そうじゃなければ、アリサさんのあの子育てで完全にグレてたと思うよ。頭の良さ以前に、アリサさんにこんなに素直な子供が生まれた事自体が奇跡だよ。」
「専務さんの言う事が正論だから、何も言い返せないわ。そもそも、私も子供の成長は早いって言ってたから、あまり気にしなかったわ。」
「それが余りにも早すぎるからどうなんだって聞いているんだが・・・。」
「私もあの年で無料放送をしたいがために、スタンフォード大学とか総務省の外郭団体を引っ張り出してくる手腕が恐ろしいです。普通、あのぐらいの年齢であれば、無料放送をしたいって言っても、ろくにプランが無くて、大人に問題点を説得されて挫折するものじゃないんですか? それなのに逆にぐうの音も出ないぐらいに外堀を埋められて、日本の大物芸能人が可愛く見えるぐらいの人脈に恐れおののくばかりだったのですが・・・。」
イベント担当の部長さんが言った。
「結果論だけれども、それも成功しているからいいと思うよ。成功すると分かっているからみんなぐうの音が出なくなっている訳で、さらに現実にも成功しているわけだから全く批判の余地は無いね。僕は問題が無いと思うよ。僕は将来的にアキラ君にスターズのどっかの部署でも見てもらいたいんだけど、役者の方でも成功しているから悩ましいんだよね。もっとも君が今回の仕事で大分ストレスを抱えているのも、その理由も分っているので、今日は楽しんでくれ。」
「ありがとうございます。みんなが星アキラのせいで胃が・・・。って言っているのを今回は実感しました。完全に怒ってキレるような愚か者とかそう言う事ではなくて、ツッコミ所満載のくせに怒るに怒れないから、みんなストレスが溜まっていくんですね。」
「部長さんにも私達マネージャの苦労が分ってもらえたようで良かったです。」
「しかし、それにしてもアキラは化けたな。昔は分かる人にしか分からないぐらいの芝居だったんだが、今は舞台や役者間のバランスを考慮した全体のマネージメントをしながら、自分の存在感を示していやがる。」
「確かにそれは言えるな。アキラの野郎は普段はあんなに我が強いくせに演技になると、途端に存在感を調整しやがる。演技にのめり込むとか、演技した瞬間に変わるとかはよく聞くが、状況に合わせて存在感を調整するやつなんて初めて見たぞ。」
「アキラは脇役向きの役者だな。もちろん主役もできるが、それよりも脇役や悪役だな。それに本人も影から周りを操るのが好きで、主役とかにも全然こだわりが無いだろ?」
「アキラは何か知らないうちにあんな愉快犯に育っちゃったのよね。とりあえず存在感を出して周りがフォローすれば良い主役をさせる方針で演技を指導したんだけど、それでもあんまりで才能が無いと思っていたら、自殺未遂の後に気が付いたら、主役を手で転がすような愉快犯になっちゃったのよね。完全に育成方針を間違えていたわ。」
「あんたの目は完全に節穴じゃねぇか。」
「そうね。でも自殺前のあの子の演技見ていて、この状態を見抜けた人なんて居るの? 自殺前のあの子は本当に我が弱くて主人公どころか、脇役でも存在感を出すのが微妙だったのに、それが今これよ? あの状態で唯一才能があるって言ってくれたのは、裕次郎さんだけじゃないかしら?」
「そりゃそうだ。昔のアリサは演技指導や技術を押し付けるだけで、なんでアキラが存在感を出せないのか、考えていなかったからな。今なら分かるだろう?」
「私のせいね。」
「そうだ。アキラは確かに役者に憧れていて役者をやってみたいとは思っていた。だがそれ以上にアリサに母親としての心を取り戻して欲しかったんだ。だから子供の頃のアキラの演技は星アリサへの献身が大きくて、役者としての自己がほとんど無かったんだ。逆にその自己が無いくせに、子供のアキラは自分の技術だけで、あの演技をやってのけていたんだ。そんな子供が自己を確立して自分の技術を好きに使い出したらどうなる? 化けるに決まっているだろ。」
「はははっ。それで周りの人間が胃を痛めることになるのか。本当に因果応報だな。あの星アリサが息子のことで胃薬を飲むようになるとはな。」
「私の周りに胃を痛めている人間が多いんだから、笑いごとじゃないのよ!」
「そうです。若草物語も無事にひと段落したので、スターズの30歳以上の人と20歳以上の希望者は、みんな会社持ちで人間ドックに行くことになったんです。」
「芸能界は規則正しい生活が送りにくい業界だからね。毎年会社持ちである年齢以上の人間ドックはやっていたんだけど、今年は少し精密検査をするタイプの人間ドックにすることにしたんだ。僕もちょっと怖いんだけど専務だし、率先して行く事にしたよ。」
「そういえば裕次郎さん、墨字君、ちゃんと健康診断しているの? 全然病院とか行っているイメージ無いんだけど?」
「アリサ、そんなの行っている訳無いだろ? 俺の体は俺が一番良く知っているんだ。」
「なにそれ? それって昭和の時代の重大な病気を持っている時のドラマの前振りよね? これは一度ちゃんと診てもらわないとだめね。」
「何を言っているんだ? 俺はそんなの行かなくったって・・・。」
「だめよ。行きなさい。あなたが倒れちゃったら劇団はどうなるのよ? ただでさえ、不摂生しまくりなんだから、体に悪い所が無くても一度ちゃんと診てもらった方がいいわ。」
「うっ、わかった。 しかしアリサが胃を痛めたと思ったら、俺が道連れで人間ドックに行くことになるとか、人生って本当にわからないものだな。」
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・・・後日・・・
「巌裕次郎さんですね。健診の結果なのですが、超音波検査で膵臓に初期のガンの可能性があるポリープが見つかりました。膵液細胞診検査と内視鏡検査が必要です。」
「ただ、治療が難しい膵臓ガンであっても、幸運なことに1cm以下の非常に初期の段階で見つかりましたから、腹腔鏡による手術でガンを切除して完治できる可能性が非常に高いです。とりあえず精密検査をお願いします。」
この後、巌裕次郎は膵臓癌の手術に成功して完治し、彼の寿命を大きく伸ばす事になるのであった。
「結局、あの時の胃痛仲間で一番症状が重かったのは、裕次郎さんだったわね。」
「俺のは胃痛じゃねぇ!」
そしてその事を星アリサにネタにされて、からかわれる事になるのであった。