星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
この映画はハリウッド映画であり、映画を撮るにもハリウッド撮影のシステムが採用されている。
ハリウッド撮影のシステムというのは、簡単に言うと監督のリテイクを何度も繰り返して納得が行くまでシーンを追い込んだ映像を撮るというものだ。
当たり前?
いや、規模が違う。監督の納得が行く映像が撮れるまでのリテイクの回数が日本映画とはそもそも数が違うし、各シーンで撮る映像を事前に検証しておくためのセカンドユニットが存在して、セカンドユニットの監督さんが、仮の役者さんで事前にそのシーンを演じておき、監督が事前にそれで映像の出来やカメラアングルを確認して、ファーストユニットにバトンタッチして、本番の役者さんに演じ直してもらうような事もしている。
これとは別に、セカンドユニットとして、脇役さんだけのシーンの撮影や、スタントマンが演じるアクション専門に撮るようなユニット別の分業体制なども、もちろん存在する。
ハリウッド映画は、とにかく監督が納得行くまでシーンを撮る手法がシステマチックかつ、桁違いに行き届いている。
このため、とにかく日本の映画とはかける予算が違う。日本映画の平均的な制作費は5000万円程度だけど、ハリウッドでは低予算で50億円程度、大作だと数百億円。こちらもまさに桁違い。
これによって、世界に名だたるハリウッドの映画の品質を確保している。
伊達に世界一の映画を作り続けている訳では無いのだ。
この映画はハリウッドではわりと低予算な部類だけど、それでも過去3作分の貯金もあり、60億円近いお金が動いていた。
そして、このハリウッドのシステマチックな部分は、映画のコールシートと呼ばれる香盤表(撮影予定表)にも及び、非常に綿密かつ大量の情報量で撮影場所、俳優、撮影クルー、小道具の配置などがかなり多くの情報が書かれており、非常に多くの予定が厳密に決められていた。
現状、監督を始め制作陣が大きく頭を悩ませているのは、ヒロイン役の女優さんが突如居なくなったために、このコールシートに修復不可能な巨大な穴が開いたという事だった。
今日は銀座の寿司屋を貸し切って撮影の予定だったんだけど、ヒロイン役が居なくなってそれもキャンセル。
非常に重要なシーンがキャンセルされ、映画撮影の進行に赤信号が灯っていた。
突然監督さんが宣言した。
「セカンドユニットは解散。ファーストユニットと合流。 カメラを2倍にする。 セカンドユニットの監督は、監督の判断でセカンドユニットのカメラの配置や撮る画を決めろ。」
「コールシートは大まかな役者の予定だけを揃えろ。脚本家は元の脚本を元に大体何をやってほしいかだけを指定して、セリフ等は全部俳優のアドリブに任せろ。そして、滅多な事では撮り直しはしない。俳優たちは全てのシーンを一発で決めろ。」
当然、会議の場は大混乱に陥った。
監督さんは意図を説明した。
「確かに納得が行く画が撮れるまで何度もリテイクができるハリウッドのシステムはすばらしい。だが、それがみんなの緊張を弛緩させる事になって、最近のハリウッド映画全体がマンネリ化していい映画がなかなかできない原因の一つではないかと思っている。」
「現場で何度もリテイクできるからと、中途半端な演技で来る俳優や弛緩したスタッフ、そしてそれを良しとする俺たち映画監督。 それらの態度が映画の緊張感を弛緩させて、画一的なハリウッド映画を生み出す原因になっているんじゃないかと、俺は考えていた。」
「昔は高価なフィルム代がかかるから、納得が行くまで何度もリテイクなんてそうそう出来なかった。でもリテイクができなかった昔の映画が今の映画に劣るか? デジタル化してフィルムのコストが無くなって手軽に撮れるようなった弊害がこの辺に現れてきているんじゃないかと思うんだ。」
「特に今回は、慣れたスタッフで慣れた映画の4作目だ。 ただでさえ、かなりマンネリ化もしているし、この映画が売れないとシリーズはここで打ち切りだろう。 もしこのままヒロインが居て撮影が順調でも、まあまあの出来で落ち着いて、売り上げが振るわずに打ち切り決定が決定する未来だっただろう。」
「だから今回、もしかしたらシリーズ最後になるかもしれないけれども、俺のエゴで昔みたいなピリピリとした緊張感のある映画を撮ってみたいんだ。 仮にこれがシリーズ最後の作品になっても、俺は後悔するような映画を撮りたくないんだ。」
「監督の思い描く画を俳優に強いるのではなく、俳優がアドリブで監督が考える以上の画を見せてもらえる所を撮ってみたい。 これも一つの映画の理想の形じゃないのか?」
「セカンドユニットのメンバーにも頑張ってほしい。セカンドユニットの撮影した主役のシーンが映画本編に使われる可能性があるんだ。」
「そしてファーストユニットもセカンドユニットという強力なライバルを迎える事となる。ファーストユニットに所属しているプライドを見せてほしい。」
突如撮影スタッフや俳優達に、とんでも無い緊張感とやる気が漂い始める。
ちょっと前までは、ちょっと弛緩した雰囲気だった会議室が、突如プロフェッショナル達のプライドがぶつかりあう場へと変化した。
各スタッフ間で激論が繰り広げられて、ギアがかみ合い、ハリウッド映画という巨大な機関車が前進を始めた。
この映画の監督さんは映画業界のたたき上げで、ハリウッド的な金銭感覚的での話だけど、比較的低予算でヒット作を撮る監督として定評があり、ハリウッドのプロデューサーさんなどからも、非常に評価の高い人物だった。
監督さんなりに、この映画がシリーズ最後の作品になるのであれば、自分が納得の行く方法で映画を撮りたくなったのかもしれない。
明日からハリウッド映画のシステムを捨てたプロ達による、前代未聞の映画撮影が始まる事となった。