星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
電子ピアノが届いた日から僕の生活は電子ピアノ一色となった。
ベッドテーブルの上に電子ピアノを置いてベッドの上で練習した。
初日の音は酷いものだった。まともに指が動かなかった。
でも2日目からはかなりマシな音が出るようになった。つくづくこの体はハイスペックだと思う。
役者以外の事はハイスペック。それが星アキラ。
役者の方はまぁねぇ。ダメな訳じゃないんだけどね。(*´Д`)ハァ
役者の事を考えるのは止めよう。気が滅入る。
ピアノ練習から3日目。電子ピアノなので、ヘッドフォンを付けて音が漏れないように練習をしていた僕の元に、病院の先生が来た。
検査のついでに曲を聞かせて欲しいというので、パッヘルベルの「カノン」を演奏してみる。
まだまだ人に聞かせられるレベルでは無いのだけれども、先生も看護師さんもみんな聞き入っていた。
人に聞かせる演奏をするのは本当に久しぶりなので、すごく嬉しかった。
そして好評を博したらしく、午後1時から4時までは軽く音を出して演奏しても良い事になった。
ピアノ練習から1週間。かなりマシな音が出ているんだけれども、やっぱり前世とは音が違う気がする。
うーん。タッチや力の入れ加減は一緒のはずなんだけどなぁ。なんか違うんだよな~。
そんな悪戦苦闘で練習しながら午後の演奏の時間。
演奏の時間は、音の通りが良いようにドアと窓を開けて演奏している。
密室の中から曲が流れてきたら何をやっているのか気になるとは思うけれども、演奏している少年の姿が見えればある程度納得するという訳だろう。
時おり患者さんが来て僕の部屋を覗いてくる。病院に合った優しい曲を選曲しているためか、看護師さんなどにも好評だった。
何で音を出して演奏させたのか、退院した後の定期検査で聞いてみたら、実は人間不信で自殺未遂を起こした僕への対人リハビリの一環だったらしい。
だから窓やドアを開けて、別の患者さんとかが出入りできるようにして、音楽に寄って来た他人とコミュニケーションを取らせる事で、僕の人間不信を和らげるための施策だったって聞いた。
そんな人間ホイホイ(失礼)の演奏をしている僕の元に、今日は1人のアメリカ人の老人が訪ねてきた。
その時の曲はベートーヴェンの「エリーゼのために」。英語で褒めてくれたので、僕も英語で演奏どうだった?と聞いてみた。
そうしたら歯に衣を着せぬ言い方で、僕がダメだと思う部分を全部英語で指摘してきた。
こやつ、出来るな。
そんなわけで、エリック・サティの「ジムノペディ 第1番」を演奏しながらどうすれば、良いかアドバイスを聞いてみた。
老人には、どうも僕の演奏は女性ピアニストの影が見えるんだそうだ。タッチや指の運びが女性ピアニストのそれなんだけれども、10歳の子供の体格に合わずにちぐはぐに見えると。
なるほどね~。僕には心当たりがありすぎる的確な指摘だった。
ついでに直し方やタッチのアドバイスなんかもくれた。
名前も知らない老人と子供が病室でピアノを演奏しながら静かに会話を重ねる。そんな奇妙な空間だった。
お互いの身の上話をしていると、どうも老人の方は、ある交響楽団の指導で来日したらしいんだけど、心臓発作で病院に搬送されたそうだ。
軽度の発作だったので、命に別状は無かったらしいんだけど、僕と同じく暇すぎてリハビリがてらに病院を彷徨っていると、僕を見つけたそうだ。
英語が話せて趣味も似た暇人同士。すぐに仲良くなって、老人は僕の部屋に入り浸るようになった。
そんなある日、アリサママと千世子ちゃんがやってきた。アリサママは老人を見るなり、ちょっと驚いたように目を大きく開けて、軽く会釈をしていた。
知り合いなのかな?
そんな事は気にせずに、ハイレベルのピアノ演奏をしながら英語で会話を続ける僕と老人。それを何か獲物を見つけたようなキラキラした目で見る千世子ちゃんと、疑わし気に見つめるアリサママ。
アリサママよ。疑わしいのは判るから、そんな目でかわいい僕を見ないで欲しい。
自殺未遂で、急に英語とピアノが上手くなっただけなんだって。本当ピヨ。信じて欲しいピヨ。
アリサママは、僕の演奏するサン・サーンスの「白鳥」に聞き入っているように見えるが、頭の中では「ロミオとジュリエット」第2組曲より 「モンタギュー家とキャピュレット家」(通称:魔改造のマーチ)が流れているに違いない。僕は北海道の苗穂工場に搬入されて魔改造などされていないぞ!
息子を信じてくれママン。(懇願の目)
僕は思いっきりトルコ行進曲を演奏しながら、オワタ\(^o^)/の歌を熱唱したくなった。
「モンタギュー家とキャピュレット家」のネタが判らない場合には、「魔改造のマーチ」で検索をかけてみよう!(迷列車へのいざない)