星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

81 / 387
星アキラは主役のピンチを救う

 

僕が主役のピンチを救うシーンの台本は以下である

 

アキラ『なんとかしてキヌスが捕らえられるのを防ぐ(アドリブ)』

 

ハリウッドの脚本家さんをもってしても、僕がこのシーンでキヌスを救う方法が思いつかなかったようだ・・・・。

 

頭はともかく、特に武術等を習得しておらず、華奢な設定の僕が大立ち回りを演じる訳にもいかない。僕はこのシチュエーションと状況をとっさに判断して演技を行った。

 

僕はテーブルの下に隠れながら、店のアナウンスをするマイクに近づいた。

カメラはしっかりと迫力のあるアングルで僕を追跡してくれた。流石はハリウッドのカメラマンさん。

 

そこで、おもむろに店のマイクを取ると電源を入れて音が出るのを確認してから、ピストルの音と同時に外から警察のパトカーが来た音を声帯模写した。

 

一瞬、呆気に取られて固まる俳優たち。

 

ポリスアカデミーという映画を見たことがあるだろうか?

 

前世の私は、恵まれた絶対音感と発声技術を持って、日常の音を声帯模写するのにハマっていた。

そしてリスナーさんにその声帯模写を披露したのだが、ガラスを引っかく音も、発泡スチロールを潰す音も、陶器をこすり合わせる音もみんなリスナーさんに不評だった。ウケたのは音叉の音ぐらいだった。

 

そしてリスナー達にこう言われた。『不快な音が完璧な女』

 

そして年上のリスナー達には口をそろえて「ポリスアカデミーを見て勉強しろ。」と言われた。

 

ポリスアカデミー? なにそれ? 前世の私はネット配信サービスでポリスアカデミーを見て、マイク・ウィンセローにハマってしまった。

 

私も、偉大なマイク・ウィンセローと同じように声帯模写しようと練習した。

しかし、前世の女の私では、低音部分の模写に限界があり、再現ができなかった。

 

しかし、男として生まれた今世は違う。生まれ変わってから日々ポリスアカデミーをバイブルに、憧れのマイク・ウィンセローを目指してひそかに練習をして、実用的なレベルに達していた。

 

そしてあの有名なシーンが(完全にパクリだけど)今よみがえる。突然聞こえた銃撃戦の音と、パトカーの音に動揺する犯人達。

 

彼らはもちろん、後ろ暗い取引をしていたのだ。

彼らの店に警察が踏み込んで来るのは時間の問題だった。

彼らは対応するのがめんどくさいキヌスを残して、我先に退散していった。

 

さすがは、演技の先輩たち。空気を察して見事にアドリブに合わせてくれた。感謝感謝。

僕はキヌスを助け起こすと、どさくさに紛れてキャバクラを脱出した。

 

「アキラあれは何だったんだ?」

 

「声帯模写しただけだよ。ポリスアカデミーのマイク・ウィンセローを見たことない? 僕は彼が大好きで練習していたんだよ。 それよりも、敵地の中単身で突っ込んでいくのは無いよ。銃を使われなかっただけ本当に良かったよ。」

 

「日本人は暴力団でも銃を持っていないって言ってたから行ってみた。本当に銃が無かったんだな。」

 

「それ、デマ情報だよ。暴力団でもちゃんと持っているよ。ただ発射したのが警察にばれると大ごとだから使わないだけだよ。」

 

「げっ、マジか。俺は運が良かったのか。」

 

「単身乗り込んでいって逮捕しようとか頭まで筋肉でできているんじゃないの? いつものクレバーな捜査官はどこへ行ったのさ。」

 

「いや、面目ない。あれで大体なんとかなっているんだが・・・。」

 

「よく今まで生きているね。ジョー・マクレー警部(ダイ・ハード)の真似をするのはキャラが違うと思うんだ。まさか普段はあのノリで鉄砲の撃ち合いとかしているの?」

 

「射撃には自信があるんだ。」

 

「これは付ける薬が無いね。」

 

その後も僕はいろいろ変装しながらキヌスの捜査に協力したり、ぶらり旅を楽しんだ。

 

そして、指名手配の犯人とキヌスが再び大立ち回りを演じて逮捕した後の、クライマックスで黒幕であるアキラの父親との対決シーン。

 

各役者には、ヒロインが居たままで全く変更されていない、以前の状態の台本が渡された。

 

それには、

 

『ヒロインの代わりにアキラが演じて、あとは適当にアドリブで。』

 

ヒロインが途中退場したせいで、スケジュールが詰まっているからと言って、酷すぎる。 実際に、ほとんどアドリブで今までなんとかなっているので、脚本家が味を占めたらしい。本当にハリウッドぇ(笑)。

 

僕たちは、ほとんど存在しないような台本をもとに、設定だけを生かして演技を開始した。

 

「父よ。もう証拠が上がっているのだし、もう申し開きしないで、素直に投降するんだ。国会も閉会中だから悪い事をしたら普通に逮捕されるよ。」

 

「アキラ、誰のために、がんばってお金を稼いでいたと思っているんだ!」

 

「自分のためでしょ? 少なくとも国会議員というのは、イリーガルな事をしなくても、国民から生活できる費用を十分に恵んでもらえていると思うよ?」

 

「お前に俺の何が分かると言うんだ! 俺は自分の地位を必死に守ってきたんだぞ! もうすぐ総理の椅子に手が届くんだ!」

 

「テラワロス。 総理になっても犯罪の証拠が出てあっという間に失脚だよ。 こんな権力に頼った雑な誤魔化し方して、バレないとでも思っているの? 申し訳ないけど、犯罪者に高い給料を払うほど、日本の財政に余裕はないんだよ。 財務大臣も務めた事のあるお父上ならお分かりでしょ?」

 

「お前は俺が逮捕されてもいいのか? お前の将来は真っ暗だぞ。その刑事を説得して俺を逃がすんだ。」

 

「何を言っているの? このままほっといても、いずれ悪事が露見して同じことだよ。 むしろ子供の時の方が日本国の保証をいろいろ得られて、やり直しが利くだけリーズナブルだよ。だから僕のために素直に捕まってちょうだい。 本当は自首してほしかったけど、自首して殊勝な態度を見せて罪が軽くなると面倒だから、このまま逮捕されてよ。」

 

「お前は一体誰に似たんだ!」

 

「離婚したママじゃないの? パパの政治力も意外にあるかもね。まがりなりにも、こんなんでも大臣を務められているんだし。」

 

息子の斜め上の容赦のない返しに動揺する議員の父親。

 

「父よ、もう年貢の納め時だよ。 あと、後ろの秘書さんやボディーガードさん達もお疲れ様。 犯罪に手を出した父は失脚するので逮捕される前に辞めておいた方がいろいろ面倒が無くておすすめだよ。」

 

「私は先生と共にあります! 私たちも最後まで先生とお供します。」

 

「あーあ。こんなに素晴らしいスタッフに囲まれていたのに、父よ、何をしていたのさ?」

 

「仕方が無かったんだ。 最初は軽い選挙応援時の賄賂からで、それを元に脅されてずぶずぶと泥沼に。 アキラよ。私を笑って欲しい。 自分でもダメだとはわかっていたんだ。」

 

「それでも国際的な人身売買とか麻薬密売組織に肩入れはまずいでしょう。事なかれ主義を大きく超えすぎているよ。素直に罪を白状して、同じことが起こらないように国民に知らせるのが、議員としての最後の仕事じゃないの?」

 

「アキラ、お前に教えられるとはな。仕事を理由にお前から逃げた私を許してほしい。」

 

「いいよ。僕も自由にやっていたし。親の間違いを正すのは子供の役割だよ。」

 

「普通は逆じゃないのか?」

 

「古い伝統だね。時代は常に変化しているのさ。」

 

こうして、黒幕議員との対決は終わった。

 

本来のシナリオは、正義感満載のヒロインが議員の圧力に屈せず、己の信念を貫き通して、議員を逮捕しようとして、取り巻きのボディーガード達との派手なアクションを経て、逃走を計った黒幕の議員を捕まえて事件を解決するという、アクション主体の派手なシーンが一転して、斜に構えた子供との会話劇で、推理ドラマのように事件が終焉を迎えることとなった。

 

そして、映画の最後のシーン。

 

成田空港に入ったキヌスの前に、旅行鞄の上に乗っかって、足をぶらぶらさせているアキラが現れる。

 

「キヌスのせいで、父親が捕まっちゃって身寄りが無くなっちゃったよ。 一緒に連れてってくれるよね?」

 

アキラは、クレバーなキャラクターを見せずに、年相応の不安げな顔で言った。

 

キヌスは苦笑いをしながら言った。

 

「もちろんだよ。相棒。」

 

その時アキラの笑顔がぱっーーと輝いて、一緒に飛行機に乗り込んで映画が終わり、スタッフロールに入った。

 

どうも、四作目でマンネリ感と打ち切りの危機を考えていた制作陣は、キレた演技とアドリブをしまくる星アキラを気に入ってしまったらしい。

 

そして、本作が売れて次回作が作られる場合には、また僕をキャストとして加えたくなったようだ。そんなわけで、キヌスと一緒に旅立つ最後のシーンが撮影された。

 

『ナショナルクリミナル4』はシリーズ4作目というマンネリを打破して、シリーズ最大の大ヒットを記録。以後も多くの続編が作られ、僕も犯罪分析の専門家かつ、変装の達人というキヌスの相棒として、この映画のシリーズに長く出演し続ける事になるのであった。

 

なお、余談だけど、これ以後のシリーズでは、女装した僕とゲストヒロインとの、「どっちがヒロインにふさわしいのか対決」が毎シリーズ恒例で行われ、映画のファンたちが毎作大盛り上がりする事になるのを、この時の僕は知らなかった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。