星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
時はちょっと遡って、無事に若草物語の舞台が終わった僕達は、阿良也が行きたいと言う事もあって夏休みの残りを利用して、北海道の奥地でキャンプに行っていた。
阿良也は次の役作りのため実際の熊撃ちの猟師さんに同行して、猟師さんの心境を理解しようとしていた。
劇団天球では次の宮沢賢治のシリーズとして、「なめとこ山の熊」の企画が進んでいた。
そして、阿良也はついに主役として猟師役の小十郎を務めることになった。
そんな訳で阿良也は現地の猟師さんに着いて行き、役作りのために北海道の山奥まで来たのだ。
僕達はそんな阿良也に付いてきて、山の麓でキャンプという流れである。
数日前に阿良也は、電話で連絡していた猟師さんに会うと、猟師さんや猟犬と共にさっそく山の中に入って行った。
僕達は麓のキャンプ場にあるバンガローでキャンプを満喫していた。
テント? ドキュメンタリーの撮影でも無いのにテントを張って、固い地面で背中が痛くなりながら寝る必要も無いじゃないか!
昔、ボーイスカウトの撮影で遭難しかけた時は最悪だった・・・。マジで固い地面の上で蚊と戦いながら不安な一夜を過ごして、大自然に対するトラウマを僕は大量に植え付けられていた。
・・・・大自然の前に人間なんてちっぽけな存在なんですよ(遠い目)
僕はバンガローのソファーにグデッとして休暇を満喫していた。
夏とはいえ、北海道の山奥は涼しく、そよ風が窓から入ってきて最高だった。
一緒に来たのは、阿良也の他に、アリサママ、千世子ちゃん、景ちゃん、夜凪ママ、レイ君+ルイちゃんの双子といういつものメンバー。
バンガローは3つ借りていて、それぞれ、アリサママと千世子ちゃん、夜凪一家、僕と阿良也の3組で分けて泊っている。
とはいえ、阿良也は猟師さんに付きっ切りで山に入っているので、このバンガローには僕一人しか泊まっていなかった。
「風がさわやかで最高ね。ここではアキラも問題行動を起こさないし、胃が癒されるわ。」
アリサママもハンモックに吊られて、普段のストレスから解放されていた。
確かにここでは僕は問題行動を起こさない。ここで問題行動を起こすのはどちらかと言うと・・・・。
「アキラちゃん。薪割り場でいっぱいカミキリムシの幼虫を採ってきたの。いっしょにおやつにしましょうよ。」
「幼虫さんが薪割りしている木とか薪の中にいっぱい居たんですよ。」
千世子ちゃんと景ちゃんがやってきた。
普通の女子は虫を怖がるはずなのだが、千世子ちゃんは厄介な事に、絶滅寸前の希少種である虫好き女子なのだ。そしてそんな千世子ちゃんに洗脳されて、景ちゃんも虫が大丈夫になっていた。
景ちゃん、千世子ちゃんを目標にがんばるのはいいんだけど、そんな所まで見習わなくてもいいんだよ?
千世子ちゃんが持っているボウルの中には白くて、一部黄色いカミキリムシの幼虫達が沢山うねうねと動き回っていた。
おやつにしようとか言っていたけど、まさか・・・・。いや、そういう事なんだろう・・・。
「アキラちゃん、火を起こして。」
僕は千世子ちゃんに言われるままにバーベキュー台で炭火を起こした。
もちろん炭を積み上げて、着火剤に点火しただけだ。
炭に火を着けるテクニック? 火おこしで苦労するのがキャンプの醍醐味? 何の事ですかね? 文明の力は偉大だ。
千世子ちゃんは、うねうねと動くカミキリムシの幼虫たちをアルミホイルに入れると、バターと一緒に包んで金網の上に置いた。
「やっぱり、北海道と言えばバターよね。」
「カミキリムシの幼虫さん。どんな味がするのか楽しみですね。」
キミたち? うねうね動く虫さん達がかわいそうじゃないのですかね? なんの躊躇もなく食べようとする君たちに、僕は衝撃を受けているよ。
しばらくすると、幼虫のホイル焼きが焼きあがった。
やたらと甘くて美味しそうな匂いが広がる。
逆に美味しそうな匂いすぎて、トラウマになりそうだ。
千世子ちゃんは箸で幼虫を掴むと容赦なく口に入れた。
「美味しい! すごくまったりして濃厚で甘みがあって最高! 幼虫界のフォアグラは伊達じゃないわね。」
すごい食レポだね。食レポに定評の無い僕が見習いたいぐらいだよ。食材が幼虫じゃなければ・・・。
「甘くて、木の実みたいな味がして美味しいですっ。」
こちらはスタンダードな食レポだね。でも本当に美味しそうに食べているからすごく絵になるね。幼虫を食べていなければ・・・。
「アキラちゃんも食べてみて。美味しいわよ。」
やはり来たか。虫を食べるなんて、前世で同僚のVTuberに罰ゲームでゲジゲジを食わされて以来だ。僕はあれでやたらと虫にトラウマを持っていた。
僕はバター焼きでやたら香ばしい匂いで焼きあがっている幼虫を箸で掴むと、箸を持つ手が震えた。でも僕は逃げる訳にはいかない。
女の子2人が美味しい、美味しいって食べている虫を、男の僕が虫が苦手だからという理由で拒絶して空気をぶち壊す訳には行かない。
男には戦わなければいけない時があるのだ。
僕は意を決して幼虫を口に入れた。
「美味しいっ」
まずいと思っていた幼虫は木の実のような香ばしさはありつつも、すごく濃厚でトウモロコシのような甘みもあるし、ミルクのような風味も付いていた。
幼虫の味をピーナッツバターみたいに例える話を聞いた事があったけれども、確かにピーナッツバターっぽいところもあるけれども、それよりもずっと豊かな風味で独自の美味しさがあった。
僕は、カミキリムシの幼虫の美味さに唸っていた。
ふと千世子ちゃんを見ると、彼女はにやっと口角を上げると、どや顔で僕を見ていた。
千世子ちゃんは、僕が虫を食べるのが苦手なのを見抜いていたのだ。
前世でゲジゲジを食べた時もその苦さと気持ち悪さに衝撃の体験であったが、幼虫の美味しさもまた、僕にその価値観を転換させるほどの衝撃を与えた。
今の僕には千世子ちゃんが美味しんぼの山岡士郎に見えていた。山岡士郎にしてやられた登場人物たちは、こんな心境だったのだろう。美味しんぼの登場人物の心境をこんな所でリアルに体験するとは思わなかった。
僕たちはカミキリムシの幼虫を食べながら話が弾み、楽しいおやつの時間となった。
「あらあら、いい匂いがするわね。 何を食べているの?」
「アリサママ!! カミキリムシの幼虫だよ! すごく美味しいんだ。 アリサママも食べてみてよ!!」
僕が差し出した調理済みのカミキリムシのつぶらな瞳とアリサママの目が合った。
アリサママは真っ青になると、胃のあたりを押さえながら外に出てしまった。
「うーん? どうしたんだろう? こんなに美味しいのに?」
「アリサさんにはちょっと強烈だったかな?」
「幼虫さん、美味しいのですけどね?」
しばらくだらだらした後に、夕食の準備をしていると、阿良也が熊に襲われたという情報がもたらされるのであった。