星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
阿良也を病院に迎えに行った翌日、別の猟師さんと村の青年団の一行が山に入り、阿良也達を襲った熊を持ち帰ってきた。
体重400キロ以上あるとんでもない大きさのヒグマで、僕はその大きさに圧倒された。
このヒグマは周囲の牧場の牛を襲いまくっていた有名なヒグマで、今まで動物用に仕掛けたカメラにしか映った事が無く、どんなに罠や猟師が追っても見つかる事の無かった恐怖のヒグマだったらしい。
阿良也と一緒に居た猟師さんは、周辺の牧場に現れては家畜に膨大な被害をもたらすこのヒグマをずっと追っており、今回はそれをついに仕留めたのだ。
ヒグマを回収しに行った、別の猟師さんが足の形とサイズでそのヒグマだって言って、実際に石膏で取ってあった足形同士を比較して同じヒグマだって事の確証が取れた。
周辺一帯の地域を恐怖に陥れていた恐怖の巨大ヒグマが駆除されたというニュースは日本全国を駆け回り、沢山のTV局や新聞社が村に集まり倒されたヒグマの撮影が行われた。
そして、猟師さんと共にこの恐怖の巨大ヒグマに立ち向った阿良也は一躍時の人となり、取材が殺到した。
ついでに阿良也の友達という事で、一緒にキャンプに来ていた僕達も取材対応に追われる事となった。
「もうバカンスに来ていたはずなのに、取材対応でへとへとだよ。」
「いや、アキラ達が居なかったら、俺一人で大変な事になっていたよ。」
「仕方が無いわ。 でも阿良也君も取材対応に慣れている私達が居て良かったわね。 一人で来ていたら報道陣にもみくちゃにされて、大変な事になっていたわよ。」
「アリサさんもありがとうございます。」
阿良也達が倒したのが有名なヒグマで、日本全国から取材が殺到すると判った時点でアリサママの対応はすばやかった。
村の人に話して村の集会所の一室を貸し切り、そこを取材室として、倒した熊を置き、阿良也、アリサママ、僕、千世子ちゃん、景ちゃん、そして村の関係者を配置して、主要報道機関を1社ずつ受け入れて行った。
受け入れ順は、一番は公共放送、二番目以降は民放主要各社TV局の代表にじゃんけんをさせて順番を決めさせ、それ以降は全国紙と地元新聞社という流れだった。芸能関係の報道については、東京に戻ってから取材を受けるという事を関係各社に周知した。
全体統括はアリサママ、熊に襲われた緊迫の状況を説明する係が阿良也、僕は阿良也のフォロー役、千世子ちゃん、景ちゃんは熊の大きさに驚くリアクションと、阿良也を心配する係。 村の人たちは事件の感想。 熊の撮影と同時に主要人物の撮影も一回で終えられた上に、報道に必要な画も沢山取れて話がスムーズに進むと、報道各社の方々にも非常に好評だった。
アリサママに、千世子ちゃんや景ちゃんが僕達と一緒に居るのは、邪推されるんじゃないの?って質問をしたんだけど、「二人がキャンプ地に泊まっている事は村の人たちに知られているし、隠した方が後ろめたい憶測を生むわ。 なにも後ろめたく無いんだから、こんなのはオープンに堂々としていればいいのよ。」という流石の対応だった。
阿良也とヒグマの取材は、放送各社の夜のニュースでトップニュースとなった。
そして、そこで同時に阿良也が『なめとこ山の熊』の舞台で主役を務める事と、その役作りのためにヒグマ猟に同行していた事も合わせて報道され、多くの人が天才役者『明神阿良也』の役作りを知るきっかけとなるのであった。
「はぁ、疲れたよ。 休暇に来ているはずなのにこんなに疲れるなんて・・・。」
「アキラちゃん、今日は熊鍋らしいわよ。 あっちで熊の肉を捌くんですって。行ってみましょう!」
やたらハイテンションな千世子ちゃんに、熊肉を捌く所を観に行きたいって誘われた。
「あれ? あのヒグマは剥製にされて、村の観光資源になるんじゃないの?」
「別の熊肉だって。 村であのヒグマが狩られた事と、報道対応が終わった事のお疲れ会をやるって言って、私達も呼ばれたのよ。」
村の集会場の調理場では大きな熊の肉が捌かれており、鍋の準備を夜凪ママと阿良也や景ちゃんなども手伝っていた。
「アキラちゃんっ! 見て!! 旋毛虫が熊の肉から這い出しているわ! こんな寄生虫が体の中で繁殖したら大変な事になっちゃう!!」
彼女は歓喜の表情を浮かべながら言った。
そう。百城千世子は絶滅寸前の希少種である虫好き女子であったが、さらにその中でウルトラレアの寄生虫好き女子なのだ。
「旋毛虫は腸で繁殖すると、筋肉組織の間や皮下組織の下に潜り込んで、体中ミミズ腫れになってしまうのよ。なんて素敵なのかしら!!」
常人には全く理解できない理由で歓喜する千世子ちゃん。
死んだ熊の肉から抜け出して、うねうね動く旋毛虫の前に彼女のテンションは上がりっぱなしだ。
この子、この寄生虫を生で食べるとか言い出さないよね?
景ちゃんはこんな千世子ちゃんを見てスルーしている。 この子も、この年でスルースキル強すぎじゃないですかね?
阿良也はこの話を聞いて、固まっていた。
「どうしたの阿良也?」
「・・・・ヒグマを狩ったら、ヒグマの命を感じるために、自分でその場でさばいて生で食べるつもりだったんだ・・・。」
「バカだね。阿良也。本当にバカだ。 ヒグマ猟に同行するって聞いた時もバカだと思ったけど、こんな寄生虫いっぱいの肉を生で食べるつもりだったなんて、バカすぎるよ。」
「確かに熊の生肉を食べるのはバカだと思うけれども、何でヒグマ猟に同行するのがバカだと思うのさ? 君も役者なら僕の気持ちが分かるだろ?」
「そりゃ、演じる役と同じ体験をしたいというのはわかる。 でもさぁ、『なめとこ山の熊』の舞台は岩手県花巻市の山って言うのが定説だし、十中八九、北海道じゃないよ。」
「えっ?」
「小十郎が相手にしていたのは体重100Kgに満たないツキノワグマだ。 こんな400Kgを超えるような巨大なヒグマじゃないぞ? つまり阿良也は無駄死にしかけたという貴重な体験をして来た訳だwwww」
僕は阿良也を笑った。
「何でもっと早く教えてくれなかったんだよ! おかげで死にかけたじゃないか!!」
「僕もこんな事になるとは思っていなかったよ。 でもいい体験ができただろ? 阿良也の役者としてのレベルが上がったのが僕にもわかるよwww」
「このクソガキがっ!!!」
怒った阿良也は僕と追っかけっこを演じた。