星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
紆余曲折を得た「ナショナルクリミナル4」だけどついに映画が出来上がり、舞台が日本ということもあり、日米同時公開の流れとなった。
さて、この映画はすべて英語なので日本公開の前にやることがある。そう吹き替え作業である。
日本には世界有数の声優文化があるので、映画の吹き替えで僕の声を誰がやってくれるんだろう?ってわくわくしていたら、僕の声は僕がやることになってしまった。僕の声だからいいのか?
声優の中で明らかに新人ぺーぺーの僕は、お菓子などを用意して、収録スタジオに一番乗りで乗り込み、入ってくる声優さんに一人一人挨拶をした。
「本日、初めて声優のお仕事をさせていただく、スターズの星アキラと申します。よろしくお願いいたします!」
僕はドアを開けながら新人らしく、先輩声優たちに挨拶をした。
「アキラ君! びっくりしたよ。どっきりカメラかと思ったよ。 いや、君は声優業界では新人かもしれないけど、芸能人としての芸歴はすごいんだから、そんな事をしなくてもいいと思うよ。」
「いえいえ、こういった業界の慣習はちゃんと理解しておかないと後で痛い目にあいますので、ちゃんとリスペクトさせていただいております。」
「さすが役者としての芸歴が長いだけはあるね。そういう所をちゃんと理解していないと、一瞬ブレイクしても勘違いして消えていく人間が沢山いるからね。アキラ君のそういう姿はすごく好感を持てるよ。」
「ありがとうございます。」
しばらく扉の前で挨拶をしていて、あらかた挨拶が終えると、キヌス役の声優さんに声をかけられた。
「アキラ君、挨拶はそろそろいいだろう。台本でキヌスの演技のニュアンスが判らない所があるんだけど、教えてもらえないかな?」
「はい。よろしくお願いします。」
台本は英語を日本語に直した形なので、英語特有の言い回しなど、ニュアンスや表現がわかりにくい所がある。普段はいろいろ推測したり、その場でアドリブで対応したりするんだけど、僕は撮影の現場にずっと居たので、その時の状況やセリフの意味などの質問に答えて、解説していった。
いつしか、参加者みんなから質問を受けて、大質問大会となっていた。
みんなすごく仕事熱心だ。僕もセリフをしゃべった状況や感想などを交えて説明して行った。
「ねぇ、キアラの声でしゃべってくれない?」
女性のベテラン声優さんにお願いされた。
「いいですわよ。こんな感じでよろしいでしょうか。」
「きゃーーーっ♡」
新人、ベテランさんを含めて、謎の黄色い歓声がスタジオに上がった。喜んでもらえたようでなによりですわ。
「初めてなので、教えていただきたいのですが、わたくしの使うマイクはどれを使ったら良いのでしょうか?」
「四本あるうちの右の二本はベテランさんが使うから、左の二本の空いている方をつかっていいよ。でもアキラ君なら出番も多いし、右の二本もベテランさんが使わないシーンであれば、使って大丈夫よ。ただ、音量調整なんかがあるから、テストと同じマイクを必ず使ってね。」
「教えていただいてありがとうございます。助かりますわ。」
「生で聞いても本当にいい声だね。やっぱり声優としてもやっていけるよ。」
「お仕事があれば、是非お願いいたしますわ。」
そして、会話も盛り上がって、撮影に入ろうとしたときに映画でケガをした、ヒロイン役の女優さんが入ってきた。そして、ぐるっと見回して、人が揃っているのを見ると、ばつが悪そうに「収録開始はもうすぐですよね」って言った。
げっ、この人も声優が初めてなのに、収録開始時間ちょうどの一番最後に入ってきたよ。
スタジオが凍り付いた。