星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
そんなわけで吹き替えの収録開始。ディレクターさんの挨拶と一緒に、今回の収録の特別ゲストとして僕とヒロイン役の女優さんが紹介される。
僕たちは軽く挨拶をしつつ、スタッフさんからの質疑応答などを挟んで、リハーサル開始した。
ヒロインさんは、主に映画の前半部分に出演が集中。 ヒロインさんが出るシーンは映画全体の1/4ぐらいかな。そして、ヒロインさんが誘拐されて退場して、僕の出番が来る感じ。
最後の救出シーンも僕は外にいて、キヌスを援護しつつ、キヌスは建物の中で大立ち回りを演じてヒロインさんを救出するので、救出後に僕とヒロインさんで二言、三言セリフがあるだけで、今回の映画で僕とヒロインさんとの絡みはほとんど無かった。
台本は4部構成で分割されていて、最初に音声を収録するのがヒロインさんのパートで、2部以降は僕の収録となる。
ヒロインさんは4台並べてあるマイクの入りとかに戸惑いながらも、たどたどしくなんとかリハーサルをこなしていく。
そして、リハーサル音声のチェックをして、ディレクターさんからの指示。
その指示内容を入れて、本番収録の流れ。
みんなディレクターさんからの指示を台本に素早く書き込んでいく。
僕もディレクターさんの方向性を確認するために、台本に注釈を書き込んでいく。
筆記用具を用意していないヒロインさんはオロオロしていた。ドラマの撮影とかだと、脚本を持ちながら演技することなんて無いから、事前に自分のメモ書きはあっても、ディレクターさんや監督さんの指示をその場で脚本にメモ書きする事なんてほとんど無いからね。ましてや、シーンの撮り直しはあっても、ある一つのセリフだけ抜き出して別撮りとかも無いからね。
台本を持ちながら、本番も収録する声優さんならではかもしれないね。
そして、ヒロインさんは本番で別のマイクを使ってしゃべり、ミキサーさんのこめかみをピキピキさせ、別撮りの指示があったセリフをそのまましゃべり、リハーサルでみんながアドリブを入れているのを見て、本番でリハーサルと違うアドリブを入れてしまうという、あるあるな事をやりまくって、ディレクターさんにダメ出しを食らっていた。
ヒロインさんの演技はだんだんと委縮して行った。こうやって安易に声優業に手を出すとやけどする俳優さんが出来てしまうのか・・・。
僕は彼女をフォローしようとするけれども、彼女の方から僕を避けているみたいで、フォローも難しかったし、僕が言っても彼女は僕のフォローを素直に受けられる精神状態じゃないだろう。
僕も前世でスマフォゲーのゲストVTuberキャラやコンテンツで音声収録をしていなかったら、同じミスをしていたかもしれない。
もっとも、僕も前世でヒロインさんと同じミスをしてたから良くわかるよ。
体や表情を使って役を表現できる俳優と違って、声しか表現ができない声優さんの演技は、俳優の演技とはまた違った難しさとプロフェッショナルさが求められるお仕事だね。
ヒロインさんはその辺の準備がまだ出来ていなかったようだ。
しかし、こう言った部分のフォローは本来はマネージャさんのお仕事なのに、マネージャさんは何をしているのさ?
収録部屋の外でマネージャさんを見ると、まだ若くて経験の浅そうなマネージャさんが付いていた。おそらく、ヒロインさんがケガでしばらく入院をしていてしばらく仕事を休止していたせいで、ベテランのマネージャさんが外れて、若いマネージャさんが一時的に入っているのだろう。
最初の部でヒロインさんの録音が終わると、後の部は僕の出番となる。
僕とほかの声優さんとの絡みはすごく上手く行った。
特にリーガス役のベテラン声優さんとの掛け合いは最高で、映画でした実際のリーガスとの掛け合いとはまた違った、アドリブの利いた日本人向けの絶妙な掛け合いが楽しかった。
日本語吹き替えもまたすごく良い出来になる予感がした。
事件が起こったのは、父親である議員との対決を終え、誘拐されて奥に捕らえられていたヒロインとリーガス、そして僕が再会するシーンだった。
リーガス役の声優さんとヒロインさんと僕が本番の吹き替えを録音していると、ヒロインさんが何度目かのNGを出した。
人生最大の役に抜擢されて、人生最大のチャンスが回ってきたと思った瞬間、彼女は自分のミスでケガをして降板し、僕に役を奪われ、ケガから回復してやっと復帰したと思ったら、吹き替えでも慣れない声優の仕事にミスを連発して、自分の演技ができない。
彼女のフラストレーションは溜まりに溜まっていた。
そして、僕の吹き替えで役を僕に奪われた事を実感して、僕と一緒に映るシーンで、NGを出してキレた。
「どうしてこうなるのよ!!」
フラストレーションのあまり、自分の行動に自制が効かなくなって、彼女は持っていた台本をばさっと僕に投げつけてきた。
そんなに強く投げつけた訳じゃなかったけど、彼女の投げた台本は僕の鼻に当たって、僕は大量の鼻血を出してぶっ倒れた。
「きゅ~ヾ(⌒(_×ω×)_バタン」
収録現場は大騒ぎとなった。