かつてこの星を、大いなる災厄が襲った。
神を騙る、大いなる力を持った黒き天使は、人々を裁きの光によって塩の柱へと変えた。
また、黒き天使は、偉大なる槍によって大地と海とを吸い上げ、天に浮かぶ月を落とさんとした。
空を飛ぶ事のできる『鳥』という獣だけが、この災厄より逃れる術を持っていた。世界の終わりを感じ取った『鳥』たちは、やがて、この星から姿を消した。
しかし、人よ。人の子らよ。恐るる事なかれ。
神より与えられた真なる福音は、大いなる光の巨人の姿と成り、全ての災いを退け、遂には黒き天使を打ち倒した。
そして福音は星の海を渡り、暁の明星に辿り着き、新たな月と大地を手にし、新しき神の国を興された。
世界に安寧がもたらされた。
神の福音は大いなる父と母となり、今も星を見守っておられる。
祈りましょう。
父と、母と、子と福音の名において。
天にまします我らが福音よ。
願わくは御名の尊まれんことを。
御国の来たらんことを。
御旨の天に行わるる如く、地にも行われん事を。
我らの罪を拭い去り給う、福音よ。
我らを試みに引き結まわざれ、我らを悪より救い給え。
我らに平安を与え給う、福音よ。
今も永劫も、我らを導き給え。
──────シン星紀1216年、ある教会の祈り
「『祈りましょう』、か・・・」
分厚い雲に覆われた空を更に黒く塗り潰す、翼をもったナニカの群れ。
それは神話にある『鳥』を彷彿とさせた。
しかし翼を持ったナニカは、獣というには悍ましすぎた。
それは、人の赤子の姿をしていた。
赤子の泣き言が木霊する。
その光景にある者は涙し、ある者は正気を失い、ある者は両手を上げて喜んだ。
まさに、世界の終わりの光景にふさわしい。
空を見上げていた男も、そんな大勢の人々の1人にすぎない。
「せめて、結婚して嫁さん貰いたかったぜ。福音さまよぉ・・・・・・」
男は地に膝をつき、天を仰いだ。
そこに神はいない。
「神よ、どこにおられるのですか」
男の頬を涙が伝う。
「!!!?」
男が「神」と口にした瞬間、空の赤子たちが一斉に泣き止み、男を見下ろした。
男の全身の毛穴に、氷柱を突き刺されたと感じるほどの悪寒。恐怖によって男の喉が絞め上げられる。
「・・・ひゅッ、ひゅッ!」
空の赤子が一斉にニタァと笑みを浮かべる。それは幼子が母を見つけて喜ぶ様に似ていて。
圧倒的な悍ましさだけが、男を支配した。
赤子が、男に殺到した。
「ひぃやぁあああああああああああ・・・・・・」
赤く光る帯が煌めいた。
「!?」
その2本の帯は空を舞い、赤子たちを切り裂いていく。
それを追うように、淡い紫の光が空を駆け抜け、空の赤子たちを焼いた。
「あ、あぁ、ああああ!!」
男の喉に声が戻る。
神はいない。
だが、福音は在った。
「大いなる・・・福音・・・。天におられる、我らが父と母・・・!」
男は立ち上がり、そして再び地に跪いた。
「エヴァンゲリオン・・・・・・!」
男は、人々は、歓喜に咽び泣いた。
雲の切間より光が差し込む。
空に浮かぶは2人の巨人。
光を背負う、大いなる福音。
エヴァンゲリオン最終号機。
そして、アスカエヴァ統合体。
シン星紀1939年、神話が甦った日であった。
つづく