シン星紀エヴァンゲリオンー神も泣くかもしれない   作:サルオ

13 / 52
e.天に輝く人の光(中編)

 

 シンジの眼前に突然現れた、迷彩柄のエヴァンゲリオンのような機体。角などの装飾は無く、どこか、かつて殲滅したエヴァンゲリオン参号機を彷彿とさせるデザイン。それが、エヴァ最終号機に銃口を向けていた。

 

「本当に、ケンスケなのか・・・・・・?」

 

『相変わらず、すっとろいなぁ。碇』

 

 

 

 銃口が火を吹く。何度も。何度も。

 

 

 

『ふう。やっぱり無理か・・・・・・』

 

銃弾は当たらなかった。ただの一発も。

 

『ルクレティウスの槍。光の回廊、か。ATフィールドとは違うが、お前が認めたものしか通れないようにしているのか?』

 

「・・・そうだよ」

 

 『光の回廊』の内側で、最終号機が再び槍を構え直す。エントリープラグ内でシンジは、かつての学友を睨みつけていた。いや、本当ならば今でも学友であるはずなのだ。シンジにとっては。

 

 色々と、問い詰めたい事はある。

 

 ケンスケは今まで何処にいたのか?

 

 何をしていたのか?

 

 そのエヴァは何なのか?

 

 トロワを吹き飛ばした兵器はなんなのか?

 

 だが、それらの問いよりも優先して確認すべき事。

 

 即ち、

 

「ケンスケは、敵なのか・・・・・・?」

 

『寝ぼけたこと言うなよ、碇』

 

迷彩柄のエヴァもどきが肩をすくめる。

 

『当たり前だろ?』

 

 その返答を受け、シンジの胸に焦りが生まれた。それは様々な要因によってもたらされたものであったが、1番の要因は『敵がネルフJPNの前まで潜伏していた』という事実であった。『光の回廊』を出している間、最終号機の動きは大きく制限される。シンジ自身が意識を集中しなければ、『回廊』を維持できないからだ。よって最終号機がこの場で会敵しても、戦闘に移る事はできない。

 

(どっちが正解だ・・・?)

 

シンジは必死に頭を回転させた。ここで『光の回廊』を解き、ケンスケの乗るエヴァンゲリオンもどきと一戦交わるべきか、否か。『光の回廊』はそれほど巨大なものではない。ネルフJPN全体を覆うほどの巨大なものは、シンジには作れない。つまり目の前の元学友は、『回廊』に覆われていない部分のネルフJPNに対して、いつでも攻撃を開始することが可能なのだ。ならばこの場で、最終号機がケンスケを制圧した方が良い、とシンジは考える。

 

その一方で、1番厄介なのは、この場にケンスケ以外にも敵がいた場合だ。先程の突然の出現は、恐らく光学迷彩などを用いたものだと推測できるが、シンジも、そして敵をモニターしているはずの発令所の面々ですらも欺いた見事なものであった。もし目の前のエヴァもどき以外にも敵が潜伏しているならば、自分が『回廊』を解いた瞬間に、ネルフJPNは一斉攻撃の的になり、一瞬で壊滅するだろう。

 

 『光の回廊』を解くべきか、維持するべきか。シンジの中に迷いが生まれた。

 

『碇。お前は本当にわかりやすいな』

 

 そんなシンジの考えを、ケンスケは容易く見破る。ネルフの防諜部として暗躍してきたケンスケにとって、シンジのような情報戦の素人の考えなど手に取るように判る。

 

『俺以外の敵がいるかどうかで悩んでるなら心配ご無用。友達と会うのに、余計な奴なんか連れて来るわけないだろ?』

 

「友達・・・・・・」

 

『ああ、中学からの付き合いじゃないか。高校も、職場だって一緒なんだぜ?』

 

「・・・・・・なら、なんでケンスケはそんな場所にいるのさ」

 

 この問いかけはシンジの本心であった。敵である前に、ケンスケはシンジにとって、かけがえの無いない友人であった。それが何故、敵側としてネルフJPNに攻め込んでくるのか。ケンスケの本心を知りたかった。

 

『それ、今重要か?』

 

「答えてよ。ケンスケ」

 

『・・・・・・やれやれ』

 

 ケンスケの乗ったエヴァもどきが首を振る。

 

 

 

 そして、右脚を高く上げると、『光の回廊』を思い切り蹴り始めた。

 

 

 

「!!」

 

 

 

『お前の!そういう!ところ、がっ!気に入らないんだよォ!!』

 

 

 

「ケンスケ・・・」

 

『良い子ぶりやがって!あぁ!?友達が裏切って敵になって、自分は悲劇の主人公にでもなったつもりかよ!えぇ!?さぞ楽しいだろうなァ〜碇!お前のその立ち位置はよォ!』

 

「な、なに言ってんだよケンスケ・・・。そんな事・・・」

 

『あ〜あ〜。あ〜あ〜あ〜あ〜あァ!!うぜえ!』

 

 ドンドンドンドンッ!と銃口が火を吹く。勿論、シンジには当たらない。そんな事はケンスケも百も承知だ。だが怒りに任せて発砲する事で、自身の苦しみを少しでもシンジに味合わせてやろうという、強い憎しみの込められた弾丸であった。そして、それは十分にシンジに伝わってくる。

 

 弾を撃ち尽くしたライフルを『光の回廊』に叩きつけ、オマケとばかりに一際強烈な蹴りを放つ。まるで唾でも吐き捨てるかのような仕草を取り、それでも怒りの収まらないケンスケのエヴァもどきは、肩で息をしていた。

 

『はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・。碇、七つの大罪で1番重い罪を知ってるか?人類最初の殺人が、どんな動機で行われたか知ってるか?』

 

「え・・・?」

 

『嫉妬だよ』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 

 理解が追いつかないシンジの前で、ケンスケのエヴァもどきが右手の甲を見せつけるように掲げた。

 

『お前は、俺の望んだ全てを持っていた。孤独な人生。避けられようのない運命。エヴァのパイロットとしての立場。それを支える仲間。使徒との戦い。それを経て得られる友情と勝利。それを彩る美少女たち。そして友の死と、挫折と、それでも尚、立ち上がる勇姿。英雄という立場。世界を救ったヒーロー。・・・・・・わかるか?碇。お前の人生は、俺自身がそうあって欲しいと望んで、結局手に入れられないと諦めていた、夢物語そのものなんだよ』

 

「・・・それを、僕が望んでいたとでも思っているのか?」

 

『そのお前の感情も含めて、さ。お前の人生はドラマに満ちている。俺みたいなモブには一生味わうことのできない、彩りのある人生だ。自分にしかわからないって顔でいつも憂いを帯びて。そんな自分に、お前もどこかで酔っていたんじゃないか?』

 

「そんなわけないじゃないか!」

 

『だが結果として、今のお前はどうなんだよ!?世界を二度、いや三度も救い!父親やミサトさん達とも和解し、アスカと結ばれて子供まで作った!お前は、俺の望んだ全てを手に入れた!・・・馬鹿げた話だ。どこのアニメだよ。だけどな、俺は『それ』が欲しくて仕方なかったんだよォ!!』

 

 エヴァもどきの右腕に、脈動するように血管のようなものが浮き上がっていく。それは青黒い体液を通しているようで、その光景にシンジは軽い既視感を覚えた。

 

『お前や、トウジたちがネルフJPNで少しずつ自分の立ち位置を築いていく姿を、俺が何とも思わないとでも思ったのか?凄まじい劣等感だったんだぜ?だが俺はエヴァには乗れない。それでも、どうにかしてお前たちと並び立ちたいと何度思ったか。そして何度、現実を突きつけられたか。その代償として、俺は右腕を失った・・・・・・』

 

 ケンスケの右腕は、アルマロス騒乱の際、塩となって砕けて散った。この星の生命情報を備蓄した、人類補完計画のセーブデータである『箱舟』に手を出そうとして、『箱舟』に拒絶されたのだ。

 

 ケンスケの秘めた想いは、昔からシンジも感じ取ってはいた。シンジ自身が望まない境遇を、ケンスケがずっと追い求めていた事には気付いてはいた。

 

(だけど、そこまで思い詰めてたなんて僕にはわからなかった。それなのに、僕は・・・・・・)

 

『なぁ、碇・・・・・・』

 

「・・・・・・なに?」

 

 若干の罪悪感。それが、シンジの心を軟化させていた。ケンスケの胸に秘めていた想いを、今こそ受け止めようと思って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アスカを、俺にくれよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ゛?」

 

 シンジの視界が瞬時に赤く塗りつぶされていく。

 

『聞こえなかったのか?碇。アスカを俺にくれって言ったんだよ』

 

『シンジ!奴の言葉を聞くな!無視しろ!』

 

 通信にゲンドウが割り込むが、それどころじゃない。そんなのどうだっていい。いま、目の前のこの『敵』は、シンジの逆鱗に触れたのだ。

 

『もう十分楽しんだだろ?あのカラダを、めちゃくちゃに舐め回して、吸い尽くして、貪ったんだろ?子供も生まれたんだ。もういいじゃないか。一目惚れだったんだ。好きだったんだよ、アスカが。俺もアスカの腰を掴んで、思いっきりバシバシ叩きつけたいんだよ。アイツの中を、俺の子種で満たしたいんだ』

 

「だまれ」

 

『代わりならいるじゃないか。ほら、あそこで這いつくばってるトロワとか、さ。ここにはいないけどカトルともなんだろ?じゃあ、いいだろ?アスカの唇を俺ので塞いで、思うままにヤッちまいたいんだよ。アスカって処女だったんだよな?じゃあシンジしか男を知らないわけだ。だったら俺がもっと気持ちいいことを教えてやるよ。アスカの喘ぎ声はどんなだろうな。そのうちアスカの方から求めてくるかもなぁ。自分から腰振り始めて・・・』

 

 シンジの脳裏で、ブチン、と音がした。

 

『ぐあっ!?』

 

「だまれって言っただろ?」

 

 最終号機が『光の回廊』を解き、エヴァもどきの首を絞め上げた。ぐぐぐ、とエヴァもどきの身体が浮かび上がる。

 

『あぐ・・・、は、ハハ!やっぱり分かりやすいなッ!』

 

 エヴァもどきの右手が最終号機の腕を掴む。その瞬間、シンジの腕に激痛が走った。

 

「ぐああ!?」

 

 痛みに思わず手を離した最終号機。掴まれた腕を見れば、掴まれた部分が白く変色し、ポロポロと破片がこぼれ落ちていた。

 

 痛みに気を取られていたシンジの顎が跳ね上がる。隙を突かれ、顎を蹴り上げられたのだ。シンジの視界がぐあんぐあんと歪む。

 

『シンクロしすぎってのも考えものだな。脳が揺さぶられて、景色がぐにゃぐにゃに見えるだろ?』

 

「あ、うう・・・・・・」

 

『ついでに』

 

「ぐはぁっ!?」

 

『ATフィールドも張れない、と』

 

 最終号機の腹にエヴァもどきの拳が叩き込まれた。あまりの激痛に最終号機がたたらを踏む。その隙を逃さず、ケンスケは次々と拳と蹴りを叩き込んでいく。

 

『サイッコーだなぁ碇!!無敵のシンジ様は使徒やアルマロスとは戦えても、人間とは戦った事ないもんなぁ!?』

 

「け、ケンスケ・・・」

 

『ただのサンドバッグだ!パイロットじゃあ対人訓練なんて重視されなかっただろ!?防諜部はそっち専門だからな!人の壊し方は熟知してんのさ!!』

 

「がはっ!!」

 

 意識が朦朧としたままではあるが、シンジは殴られながらもケンスケの攻撃を観察していた。確かに対人戦闘技術は、圧倒的にケンスケの方が上だろう。一度隙を晒せば、立ち直るチャンスなど与えてたまるかと、シンジの意識を何度も刈り取ろうという攻撃を執拗にしてくる。

 

 だがそれでも、シンジには腑に落ちない点があった。

 

(あの、右腕・・・。あの攻撃だけが異常に重い!)

 

 最終号機が攻撃を逃れようと地面を転がる。

 

 しかし、それはケンスケの罠だった。

 

『確保ぉ!』

 

「うがッ!?」

 

 一緒にして背後に回り込んだエヴァもどきが、腕を回して最終号機の首をロックする。ギリギリと締め上げられる最終号機に合わせて、シンジ自身の首も閉まっていく。

 

「あ、が、ぐぷ・・・・・・」

 

『碇ぃ・・・。こんな攻撃、エヴァに乗ってから食らった事なかっただろ?エヴァはロボットじゃない。人造人間なんだ。急所も全て人間と一緒さ』

 

 シンジは必死でケンスケから逃れようとするが、首をガッチリと極められた最終号機は逃げる事ができない。だんだんとシンジの意識が遠のいていく。

 

『おっと。おねんねは早いんじゃないか?』

 

 最終号機の顔に、エヴァもどきの右腕が沿えられた。途端、シンジの顔に激痛が走った。

 

「ぎゃあああああああああッ!!」

 

『人間てのはお前が思ってるよりずっと凄いんだぜ?碇。よーく見てろよ?あそこで踠いている綾波もどきをな。・・・・・・やれ』

 

 ケンスケの合図と共に、再び0・0エヴァ/トロワ機が何かに弾かれるように宙を舞った。

 

「!!!」

 

『アレな、どうやってるか教えてやるよ。レールガンってヤツさ。浪漫の塊みたいな兵器で、ぶっちゃけ普通の戦争じゃ使い物になるか微妙なんだけどな。ただ、兵器も使いよう。物量で抑え込んだ敵一匹くらいなら、当てるのもワケない。横からの攻撃だ。ATフィールドを張っても、踏ん張りが効かなくて吹っ飛ぶんだ。あとは何度でも死ぬまで叩き込んでやればいい。カンタンだろ?』

 

 0・0エヴァが地面に叩きつけられる。そして、追撃のレールガンによって二度、三度と宙を舞った。

 

 怒りで我を忘れそうなシンジが、最終号機をロックしている腕を掴んで、渾身の力を込めてギリギリと締め上げていく。しかし、ケンスケは意にも介さないというように、逆に最終号機の首を更に締め上げた。

 

『悪いな。エヴァと違って、俺の乗っているのはオルタナティブ・エヴァンゲリオンだ。シンクロシステムは使ってるが、お前みたいに完全に痛みがフィードバックされるワケじゃない』

 

 エヴァもどき、いや、ケンスケのAE(オルタナティブ・エヴァンゲリオン)が、今度は右腕を最終号機の肩に沿えた。再びシンジに激痛が走る。

 

「うあああああアアアアアアアアアア!!」

 

『我慢しろよ。男の子だろ?』

 

「うぐ、ぐあああッ!!」

 

『おっとぉ!?』

 

 最終号機が光の翼を展開し、思い切り後方に跳んだ。その勢いはケンスケのAEを振り解くのに十分な力を持っていた。AEの腕から逃れた最終号機が、距離をとって着地する。

 

「はあっ!はあっ!はあっ!ゲホッ」

 

『さすが。世界を救った勇者様は違うね』

 

「ケンスケぇ!!」

 

『俺ばかり気にしてていいのか?』

 

 ケンスケの言葉に我に帰ったシンジが背後に視線を向ける。『光の回廊』が解かれたネルフJPNは、連合軍の飛行部隊の集中砲火を浴びて、至る所から火の手が上がっていた。上空ではシスが奮戦しているが、敵の数が多すぎるため、全く防衛できていなかった。

 

「父さんッ!ミサトさんッッ!!」

 

『隙あり』

 

 ケンスケのAEが右手をシンジに向けてかざす。途端、強烈な拒絶の意志が最終号機とシンジを包み込んだ。まるでブリザードにでもあったかの様に、最終号機の表面がピシピシと音を立てて白く変色していく。

 

「こ、これは・・・・・・!?」

 

『なんだと思う?』

 

 全身から発せられる痛みに耐えながら、シンジは必死で敵機の右腕を見据えた。AEの右腕を、青黒い液状の何かが這いずり回っている。

 

「まさか・・・、バルディエル!?」

 

『半分正解』

 

 それはかつて、初号機がダミーシステムによって殲滅し、しかし友人であるトウジの体内に根付いた使徒。それそのものだった。

 

「まさか、トウジから移植したのか!?」

 

『移植じゃないさ。俺の右腕はもう無いのは知ってるだろ?コイツはAEの腕に住まわせてやってるのさ。依代としてな』

 

 ケンスケが右腕に更に力を込める。シンジと最終号機を更に強い拒絶の意志が襲った。

 

「うぐぅううう・・・・・・!」

 

『コレはな、「箱舟」の力さ。俺の右腕を奪ってくれた、な』

 

「箱舟!?」

 

『箱舟はもともと、ゼーレが人類補完計画の時間短縮のために創り出したものだ。製造方法は失われたが、俺はゼーレ以外で、人類で最も箱舟に近づいた「男」だ。あまり期待してなかったが、どうやら俺のカラダにも箱舟の一部は宿っていたらしい』

 

「そんな、力を、どうやって・・・・・・」

 

『言っただろ?人間ってのは凄いんだ。知恵の実を得た俺たちリリンは、科学という力で数々の自然現象を解き明かし、再現し、屈服してきた。ゼーレも元を辿れば唯の人間だ。奴らにできて、他の奴らにできない道理はない。・・・つっても、コレはネルフ残党のお偉いさんたちの受け売りで、ゼーレに見捨てられた負け惜しみでしかないけどな』

 

「じゃあ、依代っていうのは・・・」

 

『この『現象』を再現するための、道具ってことさ。難しいことは俺も知らないが・・・』

 

 ゴォッと、強い圧がシンジに襲い掛かる。

 

『お前を塩の柱に変えるくらい、カンタンってことだ』

 

「う、うあ、うああああああああっ!?」

 

 ビシビシと音を立てて、最終号機の身体が塩化していく。塩化した身体のあちこちにヒビが入っていき、今にも崩れ落ちそうだ。

 

 気を失いそうになるシンジを救ったのは、自分の上司の声だった。

 

『シンジくん!聞こえる!?』

 

「み、ミサトさん!?無事なんですね!?」

 

『そんな事より槍よ!槍を使って!』

 

『光の回廊、か。いいぜ。試してみろよ碇』

 

 最終号機がひび割れた腕に力を込める。一瞬の閃光と共に、最終号機の目の前にルクレティウスの槍が出現した。シンジは槍を掴んで掲げると、最終号機を中心とした『光の回廊』が展開された。

 

『無茶苦茶な力だな。だけど・・・・・・』

 

 ケンスケのAEがおもむろに近づき、右腕で『回廊』に触れる。瞬間、触れた先から『光の回廊』がボコボコと泡立ち、少しずつ塩化していった。

 

「な、なんで・・・」

 

『認識の槍、っていうんだろ?それ。あらゆる現象を、お前の認識できる形に留める槍。だけどな、碇。それは人類がずぅっと昔からやってきた事なんだよ。この箱舟みたいになぁ!』

 

 塩化した『光の回廊』の一面がバキバキと音を立てて崩れ落ちる。空いた穴から箱舟の力が回廊内に流れ込み、最終号機の塩化を更に進めた。

 

『箱舟は生命情報の塊だ!一部とはいえ、お前は数百億年以上の生命の歴史の全てを認識できるのか?この星の森羅万象を全て理解できるのか?どれだけその槍が凄かろうと、お前という個体では到底無理な話なんだよ!』

 

 シンジの意識が、再び遠のいていく。

 

『箱舟は、生物の(つが)いであれば、拒絶の意志を弱めるらしい。近くにいれば、ってことみたいだが。だけど今のお前には、番いは居ないだろう?』

 

『シス・・・・・・!碇くんのところへ!』

 

 通信に、ボロボロのはずのトロワの必死な叫びが流れた。

 

『オッケー!まっててシンジ・・・ぎゃん!』

 

『シス!?』

 

 上空のシス機を、何かが撃ち抜いた。循環液と煙を撒き散らしながら、F型零号機アレゴリカが墜落していく。

 

 ATフィールドを纏えるエヴァンゲリオンを貫き、撃墜できる兵器。レールガンではない。その攻撃は、シス機よりも更に上空から発射されたものだった。

 

 シンジはその兵器に覚えがあった。

 

 

 

 

 

『ええ加減にせえや、ケンスケぇ。なんぼワシでも、我慢の限界っちゅーもんがあんねんぞ?』

 

 

 

 

 遥か上空から、一つの機体が飛来してくる。光の翼を広げた姿は、かつてシンジが北海道で見た光景と同じ。

 

「ウルト、ビーズ?」

 

『投降して。碇君』

 

 通信を通して聞こえてきた声は、かつてのウルトビーズのパイロットであり、そして、人類最大の敵としてアルマロスに囚われた洞木ヒカリのもの。

 

 トウジとヒカリ。

 

 今や番いとなった二人が搭乗する、ダブルエントリーシステムを採用した、ネルフユーロの最新鋭のエヴァンゲリオン。

 

 ネルフJPNにとっての絶望が、光を背にして舞い降りた。

 

 

 

つづく

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。