シン星紀エヴァンゲリオンー神も泣くかもしれない   作:サルオ

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 久しぶりの10000字越えです。

 調子に乗りましたw


e.天に輝く人の光(後編)

 

 光を背負い、戦場に舞い降りた改良型EVA・EUROII・ウルトビーズ。

 

 その姿の神々しさ故か、戦場は静けさに包み込まれた。対ネルフJPN連合軍は総攻撃の手を休め、事の成り行きを見守っていた。

 

「まさか、洞木さん・・・・・・?」

 

『いや、今は鈴原や。シンジ・・・』

 

「この声・・・。まさか、トウジも!?」

 

 ヒカリの声に続き、トウジの声までもが通信で流れてきた。シンジの理解は追い付かず、ただ、舞い降りる異形のウルトビーズを凝視することしか出来ないでいた。

 

 異形。

 

 そう形容するしか無い、かつての姿とは異なったウルトビーズ。陽の光を浴びて白く輝く、まるで宗教絵画のような神秘的な姿や、アレゴリック翼の光は、シンジの記憶の中の姿と変わらない。

 

 しかし、腕。 

 

 通常のエヴァの2本の腕とは別に、両肩から更に2本の腕が生えており、腕の数は合計4本。両肩から生えた腕の肘から先は長距離ATフィールド兵器である『天使の背骨』へと換装されている。

 

 ウルトビーズは残りの2本の腕で十字槍を携えて、言った。

 

『シンジ、後生や。投降してくれ』

 

「なんで・・・、なんでトウジが、エヴァに乗ってるんだよ・・・・・・」

 

 異形のエヴァ。

 

 それに搭乗しているトウジ。

 

 その状況が、シンジのかつてのトラウマを呼び起こす。

 

「ダメだ・・・トウジ・・・・・・。トウジは、エヴァに乗っちゃダメだぁ!!」

 

『シンジ!?なんや、どないした!?』

 

「すぐ降りて!降りてよ!じゃないと、僕は、また、トウジを・・・・・・!」

 

『あ〜あ。だから言ったろ?トウジ。お前が出てきたらややこしくなるって』

 

 ケンスケのオルタナティブ・エヴァが、『箱舟』の力を宿した右腕を下ろす。同時に、最終号機を襲っていた強烈な拒絶の意志が消え、塩化もピタリと止まった。

 

『お前を握りつぶした事は、お前が思ってる以上に、碇にとってはトラウマなんだ。せっかく盛り上がってきたのに白けちまったよ・・・』

 

『じゃかあしい!ワシらが出んかったら、お前はシンジを殺してたやろが!』

 

『まさか。本命が来てないのに、そんな事するわけないだろ?』

 

『いい加減にして、相田くん。これ以上、私たちを怒らせないで』

 

 怒気を孕んだヒカリの声を聞き、ケンスケのオルタナティブ・エヴァがやれやれと肩をすくめる。

 

『鈴原夫妻は似た者同士だな。ていうか、夫婦だから似たのか?』

 

 次の瞬間、オルタナティブ・エヴァの真横の大地が吹き飛んだ。ウルトビーズの『天使の背骨』が大地を抉ったのだ。

 

『軽いジョークだろ?』

 

『笑えんわ、阿呆』

 

 ケンスケに向けて発砲したウルトビーズが、大地に降り立つ。そしてゆっくりと、最終号機に近づいてくる。

 

『シンジ、気張れや。ワシがトーヴァートになっとった時は普通に戦えたやないかい』

 

「あ、あの時は、無我夢中だったから・・・」

 

 それに、自分も死ぬ直前だったから。

 

 そんな言葉がシンジの頭によぎる。シンジはそんな考えが頭に浮かんだ事自体に、猛烈な嫌悪感を抱いた。

 

(僕は、トウジよりも、やっぱり自分の命の方が大事なんだ・・・。そっちの方が大事だから、あの時は戦えて・・・)

 

『違うやろ』

 

 シンジの心を読んだかのように、トウジが彼の思考を遮った。

 

『お前はあのときも、それより前のワシが使徒に乗っ取られたときも、自分の命よりもワシの命の方を優先してたやろが。トーヴァートの時やって、必死でワシに呼びかけてたやろうが』

 

「トウジ・・・」

 

『お前は、お前が思っとるほど軽い男やない。せやからワシは、お前が友達であるっちゅー事に誇りを持っとる。もっと胸張りぃや』

 

『水を差すようで悪いけど、いま碇に気張られたら困るだろう?』

 

 ケンスケのオルタナティブ・エヴァが最終号機のツノを乱暴に掴む。

 

『友達を励ますのはいいんだけどさ。今はもっと他に言うべきセリフがあるだろ?ユーロ軍大隊長、鈴原トウジ殿』

 

「ユーロ軍・・・大隊長・・・・・・?」

 

『呼び方はなんでもいいけどな。将軍とか、総司令官とか』

 

「ウソだ・・・ウソだよね?ウソって言ってよ、トウジ・・・・・・」

 

 収まりかけていた胸の動悸が、ケンスケの言葉で再び激しくなる。先程とは別の焦燥が、シンジを包み込んだ。ウルトビーズに乗っているという事はつまり、そういう事だ。この状況が、全てを物語っている。

 

 だが、シンジの心はそれを認めたくない。藁にもすがるような思いで、シンジはトウジを問い詰めた。ウソである、という答えに期待して。

 

『・・・・・・スマンのぉ。シンジ』

 

 突きつけられた槍の穂先が、答えとなった。

 

『ワシは、いや、ワシらは、対ネルフJPN連合ユーロ軍。その手先なんや・・・』

 

「そんな。トウジ、どうして・・・」

 

『ごめんなさい、碇君。でも私たちにも、事情があるの』

 

『シンジ。今投降すれば、これ以上の被害は出ぇへん。だから頼む。後生や。ホンマに頼むから、負けを認めたってくれ・・・・・・!』

 

 シンジが突きつけられた槍の穂先を眺める。

 

 

 

 負けた?自分たちが?

 

 俄かには信じ難い。信じたくない、事実。

 

 それがシンジの足下をおぼつかなくさせる。

 

 

 

「父さんや、ミサトさん達は・・・・・・?」

 

『もちろん、これ以上の危害は加えへん』

 

『生きていれば、だけどな』

 

『黙っとれやケンスケぇ!!』

 

 トウジからの叱責を受けたケンスケは、ふぅっとため息を吐くと、最終号機のツノから手を離した。それと同時に、最終号機はその場に膝から崩れ落ちた。

 

 シンジの心が折れたのだ。

 

 最終号機の背後のネルフJPNからはいくつもの火の手が上がり、時折、爆発音まで聞こえる。連合軍の攻撃は止んでいるにも関わらず、だ。もはや設備の大半が崩壊した施設内は、恐らく阿鼻叫喚の地獄絵図だろう。仮に内部の人間が生きていたとしても、火の手に巻かれて、命を失う人間も出てくるかもしれない。

 

 その中に、自分の父親や恩人たちが含まれないとは限らないのだ。

 

(僕のせいだ・・・・・・・・・)

 

 『光の回廊』を解かなければ、今のこの惨状は無かったかもしれない。ゲンドウの言った通りであった。ケンスケの挑発に乗り、『光の回廊』を解いたことで、結果として自分の仲間達を死の危険に追いやってしまった。シンジが、最終号機が、単機でどれだけの戦闘力を有していようと、戦争には勝てない。

 

 通信に、ザザッと雑音が混じった。

 

『・・・ンジ君!シンジ君!!』

 

「!!」

 

 それは、ミサトの声だった。

 

『私たちは無事よ!何も心配しなくていいわ!だから、立って!立ち上がって!立って戦うのよ!』

 

『レールガン用意』

 

「やめろケンスケぇ!!」

 

 シンジはとっさにケンスケに縋りついた。

 

『・・・今のは冗談だよ。でもな、碇。次に勝手に動いたら、ミサトさん達に本当にレールガンを叩き込む』

 

「やめろ。やめて、やめてくれよぉ・・・・・・」

 

『ははっ!いいねぇ、その態度。命乞いかよ!?あの無敵のシンジ様が!でも頼み方ってのがわかってないんじゃないか?足りないだろう?誠意が、さ』

 

 シンジを見下ろす、ケンスケの表情。敵機であるオルタナティブ・エヴァに搭乗しているケンスケの顔を、シンジは確認する事はできない。だが、ケンスケの顔がどれほどの歪んだ笑みを浮かべているかは容易に想像できた。

 

 そして、それに従わない場合、ケンスケがどういう行動に出るのか、も。

 

 シンジは最終号機の頭を地面に擦り付けた。

 

「・・・お願いです。僕たちの負けです。負けを認めます。だから、どうか、みんなの事は助けてください。お願いします・・・!」

 

『ふ・・・くく、くくくくく・・・・・・あーはっはっはっはっはっ!!マジか、碇!あはははははははははははははは!!』

 

 シンジの土下座を目の当たりにしたケンスケが、狂ったように笑う。それを横で見ていたトウジは「付き合いきれん」と、プラグ内で頭を振った。

 

 

 

 

 

『トージ・・・?な、んで・・・・・・?』

 

 

 

 

 トウジの肩がビクッと跳ね上がる。ウルトビーズのエントリープラグ内に、小さなレイNo.シスの悲しげな声が流れた。

 

 ウルトビーズが、先程撃ち落とした、背後のF型零号機アレゴリカに向き直る。墜落してダメージを受けたシスの機体はどうにか立ちあがろうと踠いていたが、受けたダメージは想像以上に大きいらしい。

 

『なんでだよぉ、トージぃ。なんでトージがワタシたちを襲ってくるのぉ・・・・・・!?』

 

『シス・・・・・・』

 

『う、うぅ、うあ、うああアアアアン!!』

 

 シスの泣き声が戦場に木霊する。

 

 その声は、ただでさえ罪悪感でいっぱいのトウジの胸をさらに強く締め上げた。

 

「トウジ」

 

エントリープラグ内で、自分の妻であるヒカリがトウジに目を向ける。愛する夫を心配して。それを見たトウジは、奥歯を強く強く噛み締めた。

 

「ヒカリ。ままならんもんやなぁ・・・」

 

「でも、結果として、綾波さんや碇君は死ななかったわ・・・。私たちは、やれるだけの事をやれたと思う・・・・・・」

 

「それでも、辛いもんは辛いで・・・・・・」

 

「・・・・・・そうね」

 

 

 

 

 大勢は決した。戦争は終わりだ。

 

 ネルフJPNはこの日、2020年12月3日に敗北と共に消滅したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな中で、いまだ諦めていない者達が複数名。

 

 

 

 1人目は、綾波レイNo.トロワ。彼女は、レールガンに何度も吹き飛ばされながらも、その強固なATフィールドと不屈の精神によって、反撃のチャンスをジッと伺っていた。

 

(大丈夫。かならず、来る・・・)

 

 

 

 2人目は、相田ケンスケである。ケンスケのオルタナティブ・エヴァは土下座する最終号機の前に座り込み、再びツノを掴んで無理矢理に最終号機の顔を持ち上げた。

 

『碇。今、お前は負けを認めたよな?お前と最終号機は、俺に負けたって認めたよな?』

 

「・・・はい。そうです」

 

『そうだよな?じゃあ、アスカは俺のものだ』

 

「・・・っ!それは!!」

 

『なぁに。危害なんて加えやしないよ。優しく、丁寧に、ぐちゃぐちゃにしてやるからさ。俺以外じゃ満足できない身体にしてやるよ。だから安心しろって。お前じゃもう満足できないって、アスカから言ってもらうようにするさ』

 

「け、ケンスケぇ・・・・・・!」

 

 シンジの口から血が流れる。怒りで唇を噛み締めすぎて、切ってしまったのだ。

 

『負けを認めたんだろ?戦争で負けを認めるっていうのは、こういう事なんだぜ?それとも、アスカは諦めきれないってか?じゃあ後ろの廃墟寸前のネルフJPNは潰していいんだよな?』

 

「ぐ、クソォ!畜生!」

 

『あっはは!負け犬が吠えてやがる!今夜が楽しみだ!嫌がるアスカをどう抱こうかな!とりあえず今日は徹夜だな。言っとくが、アスカを寝かせるつもりはないからな』

 

「ゲス野郎!!」

 

『怒るなよ。俺たちの映像は撮っておくから、後でお前にも見せてやるって。俺のカメラの腕は知ってるだろ?あ、それとも、直接見せてやろうか?』

 

 アスカに対する異常な執着心。

 

 シンジに対する異常な対抗心。

 

 それらを満たすまで絶対に諦めない、嫉妬の権化となった相田ケンスケの姿がそこにはあった。

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『死ね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤い閃光が、空を焼いた。

 

 

 

『来たか!アスカぁぁあ!!』

 

 ケンスケのオルタナティブ・エヴァが右腕を空に掲げる。強烈な拒絶の意志が、まるで流星の様に空を駆け降りてくるアスカエヴァ統合体に襲いかかった。

 

『馬鹿が』

 

 拒絶の意志を、更に強烈な拒絶の意志が弾いた。

 

『なぁっ!?』

 

 アスカエヴァ統合体の勢いは衰えず、赤い流星はそのまま地面に着弾した。その衝撃は凄まじく、ゴォッという轟音と共に周囲の地面を吹き飛ばし、巻き上げられた大量の土砂がネルフJPNとその周辺に展開した連合軍に降り注いだ。

 

 轟音が止み、煙が晴れると、着弾した場所にはアスカを中心としたクレーターが作り出されていた。その足元に、半死半生の状態のオルタナティブ・エヴァが倒れていた。

 

 アスカエヴァ統合体が、その足でケンスケのオルタナティブ・エヴァの顔を強く踏み付ける。

 

『く、くくくくく・・・。流石だな、アスカ。本当、すげぇ良い女だ』

 

『口を開くな、カス』

 

 アスカが足に力を込め、オルタナティブ・エヴァの顔がギシギシと嫌な音を立て始める。その足を、オルタナティブ・エヴァの右腕が掴んだ。

 

 それを見たシンジの顔が恐怖に歪む。

 

『傷物にはしたくなかったんだが、我慢しろよ?』

 

「逃げろ、アスカぁ!!」

 

 掴まれた足の表面が、少しずつ白く変色していく。

 

 

 

『・・・・・・・・・・・・え?』

 

 

 

 ケンスケが驚き、間抜けな声を漏らした。オルタナティブ・エヴァが掴んだ足は、確かに塩化現象を引き起こした。

 

 だが、そこまでだ。アスカエヴァ統合体の塩化現象は広がらない。それどころか、塩化現象がまるで逆再生されていくように、ゆっくりと、しかし確実に元に戻っていく。

 

『な、なぜ・・・・・・?』

 

『汚い手で触るな』

 

 ザンッ!!

 

 アスカエヴァ統合体の左腕から飛び出した赤い帯が、オルタナティブ・エヴァの右腕を斬り飛ばした。

 

 それはかつて、アスカがエヴァ弐号機と統合した際、一緒に巻き込んだ第14使徒ゼルエルの幼体の腕。ゼルエルの腕を獲得したアスカエヴァ統合体はそれを使いこなし、アルマロスと激戦を繰り広げた実績があった。

 

 

 

 斬り飛ばされた右腕が宙を舞う。

 

 

 

 それが地に落ちた瞬間、戦場は一気に動き出した。

 

 

 

『惣流!!』

『アスカッ!!』

 

 ウルトビーズがアスカに突撃する。

 

『シンジ!槍を!』

 

 迎え撃つアスカが、シンジに指示を飛ばす。反射的にシンジは力を振り絞り、その手にルクレティウスの槍を出現させた。

 

『待て、碇!!ぐっ!?』

 

 ケンスケのオルタナティブ・エヴァが起きあがろうとするのをアスカが踏みつけて土台とし、その反動を利用して飛び出したアスカエヴァ統合体がウルトビーズと激突した。

 

『ハロゥ!ヒカリ、久しぶりね!』

『アスカ!なんで!?』

 

 ウルトビーズの振るう槍を躱し、ゼルエルの腕を振るうアスカ。その攻撃を『天使の背骨』で防ぎながら、銃口を突きつけるウルトビーズ。アスカエヴァ統合体はその銃口をサマーソルトで蹴り飛ばした。

 

 2体のエヴァが距離を取る。

 

『自分の旦那をコケにされて黙ってるほど、できた人間じゃないのよねアタシ!』

『子供がいるんでしょう!?なんで出てきたのよ、アスカ!』

『ついでに旦那のケツを叩きに来たのよッ!』

 

 ウルトビーズの両肩の『天使の背骨』がアスカに照準を合わせた。射線上にはアスカと最終号機、そして、崩壊しつつあるネルフJPNがある。躱す事はできない。

 

『シンジ!』

「!」

 

 『天使の背骨』が火を吹く。

 

 それをアスカエヴァ統合体は、躱した。

 

「ッッ!」

 

 シンジが手にした槍から光が溢れる。最終号機を中心に、再び『回廊』が出現し、撃ち出された侵食型のATフィールドを弾き返した。

 

 アスカエヴァ統合体はアレゴリックの光の翼を広げ、そのまま空に舞い上がった。弾き返されたATフィールド弾を躱しながら、ウルトビーズがそれを追う。

 

「今です、ミサトさん!早く避難を!!」

『了解!総員退避!!光の回廊に急いで!』

 

『させるかよぉ!!』

 

 ケンスケが斬り飛ばされた右腕を掴み、傷口に押し当てた。瞬間、右腕に宿っていたバルディエルがその触手を伸ばし、傷口を一瞬で塞ぐ。

 

 復活した右腕が『光の回廊』に伸ばされる。その指先が触れる瞬間だった。

 

『ッッッッ!?』

 

 オルタナティブ・エヴァの顔面に、プログレッシブナイフが突き刺さっていた。

 

『くそ!投げたのか、碇ッ!』

「僕が認めたものだけが、この回廊を通る事ができる」

『小賢しいんだよぉ!!』

 

 ただの油断。一瞬の時間稼ぎ。そう判断したケンスケが再び手を伸ばす。

 

 だが、戦っているのはエヴァンゲリオンだけではない。

 

 ネルフJPNの生き残った自走兵器の火力が、オルタナティブ・エヴァに降り注いだ。

 

『ぐあッ!?』

 

『戦争は1人でやるもんじゃないんだぜ?相田』

 

『加持、さん、か・・・・・・ッ!』

 

 集中砲火を受けたオルタナティブ・エヴァが、全ての攻撃を受け止めきれずに倒れ込んだ。

 

『確かに、加持さんの言う通り、だな。・・・連合軍!!』

 

 ケンスケの号令を受け、連合軍が進軍を再開する。だが、連合軍はユーロだけのものではない。

 

 太平洋沖に展開していた米軍の艦砲射撃が、ケンスケのオルタナティブ・エヴァに殺到した。

 

『なにィィイイイイイイ!!!?』

 

 咄嗟に右腕の『箱舟』の力でガードするが、全ての攻撃は防ぎきれずに着弾する。

 

『なに考えてる米軍!?こっちは友軍だぞ!?』

 

『爆炎想定範囲内だ。許せ』

 

『ふざけるな!』

 

『繰り返す。

 

爆炎想定範囲内だ(出しゃばるなガキ)速やかに撤退しろ(すっこんでろユーロ)

 

『クソがぁ!!』

 

 オルタナティブ・エヴァが飛び起き、その場から撤退する。その直後、米軍の艦砲射撃が『光の回廊』に着弾し、爆炎が辺りを包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 ネルフJPNが爆炎に飲み込まれた上空で、アスカエヴァ統合体とウルトビーズが激しい攻防を繰り広げていた。

 

 近距離での格闘と、ゼルエルの腕による中距離の戦闘を得意とするアスカに対し、ウルトビーズはロングレンジの『天使の背骨』で距離を置いた戦いを得意とする。戦いは必然的に、距離を保とうとするウルトビーズをアスカが追う形となった。

 

『やめい、惣流!これ以上、戦場を乱すんやない!余計な被害が出てまうやろが!!』

 

『ハッ!ここまでアタシの家をめちゃくちゃにしといてよく言うわッ』

 

『アスカ!これ以上はやめましょう!?収拾がつかなくなっちゃう!』

 

『悪いけど、ヒカリ!あんた達が退かないならアタシも退けないわ!アタシは家族を守りたいだけなんだもの!』

 

『!』

 

『ここでアタシ達が引いたら、アタシ達がどうなるかなんて分からない!ヒカリがアタシの親友でも、あんたらの上の連中はアタシ達を敵として見てる!だったらアタシは、アタシのシンジやミライ、それに、ネルフJPNを守るために戦う!』

 

『・・・・・・・・・私だって』

 

 ウルトビーズが空中で槍を構える。

 

『私たちだって!家族を守りたいのよォ!!』

 

『ヒカリ!?』

 

 トウジの静止を振り切り、ウルトビーズが突進する。アウトレンジの有利を捨て、アスカエヴァ統合体の懐に捨て身で飛び込む。

 

 ヒカリの性格を知っているアスカは、この攻撃に意表を突かれた。ヒカリが激情に駆られる事は少ない。今だって、戦いながらも親友として会話をしてくれていた。

 

 それが突然の攻勢。アスカの防御は間に合わず、辛うじて体を捻って槍を躱す。その脇腹を、十字の槍が火花を散らして引き裂いた。

 

『うああっ!!』

 

『私だって、これ以上家族を失いたくない!ノゾミも、トウジも、サクラちゃんも!誰も失いたくない!アスカだって、殺したくないわよォ!』

 

『ヒカリ!落ち着けや、ヒカリッ!!』

 

 傷付きながらも、アスカがゼルエルの腕で、十字槍を絡めとった。そのまま身体を回転させ、槍を掴んだままのウルトビーズを遠くに投げ飛ばす。

 

(まずい!)

 

 アスカは己の失策に気付いた。ヒカリの攻撃を避けるためにウルトビーズを投げ飛ばしたが、それはウルトビーズの本来の射程。空中で姿勢を整えながら、ウルトビーズが両肩の『天使の背骨』を無茶苦茶に撃ちまくる。

 

『うああああああああああああッ!!』

 

 ヒカリの咆哮と共に降り注ぐ侵食型ATフィールド弾の雨。アスカは咄嗟にATフィールドを展開するが、何発かがATフィールドを突き抜けて被弾する。

 

『うぐぅぅう!ヒカリ!』

 

 必死に防御と回避に専念するアスカの視界の端に、地上の光景が映った。

 

『・・・・・・!?しまった、シス!!』

 

 半壊して動けないシスのF型零号機アレゴリカに、連合軍のAEが殺到する所だった。

 

『逃げて、シスぅぅうう!!』

 

『大丈夫よ、アスカ』

 

 AEの大軍に飲み込まれる寸前、横から黄色い機体がシス機を担いで離脱した。

 

『トロワっ!!』

 

『アスカ。来てくれると思ってた』

 

『ダンケ!そっちこそ、良いとこ持ってくわね!』

 

『アスカ、離脱を』

 

『潮時ね。了解っ!』

 

 ウルトビーズとの距離は十分にある。

 

 アスカとトロワ、シスは、ネルフJPNから空に向かって伸びる『光の回廊』を目指して一目散に撤退を開始した。

 

 

 

 

 

 

「シンちゃん!これで全員よ!」

 

『わかりました!ミサトさん!』

 

「シンジ君!アスカとトロワとシスが飛び込んだら急いで離脱しろ!」

 

『大丈夫です、加持さん!ありがとう!』

 

「なぁに!LUNAで会おう!」

 

 『光の回廊』に飛び込んだミサト達が、吸い込まれる様にその身体を上昇させていく。まるで空を飛ぶように、『回廊』を駆け登っていく。

 

「シンジ!」

 

『父さん!』

 

「先に行く。3人を連れて、必ず戻ってこい」

 

『・・・!』

 

 息子の返事を待たず、ゲンドウも『光の回廊』に飛びこみ、空を昇っていく。

 

『・・・ありがとう、って言いたかったのにな』

 

 『光の回廊』に攻撃が集中するが、シンジの理解が及ばないほどの、それこそ『箱舟』のような膨大な情報の塊でもない限り、その障壁を破る事は叶わない。

 

 シンジの視線が戦場に戻る。こちらに向かって撤退してくる3体のエヴァの姿。その後ろに、まるで津波の様に押し寄せてくる連合軍が迫っている。

 

『みんな!急いで!!』

 

『わかってるっちゅーのッ!』

 

 アスカがトロワからシス機を受け取り、全速力でこちらに飛んでくる。重荷であったシス機を譲り渡した事で身軽になったトロワ機も、音速を超えるスピードでソニックブームを周囲に撒き散らしながら、こちらに全力で駆けてくる。

 

『これは、もう要らない』

 

 トロワが呟くと同時に、装備していた残りの戦略N2弾全てを後方に捨て去った。

 

『さようなら』

 

 0・0エヴァが放ったプログレッシブナイフが、地面に落ちたN2弾に突き刺さる。

 

 光が膨れ上がり、N2弾が連鎖反応を起こしながら爆発していく。爆炎が後方の連合軍を襲い、巨大なキノコ雲が稲妻を纏って高く高く湧き上がった。

 

『ナイス、トロワ!』

 

『これで・・・・・・』

 

『逃すかぁァァアアアアアアアアアア!!』

 

 『光の回廊』までおよそ500メートルというところに来て、爆発を免れたケンスケのオルタナティブ・エヴァが猛追してきた。

 

 オルタナティブ・エヴァが右腕をかざす。

 

『アスカ!トロワ!早くこっちに!!』

 

『あんた、バカぁ?』

 

 アスカの嘲笑。それに倣い、トロワもふんっと鼻で笑う。

 

『そんなもの、なんの意味もない』

 

 2人のATフィールドが展開される。

 

『!?・・・・・・くそぉ!!』

 

 ケンスケの右腕から放たれた拒絶の風は、ATフィールドに阻まれて無力化された。

 

 ケンスケが必死に追い縋るが、間に合わない。

 

 最終号機が、アスカとトロワ達に手を伸ばす。アスカエヴァ統合体はトロワ機と手を取り、最終号機の胸に飛び込む様に『光の回廊』に駆け込んだ。

 

 瞬時に『光の回廊』を、4機のエヴァが駆け上がっていく。4機はものの数秒で大気圏を抜けて、あっという間に星の海へと到達した。

 

 

 

 

 

 

『ふぅーーーっ!なんとか切り抜けたわね』

 

『お疲れ様。アスカ』

 

『トロワもね』

 

 回廊を駆け抜けながら、トロワ機とアスカエヴァ統合体がハイタッチをした。

 

「2人とも、どうやって・・・・・・?」

 

『あん?』

 

 シンジの疑問に、アスカが怪訝な顔を向ける。

 

「いや、さっきのケンスケのアレ。2人は、どうして防ぎ方を知ってたの・・・?」

 

『バカシンジ。あんた、本気で忘れちゃってんの?』

 

「え」

 

『碇くん。アレは大したことはないわ。だってアレは、アルマロスとロンギヌスの槍がやっていた塩化現象と同じものだもの』

 

『アタシ達のATフィールドで、ヨユーで防げたもんじゃない』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ」

 

 言われてみれば、その通り。

 

 アルマロスの出現後、ロンギヌスの槍が長大化してリングを創り出す際に、世界各地で発生した生物の塩化現象。その現象はこの世の終わりのような恐ろしい光景を世界に示したが、同時に、その対処方法も即座に知れ渡る事になった。

 

 ロンギヌスが放つ光に当たると、塩の柱となる。逆に、当たらなければどうということは無い。人々は家の中にいれば防げるし、エヴァであれば、普段から使用しているATフィールドで十分に防げるのだ。

 

「で、でも、アレはルクレティウスの槍を破ってきて・・・・・・」

 

『それはあんたがテンパってたからでしょーが。よくわかんないモノをよくわかんないまま触れさせたから、あんたの『回廊』は破られたのよ』

 

『碇くんの『認識の槍』は、あらゆるものを碇くんの理解できる形に落とし込める。逆に、碇くんが理解しようとしなければ、どんなに些細なものでも槍の力は発揮されない・・・』

 

『そーいうことよッ』

 

 美少女2人の乗ったエヴァが、呆れたようにこちらを見てくる。なぜ自分の力なのに、こんな簡単なこともわからないのか、とでも言うように。

 

 シンジは居心地が悪そうに身じろいだ。

 

「ご、ごめん。2人とも。僕は、完全に気が動転してて・・・・・・」

 

『あぁーっ!ウジウジとウザったい!あれは相田のクソ野郎がそうなるように仕向けてたのよ!そんな事もわかんないわけぇ?このバカシンジ!!』

 

『碇くんは、わかりやすいから』

 

「・・・・・・僕ってそんなにわかりやすいかな」

 

『てゆーかね!あんた、あんなクソキモい事言わせておいて、なにタコ殴りにされてんのよ!!アイツよりもまず先に、あんたに腹が立ったわ!!』

 

「・・・ごめんなさい」

 

 シンジの胸中を複雑な想いが満たした。

 

 アスカとトロワの言う通り、冷静でいられたなら、もっと確実に対処できていただろう。

 

 それよりも前に、ゲンドウの忠告に耳を傾けていれば、こんな事態にならなかっただろう。

 

 結果として無事に逃げ延びられたからよかったものの、アスカが来なければ、ネルフJPNは完全敗北を喫していた。それだけの事態だった。

 

「本当に、みんな、無事で良かった・・・」

 

 

 

『ぶじ、じゃないよ・・・・・・』

 

 

 

 シンジの呟きに、今まで黙っていたシスが反応した。

 

 

 

『ワタシは、そのケンスケっていうのよく知らないけど、でも、トージとは、仲良しだと思ってた・・・・・・』

 

 

 

「シス・・・・・・」

 

 

 

『トージがユーロに行くって知ったとき、ワタシ、すごく泣いたんだよ?いかないで、って泣いて止めたの。でも、トージは笑ってワタシの頭をぐしぐし撫でて、それで・・・!』

 

 

 

 プラグの中で、シスが両手で顔を覆い、

 

 

 

『やっと、やっと久しぶりに会えたのに・・・!トージは、敵で、ワタシを撃って、いつの間にか、ヒカリって人と仲良くしてて・・・・・・!ワタシ、どーしたらいいかわかんない!ワタシ、トージと戦いたくなんてないよォ・・・・・・!』

 

 

 

 両の手の隙間から、大粒の涙を溢した。

 

 

 

『シス・・・・・・』

 

 泣きじゃくるシスのF型零号機を、トロワの0・0エヴァが優しく抱きしめる。エヴァ越しでは温もりは伝わらない。だが、その意味は伝わる。抱きしめられたシスは、大声で泣き出した。

 

『・・・・・・・・・・・・シンジ』

 

「・・・・・・なに?アスカ」

 

『ヒカリは、これ以上家族を失いたくないって言ってた。もしかしたらヒカリと鈴原は、家族をユーロに人質に取られてるのかもしれない』

 

「・・・・・・そうか。よかった」

 

『はぁ!?あんた、アタシの話聞いてた!?家族を人質にって話で、なんで「よかった」なんて言葉が出てくんのよ!?』

 

「いや、それは全然よくないんだけど。でも・・・・・・」

 

 シンジは星の海を眺めて想いを馳せる。

 

「トウジ達とは、完全に敵になったわけじゃない。難しいかもしれないけど、トウジ達の家族を助け出せたら、戦わなくて済むかもしれない。そう思ったら、なんだか・・・・・・」

 

『・・・・・・ふん』

 

 アスカも釣られて、星の海を眺める。この場所まで追ってこれる者はいない。『光の回廊』はゆっくりと、4人を運ぶ。

 

『言っとくけどね・・・』

 

「・・・・・・?」

 

『相田は、必ず殺すわよ』

 

「・・・・・・!アスカ!」

 

『あんたが鈴原や、渚カヲルって使徒を握り潰した事に強いトラウマを持ってる事はわかってる。戦いたくない、なんて考えてる事くらいお見通しよ。あんたの事だから、相田もなんとかしたいとか思ってんでしょ?』

 

「だったら・・・」

 

『でもソレは無理。相田は完全に敵よ。あんたの友達かどうか以前の問題。アイツは、率先して今回の侵攻に参加していた。それだけの敵意を持って襲ってくる連中に、あんたは黙って殺されるつもり?』

 

「そんな事・・・」

 

『アタシはね、シンジ。いざとなったらヒカリも殺すつもりよ』

 

「!!」

 

『今のアタシには、あんたと、何よりミライがいる。アタシの幸せが、形となって目の前にある。その幸せを壊すんなら、たとえ親友のヒカリでも、アタシは殺さなければならない。それくらいの覚悟を持ってる』

 

 アスカエヴァ統合体が、最終号機内のシンジを見つめる。

 

『あんたは、どうなの?』

 

 その真剣な眼差しに、シンジは黙るしかなかった。その答えを、今のシンジは出せそうにない。

 

 エヴァンゲリオン初号機に乗って使徒と戦った。曲がりなりにも、人類の為に戦った。その恐怖と葛藤の間でシンジは答えを見つけて戦い抜き、絶対に折れない不屈の精神を手に入れた。

 

 そのつもり、だった。

 

 だが、現実はもっと非情だった。守るはずの人類どころか、親しい友人と殺し合う。そんな事態を、シンジは微塵も考えたことがなかった。友達や仲間は、永遠に変わらない。そんな幻想を抱いていた。

 

『ゴメン。今のあんたには重かったわよね』

 

「いいんだ、アスカ。アスカの言う通りだ。僕には、覚悟が足らなかった。だから、今度は・・・・・・」

 

『無理して無理矢理納得したつもりになったんなら、ハッキリ言って迷惑よ』

 

「・・・・・・」

 

 辛辣な言葉。しかし、それはシンジの事を心の底から理解しているからこそ、発する事のできる言葉であった。だからこそシンジは、黙り込むしかない。

 

 いや、彼の中で一つ、確かに変わった事がある。

 

 シンジがアスカの手を、そっと握った。

 

「僕は、どうすればいい・・・・・・?」

 

『・・・・・・帰ったら、ミライの顔を見て、抱きしめてあげなさい。今はそれで十分よ』

 

「・・・・・・うん」

 

 愛する人に寄りかかる。

 

 それが今の、シンジの成長の証だった。

 

 

 

──────

 

 

 

 地上では相田ケンスケが、消え去った『光の回廊』の残滓を見上げていた。

 

「・・・・・・やっと行ったか」

 

 ボソリと呟く。その声を拾う者はいない。

 

 ポーン、という軽い音が操縦席内に響く。

 

『ヘーイ!ケンスケ! Comment ça va(調子はどう)?』

 

「ああ、ジル副司令・・・」

 

『んんん?お疲れかい?』

 

「だいぶ、骨の折れる仕事でしたからね」

 

 ケンスケは肩に左手を置き、バキバキと音を鳴らした。

 

『オウ、すごい音だねェ。お疲れ様!』

 

「いえ」

 

 ケンスケの顔がグニャリと歪む。

 

作戦通り(・・・・)、連中をLUNAに追いやりました。こっちの残党は、狩っていいですか?」

 

『もちろん!いれば、ね!それが終わったら、鈴原夫妻を連れて戻ってきてね!連合の米軍がちょっとうるさいんだよ。「独断専行にも程がある」とかなんとかサァ』

 

「それはお互い様でしょう」

 

『やっぱりキミはいい!話が合うね!帰ったら軽く一杯どうだい?』

 

「ホントは俺も行きたいんですが、ね」

 

『ああ、流石に無理でしょ!だって・・・・・・』

 

 通信の向こうで、ジルがニヤリと笑う。

 

LUNAの包囲はもう終わってるんだもん(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)!今からじゃあどんなに速いロケットだって、パーティには間に合わないさァ』

 

「そりゃ残念」

 

 ケンスケが肩をすくめる。

 

「アイツらの散り様、この目で見て笑ってやりたかったんですがね」

 

 

 

つづく





シスは可愛いなぁw
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