シン星紀エヴァンゲリオンー神も泣くかもしれない   作:サルオ

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h.開戦の焔

 

 ネルフLUNAのリングEarth側の居住区。その一画に碇シンジとアスカの家はある。

 

 2人、いや、いまは3人か。その家が、これから激戦区となるであろうリングEarth側にあるのは、ネルフLUNAの作戦司令室から近いほうが緊急事態発生に対して素早い招集が可能である事と、逆にシンジとアスカ、および、その娘であるミライに何かの異常が発生した際に、ネルフLUNAの職員がすぐに駆け付けられると言う点を考慮した措置であった。

 

 寝室のベッドで、シンジとアスカ、その2人の間に生後3か月弱の赤ん坊のミライが、川の字になって寝転んでいる。ミライは授乳を終えてお腹いっぱいになったのか、すぐに寝こけてしまっていた。

 

「よく寝てるね」

 

 シンジは愛娘の頬を指先でつんとつつく。ミライは熟睡してるため、可愛い寝息を立てたまま微動だにしない。

 

「あんたがいるからよ。パパがいるから、安心してこの子も眠ってられるみたい」

 

 2人の様子を愛おしそうに眺めるアスカの口にも、小さく、自分でも意識しないほどの笑みが浮かんでいた。

 

「この子ね、あんたがいないと夜泣きがスゴいのよ。2時間おきくらいで起きるのはしょーがないにしても、その後は抱っこしてやらないと全然寝なくて・・・」

 

「あはは。僕がいつもやってるからかな?」

 

「あんたのせいか。あんまり甘やかさないでよね?抱っこしないと寝れないなんて甘えん坊には育って欲しくないわ」

 

「そ、そう?わかった。気をつけるよ」

 

「ん」

 

 アスカが手を伸ばし、愛娘の腹をポンポンと優しく叩く。

 

「・・・でも、やっぱり甘やかしたくなっちゃうなぁ」

 

 シンジは、幼い頃の自身の生活に思いを馳せた。母との思い出。いつか与えられた大きな約束の事は思い出すことはできたが、母が初号機の中に消えてしまってからの彼の人生は、誰かに甘える事とはほど遠い人生だったと言える。

 

 だからこそ、自分が与えられる精一杯の愛情を、この子に与えたい。

 

 同じような境遇で育ったアスカも、その思いを理解できる。だから、シンジの気持ちを決して蔑ろにはしない。家族3人、同じベッドで横たわり、かけがえのない時間をただただ噛み締めていた。

 

「・・・・・・そろそろ行こう」

 

「・・・そうね」

 

 2人が、ミライを起こさないようにそっとベッドから離れる。

 

 これから、ここは戦場になる。リングEarthだけではない。ネルフLUNA全体が、これから生き残りをかけた戦争の火に包まれるだろう。宇宙に逃げ道はない。ネルフLUNAに小さな穴が一個でも開けば、中の酸素は全て宇宙空間に吐き出され、住人達は極寒と酸欠、気圧の急激な変化による苦しみと恐怖に悶えながら死んでいくだろう。戦火に焼かれたほうがマシといえるような死に様が、この戦争に負ければ待っている。

 

 そんな死に様を、シンジとアスカは許さない。生まれたばかりの娘に、人生の素晴らしさを教えてやれず、ましてや苦しみの死を与えるなど、決して許す事などできない。

 

「たぶん、トウジ達は来てないよね?」

 

 ネルフJPNから『光の回廊』で脱出したシンジ達は、人智を超えたスピードでもってネルフLUNAに辿り着いた。だが人類の宇宙航空技術は、未だその領域に至っていない。現在ネルフLUNAを取り巻く対ネルフJPN連合軍艦隊は、だいぶ前にネルフLUNAを目指して地球から飛び立った者たちだ。ほんの数時間前まで地球で戦っていたトウジやケンスケ達はどうやってもネルフLUNAにはたどり着けない。少なくとも、この戦争に参戦にする事はないだろう。

 

 そんな事を気にする夫にため息を吐く妻。ただ、決して馬鹿にしたため息ではない。トウジ達の参戦を気にするという事は、裏を返せば『トウジ達がいなければ全力を出す』という意味でもある。

 

(まだ吹っ切れていないようだけど・・・)

 

「ま、及第点ってところね」

 

 アスカは腰に手を当てて、やれやれと首を振った。

 

「アスカもミライも、ネルフのみんなも、決して死なせない。トウジ達の事は後回しだ。今は、全力で生き残る事だけを考える」

 

 シンジとアスカは寝ているミライに近付くと、互いに別々の方向から、ミライの両頬に軽くキスをした。向かい合った2人はそのままオデコをコツンと当てる。

 

「オッケー。行くわよ、マイベイビー!」

 

「うん。行こう・・・!」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 ネルフLUNAの中心軸(ハブ)にある宇宙港『喜望峰』。そこから繋がる通路をさらに奥に進むと、そこには各エヴァンゲリオンの主要収納庫(メインケージ)が存在している。宇宙空間での作業などを終えたエヴァが整備を受ける場所だ。

 

 無重力空間でのエヴァの整備は、当たり前であるが人類史上初。最初の頃は不慣れな環境に怪我人が続出したものであったが、ネルフLUNAの技術部が早期に開発した簡易推進剤と、それを備え付けた無重力空間移動用ベルトによって作業工数が若干だが改善された。

 無重力空間での移動手段を得たことにより、スタッフの間にも無重力下でのデメリット以外に、メリットにも目を向ける余裕が生まれた。それは『どれだけ重い機材であろうと、ある程度であれば人の手だけで運搬が可能である』というもの。そのため、この主要収納庫内には超巨大な部品や機材の運搬用のクレーン以外には小さなアームリフト等は存在せず、省スペース化に貢献している。あとは作業マニュアルの作成と作業者自身の熟練度がものを言う。ネルフLUNA建造開始から二年。その間に、現場作業者たちのスキルはミサト達が目を見張るほどの急成長を見せていた。

 

 その収納庫の中にある、二体の黄色いエヴァンゲリオン。一つは小さな綾波レイNo.シスの駆るF型零号機アレゴリカ。そして、装備換装作業を受けている、綾波レイNo.トロワの駆る、0・0エヴァ改であった。

 0・0エヴァ改の腰には、かつてスーパーエヴァンゲリオンにも搭載されていたアレゴリックユニットが装備されており、宇宙空間における高速移動が可能となっていた。また、アレゴリックユニットからはアンビリカブルケーブルが伸びて0・0エヴァ改に接続されており、N²リアクターを用いた位相差発電エレメントによる半永久発電によって、活動限界のハンデをクリアした仕様となっている。

 

 その足元に、トロワはいた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 無言で自身の駆るエヴァを見つめるトロワ。

 

「『わたしが死んでも代わりはいるもの』・・・」

 

「そんなこと、全然思ってないくせにーっ」

 

 トロワの口から不意に湧き出たセリフ。それを耳聡く聞きとった者がいた。小さな綾波レイNo.シスである。シスは簡易推進ベルトを使って器用に無重力空間を泳いでおり、まるでイルカが海の中を泳ぐようにスイスイとトロワに近付いてくる。自分ではできないだろうと思うほどのシスの器用さに、トロワは軽い驚きと、少しの納得、安心感を得ていた。

 

(アナタも、わたしとは違う。元は一緒だけど、アナタももう立派な、ひとりの人間・・・)

 

 トロワは小さく微笑む。

 

(大切な、わたしの妹・・・)

 

「なにニヤニヤしてんの〜、トロワ?」

 

「別に、なんでもないわ」

 

 そう言って、トロワはシスに背を向けた。腰につけた簡易推進ベルトのスイッチを押す。

 

「わたしの代わりは、いない。それを確認しただけ・・・」

 

「ふーん・・・。あれ?どこ行くの?」

 

「わたしの、もう一人の妹に会いに・・・」

 

 トロワの向かう視線の先。主要収納庫のさらに奥にある、巨大で厳重な扉。その向こう側にあるのは、この戦争における防御の要。

 

 トロワはゆっくりとその巨大な扉に近づいていく。それを追うように、シスもまた扉に近づいた。

 

 巨大な扉の右下には、作業員が行き来するための小さな扉がある。トロワはその扉の横に取り付けされている指紋認証用のパネルにそっと手を置いた。プラグスーツの上からでも指紋を読み取れる代物である。手を置くと同時に、扉の小さな窓から網膜認識用のカメラが現れた。指紋と網膜の両方を確認したシステムが、ピピッという軽い音ともに扉を開く。トロワとシスは、遠慮なく扉を通った。

 

 中に鎮座していたのはたった一つの、普通のエントリープラグ。だが、部屋の中央にあるソレから、まるで蜘蛛の巣のようにいくつもの重厚な電送ケーブルが部屋の四方八方に伸びており、プラグとケーブルを固定するための鉄骨が乱立している。それが照明によって影を作る様は、この場所の陰鬱とした雰囲気を醸し出すのに一役買っていた。

 

 そのエントリープラグのハッチ付近には複数の人物が無重力下で漂っている。作業スタッフが数名、それとは別に重犯罪者を連行する警備スタッフが数名。連行されているのは当然、綾波レイ・No.カトルである。

 

 そのカトルに、トロワとシスはフワリと近付いた。

 

「あら。久しぶりね?二人とも」

 

 それに気付いた、黒いプラグスーツに身を包んだカトルが、両手に嵌められた枷を二人に見せつけるようにして声を掛ける。

 

「どうしたの?こんな辛気臭い場所にわざわざ足を運んでくるなんて。人類を破滅に追いやろうとした犯罪者の最期を笑いに来た?」

 

「そんな言い方しなくてもいんじゃな〜い?ワタシはトロワについてきただけだよ?」

 

 突然の来客に警備スタッフが警戒する。対して、横にいるカトルはシスの正直な物言いに、楽しそうに口元を綻ばせた。

 

「小さな私は相変わらず正直ね。・・・で、貴女は?なんの用?」

 

「アナタの顔が、見たかったから」

 

「私の?」

 

 トロワに対する刺々しい質問には、意外な回答が返ってきた。カトルが訝しげに顔を歪める。

 

「それでは、ダメ?」

 

「・・・・・・なるほど。本当に嘲笑いに来たってわけね」

 

「ちがう。そうじゃない」

 

 トロワは優しい笑みをたたえながら、首を振って否定した。

 

「アナタは、この世に一人しかいない」

 

「・・・・・・?」

 

「アナタの代わりは、誰もいない」

 

「・・・・・・だから?」

 

「死なないで」

 

 トロワのそのたったの一言に、カトルは小さく動揺した。そんな言葉がまさか目の前の、瓜二つの顔を持つ姉から出てくるとは思いもよらなかったから。

 

「・・・私が死んだら、ここにいるみんなが死ぬからでしょ?」

 

 この戦争において、カトルの責任は重大だ。ネルフLUNAの守りの要は、彼女の搭乗する、このエントリープラグしかない0・0'エヴァ。それが放つATフィールドだ。廃棄されたエヴァの脊髄を各所に埋め込み、ネルフLUNA全体を覆うATフィールドを張ることのできる0・0'エヴァは、見方を変えればネルフLUNAそのものだと言っても過言ではない。

 

「犯罪者の私を守りの要にするとは、上層部も馬鹿よね。私が自殺志願者だったらどうするつもりなのかしら?」

 

 ATフィールドを張れる。それはつまり、エヴァのシンクロシステムが作動しているということ。ネルフLUNAが負った傷は、そのままカトルに跳ね返る。ある意味ではカトルは、ネルフLUNAを守るための肉壁になるという事と同義だ。傷の痛みを恐れるならば、カトルは必死でATフィールドを張り、盾になるだろう。

 

 だが、カトルの言う通り、もしもカトルが自らの死を望んでいたら?

 

「大丈夫。アナタはそんなこと、望んでない」

 

 そんな疑問など、微塵も感じさせないトロワのセリフ。

 

 それにカトルは言いようのない苛立ちを覚えた。

 

「知ったふうな口をきかないでくれる・・・?ちょっとお膳立てしてやっただけなのにペラペラと余計なことを・・・!本当に私の姉にでもなったつもり!?」

 

「怖いのね。死ぬのが」

 

「何を・・・っ!うぅ!?」

 

 激昂しかけたカトルを止めたのは、両の手にかけられた手錠だった。雰囲気が怪しくなってきたカトルの鎖を、警備スタッフが乱暴に引き寄せる。

 

「ちょっと!ヤメテ!」

 

 シスが警備に食ってかかろうとするのを、カトルが視線だけで制した。余計な手出しをするな、というように。

 

「生きるの死ぬのなんて関係ないわ!どうせ私達は終わってるんだから!碇クンに二度も選ばれず、お情けをもらってるような私達じゃあ・・・!」

 

「碇くんは関係ない。わたしは、アナタの話をしているの」

 

「私!?なおさら関係ないでしょ、私なんか・・・!」

 

「そんなことはない。アナタはわたしの、大切な一人・・・」

 

 スッと、トロワが右手を差し出す。その手に疑問を抱いたカトルが、トロワを睨みつける。

 

「・・・・・・なんのつもり?」

 

「アナタが死んだら、わたしは悲しい」

 

 トロワは右手を引っ込めず、さらにズイッと差し出した。

 

「だから、アナタはわたしが守る。これは、心と心を繋げるための、約束・・・・・・」

 

 カトルは差し出された右手と、トロワの表情を見比べている。

 

「いつか、碇くんが教えてくれたことよ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 二人の間に、険悪な沈黙が降りた。この場に居合わせた他者にとっては、痛みを覚えるような沈黙。

 

 沈黙に耐えきれず先に折れたのは、カトルだった。

 

「・・・・・・警備さん。鎖、ゆるめてくれる?大丈夫、暴れたりしないから」

 

 カトルの言葉に従って、警備スタッフが引いていた鎖の力を少しだけ弱める。腕の自由を得たカトルは、差し出された右手をパァンッと思い切り張った。

 

「これが答えよ。満足かしら、『私』?そんな簡単にお手手を繋いでもらえると思わないことね」

 

「平気」

 

 右手を張られたトロワは、それでも微笑みを崩さない。

 

「アナタは応えてくれた。それだけで、わたしは十分・・・・・・」

 

 そう言って、トロワは踵を返す。

 

「また、生きて会いましょう」

 

 その場をゆっくりと、自然にトロワは離れていった。右手が微かに震えているのは、カトルに張られた痛みからか。それとも・・・・・・。

 

「・・・相変わらず、腹の立つ顔」

 

 カトルはケージを出ていくトロワの背に向けて、吐き捨てるように言った。

 

「と、トロワは何しにきたのかなぁ〜、なんて・・・。あはは・・・・・・」

 

 いたたまれなくなったシスが愛想笑いで場を濁そうとするが、そんなシスを、カトルは鼻で笑った。

 

「何も考えてないわよ。ただ、自分が満足したかっただけでしょ。そんな事に私を使わないでほしいわ」

 

「そ、そんな事ないと思うけど・・・」

 

「ふん・・・。小さな私。貴女も少しは自分の心の声に従ってみたら?」

 

「え?ワタシ??」

 

 突然に話の矛先を向けられたシスが戸惑う。

 

「貴女は私達とは違う。碇クンにこだわる必要はないわよ。いるんでしょ?大切な人が・・・」

 

 カトルの話の内容が理解できず、しばらく考え込むシス。その顔が、みるみるうちに赤く染まっていき、ボンッと音を立てて上気した。

 

「な、ななななななななに言ってんのォ!?カトル、ワタシは別にそんな人・・・!」

 

「はいはい。いるわけね。ご馳走様」

 

「ち、ち〜が〜う〜!」

 

「バレバレなのよ、貴女」

 

「な、なにそれェ!勝手に決めつけないで!ワタシは・・・!」

 

「貴女ももう、小さいままではいられない。でしょう?」

 

 カトルの言葉にハッとするシスは、自分の胸に手を当てた。二年前の、幼かった自分とは違う。少しずつではあるが、成長してきた自分の体。クローンとして生み出された年数で言えば、ある意味では精神年齢と肉体年齢が一致していた身体。

 

 今は違う。言動は幼くても、見た目だけならば中学生の頃の『綾波レイ』に近づいてきたシス。その精神も少しずつではあるが大人に近づいていっている。それをシス自身が望むかどうかなど、関係無しに。チグハグな心と身体に、小さな悩みを抱える程度には。

 

「そろそろ時間でしょ?ハッチを開けて」

 

 そんな悩みを抱えるシスを他所に、カトルは淡々と作業スタッフに指示を出した。ハッとしたように作業スタッフ達が自分の仕事に戻っていき、バシュンッと音を立てて、エントリープラグのハッチが開いた。

 

「悪かったわね、小さな私。これはさっきの、自分に正直すぎてムカつく『私』へのちょっとした仕返し」

 

「それってただのヤツアタリじゃん!」

 

「そうでもないわ?貴女は、もう少し正直になっていいと思うわよ?」

 

 悪戯っぽく笑うカトルは、踊るようにその身をエントリープラグ内に収める。再び音を立てて閉まるプラグのハッチ。

 

「あ、逃げた!」

 

『逃げたんじゃないわ。貴女もそろそろ配置に着きなさい。正直になるにしても、まずは生き残らないと話にならないわ』

 

「むきぃーーーっ!!」

 

 幼さを残すシスがハッチをバンバンと叩く。シスが周りのスタッフに引きずられるようにしてその場を後にするまで、約十分。

 

 戦端が開かれる時は、近い。

 

 

 

 

 

──────

 

 2020年12月3日。

 グリニッジ標準時、8:54。

 日本時間、17:54。

 

 ネルフLUNA作戦司令室にて、葛城ミサトは司令室のメインモニターである大窓の外を睨みつけている。窓の向こうには連合軍艦隊が、シャトルにしがみ付いているAEも含めて目視で確認できるほどまでに近付いてきている。

 

 ミサトが視認した敵艦隊の編成は大きく分けて3つ。

 

 一つ目は先鋒・突撃を目的としたネルフUSAの艦隊。最前線に青黒い巨大なシャトルが陣取っており、その後ろで他のシャトルやAEが忙しなく編隊を進めている。

 二つ目は中堅・後方支援と遊撃を目的としたネルフユーロの艦隊。突撃を目的としたネルフUSA艦隊より広めであるが、既に編隊を終えているようだ。目立った動きはない。

 最後に後詰として、恐らくネルフASIAだろう。見ただけでわかる粗悪なシャトルの群れ。しかしその数は尋常ではなく、彼らの艦隊だけで大窓の一面を埋め尽くせそうな程であった。

 

 司令室の中も忙しない。オペレーターがそれぞれネルフLUNAの各所と連絡を取り合い、戦争に向けての最終確認を行なっている。そのやり取りを窓を睨みつけながら耳に入れていたミサトは、自陣と敵陣の状況を大まかに把握していた。

 

「エヴァ各パイロットは?」

 

「配置完了!いつでも出撃できます!」

 

「結構。通信を繋いで」

 

 ミサトの指示に従い、エヴァパイロット全員との回線が繋がる。メインモニターの脇に小さく、5名のパイロットが映し出された。

 

「・・・・・・みんな、良い顔してるじゃない?」

 

 ミサトの言う通り、パイロット全員が覚悟と決意を持った眼差しをしている。

 

「先程、敵軍から通信が入ったわ。攻撃開始はグリニッジ標準時○九○○。エヴァ各機は合図と共に所定位置へ散開。私からの指示に従い、作戦行動へ移行。以後、各機臨機応変に対応し、敵の殲滅にあたれ」

 

『了解!』

 

「アスカ。頼んだわよ」

 

『もっちろん!・・・でも、相変わらずミサトはめちゃくちゃな作戦を思いつくわね』

 

「この作戦の要は、アスカ。あなたの働きに掛かっているわ」

 

『了解!少し時間がかかるかもしれないけど・・・』

 

「その間、残りのエヴァは時間を稼いで。特に、カトル」

 

『なに?』

 

「あなたには1番辛い役目をやってもらうわ。悪いけどちょっち、カラダ張ってもらうわよ」

 

『構わないわ。どうせこんな扱いだろうとは思ってたから』

 

「・・・ひと段落したら、一度ゆっくり話ましょう?あなた自身の今後について」

 

『・・・・・・ふん』

 

 

 

「作戦開始時刻まであと二分!」

 

 

 

 オペレーターの日向が声を張り上げる。全員の顔に緊張が走る。

 

「0・0'エヴァ、ATフィールド展開!」

『了解』

 

 ミサトの指示と共に、ネルフLUNA全体を覆う巨大な多角形のATフィールドが即座に展開される。

 

「リングEarthおよびLunaの位相差発電エレメントを起動!」

「了解!位相差発電エレメント起動、回転開始!」

 

 リングEarth、リングLunaの両方に、リングの外縁に沿って取り付けられた無数の発電エレメント。その先端が長く伸び、ATフィールドの外側に突き出る。突き出たエレメントは、両リングに取り付けられていたコンベアと共に高速回転を開始。ネルフLUNAという巨大なスペースコロニーの自転とは異なった回転によってATフィールドの「中」と「外」で位相差を無理やり発生させ、急速に発電し始めた。

 

「ガンマ線レーザー砲、用意!」

「了解!ガンマ線レーザー砲、充填開始!」

 

 リングに12基ずつ取り付けられたレーザー砲が過剰なまでの電流を受け取り、発射体制を整えてゆく。

 

「対太陽放射線用小隕石群、展開!」

「了解!防御陣形に展開します!」

 

 ネルフLUNAの周囲にばら撒かれていた小隕石群が、内部に埋め込まれた磁力発生装置を起動させる。リングEarthおよびLunaの発電エレメントが副次的に発生させた磁力によって、隕石が徐々にネルフLUNAに集まってくる。それらはネルフLUNAの外周を覆いながら、発電エレメントの回転に追従するように高速移動を開始する。

 それはまるで、ネルフLUNAを中心とした隕石の竜巻。またはミキサーか。うっかり近づけば、並の機体であれば粉々にされるだろう。

 

「ガンマ線レーザー砲!充填完了しました!」

「現在時刻確認!」

「現在、開戦10秒前!カウント開始!」

 

「5!」

 

 モニターに映し出されていたガンマ線レーザー砲が光を放ち始める。「よし!」の合図を待つ猟犬のように、今か今かとその時を待つ。

 

「4!」

 

 ポーンと軽い音と共に、ネルフLUNAに通信自由回線(オープンチャンネル)からメッセージが届く。

 

『ネルフLUNA・・・』

 

「3!」

 

 通信相手は、ネルフUSAのエース、リアム・アンダーソン。

 

「2!」

 

『良き戦争を・・・!』

 

「1!」

 

 ミサトは通信の言葉に返すことはなく、

 

撃て()ェッ!!」

 

 放たれたガンマ線レーザー砲の光が宇宙を照らした。

 

 

 

 

 

つづく

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