「
ミサトの号令によって放たれた12の巨大なガンマ線レーザー砲の光が、人類史上初の宇宙間戦争の開戦の狼煙となった。
放たれた極太の光は稲妻を伴い、対ネルフJPN連合軍の艦隊へと突き刺さる。光に飲み込まれたシャトルやAEが次々と爆発を起こし、巨大な十二輪の炎の花となって宇宙を照らした。
「薙ぎ払えッ!」
12の光は艦隊に突き刺さったまま、それぞれが艦隊の傷口を広げるように、舐めるように薙ぎ払われる。密集した連合軍艦隊は回避行動も取れず、爆発の連鎖が続くかと思われた。
しかし、新たな爆炎は上がらない。ガンマ線レーザー砲は未だ止んでいないにも関わらず、だ。
その要因はすぐにわかった。ガンマ線レーザーの光を、何か障壁のようなものが遮っているのをミサトは視認した。
「リアクターフィールド・・・ッ!」
N²リアクターのエネルギーを用いて発生させる、光の壁。人類の科学が人に授けた、心の壁と似て非なる障壁。それが連合軍艦隊の眼前に薄く、しかし何重にも敷かれ、巨大なガンマ線レーザー砲の光を遮っていた。
「一点集中ッ!!」
ミサトは咄嗟に新たな指示を下した。と同時に、連合艦隊にも動きがあった。ネルフUSAのシャトルにしがみ付いていたAE達が一斉に離れ、ネルフLUNAに向かって突撃してくる。
ネルフLUNAの12本のガンマ線レーザー砲がリングEarthの中央に集められる。光の直線が円錐のように収束していき、その頂点で結合。さらに威力を上げたレーザー砲が艦隊に襲いかかる。その威力に、連合軍が張っていたリアクターフィールドは粉々に破壊され、突撃を仕掛けてきたAE諸共爆炎を上げた。
だが、そこまでだった。
「各ガンマ線レーザー砲、再充填開始!」
「エヴァ各機!出撃!!」
『了解ッ!!』
ガンマ線レーザー砲の光が途切れる。ネルフLUNA規模での巨大なATフィールドとN²リアクターによる急速充電を以ってしても、せいぜい放てるのは数十秒が限界であった。
充電が再開されるのに合わせ、宇宙港『喜望峰』からエヴァンゲリオン最終号機、F型零号機アレゴリカ、0・0エヴァ改が飛び出す。ネルフLUNAを取り巻く隕石の竜巻に巻き込まれないように、ネルフLUNAの中心軸に沿ってギリギリのところを猛スピードで突き進んでいく。
対する連合軍も、ガンマ線レーザー砲を運良く回避したAEを次々とリングEarthに突撃させてきている。
各AEはそれぞれが携行していた戦略N²弾を一斉に発射した。その数、軽く見積もっても数百発。地球上であれば10の都市を更地にしても尚余りある程の火力であろう。ネルフLUNAを取り巻く隕石群で防ぎ切れるようなものではない。
「カトルッ!」
『わかってる・・・!』
それを阻むのは心の絶対領域、カトルの張った巨大なATフィールドであった。リングEarthの目前で戦略N²弾はATフィールドに激突、次々と爆発していく。その凄まじい轟音こそ宇宙空間では響かないものの、爆発に伴い発生した強烈な閃光に、ネルフLUNA司令室のオペレーター達は悲鳴を上げた。
「狼狽えないで!大丈夫!」
ミサトが悲鳴を上げたオペレーター達に檄を飛ばす。
「N²弾なら大丈夫よ!ATフィールドが全て防いでくれるわ!」
『・・・ッ、簡単に言わないで。結構キツイわ、これ・・・ッ!』
数百発という数の戦略N²弾が戦争で用いられたのはもちろんの事、それを防ぐという偉業もまた人類初。物理攻撃の一切を通さないATフィールドではあるが、断続的に発生する『
『ほんと、こんな馬鹿げたモノをバカスカ撃ってくるなんて、人間不信になりそうだわ・・・!』
ニヒルな笑みを浮かべながら冗談をいうカトルであったが、その内心は焦りに満ちていた。
(いま、何秒・・・・・・!?)
エントリープラグ内で、カトルは必死に操縦桿を握る。
(開戦してから、いま、何秒経ったの・・・!?)
少しでも気を抜けばATフィールドを解いてしまいそうだ。カトルは全意識をATフィールドの維持に集中している。その目が、プラグ内に表示されている時刻をチラリと確認した。
(・・・ッ!?嘘でしょう!?)
グリニッジ標準時、9:00:43。
(まだ、一分も経っていないのッ!?)
カトルの表情から笑みが消える。それと同時に、カトルの額に大粒の汗がいくつも浮かぶ。
(敵の残弾は・・・?敵はこの規模の攻撃を、あと何回してくるの!?)
事前の情報であれば、敵艦隊を構成するシャトルは目測でも数千。そのシャトル一機につき、AEが四体ずつ乗り込んでいると教えられた。その数は万を優に超えるだろう。
仮に、すべてのAEがN²弾を装備していた場合、
(今のが、あと百回近く撃てるって事!?)
カトルの目が眩んだ。
(そんなの、絶対無理よ・・・ッ!)
圧倒的物量の差。彼我兵力差が大きすぎる。それを今この戦場で最も痛感しているのはカトルであった。爆炎が晴れたその向こう、視界いっぱいに広がる連合軍艦隊を目の当たりにした瞬間、カトルは全身が粟立つのを覚えた。
その視界に突如割り込んできた、小さな虫のような影。
『アナタは死なないわ』
それは出撃したエヴァの一機。
『わたしが守るもの』
綾波レイ・トロワの機体0・0エヴァ改が左腕を前に突き出す。その左腕の肘から先を覆うように装備された大きな鉄色の八角柱。その側面がバシャッと音を立てて開くと、中から32個の小さな正八面体の青いクリスタルが飛び出した。
「ATフィールド遮断!カトル、一旦休んで!」
そのクリスタルを見たミサトがすぐに指示を出す。カトルは全身に込めていた力を緩め、ネルフLUNAの ATフィールドを解除した。全身を寒気が襲う中、カトルは青く小さな光たちの行方を目で追った。
飛び出したクリスタルはトロワの意思に従い、弧を描きながら敵軍のAEへと高速で迫る。が、クリスタルは何もせずにAEの隙間を縫って通過。その後ろのシャトル群へと飛来しようとしていた。
それに気付いたAE群は小さなクリスタルに向けてライフルを乱射する。あの小型のクリスタルがまさかN²爆弾に匹敵する火力を持っているのではないかと警戒して。
結論から言えば、このクリスタルに火力はない。中に入っているのは火薬などではなく、超強力な電磁力発生装置と、0・0エヴァ改の神経組織だけ。
だがこの兵器は、下手をすればN²爆弾よりも厄介な代物。
『フィールド、展開』
トロワの呟くような一言と共に、各クリスタルが自身の10倍以上もある大きな正八面体の赤い光を放つ。
32個のATフィールドのクリスタル。それらが一斉に展開された。
クリスタル同士の間にいたAE達が、展開されたATフィールドに押し潰されて爆炎をあげる。32個の赤いクリスタルは、それぞれがまるでかつての第五使徒ラミエルのよう。それらが一斉にリングEarthの前に並ぶ様は圧巻。正八面体を繋ぎ合わせたブロックの壁が、連合軍の眼前に突如として現れた。
ただし、ただの壁ではない。これはトロワの意思によって宇宙空間を自由に飛び回る、最新型のF型装備『天使の鱗』。物量も質量も持たず、しかしATフィールドの強力な斥力で以って敵を押し潰す武器であり、盾であった。
クリスタルのそれぞれに搭載された0・0エヴァ改の神経組織は、ATフィールドを発生させるための要。電磁力発生装置は子機。0・0エヴァ改の左腕を覆うような鉄色の八角柱内部にある親機と電磁力で繋がっており、トロワの腕や指の動きに合わせて動きを変える、糸の代わりに磁力を用いたヨーヨーの様な武器である。
投げて、手元に戻す。できるのはたったのそれだけであるが、トロワはこれをネルフLUNA建造にかかる二年間の中で特訓し、一人で32個のクリスタルを自在に操れるようになっていた。
トロワが固まっていた『天使の鱗』同士の結合を解く。壁に穴が空いたのをチャンスと捉えた愚かなAEが数機、その穴を通り抜けようと試みた。が、穴を過ぎた先で見たのは、右手でガンマ線レーザー砲の照準を合わせていた0・0エヴァ改であった。
己の間抜けさに気付いたAE達は自前のリアクターフィールドを張るも、レーザー砲に呆気なく粉砕され、機体諸共に宇宙の藻屑となって消えた。
◇
「よし。トロワにとっては初の実戦投入だったが、使い物にはなりそうだな・・・」
司令室からそれをみていたゲンドウがサングラスの位置を整えながら薄く笑う。
この『天使の鱗』の発案者は碇ゲンドウであった。ネルフLUNA建造に伴い、各国の悪感情が大きくなるであろうことは容易に想像できていた。最悪の場合、宇宙空間での戦闘も起きるかもしれないと考えたゲンドウは、ネルフLUNA自体への設置ではなく、エヴァの兵装としての開発を試みた。その結果として生み出されたのが、重力から解き放たれた宇宙空間でのみ戦場を自由自在に飛び回ることのできるF型装備『天使の鱗』である。
「だけどこれじゃあ、目眩しにはなってもネルフLUNA全体を守るのは難しそうね」
ミサトが親指を噛みながらメインモニターを睨み続けている。画面には縦横無尽に動き回る赤いクリスタルが、敵AE群を次々と粉砕していく様が見て取れた。
「ああ。確かにそうだ。だがトロワだけにこの場を任せるわけではあるまい?葛城総司令」
「さっすが碇副司令代理」
ゲンドウの投げかけた言葉に、ミサトは獰猛な笑みでもって応えた。
「鎧がカトル、盾がトロワとするならば、矛は誰になるのかしらね〜」
◇
トロワは『天使の鱗』を振り回しながら、カトルのATフィールド範囲内ギリギリのところで戦いを繰り広げる。ネルフLUNA全体が危機に晒されそうになれば、トロワごとATフィールド内に匿う事のできる距離だ。
リングEarthの眼前で次々と敵機AEを粉砕していくが、0・0エヴァ改の役割はあくまで
しかし、いくらトロワが奮戦しても、トロワ一人で巨大なネルフLUNAの全方位を守ることは厳しい。周囲の隕石群も連合軍の接近は防げるだろうが、先程のようにN²弾を雨あられと受ければひとたまりもない。
「カトル、悪いけどまたやってもらうわよ!」
『はぁ、はぁ、はぁ、まったく、人使いが荒いわね・・・』
カトルのATフィールドは防御の要に加えて、戦略全体の要でもある。ATフィールドを用いた位相差発電によってチャージしたガンマ線レーザー砲を充填し発射。撃ち終われば、また同様にチャージをして発射を繰り返す。これがネルフLUNAの最も基本的な戦法。連合軍のようにリアクターフィールドを用いることも可能であるが、電力消費量が大きいため、なるべく使用したくない。
だからこそ、ミサトは無理をさせてでもカトルに頑張ってもらわなければならなかった。
「カトル!前方、トロワ戦闘空域を除いた全方位にフィールド展開!」
『了、解・・・ッ』
力を振り絞りながら、カトルが再びネルフLUNAを覆うATフィールドを展開する。展開した瞬間、ネルフLUNAの側面部でいくつかの爆発が起きた。
「やはりAEを回り込ませていたか・・・」
「ATフィールドと隕石群に巻き込まれてやられちゃったみたいね・・・!」
爆発の要因を冷静に分析したゲンドウの呟きに反応したミサトが、若干の焦りと共に即座にコンソールの通信ボタンを押す。
「リングLuna!敵機がそちらに向かった可能性があるわ!第一種戦闘配置を維持、ガンマ線レーザー砲の無制限使用を許可!」
『了解!・・・・・・うぁ!?』
通信の向こうからオペレーターの悲鳴が聞こえた。
「リングLunaッ!どうしたの!何があったの!?」
『敵のAEが数機、ATフィールド内に侵入しています!ガンマ線レーザーの充填、間に合いませんッ!』
「しまった・・・!」
ミサトの顔に焦りが現れる。悔しそうにコンソールを叩いたミサトは、通信をアスカに繋いだ。
「アスカ、行ける!?」
《まかせて!!》
即座に応答したアスカに頼もしさを感じると同時に、司令室のモニターにリングLuna側の映像が映し出された。映像には敵AEを次々と撃破していく赤い光の帯が映っている。紛れもなくアスカエヴァ統合体だ。
「アスカは敵機を殲滅後、作戦通りに所定の位置へ!カトル!悪いけど、ここからはATフィールドを維持!これ以上の敵機の侵入を許したくないわ。トロワ、前方の敵は任せるわよ!」
《了解!すぐ終わらせたるわッ!》
『早く終わらせて・・・長くは保てない・・・!』
『カトル、大丈夫』
0・0エヴァ改のトロワが、『天使の鱗』を振り回しながらカトルに呼びかける。
『碇くんが、来た』
トロワの言葉とほぼ同時に、トロワは視界の右端に淡い紫の光と、それに追従する山吹色の光を見た。
その光はトロワの視界に収まると目に見えて加速。敵連合艦隊を右から左へ真一文字に横切る。その光を追うように連合艦隊の爆炎が次々に発生した。
「さすが、シンちゃん・・・!圧倒的ね・・・」
ミサトが額の汗を拭いながら紫色の光を追う。
『ミサトさん、ダメだ!やっぱり数が多すぎる!すぐには終わりそうにない!』
「大丈夫よシンジ君!ディフェンスはこっちに任せて、存分に暴れ回って!シスも置いてかれないようにねッ」
『むぅっ!スピードなら負けてないもん!うりゃりゃりゃりゃあ〜ッ!!』
◇
『うぉぉぉおおおおオオオオオッ!!』
エヴァンゲリオン最終号機が手にした太刀、マゴロックスステージ2を閃かせる。マイクロブラックホールで覆われた刀身全体がギラリと光り、迫り来る敵機を次々に断ち斬っていく。斬られた敵は粉々に粉砕され、マイクロブラックホールに飲み込まれていった。
『シンジのそれ、なんだか掃除機みた〜い』
『シスも手伝って!?』
『やってるよぉ!』
シンジが太刀を振り回して近距離の敵を斬り裂いていくのに対し、シスは高機動力からの『天使の背骨』を用いた長距離射撃によって敵を沈めていく。かつて使徒を殲滅した『ヤシマ作戦』を単騎で実行する事のできるこのF型装備は、撃ち出すたびに敵のリアクターフィールドを食い破りながら突き進んでいく。
だが、二人の奮闘を以てしても、敵の数が目に見えて減っていくことはない。果てのない砂の海の中で、無理やりに腕をかいて進むような感覚が二人を襲う。
(きっと、この中にも家族がいる人がいるんだろうけど・・・)
シンジの中にわずかに生まれる罪悪感を、
(でも、それは僕も同じなんだ・・・!)
絶対的な使命感で押し潰してシンジは進む。
『終わりはまだ見えない・・・けどッ!絶対にみんなを死なせないッ!』
シンジの炎は燃え上がる。それに感化されるように、シスも。
『ワタシだって!トージにもう一度会うまで死ねないよッ!!』
紫色と山吹色の流星が尾を引きながら、連合艦隊を蹂躙していく。圧倒的な数の不利をものともせず、戦局はネルフLUNA側に傾きつつあった。
◇
その様子を、連合軍艦隊から
「ふむ・・・」
余りにも馬鹿げた高機動力と殲滅力。オカルトを信じないリアムはネルフLUNAの戦力に対して懐疑的であったが、目の前の光景にその評価を改めた。
「思っていたよりは、やる・・・」
だが想定の範囲内だ。
「ネルフユーロ、およびASIA艦隊に告ぐ。作戦を変更。超長距離殲滅編隊に移行せよ」
『了解』
リアムの指示に従い、連合軍艦隊が行動を開始する。
戦いは次の局面へと静かに動き始めた。
◇
「連合軍艦隊に動きあり!」
「拡大してっ!」
日向の報告を聞いたミサトが指示を飛ばし、モニターの連合軍艦隊の映像を凝視する。
ネルフUSAの編隊には大きな変化はない。エヴァンゲリオン最終号機とF型零号機アレゴリカに蹂躙されながらも、ネルフLUNAへの攻撃の手を緩める事はない。リングEarthに迫り来るAEや銃火器による攻撃は、0・0エヴァ改がなんとか防いでいるのが現状だ。
問題はそれ以外。今まで動きのなかったネルフユーロ、そしてその背後に無秩序に構えていただけのネルフASIAが、編隊を整えているところであった。
「何をしてるの・・・?」
ミサトと同様の疑問を、司令室の全員が抱いていた。その視線が成り行きを見守る中、膨大な数を誇るネルフASIAの艦隊がいくつもの巨大な菱型へと陣形を変化させていく。数は20。その菱型の中心に集まるようにネルフユーロ軍が。そして、ユーロ軍の道を開けるようにネルフUSA艦隊が移動を開始した。
「まさか・・・・・・!?」
ミサトの顔が青ざめる。
「トロワ!『天使の鱗』を防御陣形に変えて一旦引いて!カトル!デカいのが来るわッ、前方にATフィールド展開!」
慌てて指示を飛ばすミサトの目の前で、ASIA艦隊が作り出した菱型に稲妻が走っていく。同時に、ネルフLUNAの前方にもATフィールドが展開され、その外側で『天使の鱗』が固まって壁を作り出した。
ASIA艦隊に走っていた稲妻は徐々に収束し、その前方に集中していたユーロ軍へと集まっていく。
「まさか・・・・・・」
「おいおい。嘘だろ・・・嘘だろ!?」
オペレーター達も状況を理解し、至るところから恐怖の声が上がる。
「シンジ君!シス!急いで奴らを止めてッ!」
『ミサトさん!?』
『む、無理だよ!ここからじゃ遠すぎるゥッ!』
ちぃっと舌打ちを打つミサトの顔が、恐怖に負けまいと歯を食いしばって歪む。
『・・・・・・悪いけど、アレを防げる自信はないわよ?』
「だとしてもやって!やらなきゃ二万人のネルフ職員、みんなして宇宙の藻屑よ!」
『・・・恨みっこはなしでお願いね』
集まってきた稲妻がプラズマ独特の青い光へと変化していく。光はみるみるうちに膨れ上がり、今にも弾けそうなほどだ。
「総員!衝撃に備えてッ!!!」
過去、使徒のATフィールドをその威力だけで撃ち破った実績を持つ兵器。
「陽電子砲よ!来るわッッ!!」
20の陽電子砲の閃光が、ネルフLUNAに向けて撃ち放たれた。
ギュギィィイインッ!
聞こえるはずのない衝撃音。その轟音と共にATフィールドが陽電子砲を受け止める。
それぞれが別方向からの砲撃。トロワの操る『天使の鱗』だけではとても防げるものではない。
そして勿論、カトル一人で耐えれるものではない。
『うあっがあああ!ああああああああ!!』
通信を通してカトルの苦痛の悲鳴が届けられる。
「カトル、お願い!がんばって!!」
『ああっ!割られるッ、私の、壁がァァッ』
「カトルッ!!」
ビシビシと、ATフィールドにヒビが入っていくのが作戦司令室からも目視できた。このままでは遠からずカトルのATフィールドは叩き割られるだろう。真正面からの陽電子砲のいくつかはトロワの『天使の鱗』で作り出した壁が防ぎきっているが、その他の部分が破られれば結果は変わらない。
『カトル!耐えてくれッ!』
『カトルぅ!!』
シンジとシスの悲鳴に近い激励。祈るようなその声は、側から見たネルフLUNAがどれだけ危機的な状況にあるのかを物語っていた。
「シンジ君!シス!奴らを止めてッ!」
『クソぉ!こいつら・・・ッ!』
『どいてよ!ジャマッ!!』
最終号機がいくら個の戦力として突出していようと、それだけで容易に戦局を変えられるほど戦争は甘くはない。先のネルフJPNでの攻防で、シンジはそれを痛感していた。
だがあの時と状況が違うのは、シンジと最終号機も万全の状態で戦争に臨めている点。アルマロスを撃退した全力の最終号機であっても如何ともし難い数の暴力に、シンジの心が焦りに塗りつぶされていく。
『あぐぅうう・・・もう、無理ぃああアアアアアアッ!』
カトルの悲鳴が木霊する。
こうしてシンジとシスが敵の妨害に遭っている間も、ネルフLUNAへの陽電子砲はその出力を衰える事はない。ATフィールドに入ったヒビが少しずつ広がっていく中、
『葛城総司令。「天使の鱗」を分散させる』
トロワの冷静な声が通信に響いた。
「・・・っ!お願い、トロワ!」
一瞬の逡巡と共にGOを出すミサト。その声に従い、ネルフLUNA真正面に展開されていた『天使の鱗』のうち19個が、それぞれ陽電子砲の照射されている部分に向かって飛んでいく。
正八面体のATフィールドのクリスタルが、放たれている陽電子砲に真正面からではなく斜めからぶつかっていった。
「いいわよ、トロワ!」
陽電子砲を止めるのではなく、逸らす動き。赤いクリスタルにもヒビが入っていくが、ATフィールドに横から押された陽電子砲の光が徐々に逸らされていく。
「まだ!?まだ終わらないの!?」
ネルフLUNAの真正面では、残り少なくなったトロワの『天使の鱗』が懸命に陽電子砲を受け止めているが、徐々に押し込まれていっている。
それを見たトロワはカトルのATフィールド内ギリギリまで近づき、
『フィールド、全開・・・ッ!』
自身の駆るエヴァのATフィールドを、カトルのATフィールドの上から重ねた。
『・・・っ!?何やってるの、貴女!そんな事したら・・・』
『言ったはず。アナタはわたしが守る』
トロワの眼前で、『天使の鱗』で作られた壁がバリィンと割れた。陽電子砲の光がトロワのATフィールドに容赦なく降り注ぐ。
『うぐぅぅううううううう・・・ッ!!』
「やめなさいトロワ!死ぬわよ!?」
トロワとカトルのATフィールドが破られれば、1番最初に撃墜されるのはネルフLUNA防衛線の最前線にいる0・0エヴァ改だ。それを危惧したミサトの指示を、トロワは無視する。
『だめ・・・。わたしが退いたらみんなが、あの子が死ぬ・・・・・・』
『私のため!?ふざけないで!』
『アナタに、死んでほしくない・・・。だから・・・ッ!』
トロワが力を振り絞る。今にもヒビ割れそうなATフィールドをその硬い意志で、さらに強固なものへと変えてゆく。
『ああああああああああああああッ!!』
ATフィールドがその形状を変えていく。フィールドの中心点を徐々に突き出し、捻りを加えていく。押し留めている陽電子砲の光を刺し穿つように、ATフィールドが回転していく。
『はああああああああああああッ!!!』
トロワが気合と共に陽電子砲を押し返すなか、連合軍艦隊側にも新たな動きがあった。
『シス!今だッ!』
『りょ〜〜かいッ!うりゃあーーっ!』
ネルフUSAの敵群を突き進み、最終号機がとうとう陽電子砲の根本、ユーロ軍の編隊の前までの道を切り拓いた。それによって射線を確保したF型零号機アレゴリカが『天使の背骨』を乱射する。
侵食型ATフィールド弾に撃ち抜かれたユーロ艦隊は陽電子砲を制御しきれず、巨大な爆発を起こした。
近くにいた別のネルフユーロ軍たちが爆破に巻き込まれないよう、陽電子砲の発射を中断して退避を開始する。
「やった!止まったわ!シス、ナイスよ!」
『へへん!』
『シス!一旦離脱だ、付いてきて!』
『りょ〜かいっ!』
最終号機とF型零号機アレゴリカがネルフLUNAに向かって後退を開始する。
「トロワは!?」
『だ、大丈夫・・・・・・』
陽電子砲の脅威を退けたトロワと0・0エヴァ改であったが、その代償は大きい。『天使の鱗』の大半を失ったことに加え、N²リアクターを用いた充電でも追いつかないほどの電力の消費。充電が完了するまでは、しばらく戦えないだろう。
『カトル・・・、怪我は、ない・・・・・・?』
『・・・・・・』
だが、得たものも大きい。
『舐めないでほしいわね。この程度で私の姉を気取るのなんて。傲慢にも程があるわ』
『・・・・・・そう』
『・・・一回じゃ足りない。全然足りないわ。何度も守りなさいよ。姉を気取りたいなら』
『・・・・・・!』
『貴女が動けない間は、私が守ってあげるわ』
ネルフLUNAを覆うATフィールドが輝きを増す。それはカトルの心の壁がより強固になった事の証明。
『下がりなさい。しばらくは私たちで受け持つから。そうよね?葛城総司令?』
「ええ、トロワとカトルのおかげで、貯まったわ・・・!」
リングEarthの12のガンマ線レーザー砲が、再び光を放ち始める。
「ガンマ線レーザー砲、第二射、撃てェッ!」
連合軍艦隊に向けて、お返しとばかりにレーザー砲が放たれる。シンジとシスによって蹂躙されたネルフUSAの艦隊はろくな陣形も取れず、巨大な光の奔流をその身に受けた。
ネルフUSAのシャトルが次々と爆炎を上げ、宇宙の塵となっていく。
「よっし!!このまま・・・・・・!」
『やはり、この程度か』
司令室の通信に、何者かの声が響いた。
同時に、ネルフLUNAを取り巻く少隕石群が小さな爆発を起こす。ATフィールドの内側で竜巻のようにネルフLUNAを守っていた少隕石群が、爆発によってデブリとなりネルフLUNAに降り注いだ。
「マズいッ!!!」
デブリがネルフLUNAの外壁に次々と衝突する。チタン合金で作られた外壁は、小さなデブリなどものともしない。だが、それが何十、何百と降り注げばどうか。
「被害状況確認!急いで!」
「中心軸の破損を確認!0・0'エヴァとの通信途絶!」
「なんですって!?」
『素晴らしい。素晴らしく陳腐な采配だ。まさか防衛する側が主戦力を手放すなど、流石に予想できなかった・・・』
「・・・ッ!?シンジ君、シス!!」
『く、クソぉ!コイツら・・・!』
『戻れないっ!ジャマ者が多すぎて・・・!』
『残るエヴァンゲリオンは死に体の零号機と、どこかに消えた赤いエヴァだけ』
「中心軸周辺に敵性反応!」
「まさか、ステルス機能!?」
『さあ、蹂躙を始めよう』
リアム・アンダーソンが、淡々と、ネルフLUNAに対して死刑を宣告した。
つづく