シン星紀エヴァンゲリオンー神も泣くかもしれない   作:サルオ

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 ※今回、少々グロイ描写があります!ご注意ください!!※





o.贈り物

 

 ビチチ・・・ミチィィ・・・ブチチッ・・・

 

 

 

『あ、もう切れた。やっべぇ、足りるかな・・・』

 

 

 

 ブリュッ・・・ブチュッ・・・パタタタ・・・

 

 

 

『んん?え!?まじかよ!?こんだけ!?』

 

 

 

 ギュリリ・・・ギコ・・・ギコ・・・ギコ・・・

 

 

 

『・・・あちゃ〜。人は見た目に寄らねぇんだな。全然足りねぇよ』

 

 

 

 アアアアアア・・・アブッ・・・ブチュチュ・・・

 

 

 

『おお、こっちは意外と出るもんだ。本当、見た目じゃわかんね〜な。・・・・・・・・・いや、めんどくさ』

 

 

 

 グチグチグチ・・・・・・

 

 ブチュウウウウウウウ・・・・・・

 

 バタタタタタタタ・・・・・・

 

 

 

『足りねぇ。全っ然!足りねぇじゃねぇか!・・・・・・いや、いやいやいやいやいや。めんどくさがったらダメだな。なにせお祝いなんだから。気持ちが大事だよな、気持ちが!』

 

 

 

 うーん、と相田ケンスケは顎に手を当てて唸る。

 

 

 

『・・・一捻り、欲しいよなぁ』

 

 

 

 手にした絵の具を、ゴリゴリと地面に擦り付ける。

 

 

 

『歌・・・とかいいかもしれないけど、下手くそだからなぁ、俺・・・』

 

 

 

 オギャァ・・・オギャァ・・・オギヴ・・・・・・

 

 

 

『あ〜あ、人生経験もっと積んどきゃよかったぜ。そういうのって、こういう時に必要なんだなぁ。好きな事だけじゃなくて、色々やってりゃあな・・・』

 

 

 

 ザリザリザリザリ・・・・・・ヌチャァ・・・・・・

 

 

 

『まあ、しょうがねぇか。俺ができることを一生懸命にやる。これが、俺の精一杯だから』

 

 

 

 ブチッ・・・ブチッ・・・ブチッ・・・ブチッ

 

 

 

『アスカ。喜んでくれるといいなぁ・・・・・・』

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 パーティー会場を飛び出したミサト達は、ネルフLUNA、リングEarthの作戦司令室に駆け込んだ。

 

「状況はッ!?」

 

 開口一番、ミサトはオペレーターに確認の怒号を飛ばした。怒りで頭に血が昇っており、パーティーに参加せず必死で情報収集にあたってくれていたオペレーター達に辛く当たってしまう。その事に軽い自己嫌悪を覚え、ミサトの中の冷静な部分がミサト自身を諌めた。だがその一方で、それでも感情の制御が効かないミサトは怒りを周囲に撒き散らしていた。

 

「第2新東京市の映像、出ます!」

 

 ミサトの半ば八つ当たりのような指示を受けても、ネルフLUNAオペレーター達は取り乱すことはなかった。それも当然。彼らもハラワタが煮えくり返っていたのだ。

 

 宇宙戦争を生き延びた喜び。勝利の余韻。さまざまな感情を噛み締めていた彼らにとって、先ほど流れたニュースの映像は許し難いものであった。

 ネルフLUNAと対ネルフLUNA連合軍の戦争は、納得はできないものの理解はできるものであった。恐怖を味わいながら、それでも命を賭けて戦ったのは、自分達の生存競争のため。生き残るため。そこに臨んだ者たちは一様に、戦う事を覚悟していた者たちだったからだ。

 だが、先ほどのニュースはなんだ?日本という国の首都。そこに住まう人々。彼らを守ろうとして戦ったであろう戦略自衛隊。それらを蹂躙し、あまつさえ、その事実を報道しようとした民間人までも巻き込んだ所業。

 戦うための覚悟などあるはずもない。そんな人々を蹂躙する巨人の姿。それはかつてアルマロスに意識を乗っ取られてしまったヒカリが民衆を虐殺したのとはワケが違う。搭乗者が自らの意思で(・・・・・・・・・・)巨人を使って人々の命を踏み躙ったのだ。そこに命を賭けた生存競争への矜持などあるはずがない。

 

 ヤツはただ、破壊を楽しんでいただけなのだから。

 

「・・・・・・ッ」

 

 モニターに映し出されたのは、ネルフLUNAがLEO(地球上低軌道)にいくつか配備していた人工衛星が捉えた映像。遥か上空から、第2新東京市の様子を捉えたものだった。

 

 それを目の当たりにしたネルフ職員全員が息を呑んだ。

 

「ミサトさん!状況は・・・」

「入るな!シンジ!!」

 

 ミサト達から少し遅れて、シンジやアスカ、トロワ達が司令室に入ってこようとするのをゲンドウが声を荒げて止めた。しかし勢いづいていた彼らは、ゲンドウの荒げた声を聞いても止まることなく司令室に入室してしまった。

 

「う・・・!?」

「〜ッ!カトル!ミライに見せないでッ!」

 

 メインモニターに映し出された映像を見たシンジの呻き。隣にいたアスカも、ミライを抱いていたカトルに咄嗟に指示を出す。言われるまでもなく、カトルはミライを抱きかかえたまま急いで司令室の外に飛び出した。

 

「え?なに?アイツなにしてるの?」

「シス!」

 

 状況が飲み込めないシスの目をトロワが急いで塞ぐ。

 

「わぁ!?なになに!?見えないよトロワ!」

「ダメ・・・!シス、見てはダメ・・・」

 

 目を塞がれたシスが、トロワの腕の中で暴れる。しかし決してこの光景をシスに見せてはならないと、トロワは暴れるシスを必死で抑えた。

 

 その瞳に、メインモニターに映し出された惨劇を捉えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【H AP PY

     B IR TH DA Y

              A S UK A】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、夜の闇にありながら、炎によって浮かび上がる祝福の言葉であった。

 

 それは、人の血で地面に描かれた寿(ことほ)ぎであった。

 

 それは、それを描いたエヴァンゲリオンをもってしても尚、巨大と言わざるを得ない流血の大河であった。

 

「ううっ!!」

「げぇ、うげぇ・・・!」

 

 作戦司令室の至る所から、目の前の惨劇に耐えられず嘔吐の声があがる。

 

「いったい・・・どれだけの・・・・・・」

 

 人々を犠牲にして、これを描いたのか。

 

 ミサトの口は怒りと怖気に震えて、言葉を紡ぎ出すことができなかった。エヴァの巨体を考えれば、あの文字を起こすのに数百人程度の命では全く足りないだろう。

 

 それだけの人々の命を侮辱して、書き上げた言葉が『誕生日おめでとう!』。

 

「・・・バカにしやがって!」

 

 アスカがその場にツバを吐き捨てる。最後の一文字であるA。そのそばでうずくまる、エヴァもどきに向かって。

 最後の一文字を「絵筆」を使ってようやく描き終えたエヴァもどきが、畑で農作業を終えた老人のように腰を伸ばす。そのエヴァもどきの三つの瞳が遥か上空にあるはずのネルフLUNAのメインモニターをギョロリと凝視した。いや、正確にはネルフLUNAの人工衛星に備え付けられたカメラを、だが。

 

 その口が、にたぁりと笑みを浮かべる。

 

「まさか、見えてるの・・・?」

 

 ミサトがあまりの気味の悪さに腕を抑える。その肩を、そばにいた加持リョウジがしっかりと支えた。

 

「加持くん・・・」

 

「落ち着け葛城。ビビる事はない。ヤツには何もできないさ。それより、ヤツの顔だが・・・」

 

「ええ・・・。アレって、エヴァよね・・・?」

 

「たぶん、としか言えないが・・・」

 

 メインモニターに映るエヴァもどきを注視する面々。機械100%であるはずのオルタナティブ・エヴァンゲリオンにはない三つの瞳と口。それを凝視するネルフLUNAメンバーのその目の前で、エヴァもどきはあろうことか軽快なステップで踊り始めた。まるで「サプライズ、大成功!」とでも言うように。

 

「ぶっ殺す!!」

 

 激昂したアスカが作戦司令室を飛び出そうとするのを、瞬時にシンジが腕を掴んで止めた。

 

「離せぇ!!」

 

「ダメだよアスカ!今から行ったって・・・」

 

「知るかボケッ!よくも、よくもアタシの誕生日を・・・!ミライやトロワたちと過ごす初めての誕生日を・・・!!」

 

 掴まれた腕を振り解こうとアスカが暴れる。怒りのあまり、アスカの目から涙が溢れる。シンジはどうにかアスカを落ち着かせようと、力尽くでアスカを無理やりに抱きしめた。

 

「アスカ!アスカの言う通りだ!今の僕たちにはミライがいるんだ!今ここで怒りに任せて飛び出したら、あの正体不明のアイツの思う壺だ!だから・・・!」

 

「正体不明!?あんた、アイツが誰だかもわかってないのッ!?」

 

「ッ!」

 

 アスカの怒りの矛先が、シンジに向かう。

 

「いい加減目を覚ませバカシンジ!アイツが誰かなんて一目瞭然じゃない!あのエヴァもどき!アレに誰が乗ってたかなんてあんたが一番近くで見てたでしょーがッ!!」

 

「わかってるよ、そんなことッ!でもアレがケンスケだとして!そんなところにアスカを行かせられるワケないだろ!?」

 

「うるさいうるさいうるさい!!いいから離して!あんたがビビるのは勝手だけど、アタシはアイツを・・・!」

 

 アスカがシンジを振り解き、その頬を張ろうとした、その時だった。

 

 

 

 

 

『は、はっぴ、ぃ・・・ばぁー・・・すでい・・・とぅー・・・ゆー・・・』

 

 

 

 

 

 作戦司令室に、ネルフLUNAの誰のものでもない声が響いた。

 

「なに!?誰!?」

「どの音声だ!」

「地上波です!先ほどとは違うテレビ番組から・・・人工衛星が電波を拾って・・・!」

「映像繋げて!!」

「了解!・・・・・・接続成功!映像、出ます!」

 

 再び全員の視線がメインモニターに注がれる。

 

 そこには、エヴァもどきの手のひらの上で、泣きながらマイクを持って歌っている女性の姿が映っていた。

 

 

 

『はっぴ、ぃい・・・ばーすでー!とぅーゆぅぅぅうう!』

 

 

 

 その女性の背後にある、巨大な、エヴァもどきの禍々しい顔。それがニタニタと、女性の歌う姿を眺めている。

 

 

 

『はああっぴああばぁすでーーーぃ!でぃあっアスカァァッ!・・・・・・はっぴぃばぁすでぇーーーッ!とぅーーーゆぅーーッ!!!』

 

 

 

『YEAH〜〜〜ッ!!さっすが!美人レポーターは歌唱力も違うね!!』

 

 

 

 歌い終わった女性の背後、エヴァもどきの口から、ケンスケの歓声が上がった。

 

『いやぁ、助かったよ!俺、歌あんま上手くなくてさぁ!さっきのテレビ局のヘリは落っことしちまったし、誰か代わりに歌ってくれる人いないかなぁーって探してたんだよ!』

 

 いやに上機嫌な、耳障りなケンスケの声が司令室の全員の耳を汚した。

 

「相田・・・・・・」

 

 それを目の当たりにして、加持が固まる。

 

「いったい、何がお前をそこまで・・・」

 

 もはや人外の域に達した、相田ケンスケ。彼が乗っているのがエヴァなのかなんなのかは加持にもわからないが、アレが普通の機体でない事は一目瞭然だ。そして、それに乗っているケンスケの狂気も同様に一目瞭然だった。

 

 加持の脳裏に、いつか、ケンスケと2人きりで話した光景がよぎる。

 

 

 

『ガキか、お前は・・・』

『違うッ!そんな簡単な話じゃないんだ!俺は、トウジや碇たちを危険に晒したくないんだよ!』

 

『お前のやりたい事は、ただの自己満足でしかない。自分が友達に並び立てないから、じゃあ友達に自分のとこまで降りてきてもらおうって、そういう事だろ?』

『違う!違います!!』

『俺にはそうとしか聞こえなかったよ』

 

 

 

(まさか、俺は間違ったのか・・・?あの時のお前は、本当は俺に助けてほしかったのか?俺がそれを汲んでやれなかっただけで・・・)

 

 加持がかつてシンジを助けたように、ケンスケも、本当は加持に助けてほしかったのだとしたら。

 

(だから、お前は壊れたのか?相田・・・!)

 

 そんな加持の葛藤を他所に、事態は止まる事なく進んでいく。

 

『お、お願い・・・・・・』

 

『うん?』

 

 ケンスケのエヴァもどき、『シェムハザ』の手のひらの上の女性が、泣きながらケンスケに懇願する。

 

『わ、私ぃ!歌ィましたぁ!歌いましたぁ!お願い!降ろして、助けてぇ!!』

 

『ああ、オッケーオッケー!悪いねぇ、怖い思いさせて・・・』

 

 シェムハザの手が、指がゆっくりと近付いていく。

 

 女性の頭へと向かって。

 

『ひ!?なに!?なんでぇ!?』

 

『そんな怯えるなって。俺、アスカ以外の女ってあんま興味ないんだ。だからさ・・・』

 

『ひぃあッ!!』

 

『べつに、いっかな〜って』

 

 伸ばされた指に摘まれた頭が、プチュッと軽い音を立てて、ミニトマトのように潰れた。

 

『ひいいいいあいあああああ!!』

 

『あー、あー、カメラマンくん!大丈夫!君にはこれから俺がやる事を映像として遺してもらう必要があるから!殺しやしないよ!人類史に残る大偉業だぜ!?すげぇのを見せてやるよ!!』

 

 ケンスケがそう叫ぶと、シェムハザは何かを抱えるようにうずくまる。それに合わせて、ボロ切れのマントを纏った背中がぼこぼこと奇妙に蠢き始めた。

 

『よぉく、見てろ、よぉ!?これが、俺が創り出す堕天使の軍団、『エグリゴリ』だぁーーーッ!!』

 

 マントの下から、何かが一斉に飛び出した。それらはロケットのように光を放ちながら夜空に打ち上げられ、日本各地へと飛び散った。

 

 その無数の光のうちの7つが、大きく弧を描いて、ケンスケのシェムハザの背後に降り立つ。

 

『ふ、くくくく、くははははははははは!』

 

 ケンスケの高笑いと共に、背後の光が静かに収束していく。

 

 そこに立っていたのは──

 

 

 

「エンジェルキャリアー!!?」

 

 

 

「それだけじゃない!使徒の成体も、ゼルエルまでいる!というか、アレ、なんか混ざってないか!?」

 

 

 

「て、ていうか、いま、幾つの光が飛んだ・・・?」

 

 

 

「まさか、今、空に飛んでったのって・・・」

 

 

 

『七日間だ!』

 

 

 

 ネルフ面々の(おのの)きなど知る由もなく、シェムハザがカメラに向かって指を7本立てる。

 

『七日間で日本を火の海に変える!そうすりゃ、誰も逆らおうなんて気は起きなくなるだろ!?世界は俺と『エグリゴリ』が管理してやるよ!ヒト同士のくだらない領地争いとかは勝手にやりな!くれてやる!ただし、抑止力として、お前らの上に『エグリゴリ』がいる事を忘れんなよ!』

 

 そうテレビカメラに向かって全世界に宣言すると、ケンスケは夜空に向かって狂ったように笑い始めた。

 

「ケンスケぇ・・・・・・」

 

 目の前で起きた人智を超えた出来事に、シンジは怒りとも失望とも悲しみともつかない、なんとも複雑な想いを言葉に乗せて吐き出した。

 

『碇ィ・・・』

 

「!?」

 

視えてるぜぇ(・・・・・・)。ネルフLUNAから、俺を見ているな?』

 

「馬鹿な。視えているはずがない。無視しろ、シンジ」

 

 映像を通してシンジに話しかけてきたケンスケ。それを遮るゲンドウの言葉は間違っていないだろう。だが、シンジはその妄言とも取れるケンスケの発言を無視できなかった。

 

「ケンスケ・・・」

 

『すげぇだろ?俺、こんな事までできるようになったんだぜ?もうお前やトウジ達が居なくても、傷付かなくても、世界は俺の下で平和になるんだ。平和にする事ができるんだ。だからさ、もうお前は世界に要らないんだよ。わかるだろ?』

 

「ケンスケ・・・何を、言ってるんだよ・・・!」

 

『アスカもさ、そんなお前より俺の方がいいって言うと思うんだよ。俺さ、アスカにすげぇプレゼント用意したんだ!横にいる加持さんにさ、今すぐ端末見るように言ってくれよ!』

 

 シンジだけでなく、作戦司令室にいる全員の目が加持に集まった。加持は顔を顰めながらも、ポケットから携帯端末を取り出した。

 

 その画面を一瞥した加持の目が見開かれる。

 

『届いてるみたいだな?よかった〜。宇宙までメールが届くか、地味に自信なくてよ』

 

「おちょくってるのか、相田?俺の端末のセキュリティなんざ意味がないと。防諜部としての実力も俺を超えたと、そう言いたいらしい」

 

 加持が顔を顰めながら、携帯端末の画面に表示された文字をみんなに見せる。そこには「Present for you!!」の文字とともに、何かのファイルが添付されていた。

 

『トウジたちと、その家族の居場所だ。委員長とアスカは仲良かったからな。アスカも心配してるだろうから、加持さんたちで助けてやってくれよ。俺はこれから、忙しくなるからな・・・』

 

 そう独り言のように呟いたケンスケの背後で、使徒ゼルエルの両目が閃光を放つ。

 

 ギュィオンッ!!

 

 使徒の放つ閃光によって、すでに火の海と化していた第2新東京市が爆炎に飲み込まれていく。

 

 そこに住んでいた人々を、必死に逃げ惑い生き延びようとしていた人々を、巻き込みながら。

 

『・・・・・・こりゃあ、七日もいらないかもな』

 

 ケンスケの駆るシェムハザがマントを翻し、爆炎の中を進む。それに従うように、使徒とエンジェルキャリアーたちも後に続いた。

 

『まぁいい。どの道、七日間で世界は変わる。それまでに、トウジや委員長たちを助けられるかはアンタ達、ネルフLUNA次第だ。ダメなら俺の方でなんとかやるから、指でも咥えてソコで見てな・・・』

 

 シェムハザが爆炎の向こうに消える寸前、地面から何かを拾う。それを無造作に放り投げた瞬間、グチャッという音を立てて映像は終了した。

 

 ネルフLUNAのメインモニターが砂嵐を流す。ザーという音だけが、作戦司令室を満たしていた。

 

「・・・・・・加持くん」

 

 重い空気を一掃できるような力は出なくても、最初に声を上げるのは司令官でなくてはならない。ミサトは無理やりに口を動かすと、加持に問いかけた。

 

「そのファイル、信用できると思う・・・?」

 

「正気か?葛城。あんな狂人が、マトモな情報を俺たちに与えるとでも?」

 

「そんな事わかってるわよ。でも、アイツの様子を見た後だと・・・」

 

 ミサトも加持も、それどころかゲンドウも含めたネルフLUNAの首脳陣でさえも、皆、一様に口を閉ざした。

 

 目の前で起きた惨劇が実際の出来事なのか、脳の処理が追いつかない。対ネルフLUNA連合軍を退けたミサト達であったが、オルタナティブ・エヴァンゲリオンを超える怪物である使徒やエンジェルキャリアーを産み出した相田ケンスケは、今やその連合をも超える脅威へと変貌を遂げていた。

 

 アレに対抗するには、それこそネルフLUNAの全戦力を投入しなければならないだろう。それこそ死力を尽くして、命を賭けて。

 

 だが一方で、ケンスケの行動には疑問が残る。

 

「ケンスケは、何がしたいんだ・・・」

 

 シンジの呟きは、この場にいる全員の思いを代弁していた。先ほどの放送を民間が流していたなら、ケンスケの言動は全て世界に向けて発信されているだろう。それは当然、ケンスケが所属しているネルフユーロにも届いていたはずだ。ケンスケの行動はネルフユーロへの明確な裏切り行為。許容されるわけがない。

 

「・・・なんだっていいわよ。とにかくあいつを殺す。それ以外の手があるってぇの?」

 

「ない。わたしも、アレを野放しにするのはダメだと思う」

 

 アスカとトロワが異口同音で意見を述べる。それは、ネルフLUNAの最終目標としては正しいだろう。だが大人たちは、そこに至るまでの過程にも気を配る必要がある。ケンスケの真意。それを読み取れないままに動けば返り討ちに遭う可能性も否定できない。

 

「マジでなんなのよ、あいつ・・・。ビールが不味くなるわね」

 

 ミサトが何気なしに愚痴を呟く。それに反応する者は、この場にはいなかった。

 

 砂嵐のザーっという音だけが司令室を流れる。

 

 

 

 その音に紛れて、ポーンという極めて軽い音が司令室に流れた。

 

 

 

「誰!?」

 

 ネルフLUNAの司令室への直接的なアクセス。そんな事ができる人間はネルフLUNAに所属している人員だけだ。しかし今の音は、外部からの通信を知らせる音。

 

「まさか、ハッキングか!?」

「MAGIのセキュリティを突破して!?どうやって!?」

「とにかく、すぐに遮断を・・・・・・!」

 

 

 

 

『まあ、少しは落ち着きたまえ。葛城三佐。いや、今はネルフLUNA総司令とお呼びした方がよいかな?』

 

 

 

 

 

「その、声は・・・・・・」

 

『なに。隠遁しようにも世間がこうも騒がしくては、おちおち詰将棋も打てん。そろそろ、この老いぼれの知恵が必要かと思ってな』

 

 旧ネルフの副司令、冬月コウゾウのはっきりとした声が、司令室に響き渡った。

 

 

 

 

 

 つづく

 

 

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