パレットライフルを背負い込み、無反動砲を手にした最終号機が大地を蹴った。
蹴り上げた土が顔を汚すほどに舞い上がるのも厭わず、雨霧の向こうの巨体に向かって、走りながら無反動砲を撃ち放つ。砲弾は雨をかき分け、寸分違わずに全弾が巨獣に命中するかと思われた。
それを阻んだのは、巨獣が持つ心の壁であった。ATフィールドが展開されると同時に砲弾の爆炎が上がる。上がった爆炎はその巨大さゆえに、敵の姿を覆い隠してしまった。
(関係ない!)
最終号機はそれでも止まらずに敵陣に突っ込んで行く。爆炎が晴れるとそこからは、敵のATフィールドが雨を弾いているのが見える。そのATフィールド越しに、敵の姿がようやく視認できた。
(っ!・・・コイツらは・・・ッ!)
シンジは敵の姿を確認すると、プラグ内で小さく舌打ちをした。
シンジの目に飛び込んできたのは使徒が六体と、エンジェルキャリヤー、もといエヴァンゲリオン量産型が5体。
エンジェルキャリヤーの姿は使徒の卵を持った量産型だったはずだが、目の前のそれらはかつてNERVを襲った量産型と酷似しており、腹に収まっているハズの使徒の卵を持っていなかった。
問題は使徒。確認された使徒は第3の使徒サキエル。第4の使徒シャムシエル、第5の使徒ラミエル、第7の使徒イスラフェル、そして第14の使徒ゼルエル。これらが横一列に並んでいる様は、かつてのNERVであったなら絶望的な光景であっただろう。
だが今の最終号機であれば、その存在など嵐の前の塵に同じ。
(コアを潰して、速攻で使徒を仕留める!)
最終号機の肩にある四つのパイロンからアレゴリックの光の翼が飛び出し、最終号機を空へと舞い上げた。上昇しながらも最終号機の狙いは遥か目下。無反動砲の残弾を撃ち尽くす勢いで、シンジは砲弾をばら撒いた。
当然、使徒や量産型は自前のATフィールドを頭上に展開して防ぐ。人工の障壁であるリアクターフィールドとは違い、こちらは正真正銘の絶対領域だ。生半可な物理火力など、一切意味を為さない。
使徒どもの上空で爆炎が広がる。その爆炎に向かって、使徒サキエルが目を光らせた。爆炎の向こうにいる最終号機を撃ち落とさんと、光の一撃が放たれた瞬間──、
ザンッ!!
音を立てて、サキエルが頭から股下まで一直線に切断された。最終号機のマゴロックス、ATフィールドを纏った刃が上空から使徒を強襲し、両断したのだ。サキエルの足元に蹲るようにして着地していた最終号機は、咆哮を上げてほかの使徒に襲いかかった。
「ヴオオオオオオオオオオオオッ!!」
身体を捻りながら一回転させ立ち上がり、サキエルの隣にいた使徒、シャムシエルに勢いを乗せて斬りかかる。使徒は光の触腕をくねらせて迎撃するが、その触腕ごとシャムシエルは真一文字に斬り裂かれた。最終号機の前後で十字架の如き光の柱が爆発する。
(二体・・・!)
シンジはとっさに他の敵を確認する。敵陣深く切り込んだ最終号機を囲むように量産型が、その向こうに使徒がバラけていた。
(コイツらか・・・)
かつてネルフを強襲した量産型。ゼーレの切り札であったエヴァンゲリオン量産型の最大の武器は、その不死性と高速学習能力にある。不死身の体で無鉄砲に襲いかかりつつ、敵の動きを学習して対処する様は絶望。かつてシンジがネルフにて量産型と対峙した際も、その特性に大いに苦しめられたものだった。
最終号機が地面を這うように飛ぶ。地球の重力下においてもその速度を損なわないアレゴリック翼は、最終号機を瞬時に敵の前まで運んだ。
「うぅああああああああああッ!!」
円を描くように、マゴロックスの残光が煌めいた。取り囲んでいた量産型の上半身が一斉に宙を舞う。
「はッ!!」
それらが地に落ちる前に、最終号機は全ての量産型のコアと、内蔵されているダミープラグを斬り裂いていく。縦、縦、横、縦、横。五体の量産型が一瞬にしてトドメを刺された。
刀を振り抜き、空中で一瞬の残心をしていた最終号機に二つの影が迫る。二心一体の使徒、イスラフェルだ。二体が最終号機に飛び掛かり、その鋭い爪を突き立てようと振りかぶっていた。
最終号機は冷静に、腰のもう一本の刀、カウンターソードに手をかける。
「おおおッ!!」
回転しながらソレを抜き放ち、襲い来る二体のコアを、マゴロックスとカウンターソードそれぞれの刃が同時に正確に貫いた。
「ギュッ!!?」
二心一体の使徒の特性は、片方のコアが破られても、もう片方が残っていればすぐさまに回復してしまうという厄介なモノ。だが、それはただの初見殺しだ。タネが割れてしまえば、その対処は難しくはない。
(あの時は、アスカと一緒に苦労させられたんだけどなぁ・・・)
心の中で、シンジが懐かしさに笑う。と同時、刀の先から十字架の如き光の柱が上がった。
「次はお前だ・・・ッ」
最強クラスの火力とATフィールドを持つ使徒ゼルエル。それが一瞬、最終号機の視線に射抜かれてたじろいだのがわかった。あまりにも一方的な暴力の行使。それに使徒が、恐怖を覚えたのだ。
ゼルエルは帯のように折りたたんだ両腕をギュンッと伸ばし、最終号機に襲い掛かる。が、それは今の最終号機にとっては本当に帯程度の破壊力しか持たない。ATフィールドを纏ったニ本の刀がゼルエルの腕を切り裂いた。
「!!?」
「ウォアアアッ!!」
刃が交差する。空を駆けた最終号機がゼルエルの横をすり抜けると、その後方でゼルエルの身体が斜め十文字に斬り裂かれていた。コアが爆発し、十字架の光が大地から立ち昇った。
「ふぅぅうう・・・」
キンッと音を立てて、最終号機は2本の刀を腰の鞘にしまう。
その遥か後方に、青く巨大なクリスタルが浮かんでいた。第5の使徒ラミエル。その前方に光の粒子が集まっていく。
「それ、もう食らうのは嫌なんだ」
最終号機が右手をラミエルに向けて構える。
(アスカに教えてもらった通り・・・)
「ATF・フォーカス」
使徒の眼前に、最終号機のATフィールドが三枚、一列にならんで形成された。
ラミエルから極太の粒子砲が放たれる。その極大の威力に、三枚のATフィールドはいとも簡単に破られたが──、
「弾く、イメージッ!!」
最終号機が下から左手を突き上げる。ATフィールドの盾を形成していた左手によって、三枚のATフィールドにより威力の大半を殺された粒子砲は、なす術もなく上空へと弾き飛ばされた。
「ヴオオオオオオオオオオオオッ!」
最終号機が咆哮を上げ、一直線にラミエルに突っ込んで行く。ラミエルは再び粒子砲をチャージし始めるが、間に合わない。
「ハアッ!!」
最終号機の貫手が、ラミエルのコアを貫いた。同時に、最後の使徒の十字架が立ち昇った。
「・・・・・・ふぅ」
十字の爆炎によって大量の雨が巻き上がり、宙空に静止した。だが、それも一瞬。使徒の返り血を全身に浴びた最終号機に向かって、重力に引かれた大量の雨が降り注ぎ、ザーッという音とともにそれを洗い流していく。
激しい戦闘があったとは思えない、土砂降りの雨音だけが周囲に満ちた。シンジは最終号機の中でその音に浸りながら、ゆっくりと息を整えていく。
この場に現れた敵。かつて苦戦させられた強敵たち。それを今のシンジと最終号機は、一瞬で斬り捨てる事ができた。全ての敵を葬り去るのに、三分と掛かっていない。
(行ける。僕と最終号機だけで・・・)
そう確信していたシンジの遥か上空に、幾つもの光が集結した。
「!?」
光の数は十、二十、三十、と徐々に、確実に増えていく。それらの光が次々と最終号機を取り囲むように舞い降りてくる。
「こ、コイツ、ら・・・・・・」
集結した光の正体は、使徒と、量産型エヴァンゲリオンの群れ。巨獣と巨人のあり得ざる大軍。しかも頭上の光は、収まるどころかまだまだ増え続けている。
「『エグリゴリ』!ど、どれだけいるんだ・・・っ!?」
降りてきた使徒と量産型が、一斉に最終号機に殺到した。シンジは腰の二振りの刀を素早く抜くと、最終号機の周囲にATフィールドを張る。それを中和しながら突き破ろうとする使徒と量産型の群れ。
シンジはATフィールドの壁面に内側から刀を叩きつけた。刃によって砕け散ったATフィールドが散弾銃のようにばら撒かれ、破片が使徒達を次々と斬り裂いていく。
しかし、仕留めるには至らない。
「うおおおおおおッ!」
二刀を巧みに操り、使徒や量産型を斬り裂いていく最終号機。しかし敵の数が減る兆しはない。今も頭上でどんどんと集結してくる使徒が、量産型が、次々と舞い降りてきて、シンジと最終号機の処理能力を超え始めた。
(作戦通り、敵を引きつける事はできた!でも、この数は・・・・・・!)
シンジは必死に刀を振う。
「ケンスケ・・・君は本当に、ヒトじゃなくなったのか・・・?」
シンジの、いや、最終号機の胸が疼く。シンジの心臓から、ドクンと、アルマロスの鼓動が聞こえて──、
《願え・・・》
シンジに甘く囁いた。
「黙っててよ!!」
それを振り払うように、シンジは刀を振り続ける。だが、胸の内からの言葉は消える事なく、シンジの心に燻り続ける。
《願え、力を願え》
「うるさい!静かにしててよ!・・・うっ!?」
再びビシリと、何かがシンジの魂を侵食する感覚。その痛みに、最終号機の動きがわずかにブレる。その隙を逃さず襲い掛かる量産型ども。
「・・・ウァアアアッ!!」
最終号機が地面に倒れる。背中が地面に着く瞬間、アレゴリック翼の光が周囲を照らした。敵の足元を斬り裂きながら、最終号機が地面スレスレを仰向けに飛ぶ。
敵の包囲を抜け、再びの上昇。しかしそこに襲い掛かる使徒たちの不可視の光線の嵐。最終号機はATフィールドを全身に纏い、防御の姿勢を取った。
着弾した光線が激しく爆発し、殺しきれなかった衝撃がシンジを襲う。
「うああああああああッ!?」
《力を恐るな。これは既にお前のものだ》
「ど、どういう事!?」
《力は僕のものだったが、既に僕のものではない。・・・願え!お前は既に力を手にしている!》
「き、君は・・・・・・」
ATフィールドを自分の周囲へと広げ、最終号機が敵軍の光線を防ぐ。激しい攻撃に晒されながらも、シンジは問わずにいられなかった。
「やっぱり、『過去の僕』、なのか?」
その問いに、声が即答した。
《僕は『碇』、『碇シンジ』。・・・願え!力を、未来を願うなら、僕はお前であって、お前は僕となれるんだ・・・!》
その声はどこか必死で、一切の嘘が無いようにシンジには感じ取れた。
しかし、
「そんな、そんな簡単に信じられるわけないよッ!!」
シンジは頑なに、その恐るべき力を拒絶した。拒絶しながら、再び敵軍に向かって突っ込んで行く。
「ハァァアアアアアアアアッ!!!」
《・・・願え》
まるで願うような、祈るような胸の中の声が、シンジの心を打った。しかしシンジはソレを無視し、ただひたすらに刀を振るっていた。
──────
12月5日。現地時間で17時55分。すでに日は沈み、辺りを夜の闇が包み込んでいる。
シンジと最終号機が日本の鹿児島にて激戦を繰り広げている頃、『光の回廊』を使わずにネルフLUNAを最終号機よりも先に出発していたアスカとエヴァンゲリオン弐号機、そしてエントリープラグに同乗した加持リョウジは、フランスとドイツの国境の「黒い森」、アルザス・ロレーヌの森の中にその身を隠していた。
「本当に、この辺りで合ってるんでしょーね、加持さん?」
「ああ・・・座標自体は間違っていない。相田の情報がワナではない、ならな」
「チッ・・・あんなヤツの情報に頼らないといけないなんて・・・」
「なに。別に相田だけが防諜部のスペシャリストってわけじゃない。こっちにはこっちの伝手ってのがあるのさ。・・・・・・タバコ、持ってないよな?」
「アタシ、新生児の母親よ?吸うわけないでしょ」
「そりゃそーだ。どっかで買えるといいんだが・・・」
「そんな時間、ないでしょーが・・・」
弐号機を降りた二人の格好。アスカはプラグスーツであったが、加持は普段のヨレヨレのスーツであった。着の身着のままの加持は、プラグ内に満たされていたLCLで服がびしょびしょに濡れている。冬のヨーロッパは極寒だ。このままでは凍死してしまう。
「ほら、コレ。着替えと一緒に入れてきたわよ」
「お!流石は母親だ、気が利くな!」
アスカが弐号機に備え付けてあった収納の蓋を開ける。アスカが単騎で行動できるように突貫工事で作られた、小さな収納スペース。そこに、アスカは自分の着替えなどとは別に、加持の着替えやタバコなどを一緒に収納していたのだ。
「加持さんの母親じゃないんだから。ったく、ちょっとはしっかりしてよ」
「ははは。悪いな。・・・しかし、アスカに説教を食らう日が来るとは、いやはや、時が経つのは早いもんだ」
「んなモタモタやってると本気で風邪引くわよ?」
「ぶえっきし!!うう、そりゃそうだ。すまんがあそこの木陰で着替えてくる。覗かないでくれよ?」
「誰が覗くか!」
「ははは。シンジ君だったら覗いたろ?」
「覗くも覗かないも、アイツの裸はもう見慣れてんのよ。ほら、さっさと行く!」
「はいはい」
そう言いながら加持はヒラヒラと手を振り、近くの木陰に入っていった。アスカはそれを見送りながら、自分も風邪をひかないようにカーキ色のダウンジャケットを羽織ると、暖を取るために焚き火の準備をした。隠密行動とはいえ、暖が取れなければ凍死してもおかしくない気温だ。致し方のないことであった。
「ふう、待たせたな」
木陰から加持がタバコを咥えながら出てくる。アスカは簡易着火剤を用いて既に火を起こしており、暖を取っていた。加持も「寒い寒い」と腕をさすりながら、すぐに焚き火に近付く。
「コーヒーで良ければ入れよっか?」
「そりゃありがたいが、ミライちゃんに影響があるだろ?よくないんじゃないか?」
「カフェインレスよ。ソレで良ければ、だけど」
「ありがたい。しかし全く、すっかり母親だな」
「母親として当たり前のことをしてるだけよ」
そう言うと、アスカは焚き火の上に簡易の焚き火三脚を取り出して、ミネラルウォーターを入れたケトルを鎖に引っ掛けて吊るした。しばらく待てば、これでお湯が沸くはずだ。
「・・・変わったな、アスカ」
「んー?」
「命に、尊敬を持てるようになった。自分だけでなく、他者に対しても」
火を見ながら、加持は他愛もないことを呟く。
「さっきお前は「母親として当然のこと」と言ったが、世の中、そんな重責を背負える奴らばかりじゃない。それどころか、お前は世界で一番大変な母親のはずだ。それを「当たり前」と言ってのけたところが、お前のすごいトコだよ・・・」
タバコを吸い、ふぅーーーっと煙を吐く。
「・・・・・・加持さんが何を言いたいのか、よくわかんないけどさ。アタシはシンジとミライを愛してるだけよ。特にミライの為なら、アタシは世界を敵に回したっていい。アタシが許せないのは、アタシやシンジの力が及ばずにミライを救えないこと。ただ、それだけの話じゃない?」
「ハハハ!やっぱり、アスカは変わったよ」
「はぁ?どこが?」
「他人を思いやれる。人のためにと、恥ずかしげもなく口にできる。それは俺には到底できないことだ・・・」
二人、黙って焚き火を見つめる。穏やかなようでいて、緊迫もしているような、不思議な時間が流れた。本当に、他愛もオチもない話。それはまるで、酒を飲みながら語るような雰囲気に似ていて。
「・・・なにか悩みがあるなら聞こーか?」
「・・・・・・いや、なに。大したことじゃないさ。忘れてくれ」
「それが一番気になる言い方なんだけど?」
「本当に大したことじゃないさ」
加持は笑って手を振った。
「火やタバコを見つめていると、なんとなくだが、心に浮かんだ言葉をそのまま喋ってみたくなるのさ。自分の中で整理も何もできていない、思い浮かべただけの、なんだ?感想、みたいな?」
「アタシに聞かれても困るよ」
「だろうな。だが、ここに酒があれば、アスカと飲みながら語るのも悪くないって思って、な・・・・・・」
「・・・・・・ふーん。そんなもんなの」
「ああ。そんなもんだ・・・」
少しの沈黙の後、アスカが口を開いた。
「そんなもん、この戦いが終わったらいくらでも付き合ってあげるわよ」
「ん?」
「加持さんはアタシの初恋の人だもん。そんな人の愚痴を聞いてみるのも、ちょっと面白いなぁーって」
「ハハ。確かにな」
その言葉に、加持はしみじみと思った。「やはりアスカは変わった」「強くなった」と。
まるで戦争に負けるなどと思っていない。いや、違うか。負けてはならないと、心の底から誓っており、生き残った先のこともしっかりと考えている。
別段、意識しているわけじゃないだろう。だが無意識レベルでそれができるのは、やっぱり強いから、なのだ。
かつての一人でもがいていた哀れな少女は、もういないのだと、加持は安心した。
「んで?これからアタシたちはどーすんの?」
「ああ、それなら『待つ』だけさ」
「待つ?誰を?」
「それは・・・・・・」
そういうと、何かに気付いた加持は顎をしゃくってアスカに目配せした。しゃくった方を見ろ、という合図だ。
アスカが視線を移すと、そこにはいつの間にか黒いワイシャツに黒スーツ、おまけに夜なのにサングラスと、黒一色に身を包んだ長身の男性が立っていた。
その男の風貌にアスカは一瞬にして警戒を強めたが、よく見れば、アスカはその男に見覚えがあった。
「もしかして、ネルフの・・・?」
「はい。剣崎キョウヤと申します。ネルフ時代には、碇司令の下で働いておりました」
「ああ、どーりで・・・」
彼を見た事があるのは、アスカだけではないだろう。ネルフ時代の碇ゲンドウの後ろに控えていた黒服のうちの一人だ。もっとも、名前までは流石に知らなかったが。
「調子はどうだ剣崎?」
「悪くはない。だが機嫌は悪い」
「ほぉ。どうした?」
「お前たちが要求する納期が短すぎる。昨日の今日で、いきなりネルフユーロから脱出して準備を調えろと言われても対処に困る。現場の気持ちを忘れたのか?加持」
「だが事態は一刻を争う。だろ?」
「だから調子は悪くない。機嫌が悪いだけだ」
加持と剣崎が、親しい間柄のように軽い口調でやり取りを交わした。アスカはその様子を不思議そうに見ており、それに気付いた加持がイタズラっぽく笑った。
「コイツは俺の大学の同期だ。まぁ、腐れ縁てヤツだな」
「腐って千切れてほしいくらいだよ、こんな縁」
「ひでぇ事言うな。で、ホークとポーターは?」
「アイツらは居残りだ。今頃、俺がユーロを出てった痕跡を必死で消してくれてるよ」
「なるほどな」
「ふーん。まぁ、いいんだけどさ。この人とアタシたち三人でヒカリ達を助けに行くわけ?足りなくない?」
アスカの当然の疑問に、加持は不敵に笑った。
「そりゃあ問題ない。なにせコイツは・・・」
「それ以上は喋るな、加持。彼女に不安要素を与えるだけだ」
「不安どころか頼りになる情報、だと思うがな?」
「??」
二人のやりとりについていけないアスカは、再び不思議そうに加持を見つめる。
「まぁ、つまりだ。鈴原トウジ達を助けるのは、
ニッと、加持が歯を見せて笑った。
──────
「だぁりゃああああああああああッッ!」
最終号機がもう何体目かも数え切れないほどの敵を斬り裂いていく。土砂降りの雨の中、真夜中の闇の中に剣戟の光だけが瞬く。最終号機の足元には使徒や量産型だったものの残骸、屍の山が築き上げられていた。
それほどの奮戦をもってしても、終わらない。まるで無限に湧いてくるのではと思うほどの敵の数。
《願え、怒れ、頼むから・・・》
「うるっさいな!!」
加えて、頭の中にも余計な声が響く。それがシンジを余計にイラつかせていた。
頭の中、胸の奥の声は、もはや懇願に近い音色であった。それはシンジの心に「彼の言うことに従ってもいいのではないか」という疑念を呼び、それを否定するという無駄な消費を強いていた。
さらに、
「うが・・・っ、また、か・・・!」
シンジの魂が何かに、いや、『アルマロスのシンジ』によってじわじわと侵食されていくのがわかる。それが余計にシンジの足枷となり、シンジの心から余裕を無くしていた。
一昨日の宇宙戦争のように、自分の心の弱さゆえにATフィールドが破られることのないように、細心の注意を払っているのにも関わらず、だ。
「僕は、まだ消えるわけにはいかないんだ・・・・・・死ぬわけにはいかないんだ!わけのわからない力の所為でなんて、消えられるわけないだろ!?」
最終号機のATフィールドが内側から爆発する。その余波が、最終号機に殺到していた使徒や量産型をまとめて吹き飛ばした。その隙を逃さず、シンジは手にした刀で敵を葬り去っていく。
「はああああああああああッ!!」
獅子奮迅の如し。鬼神の如し。修羅の如し。
最終号機の刀という牙と爪でもって、敵が次々に十字架状の光を放って霧散していく。その場に残るのは破片。肉片。それの山だ。
それを何度、何時間繰り返しただろうか。もはや意識を保つのも億劫に感じてきた瞬間。
カッ!!
空が、輝いた。
「な、なんだ!?」
シンジが空を見上げる。夜明けとは違う。夜明けにはまだ早い。それにこの光は、もっと強烈な──、
「な!!?」
光の正体。それは、数百発にも及ぶ戦略N²弾の雨が放つ光であった。
「〜〜〜〜〜ッ!!!」
シンジは咄嗟にATフィールドを展開する。回避は不可能。ならば、ネルフLUNAでカトルがやったように、自前のATフィールドだけで防ぎ切るしかない。
夜の開聞岳周辺を光と炎が包んだ。それは稲妻を伴った数百ものキノコ雲となり、それらが連なって、巨大な炎の大樹と化した。
その大樹を、より強い焔が斬り裂いた。
斬られた大樹はまるで最初からそこにはなにも無かったかのように、音もなく、一瞬でこの世から消え去った。残されたのは、辺り一面の焼け野原と──、
『碇ィ・・・・・・』
神剣『
『面白そうなオモチャを持ってるな?』
それを海上から見遣る相田ケンスケとエヴァンゲリオン・シェムハザ。
そしてその後ろに付き従う、数万にも及ぶだろう、ネルフASIAのオルタナティブ・エヴァンゲリオン達。
場は整った。後は音楽に合わせて踊るだけ。
友達でありながら、どうしたって相容れることのない、二人の死の舞踏を。
つづく