シン星紀エヴァンゲリオンー神も泣くかもしれない   作:サルオ

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小話です。

ちょっとだけセンシティブなので、苦手な方はご注意を。

直接的な表現はしてないので大丈夫、・・・かな?

良ければご笑覧ください。




小話 夏の呼び声、或いは獣の咆哮

 

照り返す太陽。

 

弾ける水飛沫!

 

可愛い女の子!!

 

ん〜〜〜っ!夏、最高!!

 

などと考えるような余裕は微塵もなく、シンジはただひたすらにビーチパラソルの設営に悪戦苦闘していた。

 

灼熱の砂浜に足の裏が焼ける。パラソルの設営自体が初めての経験であるシンジからすれば、まさに灼熱地獄。「心頭滅却すれば火もまた涼し」なんていう言葉もあるが、とてもそこまでの境地に至れそうにはない。パラソルという遮蔽物がない状況で太陽に焼かれ続けているのだ。シンジの着ていたTシャツは、すでに汗でびしょ濡れであった。

 

(は、早く海に入りたい・・・・・・)

 

浜辺に到着してかれこれ30分。水分補給もそこそこにアスカからパラソル設営の命令を下され、律儀にもそれに従っていたシンジの頭は完全に茹っていた。

 

そんなシンジの背中に、何かがボスッぶつかる。

 

振り返れば、海でひと泳ぎしてきたアスカが、その肌にいくつもの水滴を滴らせながら、満面の笑顔でシンジを見下ろしていた。

 

「遅いわよ、バカシンジ。このアタシを待たせるつもり?」

 

黒い紐の水着。アスカのパーソナルカラーである真紅のビキニ。そして、アスカ自身の白い肌。そのコントラストが、成長したアスカの魅力を最大限に引き出している。布面積は少ないが、決していやらしい雰囲気を出さない大人びたデザインの水着を身につけたアスカは、彼女の日本人離れした抜群のプロポーションや威風堂々とした態度も相まって、まるでどこぞのハリウッド映画の女優のようだ。自然と浜辺の視線もアスカに集まる。

 

シンジは足元に落ちたものを見下ろす。先程ぶつかってきたのはビーチボールだったのか。ビショビショに濡れていて、おまけに砂までついてジャリジャリだ。シンジは首を捻って自分の背中を見た。

 

(ああ、やっぱりね・・・)

 

シンジの予想通り、彼のTシャツは砂まみれになっていた。まあ、もともと汗でびしょ濡れではあったので、これも仕方ないかと諦めはつく。

 

「僕だって早く海に入りたいよ。でもこのパラソル、うまく砂浜に刺さってくれないんだ。何度やっても倒れちゃって・・・」

 

そう言いながら、シンジは額の汗を拭った。伸ばしていた髪を切ってサッパリとしたシンジには、まるで中学生の頃にまで戻ったような幼さが見て取れる。

 

「まだかかりそうなの?」

 

「うん・・・。もう少しいい感じのポイントがないか探してみるよ」

 

シンジはパラソルを引っこ抜き、別の場所に設営しようと試みた。

 

「ふ〜〜〜〜〜ん。あ、そう。じゃあアタシはその辺の男と遊んでくるわ。さっきからちょくちょく声掛けられて鬱陶しかったんだけど、暇つぶしにはちょうど良いかもね〜」

 

その言葉にシンジは殺意を覚えた。アスカに対してではない。自分の恋人であるアスカに近寄ってきた有象無象どもに対してだ。

 

シンジは持っていたパラソルを思い切り振りかざすと、ドスゥッ!と怒りに任せて勢いよく砂浜に突き刺した。その音に、周りの観光客が何事かとざわつく。だがシンジもアスカもそんな事は気にしない。今は2人だけの時間が、なによりも優先されるのだ。

 

「で、できたよ・・・・・・」

 

暑さで朦朧とした意識の中、シンジは「やり遂げたぞ」という顔でアスカに振り向く。

 

「はい。お疲れさん」

 

それを見ていたアスカもニンマリと口角を上げた。しかし、シンジがふらつき尻餅をついたのを見て、慌ててビーチバックからスポーツドリンクを取り出した。

 

「アンタ、バカぁ?まさか水分取ってないんじゃないでしょーね?」

 

「だ、だって、僕も早くアスカと海に入りたかったから・・・」

 

「わかったわかった。良いからホレ、これ飲んどきなさい!」

 

「あ、ありがとう」

 

シンジはペットボトルの蓋を開けてくれたアスカに感謝しつつ、喉をゴキュゴキュと鳴らしながら、スポーツドリンクを一息に飲み干した。

 

「ホラ!これも脱いじゃいなさい!」

 

アスカがシンジのTシャツの裾に指をかけ、シンジの肌に爪が当たらないように優しく脱がしていく。現れたシンジの肉体は決して華奢なものでは無く、軍人として訓練を受けた無駄のない筋肉で引き締まっている。

 

「アンタ、また少し引き締まったんじゃない?」

 

ペシペシと、アスカがシンジの胸板を叩く。

 

「そうかな?自分ではよくわかってないんだけど」

 

「シンジのくせに生意気ねぇ〜・・・」

 

そう言いながらも、アスカはペシペシとシンジの胸板を叩くのを止めない。心なしか、どこか息が荒くなっているようにも見える。

 

「アスカ?」

 

「・・・・・・ハッ!な、なんでもないわよ、バカシンジ!」

 

シンジの視線から逃げるように、アスカはバッと立ち上がった。

 

(危なかった・・・。なんか理性飛んでたわ。シンジのやつ、いつの間にあんな身体に仕上げてきたのよ?生意気にも程があるわね・・・)

 

恥ずかしさを振り払うように、アスカが座り込んだままのシンジの手を引っ張る。

 

「ほら、パラソルが終わったんならさっさと立つ!海行くわよ、海!」

 

「うわわ!ちょっと、そんな引っ張らないでよ!」

 

「うるさい、バカシンジ!こうなったらヘトヘトになるまで遊び倒すんだからね!」

 

勢いのまま海に飛び込んだ2人は、ちょうど良いタイミングで押し寄せてきた大波にざぶんっと飲み込まれた。頭から水をかぶり、2人とも一瞬だけキョトンとしていたが、すぐに大きな声で笑いあった。

 

年相応の少年と少女が、そこにはいた。

 

 

 

──────

 

 

 

1週間前。

 

数ヶ月に及ぶ「新たな月の生成」作戦は、シンジの作りだした「光の回廊」のおかげでネルフJPNの想定していた以上の早さで達成された。金星からの大地の切り出しこそ手間取ったものの、「光の回廊」を綾波レイ・トロワの0・0エヴァや小さなレイNo.シスのF型零号アレゴリカ、その他土木作業用の陸上走行車も使用できた事、なにより現地に赤木リツコや伊吹マヤといった現場の指揮を取る人間が赴く事ができたおかげで、作業効率が格段に向上したのが功を奏したのだ。新たな月の生成後の懸念としては月が正常に引力を発してくれるかが最大の焦点であったが、予想に反して大きな問題が起こらなかった事も幸いした。地球の自転速度は徐々に緩やかになり、地軸も安定した事で起こった地球環境の改善は、目を見張るものがあった。数ヶ月という時間の大半は改善された地球環境の経過観察に充てられ、「もう大丈夫だ」と報告を受けた葛城ミサト総司令が作戦終了を宣言したのが、2人が海に来るちょうど1週間前だった。

 

「シンジ。起きてる?」

 

ネルフJPNに併設された居住スペース。そのシンジの部屋に、アスカが訪れたのは作戦終了宣言の日の深夜であった。

 

「起きてるよアスカ。どうしたの?眠れない?」

 

「アタシは子供か。じゃなくて、アンタ来週ヒマ?ヒマでしょ。ヒマだって言いなさい」

 

「な、なんだよ突然。まあ、確かに予定はないけどさ・・・」

 

シンジとアスカはこの作戦を通して、地球と金星の間を何度も往復した。その間、シンジはアスカの待ち望んでいた言葉を彼女にしっかりと伝えており、数年の時を経て、2人の関係はようやく前進したのだった。ただ、今まで2人の間で築き上げられたパワーバランスが逆転するようなことは無かったが・・・。

 

だから、こうやって夜遅くにアスカがシンジの部屋を訪ねてくる事は珍しい事ではない。いきなり訪ねてきて無理難題を言ってくるのも一度や二度ではなかったので、シンジは「また何か企んでるな」程度に考えていた。

 

「そう。まあ、ヒマじゃないって言っても首根っこ掴んで引きずってくけどね」

 

(やっぱりね・・・)

 

シンジの予想はよく当たる。特に、アスカに対しての予想は。これも2人の関係の為せる技なのだろう。

 

「で、来週に何があるのさ?」

 

「2泊3日。休暇をもらったわ」

 

「・・・・・・え?」

 

「アンタとアタシ。2人分。意味はわかるわね?」

 

年頃の男女だ。意味するところは当然1つ。それを理解したシンジの顔が急速に熱を帯びる。関係が前進した2人であったが、この数ヶ月は先の作戦で忙しかった。大人の階段を登るような時間はもちろんの事、デートの1つもできていない。

 

「え?えと、えっと、ええっ!!?」

 

「なに狼狽えてんのよ、バカ。もっと喜びなさいよ。可愛い彼女が折角の機会を用意してやったのよ?こういうのって普通男がセッティングするもんでしょーが」

 

「え、いや急にそんなこと言われても、心の準備が・・・!」

 

「だから1週間、くれてやってるんでしょーが。せいぜいアタシを楽しませるためのプランでも立ててなさい」

 

大人の余裕を醸し出しているアスカであったが、その顔にはどことなく緊張感が漂っている。自分で立てた計画とはいえ、いざ実行に移すとなると嫌でも意識してしまうのだろう。ほんのりと頬が紅く染まっている。

 

「わ、わかった・・・わかったよ・・・。準備しておく・・・」

 

「そ。じゃあそういう事だから。おやすみ〜」

 

アスカはそう言ってヒラヒラと手を振り、背を向けた。シンジからは見えないが、顔を逸らしたアスカの顔は林檎のように紅くなっていた。そそくさとその場を立ち去りたい衝動を抑え、ゆっくりとその場を後にしようとする。

 

「あ、アスカ!ちなみに休暇の申請って誰にしたの!?」

 

緊張から声がうわずってしまうシンジ。

 

「ハア!?そんなのミサトに決まってんじゃない!それがどうしたってぇのよ!」

 

返すアスカにも余裕が無い。

 

「み、ミサトさん!?なんで!?」

 

「なんでも何も総司令でウチらの上司じゃない!なんか文句でもあんの!?」

 

「だ、だってミサトさんに旅行の話なんかしたら、後で何言われるか・・・!」

 

「アンタ!このアタシとの関係に後ろめたいことでもあるわけ!?堂々としてなさいよバカシンジ!」

 

「後ろめたい事なんてないよ!ただ、その、ちょっと恥ずかしくて・・・」

 

「あ〜〜〜もうっ!イライラする!ミサトなら『避妊しなくてもいいからねーっ!』て笑顔で承諾してくれたわよ!」

 

「ひにッ!?」

 

「ついでに隣にいたアンタのパパがなんか異様にソワソワしてたわ!これで満足!?」

 

「父さんもいたの!!!?」

 

「どーでもいいでしょーが!どうせ遅かれ早かれ知ることになるんだから、せいぜい『早く孫の顔を見せてやれるな』位に思ってなさいよ、このバカッ!!」

 

そう吐き捨てて、アスカはその場を走り去った。余裕もへったくれもない。怒りと恥ずかしさでアスカも気が動転していたのだ。

 

残されたシンジは、アスカの背を見送りながら、その場で立ち尽くす事しかできないでいた。

 

ちなみに2人とも完全に忘れているが、ここはネルフJPNの居住スペース。シンジやアスカ以外にも当然住人はいる。2人の会話はバッチリ聞かれており、録音までされていたこの会話が後にネルフJPN内で広まる事となる。その際にひと騒動起きたのは言うまでもない。

 

「いやぁ〜〜〜ビールが美味いわぁ!!最っ高の肴ね!!」

 

「アスカもとうとう大人の女性の仲間入りか。感慨深いものがあるな・・・。あ、リッちゃん。ビールもう一本」

 

「リョーちゃん飲みすぎないようにね。あら、ゲンドウさん。ペースが早くないかしら?」

 

「問題ない。全て予定通りだ」

 

同時刻、居住区の一画で宴会が開かれていたのも言うまでもないだろう。

 

さらに余談だが、人口が激減した地球は空前の結婚&ベビーブーム。まさに『産めよ増やせよ地に満ちよ』であった。

 

 

 

──────

 

 

 

「あーっ!疲れた!楽しーーーッ!!」

 

パラソルの下、敷かれたビーチマットの上にアスカは飛び込んだ。冷えた身体に夏の日差しが心地良い。

 

「ホントにね。こんなに笑ったのっていつ以来だろう」

 

その横に座るシンジも笑顔だ。心地の良い疲労感が彼を包み込む。

 

「まだまだ!こんなもんじゃないわよ。旅行は始まったばかりなんだから!ちゃんとプラン立ててきたんでしょーね?」

 

「うん。一応ね。初めてだから、ちょっと自信ないけど」

 

「そういう事、思ってても言わないの!なんたって今のアタシは最高に幸せなんだから、大抵のことは笑って許してやるわよ!」

 

アスカの笑顔がシンジには眩しかった。さりげなく言われた「幸せ」という単語が、シンジの心に染み渡っていく。

 

「うん。ありがとう。僕も幸せだよ」

 

そう言って、寝転がるアスカの頭を、シンジは優しく撫でた

 

「ふふん。トーゼンよ。楽しくないなんて言ったらぶっ飛ばしてやるからね」

 

「相変わらずだなぁ、アスカ」

 

撫でられるのが気持ちいいのか、まるで猫のように目を細めたアスカを、シンジは慈愛に満ちた目で眺める。

 

「あ、ヤバ。なんか眠くなってきた・・・」

 

「疲れたでしょ?少し寝ててもいいよ?」

 

「え〜。やだ」

 

「なんでさ」

 

「勿体ないじゃない。ホントに楽しみにしてたんだから。睡眠に時間なんか使ってられないわ」

 

「無理しちゃって」

 

「無理じゃないわよ。シンジのくせに生意気ねぇ」

 

こんな他愛のない、だけど今までよりも少しだけ深いところで交わされる会話。そんな当たり前の会話が、2人にこれ以上無い多幸感を味合わせてくれる。

 

一緒に同じ時間を、同じ場所で過ごす。たったそれだけのことが、こんなにも心を満たしてくれるものなのか。人からの愛情に飢えていた2人がようやく手に入れた、かけがえのない時間であった。

 

だからこそ、だろう。アスカの心中にちょっとした悪戯心が生まれるのも仕方ないわけで。

 

「シンジ〜」

 

「ん。なに?」

 

「サンオイル塗ってよ」

 

「ぶっ!」

 

突然の申し出に、シンジは思わず吹き出した。

 

「あぁ?何よ。文句あるわけ?」

 

「いや、全然そんなことないけど、いいの・・・?」

 

「いいも悪いも、アタシの肌に触っていい男は世界中でアンタ1人なのよ?それともなに?アンタは自分の彼女にサンオイル塗る根性もないわけぇ?」

 

ニヤニヤと、悪戯心を隠そうともしない意地悪なアスカ。シンジも頭ではわかっている。だが心臓の音が早くなるのは止めようがない。成長したアスカの美貌は、それこそ世界トップレベルだ。そんな女性が、目の前で水着で寝そべり、自分を誘惑してくる。シンジの今までの人生では考えられなかった事態だ。夢でも見てるんじゃないだろうか?無意識に頬をつねってしまう。

 

「夢なんかじゃないわよ、シンジくぅーん?それともぉ?流石の無敵のシンジ様も、ママには勝てないのかしら?」

 

安い挑発。いつものシンジなら、苦笑して流す事もできたろう。だがこの状況。ただでさえ余裕のないシンジが受け流せるはずもなく、彼はそばに置いてあったビーチバッグの中からサンオイルを取り出した。

 

「アスカは、僕の彼女だ」

 

シンジのいつになく真剣な表情に、アスカの胸がドキッと高鳴る。

 

「やれるさ。そのくらい」

 

「そうこなくちゃ♪」

 

してやったり。アスカは悪戯の成功に心の中でガッツポーズを取った。

 

ゆっくりと、アスカの背にサンオイルが垂らされる。シンジの震える指先が、アスカの背中に触れる。

 

「んッ」

 

「あ、ごめん!」

 

「何謝ってんのよ。いいからホラ、早く!」

 

「う、うん」

 

ゆっくりと、シンジの手がアスカの背を撫でる。初めての感覚に、変な声が出そうだ。アスカは声が漏れるのを必死で耐えた。シンジはシンジで、初めて触れる女性の柔肌に味わったことのない興奮を覚えていた。意識しないように、というか遊んでいて忘れていたのだが、この後の夜の事を嫌でも想像してしまう。2人の息は、自然と荒くなっていた。

 

肩、背中、腰、足、と順番に這って行く、ぎこちないシンジの指先。焼き切れそうになる理性を、シンジは必死に抑えた。

 

「お、終わったよ・・・」

 

どうにかサンオイルを塗り終えて、シンジは呼吸を整えた。今の顔を彼女に見られるのが、どことなく恥ずかしかった。甘い拷問のような時間がやっと終わったとシンジが一息ついたとき、

 

「まだよ」

 

アスカがゴロンと寝返り、仰向けになった。

 

「まだ、前が終わってないでしょ・・・?」

 

アスカの恍惚に満ちた表情。どうやら、彼女の中でスイッチが入ってしまったらしい。小悪魔のような笑みを湛えて、シンジを舐め回すように見つめてくる。妖艶なフェロモンがアスカの体から立ち昇っているのでは、と錯覚してしまいそうなほどだ。

 

「み、みんな・・・、見てるよ・・・?」

 

「見てないわよ。ていうかバカシンジ。アタシ以外を見てんじゃないわよ」

 

アスカが軽く身じろぎする。その動きはいやに艶めかしい。せっかく耐えていたシンジの理性が、再びジリジリと焼かれていくのがわかる。獣としての本能がムクリと鎌首を持ち上げたのがわかる。

 

「アンタも期待しているんじゃない。可哀想な事になってるわよ?」

 

アスカの視線の先がどこを向いてるのか、わかってしまう。そして、それを咎められる事もない。その事実が、いつかの、アスカの病室での出来事を思い出させる。

 

「き、気持ち悪く、ないの・・・?」

 

「シンジ」

 

アスカの口から、はぁぁぁと甘い吐息が漏れる。

 

「アンタが全部アタシのものにならないなら、アタシ何もいらない」

 

それで十分だった。

 

「アスカ・・・」

 

「シンジ・・・」

 

ゆっくりと2人の顔が近づいていく。公衆の面前?知ったことか。アスカがいれば、シンジがいれば、ほかに何もいらない。

 

2人の唇が、指先が、そっと触れるその瞬間。

 

 

 

「ねえねえ、オネーサン!ちょー可愛いね!俺らと遊ばなーい?」

 

 

 

命知らずの邪魔者どもが現れた。

 

日焼けした屈強な体つきの、いかにも軽そうな男3人が、2人の世界を無視して土足で踏み込んでくる。

 

「こんなモヤシくんなんかよりさぁ、俺らと遊ぼーよ!めっちゃ気持ちよくなれると思うんだ〜!」

 

何が面白いのか、ギャハハと笑う3人組。

 

アスカの怒りのボルテージは一気に最高点まで到達した。

 

「消えろクズども。死にたいの?」

 

「うわ怖ー!でも怒った顔も可愛いじゃん!」

「こういうのをヒーヒー言わせるのが堪んねえんだよなぁ!」

「やっべ、めっちゃ勃ってきちゃったー。これはオネーサンになんとかしてもらわないとなぁ〜。ギャハハハハハ!!」

 

まごう事なき下衆。アスカの怒りの最高点があっという間に更新される。

 

そんな下衆のうちの1人がシンジの肩に手を置いて無理矢理立ち上がらせる。

 

「もしかして彼氏くん?ごめんね〜。彼女、ちょっと借りてくから、その辺でテキトーに時間潰してきてよ」

 

いかにも力自慢、と言いたげな男がシンジの前で拳を握り締める。

 

我慢の限界だった。

 

「アンタら・・・!」

 

アスカが鬼の形相で立ちあがろうとした時。

 

 

 

シンジの目の前にいた男が吹き飛んでいた。

 

 

 

「・・・・・・・・・は?何してくれちゃってんの?」

 

残りの2人がシンジに詰め寄る。

 

「マジ寒いわぁ、コイツ。チョーシ乗ってんじ」

 

そこから先の言葉を、その男は発せなかった。顎を砕かれたからだ。他ならぬモヤシくんの、シンジの手によって。

 

「はがああああああああ!!?」

 

痛みで男が砂浜を転げ回る。それをシンジは足で踏みつけ、無理矢理動きを止めた。

 

そこから先は容赦のない拳の雨。殴られた男の顔が、見る見るうちに原型を崩して行く。

 

「何してんだテメェ!!おい!集まれやぁ!」

 

まだ被害を受けてない男が、仲間と思われる連中に声をかけた。その数ざっと10人。それらがシンジを取り囲む。

 

「おい!女ぁ逃すなよ!」

 

「テメェ・・・生きて返さねえからな。覚悟はでき」

 

男の顔が埋没する。シンジの拳によって。

 

シンジはあくまで無言で、その場に集まった者たちを1人ずつ丁寧に壊していく。止めに入ろうが何をしようが、シンジが声を荒げる事はない。あくまで静かに淡々と。無表情で近づいてきた者を完膚なきまでに叩きのめしていく。

 

かつてないほどの怒りの感情が、シンジを黒く塗りつぶしていたのだ。下手をすれば、死人が出るほどに。

 

それを呆然と見ていたアスカの肩が乱暴に掴まれる。

 

「テメェもぐちゃぐちゃにしてやんよ。覚悟し・・・」

 

「気安くアタシに触るなぁああああ!!」

 

アスカの後ろ回し蹴りが、男の右の肩を砕いた。

 

「ぎああああああ!?」

 

痛みでのたうち回る男を、追い討ちでアスカは蹂躙する。

 

「な、なんだコイツら!やべぇぞ!」

 

「に、逃げ・・・」

 

「逃すかボケ共ぉぉおおお!!」

 

シンジは無言で。アスカは烈火の如く。

 

その場にいた下衆を全てボロ雑巾に変えるのに、時間はほとんど掛からなかった。

 

ビーチはあっという間に阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

 

この夫婦の戦闘力は高すぎたのだ。

 

「シンジ!平気!?」

 

アスカがシンジに駆け寄る。怪我はないだろう。だが初めて見るシンジの怒り狂った姿が心配だった。厄介なことに、周りの観光客も騒ぎ出し始めている。

 

「あーーーっ!もう最っ悪!!信じらんない!せっかくの旅行だっつーのにぃ!!」

 

「アスカ・・・」

 

「シンジ!?」

 

心配するアスカを、シンジは掻き寄せた。物凄い力でアスカを抱きしめる。

 

「ちょ、ちょっとシンジ。痛い・・・」

 

「ごめんアスカ。でも、だめだ。アスカを、アスカとの時間を邪魔されるなんて耐えられないよ」

 

「シンジ・・・・・・」

 

「わかっちゃったんだ。僕はもう、アスカ無しでは生きられないって。アスカを誰にも取られたくないって。アスカとの時間を誰にも邪魔されたくないって・・・!」

 

「シンジ」

 

「アスカはもう僕のだ!絶対、絶対誰にも渡さない!僕のワガママだったとしても、絶対に!アスカに嫌われても、傷つけても、絶対に・・・!!」

 

「シンジ!」

 

アスカの呼びかけに、シンジがハッと顔を上げる。

 

「ご、ごめん!僕、何言ってんだろ・・・」

 

「バカシンジ」

 

アスカがはあっとため息をつく。

 

「それでいいのよ」

 

「え?」

 

「アンタはアタシのものだし、アタシはアンタのものなの。アンタの言ってることが正解なのよ?もしかしてアタシがアンタのこと嫌いになるとでも思った?そんなわけないでしょ。アンタが今言ってくれた言葉が、アタシ、今日1番嬉しかったんだから」

 

「アスカ・・・」

 

「だから、アタシをアンタのものにしてよ。今から。全部のアタシをアンタにあげる。だから、アンタの全部をアタシにちょうだい?」

 

ニカッと、アスカはなんでもないように笑った。

 

「してくれるんでしょ?バカシンジ?」

 

それは愛の溢れる言葉。もしかすれば、結婚の誓約よりも重く、愛に満ちた言葉。

 

周りのざわめきはまるで不純物だ。いまこの場に在っていいものではない。2人は、なにより2人だけの時間がほしいのだから。

 

「とにかく、ちょっとこの場から離れた方がいいわね」

 

アスカがシンジの手を引く。

 

その手をシンジは振り解き、アスカを抱きかかえた。

 

「え、ちょっとシンジ!?」

 

あまりに素早い一連の動きに、アスカも流石に戸惑った。

 

「あっちにね、人があまり来ないスポットがあるんだって。夕焼けが綺麗な場所だから、後で連れてくつもりだったんだけど・・・」

 

「んんんん??」

 

「ごめん。でも、アスカが悪いんだ。アスカの所為なんだよ?アスカが魅力的すぎるから、僕はもう我慢できない。我慢もしない。アスカに僕を刻むから。絶対に離さないから。アスカが泣いても、僕は僕を止める自信がないよ。それだけは、先に謝っておく」

 

言葉の内容は過激であったが、今までのシンジの性格からは考えられないような情熱的なセリフだった。アスカのキョトンとした顔が恍惚の笑みに変わる。

 

「このアタシの所為にするなんて、バカシンジのくせに生意気ね。言うようになったじゃない。アンタこそ覚悟しなさいよ?アタシをアンタの骨の髄まで刻み込んでやるんだから。泣いても止めないからね?」

 

「いいよ。刻んでよ。そうしてほしい。僕もそうしたい」

 

「よろしい!」

 

2人が浜辺を駆け抜ける姿は、まるで花嫁を攫う怪盗のようで。花嫁も、自分が盗まれる事を心から望んでいて。

 

2人はビーチから少し離れた、岩に囲まれた絶景スポットへと姿を消した。

 

 

 

10数分後。

 

アスカの嬌声とシンジの獣のような声が、ビーチ中に響き渡った。

 

 

 

──────

 

 

 

その後の話をしよう。

 

2人の情事の声は凄まじく、数時間経っても止む事はなかった。2人が起こした暴行事件も含めて他の観光客からは苦情が殺到し、結果、警察へと通報される事態にまで発展した。

 

しかし、やってきたのは警察ではなく、ネルフJPNの精鋭たち。彼等は到着後、すぐにビーチ一帯を封鎖。蟻一匹も通さない厳重な警備体制を敷いた。後ほど駆けつけた葛城ミサト総司令はシンジとアスカのいる現場まで赴き、今回の件について大変ありがたいお話をしてくれた。

 

「あんたらねぇ!時と場所を弁えなさい!!交尾覚えたての猿でもここまでやかましくないわよ!?」

 

「何よ!『産めよ増やせよ地に満ちよ』でしょお!?それに励む事の何が悪いってのよ!」

 

「近所迷惑だっつってんの!!ホテル取ってんだから、盛るならそっちでやんなさい!!」

 

この下知を持ってシンジとアスカはホテルに退散することになったのだが、結局ホテルでもお互いの想いが溢れ出した2人は24時間以上ぶっ続けで情事に励み、結果、他の宿泊客からも苦情が多く寄せられた。2人はホテルからすらも強制退去。以後、出禁となった。

 

ネルフJPNはこの事態を重く受け止め、シンジとアスカを一緒の部屋に押し込める方針をその日のうちに決定した。当の本人たちには勝手に決められた方針に若干の不満があったものの、素直にそれを受けて仲睦まじい暮らしを始めているという。

 

ちなみに、この2人の情事は、ビーチでの出来事も含めて出来うる限りの盗撮が行われていた。これは赤木リツコ博士の発案であり、「エヴァと融合することのできる人類同士の子供が一体どのような形で生まれるのか、研究する必要があるわね」という理論でミサトを説得した結果、ミサトの即決で実施される事となったのだった。

 

 

「良いわね、若いって。無茶できるし、羨ましいわ・・・」

 

「え・・・うそ、アスカ、あんなに深く・・・、え、ええ!?そんなアスカ、そんな格好で!?えええええ!?」

 

「マヤ。少し静かに」

 

「す、すみません、先輩」

 

「いやぁ〜〜〜ん!シンちゃんったらケダモノ〜!アスカは耐えられるかしらね。お?おおお!?すごいわ、アスカ!あそこから盛り返すなんてやるじゃない!うははははははーーー!ビール美味しい〜〜〜ッッ!!」

 

なお、研究資料として残されることになったこの動画の閲覧回数は、この3人がダントツであったとのことである。

 

 

 

つづく

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