シン星紀エヴァンゲリオンー神も泣くかもしれない   作:サルオ

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u. 地において滅びを呼ぶ焔(後編)

 

『もう、ヒトではないのか、だって?そんな悲しいこと聞くなよ、碇ィ〜』

 

 最終号機の左胸を貫いたシェムハザが、その右腕をグググッと持ち上げる。

 致命の傷に最終号機の腕から力が抜け、『天之尾羽張(アメノヲハバリ)』と『ルクレティウスの槍』がこぼれ落ちる。『ルクレティウスの槍』は光の粒子となって、地に落ちる前に消え去ってしまった。

 

『当たり前だろ?俺はヒトを超えた存在。この星の覇者、リリンの王だ。ヒトなんて存在、とっくのとうにやめてるのさ』

 

 勝ち誇るケンスケは最終号機の肩を掴むと、突き刺した右腕をさらに捻り込んだ。最終号機の口と傷口からまるでポンプのように血が吹き出す。

 その右腕を、最終号機の両手が優しく握った。

 

《け、んスケ・・・?》

 

『ん?』

 

《そうイエば、いたな?そんナやつモ・・・》

 

『・・・・・・あ゛ぁ?』

 

 最終号機の腕に、徐々に力が戻っていく。

 

《今ノ『僕』にとってのトモだち。デも、昔の『僕』にトッては、どーデもいい存在だったんだ・・・》

 

『てめぇ・・・!』

 

 最終号機から聞こえてくるシンジの声をした何か。ソレの言い放ったセリフに怒りを覚えたケンスケは、更に右腕を押し込もうと力を込めた。

 

 瞬間、シェムハザの右腕がブチブチと音を立てて引き千切られた。

 

『ぐああっ!?』

 

 激痛に後ずさるシェムハザ。目の前の最終号機は赤黒い焔を纏ったまま、体に刺さっていたシェムハザの腕を無造作に引き抜いて捨てると、貫かれた左胸に手を当てる。その傷口が焔に巻かれたかと思うと、次の瞬間には致命の傷口は塞がっていた。

 

《ソう、ドーデもいいんだ・・・・・・お前なんかッ!》

 

『ぶっ!?』

 

 シェムハザの顔に、最終号機の拳が叩き込まれた。

 咄嗟の出来事にケンスケは対応しきれず、殴られたシェムハザはそのまま地面に倒れ込んだ。追撃を警戒したケンスケは即座に地面を転がると、最終号機から距離を取って立ち上がった。

 しかし警戒していた追撃は来ず、ケンスケの目の前で最終号機は両手で頭を抱えている。まるで激しい頭痛にでも襲われているように、頭をブンブンと振り回している。

 

《ち、がう!ケンスケは僕の友達だ、友達なんだ!大切な・・・・・・・・・でも今は?今は邪魔だよね?そうだよ。要らないんだ、あんなヤツ・・・・・・やめろッ!!》

 

 うわごとのようにブツブツと呟く最終号機を前に、ケンスケはようやく、今のシンジの状態を正確に理解した。

 右腕の傷口を押さえながら、ケンスケは込み上げてくる笑いを堪えることができなかった。

 

『く、くくく・・・。あはははははははぁ!!なんだよなんだよ碇!そういう事か!お前、俺と同じなんだな!?過去の世界の自分が、混ざり合ってきてるんだろ!?あはははは!!』

 

 シェムハザが傷口を押さえていた左手を離す。

 シェムハザが右腕の傷口に力を込めると、傷口から粘液状の使徒バルディエルがズリュッと飛び出した。バルディエルは瞬く間にその形を変え、シェムハザの右腕を新しく作り直す。

 復活した右手を使い、ケンスケはシンジに拍手を送った。

 

『わかる!すげぇ良くわかるぜ碇ィ!その苦しみ、ハンパないもんな!?自分が消されそうになって、恐怖感ヤバいよな!?・・・・・・でも、大丈夫。お前は「碇シンジ」なんだ。そのくらいの苦しみ、簡単に乗り越えてこれるよ』

 

 いっそ慈愛に満ちた言葉で手を伸ばすシェムハザが最終号機に近付く。その手が優しく最終号機の肩を叩いた。

 

『これでようやく、俺たち、対等だ。ホントの友達だ!・・・なぁ、後は俺に任せておけ。世界は俺がなんとかするからさ。お前はゆっくり休んでろよ。アスカがどうとか言って悪かったよ。ソレは後でゆっくり相談しようぜ。なんなら俺たちで使いまわしたって良いんだし、今はとにかく休めよ。大丈夫!お前一人が背負わなくたっていいんだ。俺たち、友達だろ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《・・・・・・・・・・・・今、なんて言った?》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ん?』

 

 最終号機がシェムハザを渾身の力で突き飛ばす。思わずタタラを踏んだシェムハザだったが、子供の駄々に付き合う大人のように肩をすくめた。

 

『なんだよ?俺、なんか気に触る事を言ったか?』

 

《アスカは僕の大事な家族だッ!僕が守るべき家族なんだッ!!僕はアスカを、トロワを、カトルを、ネルフのみんなを!そしてミライをッ!守る!!お前みたいにヒトをオモチャのように扱ってるやつに、指一本だって触れさせるもんかッッ!!》

 

『・・・なんだよ!俺たち、友達だろ!?友達同士でオモチャを貸したり借りたりなんて当たり前じゃないか!?それの何が悪いんだよ!?』

 

《ケンスケェッッ!!》

 

 怒りに身を任せ、シンジはケンスケに殴りかかった。友として、自分なりにシンジを受け入れたつもりであったケンスケは、困惑しながらもどうにかその拳を受け止めた。

 

『なんなんだよ!?俺たちやっと対等になれたんだぜ?友達だろーが!なんでそんなに怒るんだよ!?』

 

《うるさいッ!お前なんか、お前なんか友達じゃない!》

 

『──ッ!!?碇ィッッ!!』

 

《ケンスケェッッ!!》

 

 最終号機とシェムハザの拳が交差する。二人の拳は互いの顔を打ち抜き、互いの血が宙を舞った。

 

《ウオオオオオオオオオオオオオオッ!!》

 

『ガアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 拳が、蹴りが、無茶苦茶に交差する。それはまるで、幼い子供同士の喧嘩のようで──、

 

『くく・・・あははははははははははははははははぁ!!』

 

 ケンスケは余りの楽しさに、口を大きく開けて笑った。

 

『サイコーだぜ!碇!楽しいなぁ!お前が正義のヒーローで、俺が悪役か!?いいぜ、守ってみろよヒーロー!俺から、人類をさぁッ!!』

 

《が・・・ッ!?》

 

 シェムハザの放った蹴りが、正確に最終号機の鳩尾に叩き込まれた。痛みがシンジの身体を貫き、その蹴りの威力に、最終号機は何度も地面に弾かれながら吹き飛ばされた。

 

『あらら。世界を守るには、ちょーっと力不足かな?ヒーローさんよ?』

 

《・・・・・・だから、力を使えって言ってるんだよ》

 

『ん?』

 

 地面に倒れていた最終号機が、全身のバネを利用して飛び起きる。身に纏っていた焔が、より力強く燃え始める。

 

《僕は人類なんか守らない。テラがどうなったって知ったことか。綾波とアスカを取り戻せるなら、それだけで・・・・・・》

 

『・・・んん?ちょっと待て。今のお前、どっちだ(・・・・)?』

 

《この心臓が、異次元の窓が、あの時の僕にあったならきっと失敗しなかった。だから、もっと・・・・・・!》

 

 焔が湧き上がり、再び天を焦がす。

 

『ああ。過去の碇(・・・・)、か』

 

《お前も要らない・・・・・・だから、殺すッ!》

 

『やってみろよ!負け犬の亡霊が!!』

 

 シェムハザが大地を蹴った。もはや生物の住みようのない灰の大地を踏み締め、空気を焦がす赤黒い焔に向かって突進する。最終号機もまた、両手を広げてそれを迎え撃った。

 シェムハザの拳がATフィールドを纏い、先ほど穿った最終号機の鳩尾に叩き込まんと振りかぶる。人造人間とはいえ人体の急所の一つ。当たれば激しい苦痛は免れない。

 ケンスケのATフィールドは最終号機のATフィールドを容易く中和し、その体に正確に拳を叩き込んだ。

 だが──、

 

『ぐ・・・っ!?』

 

 硬い。

 先ほど蹴りをお見舞いした時とはまるで違う。まるで山を思い切り叩いたような、そんな感触。

 ヒトの力ではどうしようもないと思えるほどの巨大さを感じさせる体躯を前に、叩き込んだはずの拳が逆に壊れた。

 

《エヴァはすべて・・・・・・》

 

 お返しとばかりに最終号機が拳を振りかぶる。それを防ぐため、シェムハザは腕を交差させて防御の姿勢を取った。

 

《死ねばいい・・・・・・ッ!!》

 

 その交差した腕が、たったの一撃で砕かれた。両腕を粉砕され、シェムハザが激痛に苦鳴を上げながら吹き飛ばされる。

 

『ぐああ・・・!畜生、足りない、か!』

 

 吹き飛ばされながらも、シェムハザの体が再び泡立つ。

 過去の世界のケンスケが乗っていたエヴァンゲリオン。その情報を箱舟から呼び出し、ケンスケは即座にシェムハザの体に上書きした。粉砕されたシェムハザの腕が即座に再生し、より強固な腕として復活を遂げる。

 

『まだまだぁ!!』

 

 シェムハザはさらに全身に情報を上書きしていき、強固な鎧を身に纏った。それはかつてネルフJPNで正式採用されていた、重装甲のF型装備に近いものがあった。

 その鎧を纏ったシェムハザの再びの突進。今度は拳ではなく全身でぶつかっていく。

 山のような強度を誇る最終号機はその突進に僅かに体をよろめかせたものの、倒れるにはまるで至らない。

 しかし、それで良かった。ケンスケの狙いは打撃によるダメージの蓄積ではなく──、

 

『こっちはそれなりに効くだろ?』

 

 肩のパイロンから抜き放ったプログレッシブナイフによる刺突。体を密着させたまま、抜き放ったナイフで最終号機の装甲の間を縫って、刃を突き立てた。

 最終号機の脇腹に、ナイフが刺さる。

 

《ぐ・・・・・・!》

 

『次は首ぃッ!』

 

 ケンスケの狙いを防ぐため、最終号機は瞬時に首を守る。ガラ空きになった最終号機の身体に、今度は逆の脇腹へとナイフが突き立てられた。

 

《が・・・・・・っ!?》

 

『過去のお前も、今の碇も、やっぱ戦闘経験が未熟すぎるぜ!』

 

 ケンスケはそう叫ぶと、ナイフをもう一本取り出して両手で一本ずつ逆手に構えた。人を殺すための構え方。軍人として鍛えられたソレであった。

 体をよじるだけで互いに致命傷を与えることのできる超近距離。言葉巧みに最終号機を惑わしながら、シェムハザが剣の舞を踊る。翻る刃の煌めきとともに、最終号機の血が宙を舞った。

 いずれの傷も致命傷には至っていない。しかしそれでいい。ヒトが怪物を殺すためには、何千、何万と薄い傷を刻んでいき、やがて死に至らしめるしかない。

 そのシェムハザの動きは、人として見れば英雄的な戦い方であっただろう。

 

 だが──、

 

『ご・・・・・・!?』

 

 最終号機がシェムハザを振り解こうとガムシャラに腕を振るった。技巧もクソもないその腕が、シェムハザの側頭部に命中する。

 首から上が吹き飛ぶような衝撃に、倒れはしないもののシェムハザがタタラを踏んだ。

 

(掠っただけでコレかよ・・・ッ)

 

 ケンスケが人の英雄であるならば、対峙する最終号機はかつて数多のエヴァを葬り去り、神に叛逆した文字通りの怪物。

 その膂力はシェムハザを優に超える。まともに喰らえば、強化したシェムハザとてタダでは済まない。

 

『舐め・・・・・・!』

 

《遅いよ》

 

 最終号機の前蹴り。体制を崩したシェムハザが受け止め切れるものではない。シェムハザは繰り出された足裏に向かって、2本のナイフを突き立てた。

 衝撃を殺しきれず、ナイフ2本が砕け散る。しかし刃先はケンスケの狙い通り、最終号機の足を貫いていた。

 その状態でもなお、最終号機はその足でシェムハザを蹴り抜いた。

 

(痛みはねぇのかよ!?)

 

 辛うじて身を捩ってその蹴りを肩で受けるシェムハザ。その肩がバギボキと音を立てて砕かれ、勢いを殺せず、ケンスケは激痛と共に吹き飛ばされる。

 

 これでは勝てない。そう瞬時に判断したケンスケは傷を修復し、さらにシェムハザの全身を俊敏かつ強力な獣の体へと作り替えた。

 両の足が地面に着いた瞬間、ボォンッと音を立ててシェムハザの巨躯が掻き消える。シェムハザの異常に発達した脚力により灰の大地が爆ぜたのだ。

 シェムハザは超高速で地を駆け回る。最終号機を撹乱しながら、地面の灰を手で掬った。

 その灰を、瞬時に最終号機の前に移動してきたシェムハザは、敵の顔に向けて思い切り投げつけた。

 ただの目眩し。だがその一瞬が、ケンスケには必要だった。

 最終号機が咄嗟に顔を庇って両手で視界を封じた。人としての条件反射に、アルマロスのシンジも抗えなかった。

 

(勝った・・・!)

 

 ケンスケは獣の爪の如く鋭い両爪を振りかぶると、最終号機の側頭部に向けて左右から爪を振り下ろす。灰から顔を庇ったことにより、最終号機の側頭部はガラ空きだ。庇った腕の所為で、シェムハザの姿を捉えることもできはしない。

 

『あばよ!碇ぃ!!』

 

 その凶爪が最終号機の頭を貫かんとした瞬間、最終号機はそれよりも速く、シェムハザの両腕を掴んでいた。

 

『な!?』

 

《遅いってんだよ》

 

 ギギギ、とシェムハザの腕が軋み始める。その腕を振り解こうと、ケンスケが強力な腕力を持つ生物の情報をシェムハザに上書きするが、そんなモノは無意味だと、最終号機は無慈悲にシェムハザの両腕を捻り切った。

 

『ぎあ!?』

 

《僕はアスカと綾波を取り戻せれば、それでいい。・・・・・・いや、違う!僕はみんなを守るんだ!》

 

『・・・ぐ、エグリゴリ!!』

 

 ケンスケの声に応え、戦いを邪魔しないように控えていた獣達が一斉に最終号機に襲い掛かる。

 それを最終号機は、拳と蹴り、もしくは人のそれに近い爪で抉り切るようにして、容易く屠っていく。

 

《君が来いよ、ケンスケ・・・!》

 

『ああ、行くさ!コレを使ってなッ!!』

 

 エグリゴリは目眩し。力でも技でも勝てないと判断したケンスケは、しかし勝利を諦めてはいなかった。ケンスケがこの隙に再生させた両腕で手にしたもの。

 

 最終号機が取り落とした『天之尾羽張(アメノヲハバリ)』。

 

《!!》

 

『お前の武器なら効くだろッ!?』

 

 焔を纏った刃が最終号機に迫る。それを見た最終号機は咄嗟に身を翻し、その凶刃を躱した。

 

避けたな(・・・・)

 

 逃すものかと、シェムハザが迫る。振りかぶった刃が渾身の力を込めて振り下ろされる。

 最終号機は瞬時に左手に光を集めると、輝く『ルクレティウスの槍』を出現させて刀を受けた。

 

《く・・・・・・ッ!》

 

『神殺しの刀、ってか・・・。本当にいいオモチャだな、碇ィッ!!』

 

 『ルクレティウスの槍』に、焔が燃え移る。最終号機は咄嗟に槍を手放し、地面を蹴って後退した。

 その腹に、深々と『天之尾羽張(アメノヲハバリ)』が突き立てられた。

 

《ぐあああああああああああ!?》

 

『自分の焔で、焼かれて死ねッ!!』

 

 刀身の焔が最終号機に燃え移る。自身が発する焔とはまた違う、滅殺の焔が最終号機を包み込んだ。

 

 その刀身を、最終号機が掴み取る。

 

『!?』

 

《あああああああああああああッ!!》

 

 そして、渾身の力でシェムハザを殴り飛ばした。

 拳がシェムハザの顔に埋没し、地面を何度も何度もバウンドしながら、シェムハザが吹き飛ばされていく。それでも手を離さなかったシェムハザと共に、『天之尾羽張(アメノヲハバリ)』は最終号機の体から抜けていった。

 

(クソが!なんなんだコイツは・・・!)

 

 意識が朦朧としながらも、ケンスケは思考を止めない。勝利への渇望。英雄である「碇シンジ」に勝利するため、どんどんか細くなっていく勝利への道筋を必死に手繰り寄せる。

 

(俺のエグリゴリも、技も、武器も、この神殺しの刀すらも、何も通用しないってのかよ!?いや、刀は通じたんだ!まだ諦めるな・・・!)

 

 弾き飛ばされ、海岸まで飛ばされたシェムハザが海に突っ込む。高い高い水飛沫をあげて、ようやくシェムハザの身体が止まった。

 

(立て、立つんだ!まだ戦える!やれるだろ、俺!?)

 

 足に力を込めて刀を杖代わりに、シェムハザがヨロヨロと立ち上がる。しかし立ち上がった瞬間、ケンスケの視界が揺れた。

 

『うっぐ!?おえええええええ!?』

 

 シェムハザが、吐いた。ダメージが大きすぎたのか。ケンスケは無意識にシェムハザの左頬に手を伸ばした。

 

 触れるはずだった指先が空を掻く。あるはずの顔面が、無い。埋没したのか、削ぎ落とされたのか。自分では確かめられないが、これで死ななかったのは奇跡だと思えるほどの重症。

 遠く、吹き飛ばされた向こうを見れば、焔に身を焼かれながら、刀傷から血を流しながら、その血を燃やしながら、ゆっくりであるが最終号機がこちらに向かってきている。

 その姿に、ケンスケは恐怖を覚えた。だがそれ以上の渇望が、ケンスケの震える脚を叱咤していた。

 

(わかってたハズだ・・・。碇はすげえ。わかってたことだろ!?)

 

 ケンスケは体を震わしながら、それでも考えることをやめない。

 

(もう、はっきり言って刀を振るう力も残ってねぇ・・・・・・俺が、できること、といったら・・・・・・)

 

 無敵の怪物が徐々に近づいてくる。その恐ろしい光景を前にして、不思議とケンスケの頭は冷静さを取り戻していた。焦りもない。

 

 ただ、怪物に勝つための、手段を。

 

 残り少ない余力でできる精一杯を!

 

『碇・・・』

 

《ケンスケ・・・・・・》

 

 

 

 

 

『お前の中の「碇シンジ」は、いくつの世界の終わりを見てきたんだ・・・・・・?』

 

 

 

 

 

 いつのまにか雨は止み、二人の戦いの余波で雲は割れていた。地平線から太陽が登り始め、空を茜色に染め上げていく。

 

『俺は、もうわからねぇ。ヒトが死んだ。生き物が死んだ。何もかもが死んだ。死んだ。死んだ・・・。もう世界の終わりは見飽きたよ・・・・・・』

 

 シェムハザが、刀を放り捨て、まるで祈りを捧げるように両の掌を合わせる。

 

『もう、そんな光景は見たくねぇ。だから、「俺」の世界で終わらせてぇ。例え世界を焼こうとも、今までの滅びに比べれば・・・・・・』

 

 合わせた両の手から、か弱い光が溢れ出す。

 

『お前ができたんだ。俺にもできる。やってやる・・・!過去の世界の、何かを、俺の意思で連れてくる・・・!!』

 

 光が満ちていく。それは地平線の太陽すらも霞むような光を帯び始め──、

 

 

 

 

 

『──メモリアル・インパクト』

 

 

 

 

 

 過去世界の滅びを、この世界に顕現させた。

 

《な・・・・・・っ!?》

 

 それは数多の世界で起きたグランドインパクト。セカンドインパクト。起きたかもしれないサード、フォースも含めた、あらゆる世界のインパクトの集合体。

 ケンスケはそれを呼び出したのだ。そして、それを必死に制御し、被害自体はごく限定的にしようと試みる。

 それでも溢れ出した光が、開聞岳全体を包み込んでいく。

 

《やめろ!ケンスケぇッ!!》

 

 後の世に、『神の傷跡』と称される地形が誕生した瞬間。

 

 日本の開聞岳を含んだ鹿児島県一帯が、地図から消え去った日であった。

 

 

 

 

 

つづく

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