「僕が・・・人狼・・・・・・?」
「そうだ」
『シンジ』に対し、信じられない事実を告げたゲンドウは、手にしていた映像端末の電源を切り、実の息子に鋭い視線を向けた。
「お前はすでに要処分対象だ。お前がまだ生きている、いや、生かされているのは、お前がエヴァのパイロットだからだ。それ以上の理由はない」
「そ、そんな、そんなこと・・・・・・!」
必死に否定しようとした『シンジ』の喉が詰まる。先ほどの映像。アレを見てなお、「自分は人狼ではない」と言い切れる自信がなくなっていたからだ。
『シンジ』の釈明を聞き流し、ゲンドウは更に続けた。
「お前の起こした行動により、レイはお前に不信感を抱いている。これ以上の接触は認められん。任務上のやむを得ない場合を除き、今後レイとの接触を禁止する」
『シンジ』の顔に絶望が刻まれた。今の自分に唯一残った大切なもの。綾波レイ。それを『シンジ』は自身の手で傷付け、自ら紡いできた絆を壊してしまったのだ。あの映像を見せられて、それでも尚、『シンジ』がレイに近付こうなどと烏滸がましい。それくらいの事は『シンジ』自身にもわかっていた。
認めたくはないが、自分の中に知らない自分が居る。それを認識した『シンジ』の手が、格子からずるりと力無く落ちた。
「シンジ。お前がヒトとして生きれるのは、エヴァの中でのみ。お前がパイロットとしての自我を保ち続けられなければ、即座に処分する」
半ば死刑宣告のようなゲンドウの言葉は、『シンジ』の頭の中には入ってこなかった。どこか遠い国の出来事のように、実感もないまま事実だけが告げられる。
自分の命が、随分と軽いものになったと『シンジ』は感じた。それはつい先日、自分が焼き殺した人狼の群れを思い出させる。
(アレと同じように、僕は殺される・・・・・・)
炎に巻かれ、身体を激しい痛みで捩らせながら、最後は手足を縮こませて炭と化した人狼の群れが脳裏をよぎる。そしてその焼死体の顔が、『シンジ』自身に置き換わった。
途端に、自分の死が身近なものに感じた『シンジ』は、思わず自分の口を押さえた。吐き気が腹の奥から込み上げてくる。
「だが・・・・・・」
そんな『シンジ』を気遣うことなく、ゲンドウは続ける。
「お前は、私にとっての希望だ」
「・・・・・・・・・・・・え?」
力無く『シンジ』の目がゲンドウを捉える。そして、驚きに見開かれた。
笑っているのだ。あの碇ゲンドウが。それも人を小馬鹿にしたような、上から目線の笑みではなく、あろうことか『シンジ』に向かって微笑んでいた。
それは実の息子に向ける、慈愛のこもった微笑みであった。
「シンジ。お前は確かに人狼だ。そうなってしまった。だが、お前が人狼になった事で、人類は救われるかもしれん」
「ど、どういうこと?父さん」
『シンジ』の投げかけた疑問に、ゲンドウは携帯端末の電源を再度入れて画面を操作した。
ゲンドウの指が止まると、ゲンドウは改めて画面を『シンジ』に向けた。
「シンジ。これは完全な極秘情報だ。現時点では私と冬月しか知らない。それを今からお前に見せる」
覚悟はいいな?とゲンドウの視線が問いかける。
『シンジ』は頷くことも、首を振ることもできなかった。だがゲンドウは構うことなく、映像の再生ボタンを押した。
『はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・』
画面にどこかの廃墟の階段が映し出される。映像の撮影者は走っているのか、少し息が荒い。
『シンジ』はその息遣いに覚えがあった。
「・・・・・・アスカ?」
「そうだ。セカンドチルドレンが1週間ほど前に、無断でNERV本部を離れて廃墟群に侵入した時の映像だ」
「そんな!アスカが?なんで!?」
「セカンドチルドレンはこの時、簡易抗干渉装置を着けていた。それが録画していたのがこの映像だ」
『ったく、一体どこまで行くのよ・・・・・・』
画面には映らないが、アスカの愚痴が流れてくる。もう二度と会えない少女の声に、シンジの目に涙が浮かんだ。
やがて、映像は階段を上り切り、廃墟の屋上へと通じる扉を映し出す。そのドアをアスカの手が押し開けると──、
「ッ!?」
アスカの見た光景、信じられない光景を記録は映し出した。
月明かりの元、屋上を埋め尽くすほどの人狼の群れ。そしてその先でただ一人、二足で立つ人間。その半裸の人間に、周りの人狼がひれ伏している。
たった一人の人間がビルの向こう、夜空の向こうを指差した。それに追従するように、ひれ伏していた人狼たちが一斉に遠吠えを上げた。
「なんだ、これ・・・・・・」
『バカ、シンジ・・・・・・?』
「・・・・・・え?」
アスカの声が、件の人物の名前を呼ぶ。あり得ない、あってほしくないと『シンジ』が願っていた、自分の名前を。
人間が、アスカの声に反応して振り返った。
振り返った人物は、紛れもなく『碇シンジ』であった。
画面の向こうの『碇シンジ』は、自分でも見た事のない様な優しい微笑みで、アスカにこっちに来るように誘った。
画面はその『碇シンジ』をしばらく見つめたあと、踵を返して屋上を後にした。
「お前に見せたかったのはここまでだ」
映像には続きがあるものの、ゲンドウはそう言うと再び端末の電源を切った。
「と、父さん。これってどういう・・・」
「今はまだ、全てを伝えるわけにはいかない。だが、時が来たら必ず話そう。お前は『人類補完計画』の希望なのだ。そして、私の希望でもある」
ゲンドウが『シンジ』に向かって手を伸ばす。格子を抜け、その手が『シンジ』の頭に置かれた。
「世界中の人を、その幸せを、お前が救うんだ。シンジ・・・」
呆気に取られる『シンジ』に構わず、ゲンドウは『シンジ』の頭をくしゃりと撫でると踵を返した。そしてそのまま、この場を後にする。
その顔に、狂喜の笑みが広がっている事を、息子に悟らせぬまま。
──────
司令部作戦室に警報が鳴り響く。
「月面より強力な精神汚染波を検知!」
「総員、ただちにNERV本部内に退避せよ!」
日向と青葉、マヤを中心に、各スタッフが慌ただしく指示を飛ばす。
「なにがあったの!?」
作戦室に入ってきたミサトが即座に状況を確認する。その後から入室したリツコの顔にも焦りと戸惑いが表れていた。
「月面反射による強烈な精神汚染波です!それも、今までにないくらいのレベルです!」
マヤが焦りと共に振り返る。
「感応遮断装置の出力を最大に!この電波、やってるのは『フォルトゥナ』のバカね!」
「発信源はどこ?」
「アフリカ北西部!ダデス渓谷周辺です!」
「やっぱりか!これ以上人狼増やしてどうしたいのよ!コイツ、本気で人類を絶滅させたいわけ!?」
「・・・ッ!?待ってください!この波長・・・電波だけではありません!音波が・・・!!」
「!!」
ミサトとリツコが顔を見合わせる。未だかつて、『フォルトゥナ』から音波が発せられる事はなかった。これは異例の事態だ。その事に軽く混乱を覚えた両名であったが──、
「すぐに音波の受信領域を最大にしろ。『フォルトゥナ』が発する音の全てを拾え」
後から入室してきた碇ゲンドウが、その場の全員に指示を出した。
「り、了解!」
司令の指示に、さらに慌ただしくなる作戦室。いきなりのゲンドウの指示に対し、ミサトは苦言を呈した。
「碇司令、危険ではありませんか?音波による精神汚染の可能性も・・・・・・」
「心配無用だよ、葛城三佐。あれは恐らく『言葉』を発しようとしているだけだ」
ゲンドウの後ろから、冬月コウゾウが入室してくる。冬月は開口一番、ミサトに対して安心するように優しく声をかけた。
「副司令、でも・・・」
「葛城三佐」
ミサトの言葉を、ゲンドウが遮った。
「『フォルトゥナ』という存在がなんなのかは我々にもわからん。だが委員会はヤツに対し、なるべく多くの情報を得よ、と仰せだ」
「音波受信!流します!」
ゲンドウが言い終わると同時、マヤが報告を上げた。それを聞いた全員の表情が緊張に引き締まる。
【ザ・・・・・・ザザ・・・・・・・・・いる・・・こそ全て・・・・・・】
雑音に混じり、声が聞こえた。
「こ、これは、『フォルトゥナ』の声!?」
流れてきたのは
【ヒトよ・・・・・・使命・・・人類・・・・・・新たな・・・・・・段階・・・・・・】
「通信傍受を最大に!!」
【・・・・・・人類・・・補完計画・・・・・・】
「ッ!!?」
そう発せられた単語に、作戦室の全員が目を見張った。
いや、この作戦室に於いて一人だけ、碇ゲンドウだけがその単語を聞いた瞬間、その口角をわずかに上げていた。
【・・・ザザ・・・・・・我は・・・『フォルトゥナ』・・・・・・人類補完計画の完遂を望む者・・・・・・人類選別の・・・・・・最後の担い手・・・・・・】
「この声、まさかアスカ!?」
「そんな、どうして!?」
「アスカは死んだハズじゃ・・・」
「まさか、取り込まれた・・・ッ!?」
【ヒトよ・・・己が使命を・・・思い出せ・・・・・・獣を率いる事こそ、ヒトの使命・・・獣を率いる王・・・・・・その選別により、人類は新たな領域へと至る・・・・・・】
「これは、碇・・・・・・」
「ああ。これでいい。これで全てのピースは揃った」
【これこそが・・・・・・『人類補完計画』・・・集え、ヒトよ・・・・・・最後の王の選別を・・・始める・・・・・・】
ブツン、と。
唐突に通信は終わった。
作戦室内にザーーーッという砂嵐の音だけが響く。この場にいるすべての人間が、今の『フォルトゥナ』の宣誓に、身動き一つ取れずにいた。
──────
《この日を境に、世界は一気に動き始めた。アスカの声を発した巨人の宣誓。それを聞いた世界各国は、自国の残存兵力をかき集め、更にエヴァンゲリオンの新造に力を入れた・・・》
・・・らしいよ、とアルマロスはまるで他人事のように締めた。
『君は、この時点でどこにいたの?』
幽体となっているシンジが、同じく幽体であるアルマロスに問いかける。その質問を、アルマロスは鼻で笑った。
《君、今までの状況を見て、この世界の「僕」が自由の身になってると思う?・・・・・・ずぅっと留置所だよ》
『・・・そう・・・だよね・・・・・・』
思わず顔を俯かせるシンジに対して、アルマロスはため息を吐いた。
《僕は、直接はこれからの光景をほとんど見たことがない。でも、ありがたいね。僕の中の記憶なのか記録なのか分からないけど、この世界は僕たちの見たい景色を見せてくれるみたいだ。例えば・・・》
シンジとアルマロスの周りの風景がグニャリと歪む。一瞬の目眩を覚えた二人だったが、すぐに風景の歪みは収まった。
変わった後の風景は、恐らくどこかのゲージだろう。ヒトの形をした巨大な肉の塊が何体も並べられている。薄暗い明かりに映し出されるそれらの姿は、壁によりかかり、ダラリと首を下げた人体の標本のようだ。
その不気味な光景にシンジは思わず息を呑んだが、アルマロスはなんて事はないという風にそれらを見下ろしている。
《エヴァンゲリオンの素体だよ。ここがどこの国のNERV支部かはわからないけど、たぶんどこも似た様な感じじゃないかな?使徒の肉体を培養し、それを粘土みたいにこねて人型にしたんだよ。まるで
『こんなにたくさんのエヴァを造れるなんて・・・・・・』
《君の世界とは使徒の数が全然違ったのさ。僕の世界では100体近くの使徒が出現した。それだけの使徒がいれば、世界各国がエヴァを新造するのはわけないよ・・・・・・ただ、ね》
アルマロスはシンジから視線を外すと、眼下のエヴァ素体を眺めながら吐き捨てる様につぶやいた。
《ここからが、この世界の人類が起こした致命的なミスだったんだよ》
『ミス・・・・・・』
その言葉を捉えてなのか否か、アルマロスの言葉を継ぐかのように、ゲージ内を一人の科学者が闊歩する。その後ろに、まだ学生だろうか。若い助手が追随していた。
「君たちは本当にバカだね。エヴァのコア。それに入れる魂を誰にするかなんて、そんな疑問を感じる必要があるのかい?」
科学者は助手を心底から馬鹿にしたように蔑んだ。だが言われた本人は、そんな罵詈雑言などどうでもいいと言うように首を振る。
「エヴァの起動には、コアへの魂の移管は必須技巧です。パイロットとの補完性も無視できません。『誰がコアとなるか』、それは重要な課題だと思いますが・・・」
「くだらない。くだらない、くだらない、くだらない!!誰と誰の魂がシンクロするのか!?そんな事はこれからの人類にとって下の下の選択だよ!」
科学者は助手に向かって腕を振るった。それは本人にとって煩わしい事実を振り払うような、そんな仕草であった。
「『フォルトゥナ』は言っただろう!?『人類を選別するべき王は誰か!?』一番重要なのはソレなんだ!誰の魂に寄りそうだとかシンクロするだとか、そんなの関係ないんだよ!誰であっても支配できる上位存在!それこそが『人類補完計画』の要なんだ!君の言ってることは『フォルトゥナ』にとっても我々人類にとってもどーでもいいんだよ!なぜ分からない!?」
「待ってください博士!それは『フォルトゥナ』が言っている事に本当に合致しているのでしょうか!?我々はヤツの真意を正確に把握していません!このままエヴァの新造を続けたら・・・・・・」
「いいかい!?馬鹿弟子!ヤツは『ヒトを統べる者』をお望みだ!エヴァのコアに使うのがヒトか人狼かなんて言う事自体がどーでもいい!人狼だろうがなんだろうが、コアになるなら使えばいいんだ!シンクロなんて下らない!無理やりに獣を支配してこそのヒトだと、ヤツ自身が言っているんだ!新造のエヴァのコアに何を入れようがヤツには関係ない!結局は『獣を統べるヒトの王』としての資格があればいいんだ!なぜソレがわからない!?」
「それではヤツの言いなりです!!」
そう言った助手の頭を、銃弾が貫いた。真っ赤な血飛沫がゲージ内のキャットウォークを赤く染める。
「馬鹿!馬鹿、馬鹿、馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!お前はなぁ〜んもわかってない!!」
科学者の目は血走っており、目の前の死体以外の何も見ていない。正気か狂気か、問われれば間違いなく狂気と取られるだろう。
「アイツの言っている事は真実だ!ヤツこそが裁定者なんだ!ヤツの望み通りに事を進めなければ、我々は、全人類は人狼に下るしかないとなぜ分からないんだ・・・・・・」
科学者は狂気の笑みを浮かべながら膝をつき、天井から照らされるライトに向かって精一杯叫んだ。
「世界の中心で何を叫ぼうと!あの裁定者の望みは変わらないッ!ならば!ヤツの望みを叶える者を我々は差し出すしかないんだッ!なんでそれが分からないんだ!!」
科学者は自身のこめかみに銃口を当てると、そのまま引き金を引いた。
《・・・君には分からない、だろうね。だが僕の追い詰められた世界では、こんな事は日常茶飯事だったんだ。もう世界は終わっていた。残された人類は僅かでも生き延びる可能性に賭けるしかなかった。ただ、それだけの事なんだよ・・・・・・》
アルマロスは眼下にて繰り広げられた惨劇を、さも当然というように切って捨てた。
《こんなのは、世界中の、どこでも起こった事なんだ。いちいち心を痛めてる余裕なんてないよ》
その言葉に、目の前の惨劇から目を逸らしていたシンジは顔を上げた。シンジの目に映るのは、苦痛を噛み締めたようなアルマロス。
《行こう。NERV本部でも、この動きに対してなんらかのアクションを起こしているハズだ。もっとも、それが何ヶ月かかったことなのか、『僕』にはわからないことだけど・・・》
──────
NERV本部内。赤木リツコの自室にて。
リツコは自分のデスクに向かい、パソコンの画面に高速で流れるデータをじっと眺めていた。それらは全て、この数ヶ月で『フォルトゥナ』の元へと送られた無人戦闘機が得た、膨大なデータだった。
「やはり・・・・・・。ミサトは天才ね」
そのデータは無人戦闘機からの攻撃のタイミング、角度、武器種、数といったNERV側の攻撃データと、それに対する『フォルトゥナ』のアプローチ、つまり防御データを網羅したものであった。
このデータを手に入れるため、NERV本部は無人戦闘機のほぼ全てを費やした。それも全て、世界全体を脅かす人狼化現象の解決のため。つまり、『フォルトゥナ』打倒のためであった。
「世界各国では『フォルトゥナ』に選ばれた者が世界を救うみたいな噂が流れているようだけど、とんだお花畑ね。あれが一言でも『人類を救う』なんて言ったかしら?」
リツコは苦笑すると、画面のデータに何かを打ち込んでいく。
「いま判っている事実は、『フォルトゥナ』が人狼現象の根本であるという一点だけ。ならば人類を救うため、『フォルトゥナ』を殲滅する。それが残された私たちが真っ先にやるべき事・・・・・・」
リツコによって入力されたデータが、画面内で徐々に形となっていく。
「ミサトの考えは正しかったわ。『フォルトゥナ』は移動の際、まるでこの世界から消えるかの様に移動している。そしてそれは、恐らく目には見えない『回廊』のようなものを使ってる可能性が高いわね。移動や回避パターンに偏りがあるわ。奴の『回廊』がどれだけの広さ、長さを持っているかは判らないけれど、奴の周辺の『回廊』を断ち切る事ができたとしたら・・・・・・」
画面上のデータが、二つの武器の形を成した。
一つは大弓。
そしてもう一つは、太刀。
「『死神の背骨』のコンセプトである強力なATフィールドによる空間断絶とその砲弾化。このコンセプトはとても面白いわ。そのアプローチの方向性を変えて、この二つの兵器を造り出す・・・・・・」
リツコがパソコンのキーボードを高速で叩いていく。それは二つの兵器のアプローチについてのメモであった。
大弓は、ATフィールドの空間断絶後に発生する空間圧縮を利用して、『フォルトゥナ』の周囲にあると思われる『回廊』に弾を撃ち込み、ブラックホールのように『回廊』自体を一箇所に無理やりまとめさせ、そのエネルギーを吸い出す、というもの。
一方の太刀は、『死神の背骨』に宿っていた怨念とも言える程のATフィールドを幾重にも束ね、超高密度の「拒絶の刃」を作り出し、『回廊』そのものを無理やりに断ち切る、というもの。
そのアプローチの根本には、当然『死神の背骨』に使われた技術、エヴァンゲリオンの脊髄が用いられる事になる。
だが、それはこれらの兵器の大前提に過ぎない。
「恐らく脊髄一本を使っても、得られる威力は『死神の背骨』と同程度。それが『フォルトゥナ』のATフィールドを破るに至らない事は、アスカの戦闘で確認済み。それ以上の威力を得るには、エヴァ数体分の怨念とも言えるATフィールドが必要ね」
それを成し遂げるための設計思想も、すでにリツコの頭の中にあった。
「大弓はエヴァのコア数体分からATフィールドを吸い取り、矢として束ねる方針でいきましょうか・・・。銃型にするとどうしてもコアを銃弾として装填する必要があるし、撃ててもコアを一発ずつだけ。これでは求める空間断絶までには至らないわ。できるなら無作為に、使用者以外の周囲のコアまたはエヴァのATフィールドを吸い上げる設計にすれば、弾の装填というワンアクションの無駄も無くせるし・・・・・・」
その設計思想を、リツコはパソコンに高速で入力していく。
「太刀の方が難しいわね・・・・・・。定点で撃ち出せる大弓と違って、太刀は『振るう』という動作がとうしても必要。怨念のようなATフィールドを束ねる構造自体は作れるけれど、それを維持しながら振るうには、パイロット自身の技量が必要になってくる・・・・・・」
ここまでのコンセプトをパソコンに入力し終えたリツコは、指で瞼を押さえて椅子に体重を預けた。長時間、熱中しすぎたせいで眼精疲労がひどく、頭痛を覚えていたのだ。
だが、心地良い疲労感であった。そして、リツコには確信があった。
「大丈夫。この兵器であれば、必ず『フォルトゥナ』に通用するわ・・・・・・」
リツコの科学者としての集大成ともいえる作品。その二つの兵器に、リツコは肩を鳴らしながらキーボードを叩いて、名前を入力した。
東の地より世を照らす、大弓『アズマテラス』。
無名の
追い詰められた人類が生み出した、神をも殺す兵器。天才科学者、赤木リツコがこの世に生み出す最後の武装。
その産声が上がった瞬間であった。
つづく