小話です
今回はLRSに挑戦します
若干のセンシティブ要素あり
苦手な方はご注意のうえ、ご笑覧ください
業務終了のアナウンスがネルフJPN内に流れ始めようとした頃だった。唐突にソレは来た。
「碇司令」
突然の来客。本日のアポイントの予定に無かった、予想外の出来事であった。
碇ゲンドウの執務室は、至って簡素なものである。かつてのネルフ総司令という立場であった時の広々として寒々しさを感じさせるような、向かい合った相手に威圧感を与えるようなものではない。むしろ、当時の葛城ミサトの執務室のような、こぢんまりとした部屋だ。彼女の部屋との違いは整理整頓がしっかりとなされており、部屋の大きさの割には広く感じられるという点。必要最低限なものだけを手元に置き、調度品のような飾りも一切ない。
今のゲンドウは、相手に無駄な威圧感を与える事を嫌う。生来のコミュニケーション能力の欠落と、それに伴う無愛想という点はどうしようも無いとゲンドウも理解しているが、だからといってそのままで良いとも思っていない。自分から他人に歩み寄る。少なくとも、他人が寄り付かなくなるような態度だけは改めなければならないと強く思っている。その生来の性格こそが、妻との離別とその後の騒動を呼び込んだのだから。
だが今この瞬間、ゲンドウの胸中に渦巻くのは拒絶。圧倒的な拒絶だけだった。
(なぜ、ここに来た・・・・・・?)
ゲンドウのこめかみを汗が伝う。いかなる状況であろうと努めて平静を装うのは彼の得意とするところだが、それでも流れる汗を止める事ができないほどに、ゲンドウは動揺していた。
できるなら、話したくない。このまま何事もなく、それこそ台風のように通り過ぎてくれればと心から願う。
だがその台風は、あろうことかこの執務室で停滞し、移動する様子も全く見せない。
カラカラに渇いた口をゲンドウが開くのは、来訪者が彼の名前を読んでからおよそ5分ほど経過してからであった。
「レイ・・・・・・」
「トロワ。綾波レイ・トロワ」
来訪者、綾波レイ・トロワは無表情で訂正した。ゲンドウにとって見慣れたはずの表情。普段であれば変に気を使う事もないし、以前ほどではないにしろ挨拶もすれば会話もする相手だ。
その綾波レイ・トロワに、ゲンドウは心の底から怯えていた。本能が脱兎の如く逃げ出せと警告を発するほどに。
「すまなかった。トロワ。次から気をつけよう」
「いい。気にしていない」
「・・・・・・・・・そうか」
ならば何故訂正した?会話のやり取り全てが何かの意味を持っていそうで恐ろしい。
「だがトロワ。私も、今は司令ではない。副司令代理だ。その点は気を付けたまえ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
トロワの無言。やがて、
「碇司令」
トロワはあえて、そう呼んだ。
「・・・・・・・・・・・・なんだ」
「許可を」
「ダメだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・許可を」
「ダメだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・許可「ダメだ」
「・・・なぜ?」
「お前にはまだ早い」
そう言い放つと、ゲンドウはいそいそと帰り支度を整え始める。
ゲンドウが業務用のノートパソコンの電源落とそうとした時だった。バンッと音を立てて、ノートパソコンが閉じられた。
「・・・・・・ッ!」
「なぜ?理由を教えてください。碇司令」
有無を言わさぬその迫力に、ゲンドウは縮み上がっていた。この迫力。覚えがある。彼の魂に刻み込まれたものだ。この様子は、かつて彼の妻であった碇ユイの・・・。
「教えて碇司令。わたしがあの映像資料を見てはいけない理由を・・・」
何を取り繕おうと一切聞く耳を持たない。激怒しているときの妻のソレだった。
(なぜ、このタイミングでユイに似るんだ、レイ!)
「シンジと弐号機パイロットの性交記録など、お前には早い!」
恐怖を振り払うようにゲンドウは声を荒げた。しかしそれは犬が吠えるのと同じ。今のトロワには一切影響を与えることはできない。彼女は瞬き一つせず、じっとゲンドウの目を見つめ続けている。
そう。瞬きをしていないのだ。この部屋にトロワが訪れてから、ただの一度も。目が乾燥しようが、それで目が充血しようが、ただの一度も。時間が経てば経つほどその目は充血し、ホラー映画の怨霊のような血走ったものへと変貌していく。
「葛城司令も伊吹博士も赤木博士も、最後には同じ理由を口にしたわ。わたしの何が早いの?」
まるで「もうその3人はこの世にいない」とでも受け取れそうなトロワのセリフに、ゲンドウの全身がガタガタと震え始めた。
「わたしもアスカも碇君も、みんな同い年。なのに、なぜ、わたしだけが見てはいけないの?」
爽やかな青空のようなブルーから、後頭部にかけて夜空を思わせる濃紺を経て、宇宙を彷彿とさせる黒へと変化するグラデーションのかかったトロワの髪。かつてシンジが「キレイだ」と言い、アスカが「素敵な髪」と称賛した、トロワの自慢の髪。
その髪が、ブワリと逆立つ。
「なぜ、碇君は、またアスカを選んだの?教えて。碇司令・・・・・・・・・・・・」
充血で、白目の部分全てが赤く染まったトロワの目から、ツゥーっと、一筋の涙が流れ落ちた。
──────
「こわい・・・・・・こわいよ、トロワぁ・・・」
「同感。嫉妬と執念と怨念のかたまりみたいよ?いまのアナタ」
ネルフJPNの居住スペースをもの凄いスピードで突っ切っていくトロワの後ろを、小さなレイNo.シスと、人類への反逆行為で幽閉されているハズのカトルがついて行く。
「・・・・・・なぜ、あなたがここにいるの?」
「面白そうだったから」
「・・・そう」
さして興味もない、と言うふうにトロワはカトルから意識を逸らした。実際、興味がないのだ。カトルがこの場にいようがいまいが、優先されるべき事は他にある。
「食い入るように?穴の開くほど?ものすごく集中して見てたわね。私達が入ってきても気付かないなんて。あなたに声かけた時の反応、面白かったわよ?」
「わ、ワタシはべつにあんなの見たくなかったのにィ〜〜〜!カトルがムリヤリ・・・」
「あなた達。何か用?」
トロワが急に立ち止まったため、頭をイヤイヤと振っていたシスはトロワの背中にぶつかってしまった。
「ワタシはとくにないよ!でも、カトルが・・・」
「カトル?」
トロワが振り返る。眼前には自分と同じ顔の少女。その表情には、憐れみと余裕の笑みが張り付いていた。
「だって、嫌じゃない?仮にも私達の『姉』にあたるアナタが、同じ顔の女が、レイプの実行犯で捕まるなんて」
「レイプ?」
「だってそうでしょ?今アナタがやろうとしている事は、まさにそれなのよ?」
「違う。無理矢理なんかじゃない・・・」
「でも拒絶されれば襲うでしょ?」
「・・・・・・ッ」
図星であった。それほどまでに、今のトロワには余裕が無い。秘めた想いを胸に、いつか振り向いてくれるかもしれないと願い、自分からキスまでした相手が、他の女のものになってしまった。悔しくて苦しくて悲しくて、この体を引き裂けたらと思うほどに、綾波レイ・トロワには余裕が無かった。
だから、拒絶されたらきっとカトルの言う通りになってしまうだろう。自分の生まれたままの姿を晒し、内に渦巻くこの想いをぶつけて、それでも尚、シンジが振り向いてくれなかったら。想像するだけで全身が震える。
「私が手伝ってあげる」
そんなカトルの言葉は、まるで悪魔の誘惑。
「その代わり、私も混ぜて・・・?」
「っ!何を・・・・・・」
「アナタ1人でやれば、絶対に碇君を満足させることはできない。断言するわ。あんな映像資料で予習した気になっているアナタじゃあ、ね」
「そんな、こと・・・・・・」
「でも私は違うわ。男の理性と本能が、別々のところにあるのを知っている。理性で判断させちゃダメ。本能をくすぐるのよ」
「え、え?カトル、なんでそんな事知ってるの?」
会話を聞いていたシスが、感じた疑問をそのままカトルに投げる。
「暇だったのよ、独房って。だから色々差し入れしてもらったの。ゼーレに体を乗っ取られていた彼から、ね」
「なら、あなたも経験はないはず・・・」
「でも知識はあるわ。少なくとも、付け焼き刃のアナタよりはず〜っと」
トロワがカトルを睨みつける。対するカトルは表情を崩さない。その2人の間で、シスはオロオロと成り行きを見守るしかない。
判断に迷うトロワに痺れを切らしたカトルが、チッと舌打ちしてダメ押しの一言を放つ。
「アナタは、碇君の1番になりたいの?それとも、碇君がアナタから離れて行くのが嫌なの?どっち?」
「・・・・・・・・・・・・わたし、」
トロワの頬を大粒の涙がこぼれ落ちる。流れる涙をなんとか抑えようと両手で顔を覆う。
「わたし・・・・・・1番じゃなくてもいい・・・!3番目でもいい・・・・・・!でも、碇君は、碇君だけは・・・・・・ッ!」
トロワの切なさが、苦しさが、悲しさが、思いとなって言葉に乗った。その様子を、カトルは満足げに眺める。トロワは乗ってしてしまったのだ。同じ顔をした、悪魔の契約に。
「なら、私は4番目ね。一緒に楽しみましょう?」
トロワの肩を優しく抱き、カトルが歩き始める。他ならぬ、碇シンジの部屋に向かって。
「おっと、忘れてたわ」
そう言って、カトルはシスの手をガシッと掴んだ。
「え?え!?なんで!?ワタシはヤダよ!」
「どうせ遅かれ早かれアナタも彼のモノになるわ。だったら実践を間近で見て、学んでおきなさいな」
「い、い〜や〜だ〜!!ワタシ帰る!離して〜〜〜・・・・・・・・・」
引き摺られていくシスの声がネルフJPN内に響き渡った。
──────
そして、事件は起きた。起きてしまった。
シンジがアスカの帰りを待ちながら、台所で夕食の支度をしていた時だった。後ろから忍び寄ったカトルの手によって拘束されたシンジの上に、一糸纏わぬトロワが乗った。この時点で立派な犯罪である。だが、ここまで来て後戻りなどできようハズもない。必死に抵抗するシンジの上で、トロワは泣きながら自分の想いをシンジに告げた。それと同時に、カトルが後ろから指と舌と言葉でシンジを攻め立てる。愛の告白と愛撫の両方を同時に受けたシンジの本能がムクリと鎌首をもたげ、あっという間にトロワに捕食された。友人の、しかも美少女の、アスカとはまた違った肢体を前に、シンジの理性はどこかへと吹き飛んでしまった。そこから先は、カトルも参加した酒池肉林の宴。その間、無理矢理連れてこられたシスは部屋の隅で顔を覆っていたものの、指の隙間からバッチリとこの光景を網膜に焼き付けていた。
そして、アスカが帰宅した。
当然、修羅場である。シンジは全身の骨を叩き折られ、1週間、生死の境を彷徨うハメとなった。どんな傷もたちどころに癒してしまうエヴァンゲリオン最終号機の自己修復の力をもってしても、回復するのに1週間の時間を要したと言えば、アスカの殺意の程は察していただけると思う。
次は私達か、とトロワ達が覚悟を決めた時だった。
「シンジ。アンタの1番はだれ?」
「ぁ・・・・・・・・・す、か・・・・・・・・・・・・・・・」
「OK。次アタシに黙ってヤったらホントに殺す」
そう言ってアスカが残りの3人に向き直る。
「正妻はこのアタシ。子供を最初に産むのもこのアタシ。それまでは避妊する事。それさえ守れるなら、時々だけどバカシンジをアンタたちにも貸してあげる。それを守れないなら今殺す。破ったならば、アンタらのお腹に何がいようと即殺す。どう?」
アスカが不敵な笑みを浮かべながら、3人に条件を提示した。
(正直、トロワに黙ってシンジとくっついたの、どう説明しよっかなぁって悩んでたのよね・・・。流石に毎晩シンジの相手するのもキツいし、マウントさえ確保しておけば、これはこれでちょうど良かったかも♪)
世はまさに『産めよ増やせよ地に満ちよ』の時代。アスカのプライドと地位を保ちつつ、人類の存続にも貢献する。アスカにとっては一石二鳥の、満足のいく結果であった。
──────
後日・・・。
「なぁ・・・、『英雄、色を好む』って言葉があるだろ?」
「ああ。それがどうした?」
「俺、最近思うんだ。英雄が色を好むんじゃなくて、色の方から英雄に寄ってくるんじゃないかなぁ、って・・・・・・」
「ああ・・・、それはまあ、あるかもな・・・」
オペレーターの日向と青葉が食後のコーヒーを飲みながら、そんな他愛のない話に花を咲かせていた。
つづく