ネルフユーロの収容施設。精神病院を装ったその建物の最奥で、加持リョウジと剣崎キョウヤはとうとう目的の部屋に辿り着いた。
「き、君たちは・・・?」
鉄格子を嵌められた牢獄の向こうに、初老の男性二人と幼い少女が二人。
鈴原トウジと洞木ヒカリの家族で間違いなかった。
「ああ、悪いが説明している時間はない。鈴原さん、それと洞木さんで間違いないか?」
加持は背中を剣崎に任せ、牢獄の向こうの人物の誰彼を確認した。初老の男性2人は驚いたように目を見開くと、うんうんと首を縦に振る。
「オーケィ。俺たちはネルフLUNA。自己紹介は省かせてもらうが、アンタらをここから助け出しに来た。事態は一刻を争うので質問は受け付けられない。わかったら鉄格子から離れてくれ」
「加持、増援だ。急げよ」
「あ、アンタら!儂らを助けてくれるのはありがたいが、トウジ君たちは・・・!!」
「ッ!?全員伏せろ!!」
初老の男性の1人、おそらく洞木ヒカリの父親だろう。その男性の問いかけに被すように加持は警告を発した。と同時、背後から機関銃の弾が雨霰と降り注ぐ。
「きゃあああああああ・・・!!」
幼い2人の少女の上げる悲鳴。しかし、弾丸が彼女たちを撃ち抜く事はない。なぜなら──、
「ほんと、お前の『体質』は便利だよ」
「ほざけ。殴るぞ?」
剣崎キョウヤの展開した『ATフィールド』が、全ての弾丸を拒絶したからだ。
剣崎キョウヤ。彼は存在そのものが旧ネルフの暗部。その正体は体内に使徒の細胞を埋め込まれた、ネルフの実験体であった。
多くの被験者が強烈な拒絶反応を引き起こして死に絶える中、幸か不幸か、剣崎は生き残った。その結果として剣崎は、使徒と同じ能力であるATフィールドの具現化を可能とする力を宿していたのだ。
「お嬢ちゃんたちには刺激が強すぎる。悪いがお父さん達と一緒に少し下がってくれるかい?鍵は今から壊すからな」
言うや否や、加持は鉄格子の扉に架けられた錠前に向けて発砲した。
一発。二発と銃弾が叩き込まれた時点で、錠前は完全に破壊された。その向こうでは、少女たちの父親が我が娘を背中に回して庇っている。
加持は鉄格子の扉を思い切り蹴飛ばして開け放った。
「さあ、すぐに出てください。ここから先は俺の後ろから着いてきて。絶対に、俺より前に出ないようにお願いします」
加持は素早く指示を飛ばすと、背後で銃撃戦を繰り広げる剣崎に加勢した。本来ならば多勢に無勢。しかし無敵のATフィールドを有する人間がいるのなら、たった2人の戦力であろうと事足りる。
加持と剣崎はあっという間に追手を殲滅すると、背後の人物たちに振り返った。
「大丈夫。ここから先、俺たちがあなた方を守りますよ」
加持の浮かべたニヒルな笑みに、しかし、幼い娘を庇いながら、鈴原トウジの父親は声を荒げた。
「待ってくれや!あんちゃん、うちらの息子はどないなったんや!?アイツら、無事なんか!?」
その問いに、今は答える余裕はない。だから簡潔に、加持は答えた。
「今はまだ・・・・・・ですが、彼らは我々のエージェントが必ず救います・・・!」
そう言いながら、加持は手元の端末に映し出された情報を、現在戦闘中であるアスカエヴァ統合体に送る。
「頼むから、キレてご破産、なんてマネはしてくれるなよ?アスカ・・・!」
◇
『ぜぃやあああああああああ・・・・・・!』
墜落したウルトビーズが黒い森から立ち上がると同時、長物の十字槍を逆袈裟に振るった。対峙するアスカエヴァ統合体はそれを、硬質化させた『ゼルエルの腕』でもって受け流す。
その『ゼルエルの腕』を返す刀とし、アスカはウルトビーズに斬りかかった。その刃を、槍の柄で受け止めるウルトビーズ。
『こなくそッ!──ッ!?』
《どぉりゃああああああああああああ!!》
アスカはウルトビーズの槍の柄を思い切り蹴り飛ばした。大きくのけ反るウルトビーズ。その隙を逃さず、アスカは距離を詰める。
『舐ぁめるなぁぁああああ!!』
それを洞木ヒカリは怨嗟の声を放ちながら、ウルトビーズの4本の腕のうちの二つ、『天使の背骨』でもって迎撃する。
最高火力を誇るエヴァの兵装。そのゼロ距離射撃!
《!!?》
アスカは咄嗟に身を翻しながら回避行動に移った。しかし、警戒した砲撃は来ない。
《フェイント!?》
『もろたで!惣流!』
空中でムーンサルトを描きながら回避行動に移っていたアスカエヴァ統合体に、十字槍が繰り出される。宙を舞っていたアスカの背中に槍が迫るのと同時、ウルトビーズの二つの『天使の背骨』も充填を開始する。
(マズい!避けられない・・・!)
アスカはこの時点で、回避行動を諦めた。槍はすでにアスカエヴァ統合体へと迫っている。仮に槍の一撃を躱したとして、後から来る砲撃を避ける事は叶わない。
《ならッ!!》
アスカは咄嗟に両手を地面についた。逆立ちの要領で天地を逆さにしたアスカエヴァ統合体は、その見事な曲線を描く美脚を月下の元、大きく振るった。
アスカの身体が地面を支点に独楽のように回転する。アスカエヴァ統合体の右足は突き出される槍を弾き飛ばし、左足は充填を開始していた『天使の背骨』を蹴り飛ばしていた。
『なんや!その無茶苦茶な動き!?』
『甘いわ、アスカ!!』
体勢を崩されながらも、ウルトビーズ内のヒカリはアスカの反撃の上を行った。ウルトビーズは弾かれた勢いを利用してその場で一回転。そのまま水面蹴りを放ち、アスカエヴァ統合体の地面に着いた両手を薙ぎ払う。
だがアスカはその瞬間、アレゴリックの翼を展開して空中に留まり、そのまま独楽のように回転して勢いを増していった。
《はぁああああああああああ・・・!!》
そこから繰り出されるのは連続蹴り。その予想外の攻撃に、ウルトビーズは大きく弾き飛ばされた。
『ぐあっ!?』
『きゃあ!?』
弾き飛ばされたウルトビーズを他所に、体勢を整えたアスカはアレゴリックの翼を展開し、再び夜空へと舞い上がっていく。
《はぁ、はぁ、くそ!やりづらいわね!》
悪態を吐くアスカは、ウルトビーズの背後に聳え立つ収容施設をその視界に収める。サイレンと警報ランプの灯りが暗闇を照らし出しており、その騒動の程が窺い知れる。
《加持さんたち、うまくやってるんでしょーね!?》
その疑問を口にした瞬間、アスカの脳裏に加持からの通信が入ったのが確認できた。不思議な感覚だが、脳内に届いたメールを開いて読み上げるような感覚。そのメールの文面を確認した途端、アスカの顔は思いっきり顰められた。
《ちょ・・・ッ!?正気!?イカれてるわ!》
吐き気を催すほどの気色悪さ。その内容は、普段のアスカであれば絶対に許容できないものであっただろう。
だが、この切羽詰まった状況を、これ程までに簡単な方法で打開できるとなれば、アスカとしても無視はできない。たとえそれが、アスカのプライドをどれだけ傷付けるものであったとしても。
《く・・・・・・》
アスカの一瞬の逡巡。その時だった。
《・・・ッ!?なに、あれ・・・・・・?まさか!》
それは収容施設に舞い降りる、漆黒に塗りつぶされたVTOL。
《あれって、まさか!?》
ネルフユーロ総司令、ジル・ド・レェを乗せた輸送機であった。
『あー!あー!Bonne soirée(こんばんわ)!ネルフLUNAの惣流・アスカ・ラングレー!及び加持リョウジ!いるよね?』
拡声器でもって発せられる軽薄な声。それは紛れもなく、ネルフユーロの総司令ジルの声だった。
『残ぁ〜念!!ゲームオーバーだ!まさかネルフLUNAからわざわざこんな辺鄙な場所までやってくるとは流石に予想してなかったヨ!でも僕が来たからにはゲームは終わりダ。意味はわかっているかなぁ?』
収容施設の中庭に降り立ったVTOLから、長身痩躯の男が拡声器を手に降りてくる。その後ろからはメガネをかけたロングヘアーの白衣を着た女性がゆっくりと後を付いて降りてきた。
『君たちの作戦は見事だった!てユーか、見事だよ!よくぞ僕がひた隠しにしていた施設を見つけ出して、鈴原夫妻のファミリーを助け出せたヨネ!でもさぁ・・・』
長身痩躯の男性、ジルはポケットからスティック状の装置を取り出す。
『これ、わかるデショ?鈴原夫妻の首に架けられたDSSチョーカーのスイッチだよー!これ以上暴れるんなら、このスイッチ、ポチッといっちゃうから!』
《!!》
それを視界に収め、アスカエヴァ統合体は唇を噛み締めた。
アスカの遥か眼下でヨロヨロと立ち上がったウルトビーズは、信じられないものでも見るように収容施設のジルに視線を向ける。
『な、待ってくれや!待たんかい!』
『お願い!やめて!』
トウジとヒカリが同時に悲鳴を発した。それを聞いたジルはうっとりとした笑みを浮かべる。
『んふふ〜♪いい声だねぇ。そんな声で鳴かれると、ヤリたくなっちゃうなぁ〜』
ジルはその手にしたスイッチをブラブラと弄びながら、その嫌らしい視線をアスカエヴァ統合体に向けた。
『ねぇ・・・どうする?君の行動次第なんだけど?このまま投降するなら鈴原夫妻は無事に済むヨ?逆に君がこの2人をどーでもいいってユーなら、今この場であの2人の頭を吹っ飛ばすんだけど、どっちがい〜い?あ、その場合は鈴原夫妻の家族は連れて行っていーよ?興味ないからね』
ジルはその身をくねくねと捩らせながら、アスカに問いかける。
アスカにとって、その選択は容易なものだった。何を選ぶかなど問われるまでもない。
物事は単純だ。ただ、先ほど加持から送られたメールの内容。それを受け入れるか否か、それだけなのだから。
《く、うぅ・・・・・・》
『あっはははははははは!悩んでるネェ!エヴァと融合できる人間でも、こんな詰まらないことで悩むんだネェ!?』
アスカの視線はジルと、アスカの脳内に浮かんだメールの文章を行き来していた。
簡単なのだ、この状況を打破するのは。アスカがつまらないプライドを捨てれば、この場は簡単に切り抜けられる。
だが、その『プライドを捨てる』という行為そのものが、アスカにとってはあり得ない選択なのだ。本来だったなら死んでも選ばない選択肢であったであろう。
友達の命を救える唯一の手段。それが、アスカにとっては重い。重すぎる。自分の最も愛する人間を裏切るに等しい行為だと、アスカは胸のうちで悪態をついていた。
『さあ!ドースル!?さぁ、さぁ、さあ!?』
ジルが決断をアスカに迫った時だった。
『アスカ』
アスカの耳元に響いたのは、かつて最も信頼していた男の声。
『下らないプライドは捨てろ。そんな事で、揺らぐものじゃあないだろう?』
加持リョウジの声が響いていた。
『おや?オヤオヤオヤぁ?』
ジルの視線が、収容施設の入り口に注がれる。その向こうにいたのは、鈴原トウジと洞木ヒカリの家族を連れ出し、拳銃を構えた加持と剣崎の姿。
『ふは!まさかホントに君らまで来てるとはネ!ネルフLUNAの防諜部のトップがここまで来るとは!』
加持は携帯端末を耳に当てながら、後ろの人質たちを庇うように立つ。
「アスカ。下らない事で大局を見誤るなよ?言葉だけだ、そんなもの。女は嘘を付いてこそ、磨かれるってもんさ」
『んんんん?何を言ってるのかワカラナイんだけども?』
「アスカ。プライドを捨てろ。それだけでこの場の全員が助かる。わかるだろ?」
加持の呼びかけ。それは否定を許さない力強さを伴っていて、しかし、アスカの心の迷いを断つには未だ至らない。
《加持、さん・・・・・・》
『どーすんの!?ねぇ、あと10数えるうちに僕、スイッチ押してもイイ!?どーすんノ!?』
『お願いアスカ!私たちを殺さないで!』
『惣流!』
友人の命乞い。その命を握っている憎き極悪人。そして、かつて恋をしていた男の声が、アスカの胸中をかき乱した。
(アタシ、は・・・・・・)
アスカは、いや、アスカエヴァ統合体は、ゆっくりと黒い森へと舞い降りる。
それを見たジルは、拡声器を使って収容施設に呼びかける。
『侵入者を始末しろ。エヴァンゲリオン統合体は投降してもらおうか。それから・・・』
「アスカ!!」
加持の怒号とともに、アスカは覚悟を決めた。そして、たった一言を、その場で静かに発した。
《愛してるわ、ケンスケ》
アスカにとって、人生における最大の屈辱の一言。しかしそれが、この状況を打破する一言となった。
『・・・・・・あ?』
『え?これって・・・・・・』
「ふはっ♪やっぱ姫は姫だ!」
アスカエヴァ統合体と対峙するウルトビーズから驚きの声が上がる。その声に被せるように真希波・マリ・イラストリアスから嬉しそうな声が上がった。
『は?この土壇場で、ナニ言ってんの?』
しかしジルの理解は及ばない。及ぶはずがない。けれども、事態はとっくに進行していて。
ウルトビーズからのオープンチャンネルが、全てを物語っていた。
『外れた・・・外れたで!これ!!』
『アスカ!外れた!DSSチョーカーが!』
オープンチャンネルの向こう、DSSチョーカーが外れたトウジとヒカリの姿を見たアスカは、安堵のため息をついた。
『ハアアアアアアアアアア!!?』
ジルの驚愕の声が上がる。
これこそが、加持が、アスカが躊躇しながらも選んだ選択肢。
アスカの声帯認証。そしてキーワードは、『アスカがケンスケに愛の言葉を囁くこと』。鈴原トウジとヒカリのDSSチョーカーは、それをパスワードとして外れる仕組みになっていたのだ。
心の底から下らない。本来のアスカであったなら、シンジへの絶対の愛を誓うアスカであれば、絶対に言わないであろうセリフ。それこそが、2人のDSSチョーカーを解除する鍵。
アスカにとってはこれ以上の屈辱はなかっただろう。だが屈辱を乗り越えた瞬間、状況は一変した。
『ふざけるんじゃないヨぉぉおおおお!?』
ジルの叫びは虚しく響く。なぜならば──、
『うあ!?う、ウルトビーズ・・・・・・』
『よぉもやってくれたなぁ、ジブン!!』
『私たちの家族、返してもらうわよ!』
ネルフユーロの機体であるはずのウルトビーズ。それの持つ十字槍の矛先は、ジルに向いていたのだから。
「よく言ったアスカ!一段と女が磨かれたな!」
《加持さん、後で一発殴ってもいい?》
アスカの震える声を無視して、加持と剣崎は人質であったトウジ達の家族と共にウルトビーズの足元へと向かう。
『ちょ!?ちょちょちょ!?待ってヨ!?ナニが!?ナニが起こってるノ!?』
「あはは〜やられたにゃあ。ジル司令。どーやら相田ケンスケに一杯食わされたみたいよん?」
ジルの後ろに控えていた女性、真希波・マリ・イラストリアスが意地の悪い笑みを浮かべた。その言葉に咄嗟に振り返ったジル司令の顔には、驚きと屈辱とが滲み出ていた。
「な、ななななな、なぁ!?」
「まぁ正直?あんの若造がやりそうな事ではあったんだよねぇ〜。あの子、最初っからジル司令の裏をかいて全部自分の思い通りにしようと画策してたんじゃないかにゃ?・・・・・・どーする?こっちは一気に手札がなくなっちゃったけど」
「〜〜〜!!ふざけるんじゃあないヨ!!」
そう叫ぶと、ジル司令は手にしたスティック状のスイッチを地面に投げ付けて、渾身の力を込めて踏み潰した。これで、トウジ達にかけられていた呪縛は完全に解かれたと言っていいだろう。
そんなジルを横目に、加持は人質たちをウルトビーズの下へと連れ立っていく。
『お父さん!ノゾミ!』
ウルトビーズの中にいたヒカリが自分の家族の名を呼びながら、跪いて走ってくる家族を向かい入れる。
「ヒカリ、無事か!?無事なんだな!?」
「おねぇちゃん!!」
ヒカリの父親と妹のノゾミが、差し伸べられたウルトビーズの手にしがみ付く。
その後ろからトウジの家族達もそれに続いた。
「さってと、ジル司令?お前さんの暗躍もここまでだ。ここで始末してやってもいいが、これ以上この場で暴れるのは得策とは思えないんでね。俺たちはここから去るが、見逃してもらえると嬉しいね」
「ぐ、ぐぐぐぐぅ、この黄色い猿がぁ!!」
加持の挑発を受けたジルは、情けないほどに狼狽えていた。その様子を変えぬまま、ジルは収容施設の中へと駆け込んでいく。それを追うように、白衣のマリもそれに続いた。
その様子を下らない虫ケラでも見るような目線でもって見送ったアスカは、ため息を吐きながらしゃがみ込んだ。
《はぁ、加持さん。こんな裏技があったんなら作戦前に一言欲しかったわ》
「悪いな。まあ、正直お前に言うかどうか最後の最後まで悩んだんだよ。アスカがシンジ君に義理立てするのは目に見えていたからな」
《だからって、土壇場で言わなくてもいいじゃん》
「まぁまぁ、これで一応はケリもついたんだ。あとはこの場から退散するだけ。簡単だろ?」
そう言いながら、加持と剣崎はアスカエヴァ統合体の足元まで歩いてくる。それを迎え入れるように、アスカは両手をそっと地面に下ろした。
《なぁんか釈然としないけど、まぁいいわ。後で口を濯いで消毒はするとして・・・後はATフィールドでみんなを覆いながら、ネルフLUNAまで飛んでくだけね》
「そうだな。ウルトビーズのおまけ付きだ。葛城も文句は言わんだろうさ」
そう笑いながら、加持は剣崎と共に差し出されたアスカエヴァ統合体の掌の上に乗った。
『惣流・・・正直何がなんやらさっぱりやが・・・・・・』
『あ、アスカ・・・・・・その、ごめ、ごめんなさい・・・!』
《何言ってんのよ、あんたら。アタシはあんた達を殺す気でやったわ。謝るのはむしろこっち・・・》
『それは!でも!』
《あーもうッ!ウジウジとヒカリらしくないわね!今はもう大団円の流れでしょーが!そんなのは、ネルフLUNAに戻ってからでいーでしょ!?・・・・・・着いたら、覚悟しときなさいよ?ヒカリ》
そう冗談めかして笑うアスカであったが、エヴァンゲリオン統合体として目尻がバイザーに隠されていたのは幸運であったと言えるだろう。
アスカの巨大な四つの瞳からは、人の大きさ程の涙が溢れていたのだから。
(よかった・・・・・・ヒカリを、ヒカリの家族を、アタシは殺さずに済んだ・・・・・・)
アスカエヴァ統合体はその両手に加持と剣崎を、ウルトビーズは鈴原と洞木一家を、それぞれ乗せて、夜空の果て、ネルフLUNAへと飛び立とうとした瞬間であった。
『惣流・アスカ・ラングレー!!』
ジル司令の怒声が、夜空に木霊した。
《あん?何よ、あのウジ虫。病院の屋上で何し、て・・・・・・》
ジルへの侮辱の言葉をアスカが口にしようとした時だった。アスカの目に、信じられないものが飛び込んで来たのは──。
《・・・・・・・・・・・・ママ?》
収容施設の屋上で、ジルの引く車椅子に乗せられた、惣流・キョウコ・ツェッペリンの姿があった。
つづく