シン星紀エヴァンゲリオンー神も泣くかもしれない   作:サルオ

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an.再び宇宙へ

 

「あ……」

 

 アスカはゆっくりと目を開いた。その瞳からは涙が溢れて、LCLの中をゆっくりと登っていく。気が付けばアスカは、エヴァンゲリオン弐号機との融合を解いており、エントリープラグの中に収まっていた。

 

「ママ……」

 

 アスカの目が、エントリープラグの外に向く。弐号機の開かれた手のひらの中には、アスカの母親の亡骸。母親──惣流・キョウコ・ツェッペリンは、撃たれた背中から血を流し、弐号機の手のひらにもたれかかる様にして事切れていた。

 

「大丈夫……大丈夫よ。ママ、ママも絶対連れて帰るわ」

 

 弐号機が優しく、ゆっくりとアスカの母親の亡骸を包み込んだ。その瞬間、弐号機が一瞬だけ赤く光輝く。直後、エヴァンゲリオン弐号機はアスカエヴァ統合体へと姿を変えていた。

 

《加持さん、もう大丈夫……アタシ、行けるわ》

 

「……本当に大丈夫か?」

 

《うん、大丈夫。アタシは平気よ》

 

「……そうか、わかった」

 

 加持はタバコに火をつけた後、ゆっくりと煙を肺に吸い込み、そして、煙を吐き出しながら答えた。加持は隣で呆然としたままの剣崎の肩を叩き、再びアスカエヴァ統合体の開いた手に乗る。加持は着ていた黒いジャケットを脱ぐと、そのジャケットをアスカの母親に優しくかけた。

 

 その横で、剣崎は何とは無しに後ろを振り返った。視線の先には真希波・マリ・イラストリアスが、薄く涙を流しながらこちらを見つめている。

 

「姫、ごめん。私・・・」

 

《大丈夫。あんたは悪くないわ。むしろ、ありがとう。アタシ達を助けてくれて》

 

「……姫ッ!」

 

 心の底から悔しそうに、マリは俯いた。しかし、それも一瞬。マリは涙を拭うと再びアスカに向き直る。

 

「姫、鈴原夫妻を、ウルトビーズを連れて行ってあげて。私も後から追いかける」

 

《……?追いかけるって、ネルフLUNAへ?どうやって?》

 

「いや、なに。ユーロのエヴァはウルトビーズだけじゃないからね。私は私で、秘密裏にエヴァを作ってたんだよん!なんちゃって」

 

 マリが両手を広げて戯けて見せる。その仕草は今のこの場には似つかわしくないものであったが、マリは気にせずに大きく息を吸い、吐いた。

 

「……本当は、ネルフユーロの新戦力ってことで開発を進めてたんだけど、ジルが死んだ今、エヴァ八号機は私のものだしねん」

 

 マリがメガネをクイッと掛け直す。

 

「必ず追いかける。だから、待ってて。姫ッ!」

 

《あんた、そこまでしてくれるなんて、ホント何者なのよ?》

 

「私は真希波・マリ・イラストリアス!姫のお母さん、キョウコさんの同僚で研究者!私も、この戦争に参戦するよ!ネルフLUNAの、一員として!」

 

 ビッと、親指を立ててマリはニヤリと笑った。その笑顔を受けて、アスカ達は若干戸惑いながらも、強く頷いた。

 

「真希波博士、貴方は……」

 

「剣崎くん、大丈夫。ユーロは元々クーデターで頭が入れ替わったようなもんだから、私がクーデターを起こし返したっておかしくないでしょ?私は好きにやるから、君も早く古巣に戻りな!」

 

「……感謝します」

 

「剣崎、知り合いか?」

 

 加持の問いに剣崎は頷き返す。

 

「冬月副司令代理のお知り合いだ。俺と一緒にユーロを内部から探っていた」

 

「へぇ、協力者ってあんな美人が、か?」

 

「そうだ」

 

「そうかい。じゃあ、戻ったら冬月先生にお伺いを立てないとな」

 

 加持は意味深にニヤリと笑う。その頭を剣崎は軽く叩いて諌めた。

 

『惣流……ほんま大丈夫なんか?』

 

『アスカ……』

 

 アスカエヴァ統合体の横で、ウルトビーズに乗ったトウジとヒカリが心配そうに声を掛けた。アスカは小さく頷くと、加持と剣崎、そして母親を優しく手の上に乗せたまま、ゆっくりと立ち上がる。

 

《ええ、平気。それに、ママはまだアタシの中にいるわ》

 

 アスカは自分の胸に手を置く。その瞬間、アスカとウルトビーズを包むほどの巨大なATフィールドが展開された。

 

『な、なんやコレ!?』

 

『アスカ、これは一体……!?』

 

《いま、ママとアタシとエヴァは本当の意味で一つになったわ。わかるの。これがエヴァの本当のチカラ。エヴァのATフィールドは、この為にあった……》

 

『ど、どういう事……?』

 

《エヴァは、いえ、アタシ達人類、リリンは、いつか星の海に還るべき存在だったの。それは、アダムやリリス、アタシ達を産んだ最初の使徒達が、生まれてくるさらに前から決められていた運命……》

 

 アスカはATフィールドをゆっくりと持ち上げる。それに合わせて、ATフィールド内のアスカとウルトビーズ達もゆっくりと空を登り始めた。

 

 夜の空を赤い光が静かに登ってゆく。それはまるで、夜空に浮かぶ星々の一つの様で。

 

《ミライは……アタシ達の娘は新しい人類。星の海を渡る旅人として生まれてきた、新しい命。そしてアタシは、それを導く揺籠。アタシ、やっと理解したわ。アタシとシンジは、この時の為に生まれてきたのよ》

 

『アスカ……?あなたが何を言ってるのか、私わからないわ』

 

「なに。話はゆっくりと聞けばいい。ネルフLUNAに帰ったら、ゆっくりと、な」

 

 アスカとヒカリのやり取りに、加持が優しく割って入る。

 

「教えてくれるんだろ?アスカ」

 

《もちろんよ、加持さん。でも、今は帰りましょ?アタシ達のホームに》

 

 赤い光が一瞬煌めくと、エヴァを包み込んだATフィールドは夜空を駆け上がる。その光が目指すのは、地球と月の中間点に浮かぶ人口の光。ネルフLUNAであった。

 

 光は瞬く間に空を駆け上がると、夜の闇へと消えていった。

 

「姫。またね」

 

 光を見送ったマリは、彼女の後ろで呆然と立ち尽くしたままのネルフユーロの私兵たちへと向き直った。それは今この状況を収めるための、最適な一言を彼らに告げるためであった。

 

 マリはすーっと息を吸い、そして、ゆっくりと吐いた。

 

「ジル司令は死んだ!ここからは、この真希波・マリ・イラストリアスがネルフユーロを仕切る!無視してもいいよ?どうせ私が用があるのは、エヴァ八号機だけなんだから」

 

 マリがニヤリと笑って、白衣のポケットから端末機械を取り出した。その中央に映し出されたボタンをマリは躊躇いなく押す。画面に映し出された文字が、何かの準備が整った事を告げていた。

 

 途端、東の空から上がってきた太陽を背に、何かが此処へと飛翔してくるのが見てとれた。それはピンク色の機体。アレゴリック翼を腰に装備し飛翔を可能にしていた、最後のエヴァンゲリオン、即ち、エヴァ八号機であった。

 

「さて、と」

 

 マリが白衣を脱ぎ捨てると、その下からはエヴァとお揃いのピンク色のプラグスーツが姿を現した。

 

「ちょっと年増だけど、問題なく動いてくれるよね?なんてったって、八号機のコアは私の真希波シリーズだもん。あ、君たち。もう遅いよ〜?ほら」

 

 ようやく事態を飲み込んだネルフユーロの私兵たちがマリに殺到するが、マリは髪をかきあげると、施設の屋上から身を投げた。

 しかしマリは落下せず、その身をエヴァ八号機の両手が優しくキャッチする。

 それを見ていた私兵のうちの数人が銃を乱射したが、一瞬で八号機のエントリープラグへと身を隠したマリには当たらない。マリは八号機に乗り込むと、即座にその拳を振り下ろした。

 

 しかし、その拳が私兵達を叩き潰すことはなかった。

 

『チカラによる征服ってのはあんまり好きじゃないんだなぁ。だから、私は別に君たちを傷付けたりするつもりはないよ?ただ、今は私に従ってくれるだけでいい。相田ケンスケの手から、世界を救う間だけは、ね?』

 

 八号機の手がゆっくりと下ろされる。マリは八号機を操作し、アレゴリック翼を作動させた。機体がふわりと浮かび上がると、その顔を夜空に向けた。

 

「さぁってと、私も色々忙しくて、さ。まだまだ君たちにも協力してほしいんだ。付き合って、くれるよねぇ?」

 

 エヴァ八号機から降りてくる言葉に、私兵団は頷くしかない。

 

 その様子を見たマリは、エントリープラグ内で満足そうに頷いた。

 

「そうそう。そうやって素直になってくれると私としても嬉しいにゃあ。……私も、そろそろ本気出さないとならないからね」

 

 八号機は暁の空を見上げる。その視線の先には、月へと向かっていく赤い流星の姿があった。

 

 

 

つづく

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