シン星紀エヴァンゲリオンー神も泣くかもしれない   作:サルオ

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ao.宇宙から舞い降りたモノ

 

 ATフィールドに包まれた光の球は、宇宙空間を恐ろしいほどのスピードで駆け抜けていた。

 

 本来であればネルフLUNAに到着するまでに丸々1日を費やすはずであったにも関わらず、アスカエヴァ統合体はエヴァンゲリオン・ウルトビーズを伴って、ものの数時間でネルフLUNAに到達できたのだ。

 

 希望峰と呼ばれるネルフLUNAの中心部にある宇宙港。そこにアスカエヴァ統合体は加速を緩めてゆっくりと入ってくる。アスカの手のひらの中には加持リョウジと剣崎キョウヤ、そしてアスカの母である惣流・キョウコ・ツェッペリンの亡骸があった。

 

 横のウルトビーズの手のひらの中には、洞木ヒカリと鈴原トウジのその家族の姿。ユーロカチコミ作戦は、これ以上のない成果を上げたと言えるだろう。

 

 アスカエヴァ統合体とウルトビーズが着艦する。すぐに宇宙服を着たスタッフ達が2機に集まり、機体のチェックを始めた。

 

 アスカはエヴァとの融合を解除し、エントリープラグを排出する。エントリープラグのハッチを開けて、アスカはその美しい髪をかき上げながら半身を乗り出した。

 

「トロワ!カトル!シス!」

 

 アスカは希望峰にてアスカの帰りを待っていた三人の綾波レイを見遣る。カトルの腕の中には、アスカの愛娘、ミライの姿があった。

 

「まぁま!」

 

「あはっ♪」

 

 娘の呼びかけに、アスカはエントリープラグを飛び出した。無重力下ではあるものの、その動きは無駄もなく、ゆるりと三人の綾波レイの元へと運ばれる。

 

 アスカはカトルからミライを受け取ると、ギュッと抱きしめて頬にキスをした。

 

「ミライ!いい子にしてた?トロワママやカトルママの言う通りにしてたの〜?」

 

「だぁ、ぶぅー」

 

 まだ言葉を喋れないミライは、身振り手振りでアスカに近況を報告した。当然、それは赤ん坊特有のよくわからない表現であったが、アスカは何より、ミライのその伝えようとする姿勢に感動したようだった。

 

「そーなのー!よかったねぇ、ミライ」

 

「あぶぁ!」

 

 ミライの様子に、アスカは安堵する。そして再びミライに向けて頬擦りするのだった。

 

「あらあら、やはり本物の母親は違うわね。私達とは反応が大違い…って!痛ァ!」

 

 アスカとミライのやり取りに軽い嫉妬を覚えたカトルであったが、その頭にトロワのチョップが振り下ろされる。カトルは咄嗟にトロワを睨みつけたが、トロワは涼しい顔でどこ吹く風であった。

 

「何よ、バカ姉!いきなり頭にチョップとかやってくれるじゃない!?」

 

「バカはアナタ。何を競っているの?ミライはアスカの子供で、わたし達が奪い合ったって、何も生まれないわ」

 

「んな事はわかってるのよ!けど、アスカが地球に行ってる間、面倒を見てたのは私達じゃない!少しくらい何かがあっても良いとは思わないわけ!?」

 

「親は子には求めないわ。求めるとすればそれは、その子の幸せだけ」

 

「くぅ…言いたい事言ってくれるじゃない!」

 

 沸騰しかけたカトルの頭を、今度は幼い綾波レイ・シスが抱きしめて止めた。

 

「だぁーめだよ?カトル。ミライの前で、ママ達がケンカしちゃあ」

 

「べ、別にケンカじゃないわよ!バカな姉が一方的に私の頭を小突いただけで……」

 

「ばぁぶ」

 

 その様子を不思議そうに眺めていたミライが、カトルの態度を叱るように声を上げた。

 

「な、なによミライ……あなたまで」

 

「ぶーーーうっ!」

 

「う……、わ、わかったわよ」

 

「だぁい!」

 

 ようやく怒りの矛を収めたカトルに、ミライは満足そうに頷いた。

 

「おかえりなさい……大変だったわね、アスカ」

 

 ミライを抱きかかえていたアスカの背に、この世でもっとも信頼できる女性の声が掛かった。ネルフLUNAの総司令、葛城ミサトである。

 

「あなたがここに向かっている間に、加持からある程度の報告は上がっているわ。……お母さんの事は──」

 

「大丈夫」

 

 ミサトのアスカを慮った言葉を、アスカはゆるゆると首を振りながら遮った。その目に、悲壮の色はない。ただそこには、全てを受け入れて、悲しみを乗り越えた意志の光かあった。

 

「アタシは平気。ママから、大事なものは全て受け取ったから」

 

「……そう、強いのね。アスカは」

 

「そんな、ミサトが悲しそうな顔をしないでよ。アタシはママを連れて帰れた。ママの魂はいま、弐号機の中で一つになって、アタシの胸にも宿っている。強がりなんかじゃないわ。ほんとよ」

 

「そう……でも、少しは休んだ方がいいわ。あなたはミライちゃんを連れて家に戻っていて。詳細な報告は加持から……」

 

「待って」

 

 ミサトの気遣いの言葉を遮り、アスカは待ったをかけた。その顔には強い決意と、僅かな困惑が浮かんでいる。

 

「みんなに、話しておかなきゃならない事があるの」

 

「?……それは、今すぐでないといけないこと?」

 

「ええ。アタシ一人では、ちょっと消化しきれない。みんなには悪いけど、アタシの報告に付き合ってほしいの」

 

「かなりヘビィな話っぽいわね?」

 

「たぶんね。なんせ──」

 

 アスカはそこで言葉を区切ると、

 

「この星の、アタシ達の存在する意味を、明確にするものだから、ね」

 

 腰に手を当て至極明るい口調で、なんでもない事のようにそう言い放った。

 

 

 

 

「第一の使徒、アダム。そして第二の使徒、リリス。太古の昔にこの星に降りてきた2柱の使徒が、アタシ達の星の物語の始まり……」

 

 ネルフLUNAの作戦司令室、そこに碇シンジを除く全ての主要人物が集まり、アスカの言葉に耳を傾ける。当のアスカはミライを左手で抱き上げたまま、集まった全員を見やって言葉を続けた。

 

「アタシ達が戦ってきた使徒。それは白き月のアダムが生み出した使徒だった。対して、アタシ達人類、リリンを生み出したのは黒き月のリリス。ここまでは、みんな良いわよね?」

 

 アスカの視線がこの場に居合わせた全員に順に注がれる。皆一様に真剣な眼差しでそれに応えた。それを見たアスカが「よし」と首を縦に振る。

 

「アダムとリリスの生存競争。いわばアタシ達はその代理戦争をやっていたようなもの。そこまではいいわ。なんせ当時のアタシ達に、そんな事は分からずじまいだったからね」

 

 アスカの指先がコンソールをなぞる。その指の動きに合わせて、空中に幾つものウィンドウがカシュッと音を立てて展開された。映し出されたのは敵対してきた使徒。そして、それらと戦うエヴァの姿。

 

「アタシ達はその戦争に勝利した。けど、使徒として生まれてきた種族であるアタシ達に求められたのは、ある意味もっと大きなモノなのよ。それは、ある意味でゼーレが求めていた『人類補完計画』と符号し、そして、それはアダムとリリスの目的でもあった……」

 

「話が見えないけれど、アスカ。それは今の私達がどうにかしなくてはならない問題なのかしら?」

 

 黙って耳を傾けていたミサトが疑問の声をあげる。それに対してアスカは、一瞬だけ目を伏せたあと、大きく、力強く頷いた。

 

「そうよ、ミサト。アタシ達は知らなければならない。アダムとリリスがこの星に来た意味。そして、それがアタシ達に何をもたらすのか、を」

 

 もっとも、とアスカは言葉を続ける。

 

「恐らく、アダムやリリスもここまでの事が起こるとは、想像もしてなかったでしょーけどね」

 

「ここまでの事……それは一体、なんなの?」

 

 次に疑問符を投げかけたのは、ネルフLUNAの技術局長の伊吹マヤだった。マヤはその顔にかけたメガネの位置を直しながら、真剣な眼差しでアスカを見つめる。

 

「アダムとリリス。彼らの正体は、『赤ん坊だった』という事よ」

 

「赤ん坊?」

 

「いい?彼らは成熟した生命体じゃなかったの。彼らは白き月、黒き月という『卵』と共に、この星に降り立った。その目的は、なんだと思う?」

 

「……目的、というならば」

 

 アスカの問いかけに答えを見い出そうとした碇ゲンドウが低く声を上げる。彼はネルフの創始者であると同時に、ゼーレの『死海文書』を原典とした『人類補完計画』の提唱者の1人でもあった。もっとも、その目的についてはゼーレとは全くの別物であったが。

 

「種の繁栄。繁殖、そのための使徒だった……」

 

「その考えも間違いではない。けど違うの。アダムとリリスは、使徒を使って『ある事』を達成しようとしていた。それは何?」

 

「…………まさか」

 

「そう。『人類補完計画』。これはゼーレが提唱者と言われているし、実際にそうだったんだと思うわ。けれど、人類補完計画の『元』となったものは、アダムと共にこの星に落ちてきていた。それは──」

 

 アスカはそこで言葉を一度切ると、声を一段と低くしてその先に言葉を続けた。

 

「死海文書とロンギヌスの槍。これは人類が生まれる前から、もっと言えば、アダムがこの星に来る前から、『何者か』に与えられていたものだった。そう考える事ができるんじゃない?」

 

「……むう」

 

「アダムとリリスは敵対する存在であったけれど、でも実は、お互いに不完全な生命体でもあった。思い出して?アダムは何を持っていて、リリスは何を持っていたか」

 

「生命の実と、知恵の実、か……」

 

 アスカはその言葉に力強く頷いた。

 

「アダムは自身の持たない知恵の実を求め、リリスは持っていない生命の実を求めた。その先にあったのは、すべての生命体をLCLに置き換えた単一の生命体の誕生。それこそが、アダムやリリスが求めていたものだったのよ──」

 

 

 

 

 

「──この星全体を『繭』として、全ての生命を『餌』とする事で、宇宙の海へと羽化するために」

 

 

 

 

 

「な……!?」

 

「アダムやリリスの目的。それは使徒の代理戦争を生き残り、生命と知恵の実の両方を手に入れて、この世界の全ての生物を取り込んだうえで、この星から飛び立ち、宇宙の海を渡る。そして、また宇宙のどこかで卵を産み、繁殖する。種の繁栄という意味であれば、アダムとリリスは幼虫みたいなもので、彼らにとっての繁殖とは、宇宙の海に飛び出して行くことから始めないといけない事だったの」

 

 アスカは空中に映し出された数々のウィンドウを指さす。

 

「何者かが、それを望んだ。それは、もしかしたらアダムやリリスの母体となった生命体。アタシ達の想像なんかじゃ到底及ばない、『星を喰らうモノ』。彼らはそういった生命体だった」

 

「バカな…!そのために?それが私たちの、『人類補完計画』だったと言うのか!?我々人類は、リリンは、いや、すべての生命は、アダムかリリスに捧げられる生贄だったと、そう言いたいのか!?」

 

 ゲンドウが椅子からガタンと立ち上がり、アスカを睨みつける。到底認められる事ではない。死海文書がもしそのアダムやリリスの『羽化』を進めるための計画であったというならば、人類の存在価値とはなんだったのか?

 

「そうよ。アタシ達はアダムやリリスにとっての単なる『餌』だった。──ここまでが、アタシが弐号機の中でママとの魂の再会を果たした時に感じ取った真実。そして、それはすでに『アダムやリリスの上位存在』が、本能に従って、死海文書とロンギヌスの槍を有効活用するように『幼虫』の餌として、アタシ達は用意された生贄だったってことよ!」

 

 アスカの言葉に、湖面に石を投げ込むんだような静けさが場を満たした。

 

「……でも、待って。アスカ。それなら私達はただの餌としてこの星で生まれて、死んで、それでおしまい、なの?」

 

 トロワが自身の疑問を口にする。その言葉を聞いたアスカは、今度は横に首を振った。

 

「いいえ。アタシ達は、『死海文書』に書かれた通りの事をしてきていない。恐らくだけど、『死海文書』に無いものをアタシ達は手にしている」

 

「それは、一体なに?」

 

「決まってるじゃない。アタシ達が使徒アダムとリリスから生み出した、汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオンよ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、会議がざわついた。

 

「エヴァ……ですって?」

 

「そうよ。アタシ達人類の、使徒に対する最後の切り札。エヴァが、アタシ達をただのリリンから、アダムの使徒と戦える人類にまで昇華させたその兵器は、きっと死海文書にも記載の無かった事項……」

 

「待て。しかしゼーレは、私達とともにエヴァの製造を行っていた。それは死海文書に記載のあった事項として、だ。それをどう説明する?」

 

「それは後からゼーレが死海文書に書き足した事項よ。少なくともオリジナルの、アダムに与えられていた最初の死海文書にはエヴァの事は書いてなかったはず……わかるでしょ?アタシ達の世界が、人類補完計画が、何度も何度も繰り返されてきた『物語』だったって事。その事象を裏付ける存在を、アタシ達は知っている」

 

「アルマロス、ね」

 

 ミサトは合点がいったように頷いた。それにアスカも頷き返す。

 

「そう、アイツのおかげで、アタシ達は何度も何度も同じ世界を繰り返していた。人類補完計画を失敗するたびに、世界はやり直されてきた。でもね、今はそこは重要じゃないの。ポイントは、アタシ達がエヴァを手に入れた事と、もう一つ──」

 

 アスカはそこで言葉を切ると。

 

「──アダムとリリス。その二つの要素と融合できる、アタシとシンジの存在よ」

 

 ネルフLUNAの全員が目を剥くほどの衝撃の事実を告げた。

 

 

 

つづく

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