日向正宗男士に成りし日々のこと   作:秋野萌葱

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日向正宗男士に成りし日々のこと

 

 

ー昼時ー執務室にて

 

「ねぇ、日向の主人って沢山いたけれど、最初の主人って確か、水野勝成様だったけ?」

 

執務中、審神者は唐突に向側で執務を手伝っている日向に質問をする。 

すると、日向は書類に落としていた視線をつっと審神者に向けると、珍しそうな目線で審神者を見つめた。

 

「おや、主人は普段徳川内大臣殿や、織田右大臣殿の事を呼び捨てにする事が多いと聞いたが、様付けするのを聞いたのは、初めてだ。」

 

「思入れがあるだけよ。だって、私の故郷を発展した人でもあるんだよ。備後の畳表は昔から有名だったでしょうそれで、どんな人だったのかなって、思ったわけ。」

 

「ふふっ、くくくっ。。」

 

何かツボにハマる様な事を言ったのだろうか急に日向は笑い出した。

そして、一頻りお腹を抱えて笑うと、一瞬何かを思い出したかの様に哀愁を帯びた瞳の色になったが、すぐに面白い物を見たかの様に審神者を見る。

 

「少し、違うね。勝成様は確かに、僕の主人だったけれど、どちらかと言うと最初の主人じゃなくて、長く一緒にいた人かな。」

 

「う〜ん??」

 

日向から説明を聞いても理屈が分からなくて『ハテナ?』を飛ばす審神者、それを見た日向は軽く嘆息すると、執務室の端にあった端末に向かって指を動かすとヒットした画面を指差した。

 

「主人、Wikipedia はきちんと見直したかい?ほら見てご覧、最初の主人は全然違う人だよ。」

 

「へえ、主人の名前によって刀剣の名前も変わる事ってあるんだね。」

 

端末を覗き込むと、そこに書き込まれていたのは、日向正宗についてだった。よく見ると、最初の持ち主は水野勝成でもなく、石田三成でもなく、堅田正澄と言うあまり知名度が高くない人だった。

そして改めてWikipedia を見直してみると、日向正宗を所持していた人は時代を追うごとに移ろい続け、名前も正宗,堅田正宗,石田正宗,大垣正宗,そして、日向正宗と変わり続けていた。

ジッと覗き込む審神者を見ていた日向はふと、何かを思い付いたのか少しばかり面白い事を思いついたのか少し意地悪そうに目を細める。

 

「ねえ、主人、此方へおいで。」

 

こいこいと、日向が手招きした場所はソフアー。そして、何故か膝をポンポンと叩いている。そこに座れという事なのだろうか、それとも頭を乗せて膝枕なのだろうか、一瞬思考が停止した審神者。

すると、迷いまくっていた審神者に痺れを切らしたのか、日向は審神者の腕をグイッと掴むと、自分の側に引き寄せて審神者の頭を膝の上に収めた。

 

「えっと、、何これ?」

 

驚きの連続で、目を白黒している審神者。目の前には何やら企んだ表情をした日向の顔があった。

 

「ねぇ、主人。少し昔の話をしようか。」

 

「昔話!面白そう!どんな話をしてくれるの?」

 

歴史の話には一等食い付きが良い審神者。先程の日向の奇妙な行動に関してを頭の中から吹っ飛ばしキラキラとした瞳を日向に向ける。

日向は、好奇心を秘めて輝く審神者の瞳を眩しそうに見つめると、ぽつぽつと語りだす。

日向が一番記憶に残っている主人、水野勝成と赴いた戦場,原城の戦い(島原・天草一揆)の話を始めた。

 

 

「僕は、あの時の出来事を今でも覚えている。」

 

「僕が初めて実体を持って、主人達と戦う事ができて、人の心に触れることができた。」

 

「たくさんの事を学ぶことができたんだ。」

 

「どうか主人、とある刀の物語を耳を傾けて聞いていてくれないか。」

 

 

〜寛永15年(1638年)1月15日進軍路にて〜

 

カチャ,カチャッ,

 

甲冑の擦れる音を響かせながら、永楽通宝紋が風にたなびいている。

久しぶりに、戦へ同行する事になった僕は外の空気に柄にも無くはしゃいでいた。

鳥、花、小動物。それらを珍しく思いながら見回していた。

 

「久しぶりの外が楽しみか?」

 

馬上から声が降ってくる。

見上げて見ると主人である勝成様が面白そうなものを見る目を向けながら僕に話しかけてきた。

 

「うん本当に楽しみだ、大坂の陣以来だよ外へ出たのは!」

 

テンション高めで話す僕に、勝成様はカラカラと笑い、その周囲で共に進軍していた勝俊様、勝貞様たちは表情には出していないが僕を見る目が和やかだった。

すると、前方から伝令がやって来た。

 

「申し上げます!松平様より伝令でございます。」

 

伝令が差し出した紙片を勝成様は受け取ると、訝しげに中身を覗き込む。

そして、一通り読み終えた紙片はグシャッと握り潰され路端に捨てられた。

 

「父上。如何記されていたのですか?」

 

内容を知りたくてソワソワしていた周りの皆を代表して、勝俊様が勝成様に質問をする。

すると、勝成様は剣呑になっていた雰囲気をフッと消し、代わりに溜息を軽く吐いた。

 

「松平殿から進軍速度を速めるようとの要請だ。到着日を早めたいらしい。」

 

「しかしお爺様、我が軍は松平様の軍勢1500よりも約4倍の5600です。兵の消耗を考えれば松平様の軍よりも進軍速度が落ちるのは自明の理です。その事を知恵伊豆と呼ばれる松平様もご存知ですよね。」

 

齢15の勝貞様の考えに、父である勝俊様、祖父である勝成様はそれぞれ驚き目を見開く。

 

「凄いな、勝俊。其方の息子の成長ぶりにはワシも度々驚くばかりだ。」

 

「お褒め預かり光栄でございます、父上。」

勝俊様は父君に褒められたのが嬉しかったのかあまり動かない目元が少し緩んでいた。

ひとしきり息子と二人で孫を褒めた後、勝成様クイっと前方を向き、兵へ指示を飛ばす。

 

「全軍に指示を。これより進軍速度を速める。しかし道中で一度休息も必ずとるのだから、各々留意して置くように。」

 

「はっ。」

 

勝成様の命令に周囲は従い、進軍速度はグッと上がった。しかし、僕の歩みでは到底ついていけな速度になっていたため、本体に一度戻ろうかと考えていたとき、思いがけず勝成様が僕に声を掛けた。

 

「乗るか?正宗の刀よ。」

 

勝成様からの意外な誘いに、僕は興奮気味に目を輝かせて言う。

 

「良いのかい!そんな素敵な提案に乗っても。」

 

「ああ、いいとも。お前がわしの背中に乗っていてもどうせ、我等親子以外には誰にも見えぬのだからな。」

 

こうして、僕は思いもがけず勝成様の馬の背に乗せて貰うことができた。

初めて他者の馬の背に乗った時の高揚感は刀剣男士になった今でも忘れられない楽しい思い出だった。

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〜寛永15年(1638年)1月29日原城址前〜

 

「ここが、原城。大きいなあ。」

 

「そうだね。私も中々こういう機会には恵まれないだろうから。この機会にしっかりと見ておこうと思うよ。」

 

「城だけでなく、今回の戦も…ね。」

 

まじまじと、僕と勝貞様は松平様の陣幕付近で廃城になった後でも大きな高さを誇る原城址を眺めていた。

 

「くそっ!何が兵糧攻めだ!わしらの藩の財政も考えろ!」

 

怒気を孕んだ瞳で勝成様、勝俊様が陣幕から飛び出して来た。

驚いて、僕は二人の元へ歩み寄った。

 

「何かあった?二人とも?」

 

「何かではないわ!」

 

「父上!落ち着いてください!過度な怒りはお身体に障ります!」

 

「そうです!祖父上様。軍議で何が有ったのですか?」

 

怒り浸透の勝成様を勝俊様が必死で諌め、勝貞様が僕も疑問に思っていた事を問いかける。

すると、勝成様は何かを思ったのか般若の形相を徐々に収め、憎々しげに語り出した。

 

「今回の軍議の結果は兵糧攻めと決まった。だが、ワシには如何しても納得がいかぬ。」

 

「それは何故でございますか。祖父上様?」

 

「一言で言って、長期戦はその分兵に食べさせる兵糧がわしらにも必要になってくる。長引く分国許の民にも負担が重なってしまう。あと、知恵伊豆も気に入らぬが、一番気に入らぬのが松倉長門守じゃ。」

 

それを聞いて僕は不思議に思いながら質問する。

 

「如何して長門守様は、勝成様をここまで怒らせるような事をしたのだい?」

 

「聞いてくれるのか。正宗の刀。」

 

くるりと、振り向いた勝俊様がげっそりした顔をこちらへ向けて、語り出した。

内容を要約するとこうだった。

 

一つ、領民を大切にする勝成様とは反対に長門守様は今回の乱が起こるほどまでに重税を領民に課した事。

一つ、領地の石高は四万石が限界なのに見栄を張って十万石を領民から取ろうとした事。

一つ、領民の妻子を年貢が納められないからと人質に取り、結局は殺してしまう事。

一つ、結局は、松平様も長門守様も勝成様はいけ好かないと言う事だ。

 

「父上は切支丹弾圧に関しては特に何も言わないが領民を無下にしたのが如何にも腹に据えかねているらしい。」

 

「かく言う私も少々長門守殿のやり方には少々不満を覚えているんだ。」

 

勝成様も勝俊様も、話を聞いた勝貞様も少々不機嫌な顔になった。

 

「とにかく!今回の軍議では、兵糧攻めで決まった。以上!解散!」

 

勝俊様の一言でそれぞれの持ち場へと消えていった。

 

〜寛永15年(1638年)2月5日深夜水野軍陣幕〜

 

「そこにいるのはわかっているぞ。正宗の刀。」

 

陣幕の中から外で佇んでいる勝俊様を見つめていると、気配に気づいたのか勝俊様が僕に声を掛けてきた。

 

「おや。気づいていたのかい。バレていないと思っていたのだけど。。」

 

「私を誰だと思っているんだい。これでも気配には敏感な方なんだ。」

 

得意げな顔で言った後、勝俊様はこちらへおいでと言うように僕を手招く。

言われた通り僕はそちらへ歩み寄ると、疲れた顔をした勝俊様が岩場に腰掛けていた。

 

「眠れないのかい。勝俊様。」

 

「いや、ただ眠れないのも本当なのだが、こうして戦場に来ると幾つもの出来事が心に引っかかるんだ。」

 

どこか物悲しそうに勝俊様はヘラりと笑った。

その笑顔は勝成様、勝俊様、勝貞様にしか僕が見え無いからこそ見せた笑顔だった。

 

「勝俊様も今回の兵糧攻めには反対だったのかい?」

 

根幹に燻っているだろう本音を聞き出してみようと、僕は質問した。

 

「ああ、反対だったさ、どうせ俺は高貴な者にはなりきれる事は出来ないんだ。」

 

「それはまた何故?」

 

「お前はなんでも知りたい性格なんだな。良いだろう。別に隠している事でも無いし、お前に語っても父上も怒らないだろう。」

 

そして、重い口調で語り出したのは、自身の身の上話だった。

一つ、自分は庶民の母から生まれたため思考が庶民寄りになり如何しても考え方に違いが生まれてしまうこと。

一つ、兵糧攻めの有用性は頭では理解しているがどうしても心では理解する事ができない事。

一つ、勝成様の暴走にお疲れ気味だと言う事。

大きく分けるとこの三つの事をを勝俊様は悩んでいたらしい。

 

「切支丹以外は投降すれば松平様も助命はするらしいが、如何しても思ってしまうんだ。」

 

「もっと自分に力があれば何かが変わるのではないか。」

 

「もっと他に方法は無いのかと考えてしまうんだ。」

 

もどかしそうに、勝俊様はそう呟いた。

その瞳には、世の中を嘆くような、逆境に打ち勝ちたいと願うような激しい焔が渦巻いていた。

 

「僕は刀であって、君たち人の思いを全て理解する事は出来ないけれど。」

 

「信仰を持った人間はとても強いよ。」

 

「延暦寺然り。切支丹も又然りか。」

 

僕の言葉から何かを見つけたのか小さく苦笑して瞳を閉じ、何やら思案した後、吹っ切れたように勝俊様はがばりと立ち上がってこちらを振り向く。

 

「もどかしいのう、正宗の刀よ。」

 

その姿は、悲壮感を帯びていながら何かを決意した様子だった。

こののち、幕府軍は一揆軍と睨み合いの長期戦になる。

 

〜寛永15年(1638年)2月24日松平信綱陣幕付近〜

 

「長いなあ。軍議。」

 

「長いと思うよ。今回の軍議は今後を左右する事になるからね。」

 

岩の上に座って、ジーと陣幕を見つめる一人と一振り。

今日は兵糧攻めの継続か、総攻撃を行うかを話し合うために主だった諸将が集まり、会議を行っている最中だ。

いち早く知りたいと思う人たちも多い為、遠巻きではあるが、軍議に参加出来ない多くの将が陣幕付近にいた。

遠くからでも罵声、怒声が響き渡り、よほど紛糾しているのだろうと僕はどこか遠く聞いていた。

 

「お、お祖父様達が出て来た。行こう、正宗の刀。」

 

二人の元へ行くと、其々反応が違っていた。

影を帯びた表情をした勝俊様とは対照的に、ご機嫌な様子で勝成様が出てきた。

 

「祖父上様、父上、会議の結果はいかがなりましたか?」

 

「大分荒れていたけれど結果はどうなったんだい?」

 

「聞いて驚け!二人とも!総攻撃が決まったぞ!」

 

勝成様が大声で言った事によって、その周辺にいた諸将達に激震が走った。

 

「まさか。」

「真か!」

「ああやっと。」

「おいっ聞こえてるぞ。」

 

「祖父上様。父上。ここは騒がしいです。陣幕へ戻って皆へ伝えましょう。」

 

周囲のざわつきを感じた勝貞様がそう提案した。

 

「む。そうだな。戻るとするか。」

 

「では、父上。私が先に戻って先触れを行って参ります。」

 

「私も参りましょう父上。祖父上様、御前失礼します。」

 

そう言って、勝俊様、勝成様がその場を去ると、僕と勝成様だけになったその場で

勝成様が打って変わって静かな雰囲気を纏い口を開いた。

 

「のう、正宗の刀よ。総攻撃当日は勝俊に付いていてくれぬか?なんだったらワシの名を使ってくれても構わぬ。」

 

「それはまたどういう意味だい?勝俊様は上手くやっているように見えるし勝成様の名を使うのがいまいち意味が判らないのだけれど。」

 

「だからこそだ。あやつは若い頃のワシと良く似ておる。心がせいで、思わぬ所で失敗をして命を落とすかもしれぬ。」

 

そう言った勝成様の表情は子供を心配する親そのものだった。

 

「分かった。しかし、僕は思念体と同じようなものだ。どんな事が起きても手出しができないよ。」

 

「それでも良いのかい。勝成様。」

 

試す様に不安的要素を僕が口にすると、勝成様は自身ありげにニイと笑う。

 

「大丈夫だ。勝俊も勝貞も十分強い。」

 

「それにワシは、切れ端程度ではあるが、奇跡を信じているからな。」

 

〜寛永15年(1638年)2月27日早朝水野軍陣幕〜

戦場であれど、皆疲れるもの。将である三人も思い思いに微睡んでいた。

しかしそのま泥みは一人の偵察兵によって打ち砕かれる。

 

「申し上げます!鍋島軍が抜け駆け!鍋島軍が抜け駆けにございます!」

 

その言葉にすぐに反応したのが、勝成様。

ガバリと飛び起きて怒号を飛ばしながら指示を始めた勝俊様。

すぐに子飼いの家臣を集めて支度を始めた勝貞様。

 

流石、戦慣れした戦国の世の武将。三者三様に今で言うマッハのような速度で支度を完璧に済ませると、気がついた時には僕の本体は勝俊様の腰にしっかりと収まっていた。

いつの間にか勝成様が僕を勝俊様に預けたらしい相変わらず仕事が速い人だ。

 

この時代、城内への一番乗りは武士の誉となってあり、名だたる敵将がいない今回の戦いではどの大名家も武将も狙っていたため、遅れを取ってはならないと誰も彼もが躍起になって準備をしたり、配置についていた。

 

「出るぞ!正宗の刀!鍋島軍に遅れをとってはならないからな!」

 

勝俊様の言葉と共に、支度が出来た水野軍の出陣を告げる法螺が鳴り響いた。

 

〜午前 原城址内三の丸跡 水野勝俊、勝貞隊〜

 

三の丸へ進軍すると、そこは阿鼻叫喚だった。

先に奇襲をかけ、攻め入った鍋島軍を相手に士気も何も無かった一揆軍。

其処ら中に餓死して死んだであろう半分腐りかけた死体が幾つも転がってあり、槍、太刀などで差し貫かれた一揆軍の死体なども多く転がっていた。

殺してくれと言わんがばかりに首を差し出す者。

立ち向かおうとして、力が足りず斬られる者。

ぜズズ様とつぶやき殺される者。

自分は切支丹では無いと叫び投降する者と正に地獄絵図だった。

 

「くそ、これでは本丸への道が他の軍によって塞がれてしまうぞ。」

 

苛立たしそうに本丸へ続く道を見つめている勝俊様。

今更戦いも合戦も無かったが、まだ抵抗する者が本丸への道を塞いでおり後続から沢山の軍がこれからどんどんとやって来て混乱が予想される為迂闊に鍋島軍が戦っている中に突っ込むのも危険だった。

何か打開策は無いかと皆が周囲を見回していると。

 

「父上。彼方は如何でしょう?」

 

勝貞様が指し示した方向には、断崖絶壁でひとっこ一人と通らなさそうな道があったが、ちょっと足を踏み外すと奈落の底へ落ちてしまいそうな道だった。

しかし、幸いにもその道は他の軍の誰も気づいていない様子だった。

 

「でかした勝貞!ここからは馬を降りて行くぞ!皆!ついて来い!」

 

勝俊様の指示とともに、数人の物見が先陣を行き、列を乱さず順番にされど静かに早くとなんとも珍妙な移動が始まった。

 

「本当にこの道で良かったのかい?勝俊様?一歩踏み間違えたら、この世からさようならなこの道を選ぶ必要性は有ったのかい?」

 

「だからこそだ。死中に活を求める。これぞ今回の戦に勝てる唯一の策だ。」

自信ありげに説明した勝俊様の話を補うように勝貞様が説明する。

 

一つ、総攻撃で各軍が混雑している分肝心の所で見落としている事が多い事。

一つ、今この道は勝貞様が予め原城の地形を入念に調査したり、松平様の軍で漏れ聞いた話から予め見つけていた穴と言う事。

一つ、一揆軍が大手門跡へ攻め寄せている鍋島軍に気をとられているうちに本丸に近付いて奇襲をかける算段だと言う事。

 

以上の事から、勝俊様はあえて断崖絶壁を選んだと言うことが勝貞様の補足説明で理解する事ができた。

 

「おお!やはり勝貞は凄いな!もう本丸が見えるぞ!」

 

「父上。お祖父様のようにはしゃぎすぎです。」

 

息子に突っ込まれた勝俊様、罰が悪そうに苦笑いをした。その様子に周囲にいた家臣たちも気づかれないよう小さく笑みを作った。

 

 

 

〜原城址本丸跡前 水野勝俊、勝貞隊〜

 

一本道の通路から飛び出すと其処はもう本丸が目前だった。

さすがに最後の砦だからか、多くの防御柵が組まれてあり攻め寄せづらく、一筋縄では行かない雰囲気があった。

 

「飛び道具も遠慮なく使って柵を引き倒せ!其処までの強度はないはずだ!」

 

勝貞様の指示と共に次々と柵が引き倒されていく。

そして、引き倒されていった柵によって、一本の道が出来上がった。

 

「道が開けた!行くぞ勝貞!正宗の刀!」

 

勝俊様の掛け声と共に、勝貞様、先陣を切って百二十名余りが攻め入ろうとした次の瞬間。

ヒュン!ヒュン!数十発の矢弾が飛んで来て、味方に刺さった。

それ程の精度は無かった為弾は回避し矢は周りにいた家臣が太刀で叩き落としたが、矢の一本が届いてしまい勝貞様が片腕に軽い怪我をした。幸いにも酷くはなさそう様子だった。

それよりも目下の問題は先ほどの攻撃とともに、百二十名で突撃した部隊は本丸から打って出た倍の千名以上の敵兵に囲まれて分断されてしまったことだ。

ただの一揆軍と思って侮ることなかれ、本丸にいる敵兵は三の丸と違って死兵であり何倍にも結束力が強く、倒したと思っても何度でも起き上がり相手を道連れにするまで倒れる事は無いと言う。

分断された勝俊様が連れている兵は五十名余り、それにいくら後続の兵が居るとはいえ、救援が遅れると打ち取られてしまう確率が高くなる。

 

「父上!」

「殿!」

 

周囲が必死に戦いながら悲鳴にならない絶叫を上げる中、僕は必死に考えた。

どうすれば、あの囲みを崩せるか、どうすれば一瞬の隙が生まれるか。

考えて考えて、さまざまな方法を考えては打ち消した時、カツンと僕の足に何かが当たった。

 

「そうだ!これだ!!」

 

この時の思いつきがその後を大きく変えるとは僕は何も思っていなかった。

 

「本当にこれで行けるのか?正宗の刀?」

 

僕を疑って半信半疑で問いかける勝貞様。

 

「行けるいける。どうか僕を信じて欲しい。勝貞様。」

「こんな綱渡りな方法今まで聞いた事も見たこともないが。」

 

疑っていた表情は徐々に覚悟を決めた顔に変わっていく。

 

「お前に任せた。必ず父上を救ってくれ、頼む。」

 

その言葉と共にスラリと勝貞様は僕の本体を抜くと叫んだ。

 

「お祖父様の刀。日向正宗よ。どうか父上を助けてくれ!!」

 

大きく振り上げた僕が、一直線に一人の敵へ向かって投擲された刹那。

この世には無いはずの僕の体は桜の花に包まれて、気づいた時には僕は本体を握りしめていた。

本体を握る僕の手は確かに肉厚があり、宙に浮かんだ体は本体と共に一直線にすっ飛んで行き、勝俊様に向けて振り上げられた鎌を持った男の首を貫いた。

 

「大丈夫かい!?勝俊様!」

「ぎゃああ!妖じゃあ!」

 

いきなり現れた僕に周囲の面々は驚き、特に一揆軍は僕が突如現れたため、大きな混乱が走った。

これが好機と思った僕は、一揆軍から勝俊様への気を逸らすために、精一杯言挙げをする。

 

「我こそは、水野軍が一の刀日向正宗なり!我を妖と侮る者はこの首を取ってみよ!」

その言挙げと共に突如として現れた妖を殺そうと一揆軍が僕に群がりだした次の瞬間、命令が聞こえた。

 

「今だ!旗を掲げよ!」

 

隙を突いて本丸跡へ侵入した勝貞様の命令によって、辺りに数十本余りの永楽通宝紋の旗があがった。

これで、事実上水野軍は本丸跡への一番乗りを果たした事になった。

 

「やった!作戦成功だ!」

 

そう言いながら、僕は群がって来る28人目を差し貫いた。

 

「あまりにも唐突で何があったのかが一寸も解らないのだが、説明してくれない正宗

の刀。」

 

周囲に群がる敵を片付け、こちらへ近づいてきた勝俊様が戦いながら問いかける。

 

「簡単な事だよ!勝貞様に名付けて貰い、敵の渦中へ投擲してもらったのさ。」

 

そして、僕が話したのは次のような作戦だった。

 

一つ、勝貞様が名前を与えて僕の形を作ってもらう事。(不安定な存在ではすぐ消えてしまう可能性があるため)

一つ、思いっきり敵兵に向かって本体を投げてもらう事。(動揺によって隙がうまれる可能性があったため)

一つ、もし僕を顕現させる事に成功した場合、動揺した敵の多くが僕に群がる可能性があったため、もし、成功した場合は本丸に乗り込み一番乗りの旗をあげること。

一つ、勝俊様が僕を偶然落として思念体の僕の足元に転がって来たからこそ思いついたのが、今回の作戦だと言う事。

 

これらをドヤ顔で説明した僕に、苦い顔をした勝俊様は盛大にため息をついた。

 

「つまりは、その作戦は全部綱渡りだったと言うことじゃあないか。危険が伴う事はできればさけて欲しかったぞ。」

 

「断崖絶壁を渡ろうと決めた勝俊様には、言われたくないよ。」

 

「ふっ。一端の口をきくようになったものだ。」

 

沈黙の後に、小さく笑みが零れ、僕と勝俊様は笑い声を上げた。

天まで届くような大きな笑い声が戦場に響く。

そして、体の維持の時間切れを告げるかの様にふっと僕の体は桜に包まれる。

少しずつ消えゆく姿を見て、勝俊様が不安そうにつぶやく。

 

「消えてしまうのか?」

「いいや。僕は消えない。」

 

戦場の噴煙の紛れる青空を見つめ、僕は答える。

 

「確かにこの体は消えるだろう。」

「けれど、日向正宗がこの世にある限り、九十九の眠りを経て、僕がまた必要とされ

る時が来たら。」

 

「今度はこの世に人として、出てくるかもしれないね。」

 

それを聞いた勝俊様は何も言わなかった。

けれど、小さく笑みを作り答える。

 

「また会おう。鬼と呼ばれた日向守の名を持つ勇敢な刀日向正宗よ。」

 

ここで僕の実体は消えて、思念体も完全に本体に戻った。

刀に戻りその場に転がったままになった僕だったが、勝俊様は僕を拾い上げて腰に差し僕は主人腰に戻ったその後の戦いの行く末を刀越しに観た。

 

 

 

ー原城本丸に水野軍の馬印が立つ少し前の水野軍本陣ー

 

自分も戦に参戦しようとして息子と孫と家臣たちに全力で止められた勝成は大人しく采配を振りながらいまか今かと原城跡方面を見つめていた。

そして、本丸に上がった馬印とともに報告を受けた勝成はこう言ったという。

 

「おお、わしの一生の思い出じゃわい。子の美作(勝俊)は大坂の陣で武功を立てたし、孫の伊織(勝貞)は今日が初陣じゃのに本丸を攻め取るとは!水野家の名誉じゃ。」

そして実はボソリと誰にも聞こえないほどの小さな声でこう言った。

 

「正宗の刀よ。奇跡は起きただろう。ワシの勝ちじゃ。」

 

その声はあまりにも小さかったため誰も聞き取ることはなかったと言う。

 

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「・・・以上。僕の昔話だよ。」

 

話終えた日向は、膝上で話を聞いていた審神者へと顔を見下ろしてみると、審神者の顔は考え込んだ表情をしていた。

 

「僕の昔語りはお気に召さなかったかい主人。」

 

皮肉を込めて問いかけたが、審神者はそれを否定する様にフルフルと頭を振った。

 

「いいえ。ただちょっと考えていただけ。一揆軍には無理矢理参加させられた者たちもいるって聞いたことがあるし、今回は幕府側の視点から聞いたから、たくさんの人から話を聞いたり、調べたりすることは大切なんだなって改めて思ったの。」

 

「けれど、長い籠城戦を行った一揆軍の農民たちは年貢の取り立ての地獄と終わりの見えない籠城戦の飢餓の地獄のどちらが苦しかったのかなって思っただけ。」

重い溜息をついた審神者に対して日向は苦笑する。

 

「まあ、もしもだろうけど一揆軍にいた刀が実装されれば一揆軍側の真実の一端を知ることはないだろうね、主人。」

 

互いに小さく苦い顔で笑い合うと、審神者はむくりと日向の膝から起き上がる。

そして、くるりと日向に顔を向けた。

 

「さて、長い昔話を話してもらいましたが、おやつに甘いものでもいかがです?」

 

屈託ない笑顔を向けられた日向も思わず苦い表情が綻び、笑顔が零れた。

 

「喜んで。口直しに梅干しの漬物はいかがかな、主人。」

 

今日の本丸の午後のおやつは賑やかになりそうだ。





日向正宗
ちょっと性格が悪い?とある本丸の刀。
ちなみに、昔は幼児みたいにはしゃぐことが多かったそうでできれば主人にバレたくない。

審神者
生粋の歴史オタ。
甘いもの好き。知りたがり。
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