彼岸花と迷い犬   作:黒ゴマアザラシ

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喫茶リコリコ、営業再開

「依頼?リコリスの救出が?誰の依頼よ~」

「それはミカに聞け」

旧電波塔の最上階での一悶着を終えた私達は、ミズキが用意したヘリに搭乗して、一路、新電波塔の延空木へと向かっていた。

プロペラが生み出す轟音と、機体を揺さぶる振動の中、私は座席に腰掛けている。

隣には千束とたきながいて、さながら犯人を連行しているように見えるのは気のせいだろうか?

元はと言えば、完全に私の独断専行により孤立して行動したのを2人が引き留めに来たから正しいと云えるのがまたなんとも言えないところだ。

「依頼はこれだ」

と私達の対面に鎮座しているクルミは愛用している薄い端末をこちらに見せてきた。

「そうだ!どどどどうする?リリコリスバレちゃってるー!」

その映像に千束は慌てた声を出している。

報道番組のようだが、延空木の展望台を映していて、中には千束達と同じ制服を着た少女達がいた。

内容は、タワーが何者かに占領されて銃撃戦が行われているといもの。

何を隠そう、彼女達は千束達と同じリコリス。

公的機密機関のエージェントである彼女達がこうして表舞台に立たされてしまっている。

つまり、彼女らの存在が世間に露見したことを意味していた。

「隣の塔ではこんなことになっていたのか」

「織田作は見てなかったの?」

「真島が何か話しているのはわかったがそれ以外は」

「えー知らなかったのー?」

私の言葉に千束も驚いているようだった。

興味なさげに首を縦に振ると、今度はたきなはため息を吐きながら肩を落とす。

あの時の私には関係のないことだったから耳に入らなかったのだ。

「映っている男も殺さないとなと思ってただけだ」

「でも今はそうじゃないでしょ?」

隣で座っている千束の言葉に、「そうだな」と返す。

すると、彼女は少し嬉しそうな表情を見せた。

私もそれにつられて口角が上がる。となりではたきなも安堵した顔をしてくれている。

その通りだ。

千束もたきなも、そのために私の元へ駆けつけてくれたのだから。

だが、いつまでも余韻に浸っているわけには行かない。

脱線しすぎて目の前のクルミが露骨に不機嫌になっている。

彼女にも悪い事をしてしまった。手遅れかも知れないが、なんとか体面を保つよう努めないと。

少なくとも、今できるのは、彼女の話をちゃんと訊くとくらいだ。

「DAは延空木のリコリスを処分するつもりだ」

「リコリスを? どうやって?」

「そういうのをやるのは」

「リリベルだ~」

ミズキの言葉に千束は声をあげる。

それもかなり嫌煙するようなニュアンスが含まれている。

基本的に他者や物事に対して、敵ですらも嫌悪や悪意を見せない彼女がその4文字にここまで嫌悪感を示すとは思わなかった。

「リリベル。確か、俺の家にチンピラが来た時にも話していたよな」

「うん。リコリス狩りをやるなら奴等だ」

「昔はよ~く店にも来てたよ。千束を殺しに」

ミズキの言葉に多少の合点がいく。

そもそも、存在を秘匿されているリコリスである千束が、たった1人で活動し、しかも喫茶店では働いているなんていう事態がおかしいのだ。

人に紛れ、可愛い容姿で相手を油断させて殺すのが本懐であるリコリスが、普通に店に通う客とも仲良く話して接点を持つわけが無い。

現に、たきなはその例に漏れていなかった訳だし、時折店に訪れたフキとサクラというリコリスも、どこか話していると世間から切り離された感覚があった。

要はリリベルという集団は、顔や正体がバレたリコリスを殺す役目を背負っているのだろう。

裏社会でも良くある自浄作用の一つだ。

だが、それならばなぜ今は来ていないのかという疑問が浮上する。

当然、そういう矛盾や疑問について彼女が、クルミが反応しないわけがない。

「なんで来なくなった?」

「おっさんと楠木が上と交渉したのよ」

「いい奴じゃないか楠木」

なるほど、あの仏頂面も多少は気が利いているじゃないか。

彼女にはあまり良い印象を持てなかったが、流石に歴代最強のリコリスを失うわけにはいかなかったのだろう。

千束は「DA手伝わないといけなくなったけどね」とぼやいてこそいるが、そうしてくれなければ、巡り巡って私の命は無かったのだ。

感謝はしても文句を言うつもりはない。

「フキ達がやばい」

その証拠に、千束もすぐに表情を引き締めて真剣な眼差しをこちらに向けてくる。

彼女達の無事を祈るばかりだ。

「ラジアータのカバーはどうなってんの?」

「動作不良でダウン中だ。ロボ太だな」

状況の確認は続く。

そもそも、DAが運用してる最高AIであるラジアータは、この国の全てのインフラに対しての優先権を持つ。

言うなれば、偽装や情報統制が思いがままになる万能機だ。

それが機能していないとなると、事態は思ったよりも深刻かもしれない。

「それじゃどうしようも…」

たきなも同調したように顔をしかめている。だが、クルミの「まだだ」と云う声と共に、千束の手に何かを放り投げた。

小さい板のような物、USBメモリだ。

クルミのハッカー名であるウォールナットを準えたイラストが描かれてある代物だ。

「それを延空木の制御室に挿してこい。後はなんとかしてやる」

「でもラジアータが動かないんじゃ偽装も…」

「あーもうそんなポンコツ…」

 

 

 

 

――ウォールナットに任せろ。

 

たった一言。

彼女は云った。その目は、まるで些末ごとのよう。

世界最強のハッカーの名に恥じない一言だった。

それだけで、たきなも私も千束も納得してしまった。

彼女の本領はここからだ。

あの夜に、私が依頼した小細工など児戯にも等しい芸当を見せてくれるに違いない。

彼女なら、私達に出来ないことをやってくれると信じている。

もう、やることは決まっていた。

「どうすんだー千束ー」

運転席ではミズキが聞くまでも無いことを訊いている。

だが、私達の中心は彼女だ。

だから、彼女の答えを待つしかないのだ。

少しだけ間をおいて、彼女の口が開かれる。

千束の顔はすぐにいつもの笑顔に戻り、「よし」と呟くと手にしていたUSBを握りしめた。

そして、彼女は云った。

 

「リコリコ営業再開だ!行こう!」

 

あの夜からバラバラになった私達は、また1つになって走り出そうとしていた。

 

「織田作」

千束は続けて声をかけてくる。

どうした?と首を傾げると、彼女は「んっ」と手を出してきた。

座っていても身長には差があるため、見上げている彼女はどこか真剣な面持ちではあるが、多少のお遊びを感じられるのが彼女らしい。

だが、この手の意味はなんなのか?

「ほら、銃とマガジン出して」

ああ、そうか。

私は彼女の意図を理解して腰のホルスターに手をかける。

そこにはいつもの愛用している拳銃と、予備として持っている多量のマガジンがある。

それが次々と。

「一体どんだけ持ち出したの? 先生が持ってけって言ったけど少しは遠慮してよ~」

「ジイドと戦うなら、それでも足りないくらいだ」

「…ジイド」

たきなの顔が険しくなる。

おそらく、延空木のどこかに奴がいるはずだ。

しかし、端末の映像から映し出されたリコリスたちはまだ健在だ。負傷者こそいるが、動ける人員がある程度見て取れた。

ジイドが仕掛けたなら、彼女達は全滅だ。

一体どこに隠れているんだ。

「ほら、織田作」

と、思考の海から千束の声が引き戻してくれる。

気付けば彼女は私の前に両手を差し出していて、その上には私が持ち出した弾倉が同じ数あった。

違う点があるとすれば、込められている弾の先端が赤く、実弾のような鉛ではない。

それは、千束の愛用する非殺傷弾だ。

「命大事に、人は殺さない。約束できる?」

真剣な顔で千束は聞いてきた。

その問いに、「勿論だ」と私は僅かの逡巡もせずに応えていた。

アイツだけじゃない。

ミカも、ミズキも、クルミも、たきなも、千束も。

彼女達は、そのために私を救ってくれたのだ。

1度踏み入れ、命を落としたあの世界へ。

私は彼女達を守るためにもう一度そこに行こうとした。

だが、彼女達が止めてくれた。

引き戻してくれたのだ。

それを無碍になんてできるわけがない。

差し出されたマガジンを受け取ると、外套やリストバンドの至る所に忍ばせる。

千束の表情が和らぎ、満足そうな笑みを浮かべる。

隣で座っているたきなも安心したような表情でこちらを見ており、ミズキに至っては演歌を歌っている始末だ。

「あーそうだ!」

思い出したように、千束は声を上げる。

その声に反応すると、彼女は私の顔を覗き込んでくる。

しかも目が可笑しい。

半開きのジト目。

いつも不機嫌な顔をした時や、何か企んだりしている時によく見る表情だ。

「私さー、一応ケジメは必要だと思うんだよねー」

「何の話だ?」

「えー? 私の命令無視したじゃん。その上、お店を勝手に止めるとか言い出すし、皆の空気最悪にしたじゃん。そこら辺のケジメはつけないと駄目だと思わないかなぁーって思うんだけど」

「……確かに、それも一理あるな」

千束の言うことはもっともだ。

私は千束の心臓を手に入れるために、彼女達と離反した。

手に入れるにはそれしかなかったからだ。

吉松曰く、心臓は彼の胸の中にあったと云うが、どの道殺して奪うつもりだった。

未遂とは云え、そのケジメを付けろと彼女は云っているのだ。

全ての発端は私なのだから。

「千束、地上で話しましたけど私は謝りませんからね」

たきなは千束にそう告げた。

「あーはいはいわかったからー」

千束とたきなの様子を見ると、あの時銃を渡さなかった件に関しては、少なくとも彼女達の間で話がついているらしい。

だから、私の元に駆けつけたときは2人だったのだろう。

それならばもう私は何も云えまい。後は私自身の話なのだから。

「というわけでー、何かケジメを付けて欲しいんだけど」

「何をすればいい」

「そうだね~」

顎に手を当てて考える素振りを見せる千束だが、恐らく考えていることは同じだ。

彼女はこう見えても結構意地悪な部分がある。

そして、私は彼女のそんな部分が嫌いではない。

「まずはやっぱり、今後も私に絶対服従。命令違反は許さないから」

「あぁ、承知した」

「後は、やっぱり皆の許しも必要だと思うから、全員からちゃーんと気持ちを受け取って」

要は、全員から一発もらえという事らしい。

その証拠に、ミズキが「え! マジ!? 織田に一発かませんの!? 誰か運転代わって!!」と異様に興奮しているし、たきなの方を見てみれば苦笑いしていた。

クルミに至っては呆れ顔だ。

しかし、ここで私が断るわけにもいかない。

そもそもこの程度の事で許されるなら安いものだ。

私は了承の意を伝えるべく、首を縦に振った。

「じゃあ、まずはクルミから!」

「おお、僕か?」

突然指名されたクルミは小さく驚きの声を上げていた。

だが、すぐに「まあいいか」と呟くと、私の前に立ち、右手を振り上げた。

ペチンと頬に当たる感触。

それは彼女の平手打ちだった。

予想外だったが、別に痛みはなかった。

「これで勘弁してやるよ」

そう言って、彼女は私の頭を乱暴に撫でた。

「あと、ミズキが運転してるから僕が代わりに」

「あ! 待って! 私やるから! 後で本気でぶん殴るから待って!!」

「ほーいデコピンだ」

「あああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

悲痛な叫び声を背に、クルミは私の額を弾いた。

軽い感触が伝わり、思わず手で押さえてしまう。

その様子に、千束とたきなが吹き出してしまう。

だが、当の本人はやり切ったと言わんばかりの表情をしていた。

何とも彼女らしいと思った。

ミズキはせっかくの好機を逃してか項垂れている。

「次、たきな!」

「はい」

たきなの番になり、彼女は私の前に立つ。

その表情はどこか緊張気味だ。

きっと、私に向かって手を上げること自体が初めてだからだろう。

それに、彼女は私を慕ってくれていた。

だから、手を上げることに抵抗を感じているのかもしれない。

「じゃあ…行きますっ!」

意を決した彼女はそれだけ言うと、私の胸に頭突きしてきた。

「あ、あれ? これだけか?」

「えぇ、今はこれが精一杯です」

「そうか」

「でも、きっとこれからもっと大変ですよ」

「どういう意味だ」

「ふふっ、自分で考えてください」

たきなの言葉の意味が分からず戸惑っていると、彼女は私から離れた。

「最後は私だねー」

千束は私の前で仁王立ちする。

そして、その表情は不敵な笑みを浮かべていた。

自信満々、傲岸無礼、唯我独尊。

どれも彼女に当てはまるが、彼女の一挙手一投足はいつも私の心を豊かにしてくれた。

私は覚悟を決めると、千束の瞳を見つめ返した。

「ねぇ、織田作」

「なんだ?」

「目を瞑って?」

「何故だ」

「いいから」

「……」

「早く」

「わかった」

私は素直に従う。

千束が何をするのか気になったからだ。

一体どんな事をしてくるのか、楽しみでもあった。

千束が目の前にいる気配を感じる。

恐らく、手を伸ばせば届く距離だろう。

私は、千束の細い指先が触れるのを待つ。

だが、いつまで経っても、その瞬間は訪れなかった。

「どうした?」

私は目を開ける。

するとそこには―――。

「やっぱ無理ぃ~」

両手で顔を覆っている千束の姿があった。

クルミはそんな彼女の姿を見て苦笑いをしていた。

「おいおい、お前はそれでいいのか」

「だって、なんか恥ずかしいんだもんー。皆いるしー! こんなの絶対出来ないよぉ!」

「何を今更……」

「うぅ……ごめんなさい……本当にごめんなさい」

「まぁ、気を落とすな」

私は千束の肩に手を置く。

千束はその手に自分の手を重ねると、「うん、ありがとう織田作」と微笑んでくれた。

これでケジメはついた。

後は、私の気持ちの問題だ。

皆が許してくれるかどうかだ。

「さあ、そろそろ延空木に着くわよ! 千束! たきな! 織田! 頼んだかんね!」

ミズキがそう叫ぶと同時に、ヘリは高度を下げていく。

さながら宇宙船が空へと飛び立つ直前のようにそびえ立つ赤と白の塔が、眼前に広がっていた。

「行こう、織田作」

「行きましょう、織田作さん」

「ああ、そうだな」

二人の少女に促され、私は一歩を踏み出す。

この先に待ち受けるであろう困難に立ち向かうために。

私達の未来を切り開く為に。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

場所は変わって延空木内。

第一展望台と呼ばれる下の階層にはヘリポートがあり、そこでビル内に侵入した私達はそのまま真島の部下達が占領している第二展望台の制御室へと向かっていた。

今はすでに上の階層に上がっており、第二展望台から制御室へ一直線に繋がっている通路を駆け抜けていた。

千束とたきなは私の前を先行している。

「映像でも中の様子見れたが、展望台は酷い有様だったな」

「おそらく、何かの爆弾にやられたんだと思います」

情報よりも中は荒れていた。

血は施設内のスプリンクラーで洗い流され、死体も見当たらなかった。

だが、施設内に残された新設されたばかりの床や内装は爆破で亀裂が走っていた。銃撃戦で争った痕跡も見受けられた。かなり激しい戦闘だったことを物語っている。せっかくの完成セレモニー、来客は年明けになるだろう。

「多分、他のリコリスは下にいる。まだフキ達が戦ってるかも!」

「なら急がないとな」

途中で遺体をいくつか見つけた千束の声に応えた私達は、更に足を速める。

やがて、前方に扉が見えてきた。

奥からは激しい銃声が聞こえる。

弾の回転数や爆発の音からミリガンの可能性が高い。

この真っ新な施設でよくもまぁそんな代物を扱える。

流石はテロリストだ。

だが、音の元に近づくと、そのけたたましい連射音は破裂音と共に消えた。

何者かが手榴弾を投げたのだ。

かなり戦況は荒れているらしい。

「私とたきなが出る! 織田作は締めをお願い!」

「任せろ!」

千束達が中に入り、後れて私も突入する。

制御室の手前にあるフロア中の状況は急を要していた。

屈強な体躯の男が、見覚えのある赤い制服の少女の首を絞めている。

果敢にもその少女は男の腕にナイフを突き立てるが、角材のような腕には歯が立っていない。

男は腕に刺さったナイフをそのまま爪楊枝でも取るように抜き取ると、壁に叩きけた少女に突き立てようとしているところだった。

「よいしょっと!」

だが、赤い花が一つ咲いた。

男に炸裂した。

千束だ。

まずは頭に撃ち込んだ後、身軽に飛び上がって男の腕に乗ると、頭にさらに追撃を加える。飛び降りて腹にも一発。体勢を崩した男に千束は潜り混むと、のど元に銃口を突きつけて引き金を引いた。

男の身体は糸が切れた操り人形のように崩れ落ちた。

呆然としていたもう1人の男にも、両肩に赤い花が咲く。

千束の撃った非殺傷弾による粉塵では無く、赤い鮮血だ。

よろめいた男にそのまま突撃したたきなは前転するとそのまま男の下あごを蹴り上げる。極めつけに、拘束具として使用しているワイヤーショットを首と両腕に撃ち込む。

「ぐっ」という短い悲鳴の後、男の意識は完全に途絶えたようだ。

「千束!」 「たきな!」

2人の少女が声を上げた。

片方は三白眼の少女、もう片方は垂れ目の少女。

丁度彼女達の死角となる位置に、伏兵が潜んでいたからだ。

だが、千束もたきなも彼らに反応すらしなかった。

それはなぜか?

 

もうすでに彼らは無力化していたからだ。

彼らは最初から気を失っていたかのようにその場に倒れ込んだ。

少女2名が声を上げる前に、私が見た未来で彼女達が男2名を無力化した後を背後から奇襲を仕掛けようとしていた。

それを私が撃った。当然、非殺傷弾故に彼らは気を失っている。

「ありがとう、織田作」

「助かりました」

トドメを刺すべく、ワイヤーショットで彼らを縛り上げた千束とたきながこちらを振り向く。

それに応えるように手を軽く上げた。

私達3人で行う制圧も、相当洗練されてきた。

春にたきなが喫茶リコリコに訪れてから、半年以上が経っていた。

最初こそ意見の食い違いや目的の相違で衝突することはあったが、今は互いに信頼し合っている。

だからこそ、こんな状況でも臆することなく行動できる。

私の未来予知など、もはやその助けにもならない。

「たきな!」

この場を制圧したため、安堵した少女の1人がたきなの元へ声をかけている。

DAで声をかけられた少女だ。たきなとの蟠りはまだ不完全燃焼に見えるが少しずつしこりが取れているように見える。

一方、もう1人声を上げた少女はと云うと……。

「フキ!」

という千束の制止の声。

「フ~キ!」

「なんだ!」

「やめて」

「お前の現場じゃない!」

フキと呼ばれた少女は自身の首を掴んでいた男の喉元に銃口を突きつけている。それを千束が癇癪を起こした子供をあやすように諫める。

その様子はまるで、姉と妹のようだった。

実際、千束と彼女の間柄はそれだけ深いように見える。

あの赤い制服はリコリスでも最高階級の物。

私は千束の他にフキ以外でそれに袖を通していた少女を見たことがない。

千束に対して声を荒げているのも、彼女に対する対抗心あってことだろうが、今はそれどころじゃない。

「リリベルが来てる」

「何!? くそっ…何で!」

リリベルという単語の意味を私以上に知っている彼女は状況を瞬時に察知したらしい。だが、それ故に行き場のない感情を倒れていた男にぶつけていた。

鈍い音が聞こえるが、千束の前だ。

殺しはしないはずだ。

それ以上に、恐ろしい連中が来る。

「千束、織田作、早くしろ~。お出ましだぞ」

インカムからはクルミの幼い声。

リコリスを殺す死神がこの塔に訪れた知らせだった。

「とにかく制御室に急ごう」

千束の提案に、「待って」と声が入った。

たきなに声をかけていたエリカだった。

耳に付けられた無線を押させながら私達に話し出す。

「今、ヒバナから連絡があった。逃げ遅れてはぐれちゃった子達がいるって」

加えてフロアの脇に蹲っていた少女も声をかけてきた。

この刈上げの髪型をした少女はサクラだったか。

「確か、第二展望台にいた連中を叩いたリコリス達が結構負傷してたんっすよ」

「…ジイドの仕業か」

「なんでジイドなの?」

千束の問いに簡潔に答える。

ジイドが真島といつ行動を共にしたからわからないが、最低でも二ヶ月以上はある。その間に、奴が真島の部下に戦闘訓練を仕込んだのだ。

チンピラ上がりのテロリストとは訳が違う。

歴戦の軍人から手ほどきを受けたのだ。

先の伏兵の出方と良い、相当手際が良い。

真島の部下だけでもサードリコリス1人分の戦力と見て良いだろう。

決して彼らだけならばリコリスでも敵わない相手ではない。だが、苦戦は強いられたに違いない。

「爆破前に負傷した奴らがボヤいていたな」

「なるほど…」

どちらにしても窮地だ。

もはや一刻の猶予も無い。

リリベル達はクルミのナビ曰くすさまじい速度で施設内を制圧しているという。

撤退班全体はともかく、逃げ遅れたリコリスたちの命が危ない。

ここの人数は十分足りている。

ならば…

「千束、行かせてくれ」

「…わかった」

「はぁ!?」

私の提案と千束の了承にフキは再び声を荒げた。

それはまるで飛び降り自殺をしようとしている人間を止めようとしてる人間のそれだった。

私はインカムでクルミに援護を求める。

「クルミ、なんとかして逃げ遅れた子達のルートを作ってくれ」

「おい待て! アンタがいくら強いって云ったって、今から押し寄せるリリベル敵うわけ無い!」

「大丈夫」

「大丈夫なわけあるか! お前、コイツに死ねって云っているようなものだぞ!」

彼女は理解しているのだろう。

リリベルの恐ろしさを。

千束に並ぶ歴戦のリコリスだ。リリベルに殺された仲間や同僚を数多く見てきた故の説得力が、彼女の三白眼から感じられた。

だが、他に選択肢が無い。

「千束、悪いがお前のもう一つの銃を貸してくれ。予備のマガジンも」

「わかった。時間を稼ぐだけで良いからね」

「おい! 話を聞けって!」

隣で騒いでいるフキを、たきながそっと肩に手を置いて諫めている。

問答の時間は無い。

早く動かないと救える命が手遅れになる。千束が差し出した拳銃を手に取る。

千束が私を止めるために自身の頭を撃とうとした、人を救う銃。

彼女は最後まで、この銃をそのために使っていた。

ならば、私もそれに倣うこととしよう。

それが、千束達に救われた私に出来る最大の恩返しだ。

長い間空いていた右のホルスターに差し込んだ。両脇に銃がある感覚が懐かしく、不思議と心が落ち着いた。

「ところ千束、一つ確認していいか?」

踵を返した私はフロアを出る直前に立ち止まる。

 

 

「時間を稼ぐのはいいが――

 

 

 

 

 

 

 

 

  別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」









CV:諏訪部順一
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