ふう、と部下が運転する車の助手席に深く座り、伊達は息をついた。
「さすがにお疲れですか、伊達さん」
伊達にしては珍しい姿に、ハンドルを握る部下はつい苦笑して言う。
彼が伊達とペアを組むようになってそれなりの年月が経ったが、タフが自慢の伊達がここまで憔悴するのを見たのは初めてだった。
「というか無理しすぎですよ、本当に」
倒れたら元も子もないのに、というもっともな声に、実は他の誰よりも睡眠や休息の時間を削って捜査にあたっていた伊達はいいんだよ、とあくび混じりに返す。
「今のままじゃ捜査状況が気になって休んでも休めねえんだよ。だったらその時間も捜査に当ててぇだろ」
「その気持ちはわかりますけど……」
今も地図と捜査資料を見比べる伊達に、移動中だけでも休めばいいのに、と部下はため息をつくしかない。
「……何か伊達さん、妙にこの
「おいおい、妙な邪推すんなよ」
別にこの事件に特別な思い入れがあるわけじゃねえ、と返されても、伊達をよく知る部下はへ~~~とまったく信用してない声を返すだけ。
こいつ生意気言うようになったなと思いつつも、まったく的外れなわけでもない彼の言葉に、伊達はついつい窓の外に視線を逃がした。
いや、この事件自体に特別思うところがあるわけではない。
もちろん警察関係者が殺されていること、そこに見えた警察の驕りと怠慢、安全圏から他者を操り嘲笑うような黒幕への嫌悪、無関係のはずの悪友が狙われていること、何より罪もない多くの民間人の命が危機に晒されていること――焦らざるを得ない状況ではある。だが、伊達を急き立てるのはこの事件そのものではなかった。
何よりも、そう――同期で同班の彼らがそろっているのは大きい。
「ちっと意地になってるとこはあるかもしれねえが」
部下をもち、班を束ねる立場である以上、同じ捜査一課強行犯係の松田とすら同じ現場に向かうことは多くない。だというのに今回は何の因果か、例外に例外が重なった結果、公安どころか監察官の柊木まで巻き込んでの合同捜査。六人がそろってひとつの事件に立ち向かうなど、どう考えてもこれが最初で最後になるだろう。
伊達にとっては手が掛かるくせに頼りになり、それぞれ自分にはない強みをもちながらも頼りにしてくれる可愛いやつら。そんな彼らと同じ敵に立ち向かっているこの状況は、いくら捜査に私情を持ち込むなと言われても、さすがに。
「……そりゃ、張り切っちまうだろ」
力になりたい。負けたくない。その声に応えたい。始まりを同じくした彼らに、自分がこれまで培ってきたものを見てほしい。
仲は良くとも馴れ合っているわけではなく、認められていることは知っていても、それに甘んじていたくはない、そんな関係だからこそ。
「気張っていかねえと、……ん?」
「伊達さん?」
寝不足で霞む目が、信号待ちで止まった車の窓の外にどこかで見た顔を捉えた。
いま捜索に当たっている対象本人ではない。しかし、伊達がこれまで鍛えてきた「刑事の勘」が絶対に見逃すなと告げていた。
捜査資料に記載された情報が堰を切ったように脳に溢れ出す。これまでに得た対象の情報、現状の手がかり、考えられる関係者、さらにその詳細情報まで。ばらばらだった情報が繋がっていき、地図の上にひとつの建物が浮かび上がる。
「――路肩につけろ、尾行する!」
「、えっ」
「いいから車停めろ!」
あからさますぎて気付かなかった、と伊達は急いでスマホを取る。
まだその可能性があるというだけで、確証があるわけではない。だが、何故だかま頭の中にある仮説が正しい気がしてならなかった。
「風見さん、伊達です。いま担当エリアへの移動途中なんですが、ちょっと気になるやつを見かけまして――」
理屈だけでは語れない、刑事の勘という名の経験則。
ずっと「刑事」として職務を果たしてきた伊達だからこそ。
息を殺して後を追う。追加の情報を受け取り、さらに張り込みを続け、とうとう。
「――こりゃ、当たりだ」
眠気も疲れもとうに吹き飛んでしまった日本狼の眼が、獲物を捉えた。
これ、伊達さんの功績でした。