桜の矜持   作:ふみどり

7 / 23
7

「マツバの本名は、許斐葉太。二十一歳、都内の大学に通う大学生です」

 

 正直言って、柊木にとっては印象深い出会いでも何でもなかった。事件自体は大きくとも、マツバと会話したのもほんの数分のこと。警察を心底嫌っていた彼には少々手を焼いたが、日頃魑魅魍魎のなかで渡り合っている柊木にとっては子犬がきゃんきゃん吠えてる程度にしか感じられなかった。むしろ嫌いなもの相手に馬鹿正直に嫌悪を表現する彼のことは、根はまっすぐな青年なのだろうと思ったことを覚えている。

 

「彼と会ったのは、数年前に起きた爆破事件のとき。逃走の際に不慮の事故によって仲間が亡くなったことを恨んだ犯人が、警察官を狙って起こした事件です。毎年十一月七日に警察にFAXを送りつけていた爆弾魔と言えば思い出す方も多いでしょう」

 

 そう素知らぬ顔で柊木は言うが、もはや伝説と呼ばれて久しいその事件を知る者の視線は、自然の柊木の後ろにいる彼に向く。当人は決して誰とも目を合わせまいと、ひたすらに宙を見ていた。

 

「当時、私は体調不良を起こした松田刑事を病院に連れていっており、偶然にも爆弾を発見しました。詳細は省きますが、結果として私は病院内にいた民間人の避難指揮を執ることになり、医師や看護師の方に患者の避難補助の指示を出して回っていました。彼と会ったのは、そのときのことです」

 

 病室から少し離れた場所にあった、あまり日当たりのよくない屋上。避難しそびれたひとがいないかとドアを開けた先に、彼はいた。右足に痛々しいギプスをつけ、屋上の手すりによりかかっていた彼。その顔には、まだ癒えぬ痣もあった。

 君、と柊木が声をかけると、振り返った許斐。かなり院内は慌ただしかったが、あまり人が来ない場所にいたために気づかなかったらしい。覇気のない顔で佇んでいた許斐だったが、避難を呼びかけようと柊木が警察手帳を出した瞬間、その形相は様変わりした。

 

『警察が何の用だ!!』

 

 もともとあまり好かれる立場でない柊木も、ここまで噛みつかれたのは初めてのことだった。さすがの柊木も思わず瞬きをいくらか重ねる。

 それでも何とか穏やかに声をかけつつ、院内に危険物があること、避難をしてほしいことを伝えるが、これがまた聞く耳を持たない。

 

『私服ってことは今は仕事かんけーねえんだろ!!』

『だったらほっとけよ、給料も出なきゃ点数稼ぎにもならねえんだろ!?』

『正義面しやがって、偉そうなこと言ってんじゃねえよ!!』

 

 と、ひたすらにそんな言葉を喚き散らしていた。出会ったばかりの頃のアイツですらあそこまでうるさくなかったな、と柊木は今や同じ会議室でスーツを着ている相良を思う。その剣幕を思い出して小さくため息をつきつつも、柊木は何でもないように続けた。

 

「まあそれでも何とか穏便に説得して避難していただいたんですが」

「ほう、()便()に」

「ええ、()便()に」

 

 あえて繰り返した降谷に、柊木もしれっと言葉を返す。絶対これは穏便じゃなかったな、とそれを見ていた同期一同は心の声をそろえるが、まあ誰も口に出しはしない。

 当然ながら、それは世間一般的に言われる「穏便」と言えるものではなく。最初のうちは確かに落ち着かせようと穏やかに声を掛けていたのだが、あまりにも言葉を聞かないので柊木の頭の中で何かが切れた。

 梃子でも動くまいと、屋上のフェンスに凭れしゃがみこんでいた許斐の腕を取り、柊木は笑顔を消して声を荒げる。

 

『うるっせぇな何でもいいからとにかく立て!!』

 

 柊木としては、自分で避難することの出来ない患者や、乳幼児の避難の様子を優先的に見に行きたかった。怪我をしているとはいえ自力で動ける許斐の相手ばかりはしていられない。しかしもちろん、見捨てるという選択肢はあり得なかった。

 振り払おうとする腕を力づくで抑え込み、柊木は許斐を睨みつける。

 

『俺が今日非番だろうが、お前が警察嫌ってようがどうでもいい! だけどな、それでも俺は警察官なんだよ! 怪我じゃ済まねえ事態に巻き込まれるかもしれない民間人ほっとくわけにはいかないってわかれ!』

『な、』

『いいか、俺はお前が片意地張って喚こうがフェンスにしがみ付いて動くまいが絶対避難させるからな。担がれたくねえならとっとと立てクソガキ!!』

 

 そして許斐が呆然としている隙に彼を立たせ、ついてくるようにまた怒鳴りつけた。不思議とその後の許斐は特に抵抗や口答えをすることはなく、おとなしく柊木の避難誘導に従った。大人しすぎてそれはそれで不気味だなと思いつつ、彼を避難所にいた看護師に引き渡したことを覚えている。

 それを聞いた杉下は、しかし、と少し考えるように言葉を並べる。

 

「どうやら彼は、警察官は警察官でも()()()の警察官に何か思うところがあるように聞こえますね?」

「仰る通りです。その原因は、彼が入院するに至った経緯にありました」

 

 足のギプスに、顔の痣。避難に手を貸してやった時にわずかに見えた袖や服の下にも、治りかけの痣特有の変色した皮膚。どう見てもそれは、暴行を受けた痕であった。

 顔に浮かべた笑みを崩さないまま、柊木は背に隠した手を握りしめる。この世に聞いて気持ちのいい犯罪事件など当然あるはずもない。そこには必ず、怒りがあり、悲しみがあり、苦しみがある。しかし、許斐葉太が巻き込まれたのは、柊木が知る中でも特に胸の悪くなる事件だった。

 込み上げる怒りを殺し、柊木は口を開く。

 

「許斐葉太は、警察に裏切られたんです」

 

 

 ***

 

 

 あくまでも静かに、柊木は語り始める。出来ることなら、今すぐにでも()()を締め上げてやりたい気持ちを、抑えながら。

 

「許斐葉太には、幼馴染がいました。名前は戸松和也、許斐と同い年で、幼いころから非常に仲が良かったそうです」

 

 活発な許斐と、引っ込み思案な戸松。性格こそ正反対であったが、彼らはよく共に遊んでいたという。いつだって何事も思いついたら一直線の許斐を宥めるのは戸松の役割であったし、気弱で繊細な戸松に手を差し伸べ励ますのは許斐の役割だった。中学にあがって違う学校に通うようになっても、二人の友情は変わらなかった。戸松が、学校での人間関係に悩み、引きこもりがちになってしまっても。

 

「…学校での人間関係なんてぼかした言い方をするのは良くないですね。つまり、いじめです。戸松和也は徐々に学校を休みがちになり、家に引きこもるようになってしまった」

 

 気の弱い戸松は、素行の悪い生徒にとって恰好のターゲットであったらしい。《友達》だからと体よく使われ、金銭を要求され、暴力へ発展していった。

 許斐は、学校に行かない選択をした戸松をすんなりと受け入れた。話を聞き、じゃあそんな学校になんて行かなくていいと、笑い飛ばした。

 

「二人の関係は変わらなかった。…仲の良い、友人だったのです。そこに第三者が加わっても、なお」

「…第三者?」

 

 繰り返した降谷に、柊木は小さく頷く。

 許斐の支えもあり、時間を掛けて少しずつ元気を取り戻していった戸松。同じ学校の生徒に鉢合わせしないように、昼間にこっそりとだが少しの外出をするようになった。それに、たまに学校をサボった許斐が付き合うことも。

 そんな二人に声を掛けたのが、その人だった。

 

「その地域を管轄していた交番の巡査です。昼間に堂々と出歩いていた二人を補導しようとしたことがきっかけだったと。戸松の事情を知った巡査は、それからもよく二人を見かけると話しかけに行き、交流をもつようになったそうです」

 

 そうしてその巡査はいつしか二人にとって心から信頼できる大人になっていったのだと、静かに語る柊木。その後ろで話を聞いていた相良は、どこかで聞いたような話だと何となく目をそらす。同時に、相良には二人の気持ちが痛いほどわかった。

 親でも、教師でもない他人の誰か。自分に構う理由も責任もない《誰か》が、自分たちに声をかけてくれる。気にかけてくれる。言葉を聞いてくれる。それはどこかうっとおしくも、くすぐったい気持ち。全く関係のない他人だからこそ、響くものがある。

 同時に、相良は思った。だからこそ、と。良くも悪くも、その人がもつ影響力は大きいのだ、と。

 

「交流を持つ中で、巡査は戸松が通っていた学校にも働きかけるようになりました。立場上、あまり直接的に首を突っ込むことは出来なかったようですが……それでようやく学校側もいじめ問題に真剣に対処するようになったと」

 

 いじめと言えば学校内での問題のように聞こえるが、その内実は犯罪だ。暴行罪、傷害罪、器物損壊罪、名誉棄損罪、強要罪、脅迫罪、あらゆる罪状が成立する可能性がある。

 この犯罪に毅然として対応しないのであれば、戸松に被害届を出すよう勧める、と巡査は申し出た。それが学校を動かすきっかけになり、同時に事件への引き金にもなった。

 

「結果として、いじめを行っていた生徒たちは退学や停学といった処分を受けました。しかし、これまでろくな対応もしてこなかった学校からの突然の処分です。いきなり処分を申しつけられた生徒たちは憤り、その矛先は戸松へと向いた」

 

 ひと気のない場所にある廃屋。そこが、その生徒たちのたまり場だった。

 外出の最中、突然連れてこられた戸松。囲まれ、降りかかる拳と蹴り、果ては打ち捨てられていた角材や瓶。処分を受けて自暴自棄になっていた生徒たちは、もはや加減を知らなかった。痛みを避けるよううずくまりながら、隠し持っていたスマホで戸松は助けを求める。単語ばかりの短いメッセージを受け取った許斐は、走った。

 

「学校を飛び出し、単身その廃屋に飛び込んだと、当時の捜査資料にありました。結果として二人はひどい暴行を受け、一時は昏睡状態に陥るほどの重傷を負った。これが、許斐が入院していた経緯です」

「……? 君と許斐が接触した時の話には、戸松のことは出てこなかったな」

「はい。戸松和也は事件後、身体が動かせるようになるとすぐ、自ら命を絶ちました」

 

 静まり返っていた会議室に、動揺が走る。幾人かは、痛まし気に目をそらした。

 柊木はひとつ大きな息を吐き、ここからは私の推測を含みますが、と言葉をつづけた。

 

「この戸松の自殺こそが、許斐がもつ警察への憎悪の原因ではないかと」

「……根拠を聞こうか」

「根拠として、四点挙げられます。一つ、暴行を受けている間、許斐は戸松に繰り返し叫んでいたそうです」

 

 あの人がすぐ来てくれるから、大丈夫だから、と。

 柊木の言葉の続きが読めた察しの良い幾人かは、そこで奥歯を噛みしめる。

 

「二つ、ちょうどその日、巡査は非番でした。三つ、その場に警察が来たのは許斐が現れてからもかなり時間が経過した後で、しかも通報したのはたまたま付近を通りかかった無関係な民間人。四つ、戸松和也が自殺したその日、」

 

 そこで柊木は言葉を切った。込み上げる怒りを押し込めるあまり、柊木の顔からも一切の表情が消えた。その隣に立つ諸伏は、静かに目を伏せる。

 

「警察関係者が一人、彼のもとを訪れていたそうです。当時を覚えていた看護師の方が仰るには、……事情聴取でなく、私的な見舞いに来たと言っていた、と」

 

 どの面下げて、と唸るように言葉を漏らしたのは、誰だったか。それは、柊木の話を聞いていた全員の総意だった。

 詳しい事情はわからない。推測はあくまでも推測であってそれが真実とは言い切れず、また仮にそれが真実であったとしても、それには異なる側面が隠れているかもしれない。しかしタイミングを考えれば、巡査の見舞いが戸松の自殺と無関係とはどう考えても思えなかった。

 

「…嗚呼失礼、もうひとつ補足があります」

 

 柊木の無表情に、わずかに感情が付け足される。それはどうしようもないほどの軽蔑と、嫌悪と、やりきれなさだった。

 

「この巡査、ちょうどこの事件が起こる数日前に、昇進の内示を受けています。その地域での()()()()()()()()と、()()()()()()()()()()()が評価されて」

 

 今は地方署に異動して巡査部長、まじめな勤務態度が非常に評価されている、と。

 会議室の空気は、もはや殺気に近かった。とりあえずその巡査締め上げて全部吐かせてやる、と誰もの瞳が燃えている。

 

「以上のことから、マツバこと許斐葉太は三日後、この巡査を殺害するつもりなのではないかと」

「……なるほど。許斐の所在は?」

 

 降谷の言葉を受けて、諸伏が確認済みです、とすぐさま応じた。

 

「許斐は現在都内で一人暮らしをしておりますが、この数か月は大学を休学し、ほとんど家から出ていないようです」

「よし。ではすぐに聴取を―――」

「ああ降谷警視、その前にちょっとよろしいですか?」

 

 指示を出そうと刑事たちに目を向けた降谷の言葉を、柊木が遮る。先ほどまでの無表情はかき消え、彼の顔には再びにっこりとした笑顔が浮かんでいた。

 知っている人は知っている。この笑顔が、彼にとっては査問会のときに使う表情だということを。

 

「……何ですか、柊木監察官」

 

 貴方の仕事は終わったはずだが、と言わんばかりの降谷にも、柊木は笑顔を崩さない。ゆっくりと足を進め、降谷に近づいた。

 

「ひとつ、お伺いしたいことが」

「どうぞ」

「ありがとうございます。もし仮に、これまでの推測がすべて正しかったとしましょう。その場合、おそらく彼らの目的は()()()にあります」

 

 逃げるつもりはないと言った許斐。柊木は、その言葉に嘘はなかったと考えている。おそらく彼らは、目の前に刑事が現れたなら、すべてわかっていると言われたなら、抵抗することなく聴取を受け、犯行のすべてを自白するだろう。隠し持っていた証拠を警察に提出し、真実を白日のもとに晒すのだ。その、犯行を起こした動機とともに。

 

「彼らの本当の目的は、公判の場ですべての真実を告発することです。警察らしからぬ行動を取り、民間人の信頼を奪った彼らの行動を世間に知らしめるために」

 

 ざわりと動揺が走ったが、降谷の表情に変化はない。何をわかりきったことを、と言わんばかりの態度だった。柊木も、降谷がその程度で怯まないことはわかっている。自分が言おうとしていることのすべてを把握したうえで、それでも彼らを捕まえることもわかっていた。それでも、柊木は言わなければならないと思った。

 なぜなら柊木は、監察官であり、降谷の友人なのだから。

 

「当然、そんなことになれば警察への批判は避けられない。それだけでも上層は嫌がるでしょうね。しかも、謝罪の内容はおそらく()()()()()()に関わることになる」

 

 働き方改革だのワークライフバランスだので騒がれる昨今でも、警察の働き方は変わらない。特に現場に出る警察官ともなれば、公私の別なく、いついかなるときも呼び出されれば現場に走らなくてはならない。それが当然で、それが普通なのだ。けれど、それを当然とは思わない人間も、やはりいるのだ。

 

「謝罪の会見に誰が出ることになるかはさておき、きっとその場で誓わされるでしょうね。警察に身を置く者は、誰もが常に民間人のために在るべきだと。現場に出る人間だけでなく、内勤の事務方であったり、それこそ出向でたまたま警察に所属している、官僚であっても」

 

 ただの「仕事」というにはあまりに重い役回りを、全警察関係者に負わせることになる。それに憤りや、理不尽を感じる者も当然いるだろう。そのすべてを受け止める覚悟が、降谷にあるのかと。

 

「お考えを伺えますか? 降谷警視」

 

 慇懃に片手を開いてみせた柊木。その視線を、降谷は正面から受け止める。柊木の意図を正確に理解した降谷は、小さく息を吐いて立ち上がった。椅子を引く音が、会議室で大きく響く。

 

「今この会議室にいる者で、おそらく昨日の夜をまともに家で過ごした者はいないと思う。無論、私もそうだ。だが、きっとそれに不満をもつ者もいないことだろう」

 

 そう言いながら、降谷は会議室を見渡した。誰もが、心身を削って事件に当たっている。

 ただの仕事というには確かに過ぎた献身だ。勤務時間がどうこうなど、計算するだけで頭が痛くなるところだろう。しかし、少なくともそれについて不満を漏らす者はいない。職場環境の改善を訴える者もいない。

 それは、自分たちの職務の重みを、誰よりも理解しているからだ。

 

「犯罪を許してはならない。被害者の無念を晴らさなければならない。それが我々、社会正義を背負う警察としての務め。それをよくわかっているからこそ、君たちはろくに夜も眠れない激務に堪えている」

 

 人間扱いしていないと言えば、そうなのかもしれない。けれど、そうでもしなければ果たせない職務があるのだ。それを仕事と呼ぶのが酷ならば、こういう言い方をしよう。

 

「私は、『警察』とは仕事でなく、生き方だと思っている」

 

 だから、警察学校で誓うのだ。法律を擁護し、命令を遵守し、警察職務を何より優先し、恐れず、憎まず、()()()()()()()()()のだと。そういう組織に名を連ねる以上は、やはり、覚悟はしなければならないのだ。

 

「だから、良心以外に従ってしまった警察がいたのなら、それは公にして謝罪をしなければならない。だから、私たちは己の良心に従って彼らを捕まえなければならない」

 

 だから、と降谷はさらに続ける。

 

「たとえどんな憎しみを抱いたとしても、人を殺すことは許されないのだと示さなければならない」

 

 その原因が、警察にあったのだとしても。()()()()()、やらなくてはならないのだ。そこに一切の妥協など、あってはならない。

 改めて降谷の瞳が、柊木を射貫いた。

 

「お答えになっていますか、柊木監察官」

 

 挑むような視線を、柊木は笑顔で軽く受け流す。満足げに頷いて、柊木は言葉を返した。

 

「十分です。お答えいただき、ありがとうございました」

 

 軽く会釈すらしてみせた柊木に、降谷は皮肉気に笑う。二人にとっては認め合った相手だからこそのやり取りだが、周囲からすれば非常に胃が痛い。

 

「まるで査問でも受けているような心地でしたよ、柊木監察官。ここで私が彼らの聴取を見送ったり、証言を改ざんすると言ったりすればどうなっていたのでしょうね」

「貴方ならきっとそんなことは仰らないとわかっていたからこその質問だと思っていただきたいですね、降谷警視。ああでもほんの少しだけ、警察庁に告発状を送らずに済んでほっとしていることは否めません」

 

 はははと声だけで笑う二人に、降谷の右腕は胃を押さえ、その同期たちは内心で大きなため息をつく。このやり取り見てこいつら仲良いとか気づくやついないんだろうなあと、諸伏だけがのんきにそんなことを思っていた。

 

「話のついでに伺いますが柊木監察官、件の巡査……今は巡査部長ですか? その彼は、今どこに?」

「すでに上司に報告を上げましたので、聴取を受けているところじゃないでしょうか。身辺警護の意味も含め、すぐに召還すると上司が申しておりましたので」

 

 おそらく自ら聴取を行っているのではないかと、と柊木が言ったところで彼の上司を知る者は目をそらした。警視庁の監察官の呼び出しなど、地方署の巡査部長には恐怖でしかない。しかも主任監察官自らの聴取となれば、大河内もこの件に本気だということだ。すべての事情を吐くまで締め上げられることだろう。

 それなら結構、と降谷は頷き、改めて会議室を見回した。では、と改めて口を開く。

 

「容疑者全員に、任意同行を求める。拒否される可能性は極めて低いと見るが、逃亡のおそれがないとも言えない。決して油断はしないように」

 

 まずはこれ以上の犠牲者を、出さないために。

 ようやく見えた光明に、会議室にいた全員が立ち上がった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。