帝王の妹   作:優鶴

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1926年12月31日、雪の降りしきる中、孤児院でひとりの女性がふたりの子どもをうんだ。
ひとりは父親と祖父の名前をとってトム・マールヴォロ・リドルと名付けられた。もうひとりは、女性が名付ける前に力尽きたため、孤児院の女性によってレイリー・メローピー・リドルと名付けられた。ミドルネームに母親の名前をとって。
一つの年が死ぬ日に生まれた双子の兄妹は、彼らを包む布のように無垢で、何も知らなかった。


双子とホグワーツ入学許可証

 

「お兄ちゃん! 」

大きな漆黒の瞳を潤ませて飛びついてくる妹を受け止めてトムは微笑んだ。トムの双子の妹のレイリーは引っ込み思案でいつも兄の後ろに隠れている。同じ日に生まれたのに、お兄ちゃん、お兄ちゃんとあとをついてくるレイリーは可愛くてたまらなかった。

「どうしたの、レイ。」

お兄ちゃんに話してごらん―――そういえば、うるうると潤んで今にもこぼれおちそうな瞳がトムに向けられた。

「あのね、お兄ちゃん、お腹が空いたなあって思ったら棚が浮き上がってね、エイミーにケガをさせちゃったの。」

トムとレイリーの周りにはよく不思議な現象が起こる。トムもレイリーもそれが何かはわからなかったが、片割れが自分と同じだというのはどうしようもなく安堵することで。

「エイミーにケガをさせてしまったの? 」

「うん。ごめんなさいって言ったの。ケガさせちゃったから、ミセス・コールにお部屋にいなさいって言われたの。でも、お兄ちゃん、やっぱり怖いよ。エイミーを傷つけちゃったんだもん、レイとお兄ちゃんの力が、怖い……。」

トムは最初、この力を授かりものだと考えた。でもレイリーは何かを起こして誰かを傷つけてしまうたびに怖い、怖いと言ってトムに縋りついてくる。何よりも大事な片割れを、愛する妹を悲しませる力だから、トムはそれを嫌いになった。

「きっとエイミー、レイのこと嫌いになったの。この前だって電球が割れてみんなをケガさせちゃったのに、エイミーはレイと一緒にいてくれたのに、きっと、もうレイのことなんて嫌いになっちゃう! 」

自分の腕の中で泣く小さな妹の背中を撫でてトムは安心させるように囁いた。

「大丈夫だよ、レイ。僕は絶対にレイを嫌いになったりなんてしないから。」

「……お兄ちゃん。」

腕の中の温もりがひどく愛おしい。頬を流れる涙を拭ってやる。レイリーがわんわんと泣けば窓ガラスが割れてしまったけれど、トムも持っている得体の知れない力が割れた窓ガラスの破片から小さな兄妹を守った。

「僕だってレイと同じ力を持ってるんだから、レイが何をしたって僕が傷つくことはないよ? 僕は絶対にレイを嫌いにならないからね。」

「……っ、うん、お兄ちゃん。レイだって、お兄ちゃんのこと、絶対嫌いにならない! 」

小さな妹の温かさがトムの心まで温めてくれるようだった。とんとん、と規則正しいリズムで背中を叩いてやる。男の子と女の子ではこの年頃だと女の子の方が成長が早いというけれど、きっとレイリーはトムを抜かすことはないのだろう。いつだってトムの後ろをついてくる引っ込み思案なレイリーは、兄にとってはどんなに大きくなったって可愛い妹に違いないのだ。

やがて泣き疲れたのかトムの胸にもたれて眠ってしまったレイリーの頭を撫でてトムは微笑んだ。指を通せばすっと通るさらさらな黒髪はトムとお揃いで、トムは妹の髪を結うのが好きだった。レイリーだってトムの髪を結うのは大好きだから、トムの髪は男の子にしては長い。ミセス・コールは最初の方は切るように言っていたけれど、仲良く髪を編み合う兄妹の姿を目にしてからは何も言わなくなった。彼女は、何だかんだ言っても孤児院の子どもたちに優しいのだ。

トムはそんな小さな我儘を黙って許してくれるミセス・コールが好きだったし、レイリーが誰かにケガをさせてしまった時に部屋にいるようにと命じるのはトムに慰めてもらうための思いやりだと知っている。ミセス・コールのそんな不器用な優しさも大好きで、トムはこの孤児院をきちんと家だと思っている。それに、レイリーが孤児院が大好きだから、トムは尚更この場所が好きなのだ。小さな妹はトムにとっての世界のすべてで、レイリーだってそれは同じ。小さな兄妹は、互いに支え合って生きている。

 

 

 

トムがそうしてレイリーを慰めた翌日、孤児院をひとりの男性が訪れた。

「トム・リドルとレイリー・リドルの生い立ちについて、何かお話しいただけませんでしょうか? この孤児院で生まれたのだと思いますが? 」

「そうですよ。」

ミセス・コールは自分のグラスにジンを注いで頷いた。

「あのことは、何よりはっきり憶えていますとも。なにしろわたしが、ここで仕事を始めたばかりでしたからね。大晦日の夜、そりゃ、あなた、身を切るような冷たい雪でしたよ。ひどい夜で。その女性は、当時のわたしとあまり変わらない年頃で、玄関の階段をよろめきながら上がってきました。まあ、何も珍しいことじゃありませんけどね。中に入れてやり、一時間後に赤ん坊が産まれました。それからほどなくして、その人は亡くなりました。」

トムとレイリー、双子を生んだことによって、メローピーにはトム・マールヴォロ・リドルと己の名前、メローピー・リドルの名を残す時間しか許されなかった。それはいわゆる“原作”の世界軸とは異なることだった。レイリー・リドルの存在によって、それからのミセス・コールの語りは、“原作”とは異なるものになった。

メローピー・リドルのことを語りつくし、ミセス・コールは今度は子どもたちの話に移った。

「可愛い子どもたちですよ。」

「……可愛い? 」

男性―――ダンブルドアは少し訝しげだったが、ミセス・コールは頷いた。ジンによって、ダンブルドアの様子がおかしいことには気づいていなかった。

「ええ、少しおかしなところもありますけどね。妹の方は泣き虫で引っ込み思案でいつも兄の後ろに隠れているけれど、誰かをケガさせてしまったりしたらごめんなさいと謝って泣くものですから部屋にこもるだけで許してしまいますよ。兄の方はそんな妹を本当に大切に思っているようでね、よく妹のことを慰めています。可愛い兄妹ですよ。」

「おかしいと言うと、どんなふうに? 」

双子の様子については触れず、おかしなところというところだけにダンブルドアは目を止めた。そうですねえ―――ミセス・コールは言葉を切った。

「あの子たちは間違いなく、あなたの学校に入学できると、そうおっしゃいました? 」

「間違いありません。」

「わたしが何を言おうと、それは変わりませんね? 」

「何をおっしゃろうとも。」

「あの子たちを連れていきますね? どんなことがあっても? 」

「どんなことがあろうと。」

しばしの沈黙が落ちてから、ミセス・コールが口火を切った。

「あの子たちは、お腹がすくと棚をうかせたりしてしまうんです。窓ガラスが割れたりね。それでどうしようって泣くんですよ、ごめんなさいって謝りながら。いつもいつも自分のことを責めて、変な力があって怖いと言うんです。そんな子どもを責められるはずがありませんからいつもいつも許してしまいますけどね。」

「ええ、その原因は私たちにはわかります。」

「まあ! じゃあ、あの子たちも、もうこれでわけのわからない力で苦しむこともなくなるんですね。まあ、まあ、じゃああの子たちを連れて来なくてはなりませんね! 」

「ぜひ。」

ミセス・コールに案内されたダンブルドアは、二番目の踊り場を曲がった長い廊下の最初のドアの前で立ち止まった。

「トム、レイリー。お客さまですよ。こちらはダンバートンさん――――失礼、ダンダーボアさん。この方はあなたに―――まあ、ご本人からお話ししていただきましょう。」

ミセス・コールが扉を閉めようとしたところで、レイリーは泣きそうな顔で彼女に声をかけた。

「ミセス・コールは一緒じゃないんですか? 」

「一緒にいてほしいのですか、レイリー。」

「だって、知らない大人の人とふたりっきりは怖いです。」

「レイ、ふたりじゃなくて僕がいるよ? 」

まったく呆れた、という風にトムが妹の方を見た。その漆黒の瞳には確かに愛情がこもっていて、レイリーは馬鹿にされたというように口を尖らせた。

「君たちの不思議な力についての話……といえば、私の話を聞いてくれるかね? 」

さっとトムとレイリーの顔に緊張の色が走り、兄妹は顔を見合わせた。

「……わかりました。あなたを、信じます。でも、レイを傷つけたら、ただではおきません。」

レイリーを抱きしめるトムの姿は、必死で妹を守ろうとする兄の姿は子猫を守ろうと毛を逆立てる親猫のようで微笑ましいものだった。双子は、ふたりとも父親によく似ていた。美少年と美少女が寄り添う姿は、それだけでも絵になるものだ。

「ごゆっくり。」

ミセス・コールは、今度こそ扉を閉めた。

「はじめまして、トム、レイリー。」

ダンブルドアが近づいてその手を差し出す。トムとレイリーは、順番にその手を握った。

「私はダンブルドア教授だ。」

「教授? 」

自分の腕にしがみつくレイリーの頭を安心させるように撫でながらトムはおうむがえしに聞き返した。プロフェッサーというのは、聞き覚えのない言葉だった。

「あなたは誰ですか? 」

「きみたちに言ったとおりだよ。私はダンブルドア教授で、ホグワーツという学校に勤めている。私の学校への入学を勧めにきたのだが―――きみたちが来たいのなら、そこがきみたちの新しい学校になる。」

「そこで、レイを苦しめている力をどうするか学ぶのですか? 」

トムは察しの良い少年だった。

「さよう、ホグワーツは、特別な能力を持った者のための学校で―――。」

「特別な能力? 」

「ホグワーツは、魔法学校なのだ。」

魔法学校。トムはその言葉を咀嚼するのに随分と時間を要した。

「……魔法? 」

「そのとおり。」

「じゃあ、レイを苦しめてるのは、魔法? 」

「彼女を苦しめている? どういうことだか聞いても? 」

「レイがお腹がすいたって思うだけで棚が浮くし、泣くだけで窓ガラスが割れる。僕だって似たようなものだ―――そのせいで、レイは友達をケガさせてしまったって悲しむし、傷つくんだ。この力を完璧に制御できるようになるっていうなら、その学校に行く。そうしたら、レイはもう悲しまなくてすむし、その学校に通う人たちみんなが魔法を使えるっていうのなら、レイはもう人を傷つけないで済む。この力は、同じ力を持っている人のことは傷つけないんでしょう? 」

これまでトムは力を抑えようと頑張ってきたし、レイリーだって頑張ってきた。でも抑え込むほど反動が激しくなるのだ。それを完全に制御できるというなら、行かない手はなかった。腕にしがみついているレイリーも同じ気持ちのようで、トムの言葉に何度も頷いている。

「……あなたも、魔法使いなのか? 」

「いかにも。」

「本当に? レイが、あなたのことを傷つけることはない? 」

「その子が私に敵意を持つことがなければ。」

ぱあっとレイリーの顔が華やいだ。

「レイ、もう安心して良いんだよ。同じ力を持っている人のところに行けば、他のひとにケガをさせて苦しむ必要はなくなる。レイ、その学校に行こう。」

「お兄ちゃんも……一緒? 」

トムと同じ漆黒の瞳に宿るのは不安だった。

「もちろん。えっと……ダンダーボア、教授? 」

「ダンブルドアだ。」

「ダンブルドア―――教授。レイと僕は、一緒にその学校に行けるんですよね? 」

「もちろん。」

「良かった! あ、でも、お金は? お金はどうなるんですか? 僕たちはお金を持っていません。」

「それはたやすく解決できる。」

取り出された革の巾着に兄妹は顔を見合わせた。

「ホグワーツには、教科書や制服を買うのに援助が必要な者のための資金がある。きみたちは呪文の本などいくつかを、古本で買わなければならないかもしれん。それでも―――。」

「構いません。それでレイが泣かなくなるなら。そういったものはどうやって揃えるんですか? 」

「ダイアゴン横丁で。……ここに、きみたちの教科書や教材のリストがある。どこに何があるか探すのを、私が手伝おう―――。」

「一緒に来るんですか? 」

「いかにも、きみがもし―――。」

「ええ、お願いします! 大人が一緒の方がレイは安心するはずです! 」

ダンブルドアの声を遮るようにしてトムは言った。トムにとっての最優先事項はいつだって最愛の妹で、彼女が安心するのならば何だってするのだ。叫んでから自分が相手の言葉を遮ったということに気づいたトムは恥入ったように頬を染めた。誰かが話している途中で言葉を遮るのは失礼なことだと、ミセス・コールが言っていた。彼女は上流階級の出身だったが実家が没落したために孤児院で働かざるを得なくなっていた女性であり、子どもたちにはきちんと礼儀作法を教えてくれていた。

「では、今日しっかりと寝なさい。明日、ホグワーツに行くことにしよう。私は明日、またここをたずねる。」

「わかりました。」

ダンブルドアは一つ頷いた。

「さようなら、トム、レイリー。また明日会おう。」

ダンブルドアがドアから出ていく。トムは妹を振りむいた。

「レイ、大丈夫だよ。もう誰かを傷つけてしまうかもしれないなんて泣く必要はないんだ。」

「本当? 本当、お兄ちゃん? レイはもう、誰にもケガさせない? 」

「うん。レイがちゃんと勉強して、力の使い方を覚えたらね。きっと、誰もケガさせなくて済むよ。もう泣かなくていいんだ。」

レイリーの表情が歪んだ。

「お兄ちゃん、……。」

「うん、レイ。」

「嬉しい! 嬉しい、お兄ちゃん! 」

ぱあっとレイリーの顔が綻んだ。

「ね、お兄ちゃん。嬉しかったから、一つ決めた! レイね、これから自分のこと私って呼ぶ! 」

「お姉ちゃんになるんだね? 」

「うん! 」

双子は心の底からの笑みを交わし合った。




レイリー・メローピー・リドル
トムの最愛の妹。引っ込み思案で人見知りでいつも兄の後ろをついて回っている。知らない人に会ったり怖いことがあったりすると兄の後ろに隠れる。ゴーント家の血を継いでいるだけあって膨大な魔力を有しており、それゆえにちょっとしたことで魔力暴走が起きて周りの人間を傷つけてしまっては泣いていた。成長が遅く、背は小さい。兄に守られて育ったため割と純粋培養で庇護欲をそそられる。黒髪黒目、容姿はトム・リドル似。つまり絶世の美少女。

トム・マールヴォロ・リドル
原作とは180度くらい性格が違うかもしれない。レイリーの大好きな兄。最愛の妹が魔力暴走によって人を傷つけて泣いているのを見ているので魔法に対して憧れの色はあまりないどころか、最愛の妹を苦しめる力なので嫌っている。だけど制御できないと余計に妹が苦しむだろうということでホグワーツ入学は即決した。妹を苦しめる力を制御する術を教えてくれる学校への案内状を持ってきたダンブルドアに対しての印象はそこまで悪くないが、紫背広はないと思った。妹が髪を結いたがるので背中にかかるくらいまでには髪を伸ばしていて、いつもそれを結っている。美少年度がアップしたかもしれない。



もしトム・リドルに引っ込み思案な妹がいたら、という話。ちょっと考えてたんですが書いてしまいました。もしかしなくてもn番煎じではないかとも思いましたが、闇陣営沼に片足突っ込んだが最後必修課題でいいんじゃないだろうかと思ってます。
原作と180度くらい性格違いますよね。わかっています。ダンブルドアはまたぞろ何かしかけてくるのかな。
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