「ねえ、聞いてもいいかな?」
無事にキースくんをノルウェラ様にお返しした後、少し散歩しないかとロックマンに誘われた。このお屋敷はお城かと思うくらい広くて、どこまでも庭園が続いている。花壇の手入れも大変だろう。
「何よ?」
「ロクティス所長が君の初恋なら──」
「まだ文句あるの?」
「そうじゃなくて」
なぜか少し張り詰めた様子のロックマンが、一度深呼吸をして話を続ける。
「君にとって僕は──淡い初恋の相手じゃないんでしょ?」
「は……」
「憧れでもなく、淡い恋心でもない、君の心を揺り動かすような──つまり恋情を、僕に
私はピタッと立ち止まる。
なんてことだ。ここまで的確に心を暴かれるとは。しかも当の本人に。初恋だとか所長がとか素直に喋るんじゃなかった。
眼鏡の奥の柔らかく笑んだ赤い瞳が、弧を描く口許が、甘い蜂蜜を振りかけた
私が一歩退くと、ロックマンが一歩詰め寄る。後ろ手に手を組み、斜めに小首を傾げてじりじりと身を屈めてくる。
その腕が私に伸ばされて──。
「危ないよ」
パシッと私の手首を掴んだ。
気がつけば、背中から植木にひっくり返りそうになっていた。ぐいっとロックマンに引っ張られ、あっという間に彼の腕の中に
暖かなお日様のような香りに包まれて、
ロックマンの胸に頬が
ちらりと視線だけ動かして上を見れば、彼の
ノルウェラ様から届けられたワンピースを彩る金糸が、襟や
頬に一気に熱が集まり、次の瞬間にはロックマンの胸を全力で押し返していた。
*
「もう大丈夫だから! 離して」
ヘルが僕の胸を押し返しながらじっと上目遣いに見上げてくる。
「……そんな顔されたら、無理」
「な……!」
僕の腕から逃れようとヘルが力を込めるけれど、彼女の
着飾ることにあまり興味がないヘルが、ハーフアップにした空色の髪を複雑に編み込んで、薄く化粧をしている。身支度を手伝ったというマリスの手腕は見事なものだ。大人っぽくなり過ぎず、ヘルの可憐さが際立ち、母上が贈った服によく似合っている。
大人の女性に
薄く
「可愛い」
「ど……!」
ヘルは口をハクハクと動かして、パッと俯いて顔を隠した。
「──ねぇ、顔を上げて?」
「勘弁して下さい……!」
ブンブンと首を横に振っているつもりなんだろうけど、頭を僕の胸に擦り付けるようになっている。
口付けは顔を真っ赤にして逃げるのに、僕の体と密着しているのは気にならないのか。腰に回した腕に力が
「……嫌だった?」
ピタッとヘルの頭が静止する。長い沈黙の後、ぽつりと小さな声で呟いた。
「………………じゃない」
じわじわと、ためらいがちに顔が上げられて、伏せていた長い睫毛の下から碧い瞳が揺れる。
額に口付けしただけでこれだから、それ以上は到底無理だろうと理性は告げているけれど、腹の奥底から響く獣じみた
「……嫌、じゃない?」
「い、嫌じゃないわよ!」
この状況で照れ隠しに目をつぶるのは悪手だと思う。本当に勘弁してほしい。僕は少し潤んだ目元に口付けて、ちゅるっと涙を舐め取った。
「ひゃっ……!」
そのまま
白い首がほんのりと赤くなり、いつもより高い彼女の体温に顔が
珍しいことにヘルは香水をつけていた。いつもの彼女とは違う、爽やかなのにミルクにも似た甘い花の香りがする。彼女の発する熱によって花開き、彼女自身の香りと相まって、白い肌から匂い立つ甘い香りが僕を誘っているのではないかと錯覚してしまう。
この香りはいけない。こんな香りを振りまいていたら、
ほら、僕の理性もまったく歯止めにならない。
「ん……!?」
頬に口付けて終わりにするつもりだったのに、
じんわりとした
角度を変えて、何度も吸い付いては甘い果実を味わう。不意に触れる彼女の熱い吐息にぞくぞくし、更なる欲望が込み上げてくる。噛みつくように唇を吸い上げて、舌で彼女の唇をなぞった。
「んん……!」
小さな喘ぎと共に、力を失った細い体がくにゃりと僕の胸にもたれかかってきた。小刻みに震える体を感じて、僕の意識も覚醒する。優しく抱き寄せながら、ぽんぽんと軽く彼女の背中を叩いた。
「ごめん、やりすぎたね」
彼女は僕の腕を
──ああ、もう。
まいったな、こんなに可愛いと、本当に閉じ込めてしまうよ?
僕の腕ごと彼女を抱き締めて、空色の頭に頬を擦り寄せれば、またピクッと彼女の体が震えた。ここまでが限界だな、と僕は軽く息を
腕の中の愛しいぬくもりに頬を緩めて、僕は穏やかに目を閉じた。
久しぶりにまともなラブシーンを書いた気がします!!
ロックマン公爵家のお庭でイチャイチャしておりますが、ロックマンのことなので防音・認識阻害の魔法は当然かけているでしょう。
香水を用意したのはマリスです。後でナナリーに贈る予定でしたが、ロックマンが手を回してロックマンの部屋で保管されているとかいないとか。
ノルウェラ様が贈ったワンピースは「お茶会のために貸して頂いた」とナナリーは認識しています。返却するため公爵家を再訪し、着せ替えごっこをさせられたり、ノルウェラ様にとっては楽しい事態になります。